憲法 - LEC東京リーガルマインド

平成28年度 裁判所職員(一般職)
専門記述(憲法)
講評&解答例
0 001112 155015
KL15501
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問 題
付随的違憲審査制について論ぜよ。
解答例
まず,違憲審査権とは,国家行為の憲法適合性を審査する権能をいう。違憲審査権を規定する憲
法 81 条は,あらゆる国家行為を憲法規範の下におき,裁判所による違憲審査を通じて人権侵害を救
済しようという「法の支配」を貫徹するためにある。すなわち,憲法 81 条は「法の支配」の帰結で
ある。
そして,付随的違憲審査制とは,違憲審査権の法的性格につき,通常裁判所が,具体的な訴訟事
件を裁判する際にその前提として事件の解決に必要な限度で適用法条の違憲審査を行うとするもの
であり,その目的は,ひとえに,訴訟当事者となった私人の権利の救済にある(私権保障)
。かかる
制度は,具体的な訴訟事件と関係なく,抽象的に法令などの憲法適合性を判断する抽象的違憲審査
制と対置する。
日本国憲法における違憲審査制は,付随的違憲審査制を採用したものと解されている。その論拠
としては,
憲法 81 条はアメリカ憲法に由来するが,
そこでは付随的違憲審査制がとられていること,
また,憲法 81 条は,同法 76 条と同じ「司法」の章に規定されているが,司法とは,具体的な争訟
について法を適用し,宣言することによりこれを解決する国家作用であるから,違憲審査権もこの
枠内で行使されるべきであること,さらに,抽象的違憲審査制を採用しているなら,この制度は,
民主主義に対する重大な制約であるから,憲法に提訴権者の範囲や裁判の効力などの具体的な規定
があるはずなのにそれらが欠けていること,といった点が挙げられる。
この点につき最高裁判所は警察予備隊違憲訴訟において,現行の制度の下においては,特定の者
の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができる
のであり,裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するもの
ではない,として付随的違憲審査制であることを確認している。
また,付随的違憲審査制は三権対等型の権力分立制からも要請される。すなわち,わが国の三権
対等型の権力分立制の場合は,立法・行政による権力の濫用を司法が積極的に抑制すべきことが求
められるので,違憲審査制は直ちに権力分立制に反するものではないが,違憲審査が具体的事件と
離れて行われるとしたら
(抽象的違憲審査制)
,
権力分立制に反する疑いが強いとされるからである。
(約 950 字)
以 上
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公務員試験対策 平成 28 年度 裁判所職員(一般職) 専門記述(憲法) 解答例
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講 評
難易度:B[標準]
本問は,付随的違憲審査制という「法の支配」の実現方法をテーマとする問題である。一見,平
易な問題と思われるが,
「違憲審査制」の法的性格を問うのではなく,はじめから「
『付随的』違憲
審査制」とされているところ,なぜ,日本国憲法が「抽象的違憲審査制」を採用しないのかを意識
的に問うているものと思われる。違憲審査制と三権分立との関係,違憲審査制と民主主義との関係
をていねいに考えてきた受験生は,それなりの内容が書けていると思われる。決め手は抽象的違憲
審査制を採用した場合の不都合性にある。
公務員試験対策 平成 28 年度 裁判所職員(一般職) 専門記述(憲法) 解答例
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