起炎菌シリーズ その6 カンピロバクター

2014 年 8 月
けんさの豆知識
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臨床検査部
発行
(微生物検査室)
~起炎菌シリーズ その⑥
カンピロバクター~
今回の『けんさの豆知識』は感染症の原因となる菌(起炎菌)シリーズ第 6 弾、カンピロバクターを特集します。
カンピロバクター(Campylobacter)は、鶏刺しや生レバーなどを食したときにおこる食中毒の原因菌としてよく
知られていますが、ウシやブタ、ニワトリなどの動物の腸管内に生息しており、もともとは家畜の流産の原因菌
として分離されました。カンピロバクターは十数種類から構成されていて、胃腸炎の原因となる「Campylobacter
jejuni subsp.jejuni」や、敗血症、髄膜炎を起こす「Campylobacter fetus subsp.fetus」などがあります。
細菌を分類する基礎的な手技としてグラム(Gram)染色があります。紫色に染まれば陽性、赤色なら陰性です。
染まった形によって球状なら球菌、こん棒状なら桿菌に大別され、色と形の組み合わせで大きく 4 つに分類されます。
グラム染色
グラム陰性桿菌(らせん状)
・2~3 個の回転があるらせん状の小型の桿菌で
顕微鏡で観察するとカモメのように見えるのがこの菌の特徴です。
※ギリシャ語で曲がった・湾曲したを意味する campylos に由来する。
またグラム染色では見えませんが、菌の先端に鞭毛をもち、活発ならせん運動をしています。
(顕微鏡で観察)
菌の性状
1 つの菌は、顕微鏡で拡大しないと見えませんが、多数の菌が集まって肉眼的に見えるよ
うになった 1 つ 1 つの集まりを集落(コロニー)と言います。同じカンピロバクターでも
その見え方は様々です。
白色に見えるのが、変法 Campylobacter 10%ヒツジ血
液寒天培地に発育したカンピロバクターのコロニーの一例
です。
カンピロバクターを発育させるには他の菌と少し違った
以下の条件が必要です。まず便を専用の培地にぬり、発育
条件:微好気(酸素濃度 5~10%)発育温度 34~43℃で
48 時間以上培養し、写真のようなコロニーが発育します。
変法 Campylobacter 10%ヒツジ血液寒天培地
(35℃微好気 48~72 時間培養)
このコロニーを使って同定検査(菌の種類を決める)や薬
剤感受性検査(抗菌薬の効き目を調べる)を行います。
感染
カンピロバクターに感染すると下痢・発熱・腹痛・悪寒・嘔吐などの症状がみられます。潜伏
期間が 2~5 日と比較的長いことや、少ない菌量で感染が成立してしまうことが特徴です。感染しても多くは菌
を体外に排出して自然治癒しますが、重篤な症状を呈する場合はマクロライド系抗菌薬が推奨されます。また近
年ニューキノロン系薬剤に耐性の株が増加しており問題となっています。一般に予後は良好とされていますが、
まれに、感染して 1~3 週間後に四肢の脱力を主とするギランバレー症候群など自己免疫性末梢神経障害を発症
することが報告されており、歩行困難などの後遺症や呼吸筋麻痺による死亡例も確認されています。