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三春 ing
現職教育資料 №18
平成28年 6月13日
□ 「アクティブ・ラーニング」について Part 1
ポイント:
 文科省の定義「主体的で協働的な学び」
 「どう学ぶか」の基準が示される
 教育は「量」の時代から「質」の時代へ
 アクティブ・ラーニングは「学びの質」を下げる危険性があることを認識しておく
 「話し合い」には学びがない
 「学び合い」は「つぶやき」と「ささやき」で促進される
○ 2017年に告示される学習指導要領のキー
ワードに「アクティブ・ラーニング」
(active learning)という言葉が出てきます。文部科学省はアク
ティブ・ラーニングを「主体的で協働的な学び」と
定義しています。直訳すれば「活動的な積極的な学
び」となります。
このことについて、学習院大学の佐藤 学先生の
論評を紐解きながら、本稿で取り上げてきた事柄を
復習という意味でまとめてみました。
アクティブ・ラーニングとは、
○ 日本の大学の授業改革に用いられてきた用語で
す。講義形式による学生の学びの受動性を克服し、
能動的、活動的、協同的に学生が学ぶ授業へ転換を
図るために、広く用いられてきた用語がアクティ
ブ・ラーニングです。それが初等中等教育の授業改
革にも導入されようとしています。
文部科学省が導入した背景
○ 導入の背景には、どの国際調査の結果を見て
も、日本の授業が19世紀型の枠に留まり、21世
紀型の授業へと転換していない実態があるからで
す。事実、日本の授業スタイル(生徒の学びのスタ
イル)は、どの国よりも古い受動的です。さらに、
2007年以降実施された全国学力テストの結果か
ら、活動的で協同的な学びが学力向上に不可欠であ
るという実証的な裏付けもあるため、文科省が学習
指導要領への導入に踏み切ったということです。
これまでは学習指導要領に「何を学ぶか」という
教育内容の基準を示してきましたが、次の学習指導
要領には、
「何を学ぶ」だけでなく、加えて「どう
学ぶか」の基準も示すことになります。一大転換で
す。
アクティブ・ラーニングの危険性
○ アクティブ・ラーニングは学びが「主体的」で
「協働的」に組織されたからと言って「質の高い学
び」につながると言えるでしょうか?
例えば、協同学習が積極的に展開・普及している
国はメキシコですが、メキシコの学力水準はPISA調
査において最下のレベルにあります。メキシコの
「主体的」で「協働的」な学習が「話し合い」と
「協力」に終始し、学びとして結実していないのが
事実です。
「主体的」で「協力的」な学習が、学力
格差を拡大する結果を招く危険性があることをメキ
シコの例から認識しておく必要があります。
もう一方で、教育は「量」の時代から、
「質」の
時代へと移行していることです。PISA調査の結果か
ら、先進諸国では授業時数の少ない国ほど学力が高
く、逆に途上国では授業時数の多い国ほど学力が高
いという結果が出ています。すなわち、日本を含め
た先進諸国では、学びの「量」よりも学びの「質」
が問われる時代に入ったということです。これまで
学力については、
「学力低下」
「学力格差」が問題と
され、しかもそれらの量的側面だけで議論されてき
ましたが、むしろ問われるのは「学力の質」
(学び
の質)であり、格差にしても量的な格差よりも質的
な格差が問われるべきなのでしょう。
アクティブ・ラーニングの危険性を超えて
○ 国際調査の多くの結果から、日本の子ども達の
学びが「受動的」で「保守的」であり、世界で最低
レベルにあることを示しています。ゆえに、アク
ティブ・ラーニングは、日本の授業改革にとって必
須の課題でもあります。
しかし、アクティブ・ラーニングは必ずしも「質
の高い学び」を保障するものではなく、むしろ「学
びの質」を低めてしまう危険が潜んでいることを認
識しておかなければなりません。
その危険性は、日本の教師の多くが学びにおける
「主体的」と「協同性」の意味を取り違えているこ
とです。
日本の教師の多くは、グループ学習を「話し合
い」として認識しています。しかし、
「学び合い」
を「話し合い」にしてはいけないのです。なぜなら
ば、
「学び」は、すでに知っている既知の事柄の発
表や交流ではなく、まだ知らない未知の事柄の探究
だからです。経験を積んだ教師であれば、ハイハイ
と挙手があがり、話し合いが活発な授業では「学
び」がほとんど成立していないことを知っていると
思います。グループ学習において重要なことは、そ
れが未知の事柄について思考し探究し合う学びが遂
行されることにあります。
したがって、
「学び合い」としてのグループ学習
においては、すぐにわっていることは、個人作業で
すればいいのであって、話し合う必要はないので
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す。しかし、個人作業中に疑問を抱き、或いは新た
な気づきが生まれたとき、わからなさが出てきたと
き、探究し合う「学び合い」が実現するのです。一
人でできることは、一人で黙々と行えばいいので
す。しかし、探究すべき事柄に直面し、わからなさ
が出てきたとき、ただちに仲間と協同で探究し合え
ばいいのです。
(協同的学びは個人作業の協同化で
あり、一人学びの中にグループの学びがあり、グ
ループの学びの中に一人学びがある)
よく学び合っているグループの特徴は、
「つぶや
き(呟き)」
(ぶつぶつひとりごとをいう)と「ささ
やき(囁き)」
(ひそひそ話す)で「学び」が進行し
ています。考えながら聴き合っているのです。です
から、テンションは低くなり、声が「ぶつぶつ」
「ぼそぼそ」になるのです。
「つぶやき」は「内言」
(思考の道具)と「外言」(コミュニケーションの
道具)の中間の言語です。「つぶやき」によって結
ばれた「学び合い」が協同の思考と探究を生み出し
ます。「学びの共同体」は「つぶやきの共同体」な
のです。
(続きは、次稿で……)
№18