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自由論題1「東南・南アジアの政治社会」
報告2
油井美春(広島大学現代インド研究センター特任助教)
「暴動と予防―現代インドにおけるコミュニティ・ポリシング活動の比較分析」
インドでは、1947年8月のインド・パーキスターン分離独立以降、ヒンドゥーとムスリム
の間で暴動が続発してきた。本研究の目的はインドのヒンドゥー・ムスリム間暴動に対し
て、コミュニティ・ポリシング活動による予防の効果と成否要因を検討することである。
コミュニティ・ポリシングとは、犯罪増加を辿っていたアメリカの犯罪研究の領域におい
て生み出された概念であり、警察と住民が、地域における犯罪予防および秩序維持のため
にともに活動することと定義づけられる。その概念と手法はいまやカナダ、ドイツ、シン
ガポール、タイなどの世界各国で共有され、展開されている。インドでも、警察は植民地
支配以来の構造的欠陥を抱えながらも、連邦直轄領デリー市、マハーラーシュトラ州、タ
ミル・ナードゥ州、西ベンガル州、マディヤ・プラデーシュ州、ケーララ州といった一部
の州においてコミュニティ・ポリシング活動を展開してきた。近年、連邦中央政府を中心
としてコミュニティ・ポリシング活動の効果への評価が高まり、その有用性に注目が集ま
っている。
本研究は、第一に暴動研究と犯罪研究の学問領域を接合し、諍い、犯罪、小規模暴動、
大規模暴動の各概念からなる暴動ベクトルとコミュニティ・ポリシング活動の構成要素を
抽出して概念化を行い、コミュニティ・ポリシング活動による暴動予防との分析枠組みを
構築する。第二に、インドでは宗教侮辱罪としての憎悪犯罪が暴動を引き起こしてきた状
況を確かめ、暴動と予防の因果関係を明示する。第三に、コミュニティ・ポリシング活動
の効果を明らかにするために、インドの暴動多発地域での検証および比較分析を行う。犯
罪および暴動予防の効果、活動の持続性に対しての成否を検討する。本研究は、インドで
のコミュニティ・ポリシング活動が、明確な目的の下に創設され、主体的な住民参画を通
じて展開されることで成功へと導かれると捉えている。