カーとしてのこだわり」をそれぞれ有し,それ 寺前俊孝(名城大学経営学部特任助手) 堀川新吾(名城大学経営学部教授) が良いモノを提供する専門店としてのプライド と,新素材・新製品・新ブランドの開発につな 靴下産業に携わる企業の がったことを明らかにした。さらに,両社に共 販売戦略に関する研究 通した取り組みとして,自社に蓄積された経験・ −ダイナミック・ケイパビリティの視点から− 名城論叢 Vol.16 No.2 pp.39∼53 2015.10. 技術・ノウハウを市場ニーズとうまく組み合わ せ,効率的な生産流通システムを構築した点を 指摘した。2 社の事例分析から導き出した上記 グローバル経済の進展にともない,日本の日 の結論は,まさに,靴下産地の企業が抱える課 用消費財生産は中国・東南アジアからの低価格 題そのものであろう。 輸入品に圧され,急激に衰退している。特に繊 しかしあえて言えば,本稿には,靴下産業な 維産業は他の産業に先立って 1970 年代より衰 らではの問題点や,なぜ対象企業が取り組んだ 退傾向にあり,産地の縮小傾向が加速している。 革新を他の企業はできなかったのか,力強い 本稿が取り上げる靴下産業はまさにその代表的 リーダーシップとはどのようなものかなど,物 な産業である。周知のとおり,靴下はアパレル 足りなさを感じる点も多い。これは,著者らも 産業と比して相対的にファッション性,機能性 今後の課題として記しているように,本稿が定 に乏しく,高付加価値生産体制を構築していく 性的な研究でありながら,対象企業の細部に今 ことが困難な製品である。そのような状況で,い 一歩踏み込めておらず,一般的な問題点の提示 かに企業として生き残り,成長していくのか。 に止まっていることに起因する。事例研究にあ 上記の問題点に対して,本稿は,まず,全国 りがちな批判を乗り越え,さらなる企業や産地 一の生産量を誇る奈良県葛城郡広陵町の靴下産 の発展につながるためにも,緻密な実態把握は 地の現状を概観した後,大手販売業者 A 社と生 必要不可欠であり,そのうえで,各企業の個別 産業者 B 社を取り上げ,産地の活性化や自社の 記述的な問題点を産地全体の課題へと昇華させ 発展のために積極的に展開している取り組みに ていくことが,企業研究,産地研究者には求め ついてまとめている。そして市場変化に対する られている。次の筆者の展開に期待したい。 企業の適応力を解明しようとするダイナミッ ク・ケイパビリティ論の視点から両社の取り組 みを分析し,最終的に靴下産業に携わる企業の 販売戦略における課題について明らかにした。 本研究によって得られた結論を示すと,両社 が発展した背景には,創業者ならびに経営者の 強いリーダーシップの下,自社ブランドの開発, 機能性製品の開発,積極的なマーケティング活 動の実践が可能であった点が示されている。ま た,両社は「商人としてのこだわり」と「メー (大阪経済大学経済学部教授 山本俊一郎)
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