財務専門官専門記述解答例&講評

平成28年度 財務専門官
専門記述
講評&解答例
0 001112 154896
KL15489
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1.憲 法
問 題
国会は,外国産に比べ価格が高く,国際競争力の弱いある産品の生産者を保護し,その健全な
発展を図るため,外国からの輸入を規制し,その産品の価格の安定を図る措置を講ずる法律を制
定した。その産品を原材料として商品を製造している甲は,この法律による規制措置のため,外
国から自由にその産品を輸入することができなくなり,その結果,製造コストが高騰し,著しい
収益の低下に見舞われた。甲は,当該立法行為は,
「営業の自由」を侵害する違法な公権力の行
使に当たるとして,国家賠償法に基づく損害賠償を請求している。
当該請求に含まれる憲法上の問題点について,その請求の当否と共に論じなさい。
解答例
1 営業の自由に対する規制の可否
甲は,国家賠償請求において,本問法律による輸入規制のため営業の自由が侵害されたとして,
本問法律を制定した国会議員の立法行為は違法である旨を主張している。そこで,営業の自由が憲
法上保障されているか。保障されているとして,いかなる規制が許されるかが問題となる。
22 条1項は職業選択の自由を保障するが,職業選択の自由には,選択した職業を遂行する自由,
いわゆる営業の自由も含まれる。選択した職業を自由に遂行することができなければ,職業を選択
した意味がなくなるからである。よって,営業の自由は 22 条1項により保障される。
そして,営業の自由の保障には,自由な市場で形成された価格で,各自の欲する場所からその欲
する量の産品を購入して生産活動を営むことができる自由が含まれていると解する。
甲は,本問法律によりある産品の輸入が規制され,結果として著しい収益の低下に見舞われた。
輸入価格が極端に高騰したものと推測されるところ,本問法律は,甲に過度に経済的不利益を与え
るもので,
自由な市場で形成された価格で産品を購入する自由を害するものとして 22 条1項に違反
するとも思える。
しかし,営業の自由といった経済的自由の保障には,人権として当然に内在する制約のほかに,
社会構造の変化に対応した弱者保護の反射としての強者の抑制,すなわち,社会権保障を実質化す
るために社会国家的公共の福祉の見地からの政策的制約が予定されている。経済的自由の確保の問
題は,生存権をはじめとする社会権の実現と深いつながりを持っていることを理解しなければなら
ないのである。
したがって,積極的な社会経済政策の実施の一手段として,個人の経済活動に対し一定の合理的
規制措置を講ずることは憲法が予定しているのであるから,裁判所は,立法府がその裁量権を逸脱
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解答例
1
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し,当該規制措置が著しく不合理であることの明白な場合に限って,これを違憲としてその効力を
否定することができる。
2 本問法律の違憲性と国家賠償法上の違法との関係
本問法律が違憲と判断された場合,それが,国家賠償法上の違法とも評価されるか。違憲性と国
家賠償法上の違法との関係が問題となる。
思うに,国会議員の立法行為が国家賠償法の適用上,違法となるかどうかは,国会議員の立法過
程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であり,当
該立法の内容の違憲性の問題とは区別される。それゆえ,当該立法の内容が違憲と判断された場合
でも,国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
この場合,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白な場合に
は,例外的に,国会議員の立法行為は,国家賠償法の適用上,違法の評価を受ける。
3 本問法律の憲法適合性と国家賠償請求の可否
本問法律は,国際競争力の弱い生産者を保護し,その健全な発展を図るため,ある産品の外国か
らの輸入を規制するもので,社会経済政策の実施の一手段としての積極目的規制である。
本問法律で採られた措置は,ある産品の輸入規制であり,輸入を禁止するものではない。かかる
規制は著しく不合理であるとはいえず,むしろ,国内生産者を保護するための措置として合理性を
認めることができる。よって,22 条1項に違反しない。
そして,本問法律の輸入規制は,国会の合理的裁量の範囲にとどまり,立法の内容が国民に憲法
上保障されている権利を違法に侵害することが明白な場合にあたらない。
よって,国家賠償法の適用上,違法の評価を受けず,甲の請求は認められない。
(約 1470 字)
以 上
講 評
難易度:B[標準]
本問は,西陣ネクタイ訴訟(最判平 2.2.6)を題材にしたものである。本問は,経済的自由権規
制立法の合憲性にとどまらず,立法裁量に対する司法審査の可否,立法内容の違憲性と国家賠償法
上の違法性との関係が問われており,時間内に十分な情報量を込められた受験生は比較的少ないの
ではないかと思われる。ただし,一つひとつの論点は基本的なので,普段から考え,整理していた
受験生は一歩前に出ることができたのではないだろうか。
なお,西陣ネクタイ訴訟においては,立法行為の国家賠償法上の違法性について在宅投票制度廃
止事件(最判昭 60.11.21)を引用しているが,解答例では,在外日本人選挙権剥奪違憲判決(最大
判平 17.9.14)を採用した。
2
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解答例
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2.民 法
問 題
次の事例を読み,設問に答えなさい。
[事例]
平成 27 年1月 10 日,Yは,Aとの間で,工事完成期日を平成 27 年6月 10 日とし,Y所有の
土地上にAが甲建物を建設する旨の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件請
負契約においては,Aは,請負代金の一部を受領するとともに,工事が完成した時に残代金を受
領することとされていた。平成 27 年4月 30 日,Aは,請負代金債権のうち,工事完成時に支払
われる分をXに譲渡し,Yはこれに対して異議をとどめない承諾をした。その後,Aは,工事が
全体の約6割に達したところで,工事を中止し,そのまま放置した。そこで,平成 27 年6月 30
日,YはAの債務不履行を理由に本件請負契約を解除した。
ところが,本件請負契約の解除後,Xが,Yに対して,譲り受けた請負代金債権の支払を求め
てきた。
[設問]
Xが,Yに対して,譲り受けた請負代金債権の支払を求めることは可能か。以下のXの主張の
当否を論じつつ,Yへの支払請求の可否について論じなさい。
【Xの主張】
私は,請負代金債権をAから譲り受けているのだから,Yから支払を受ける権利がある。確か
に,当該債権が将来完成されるべき未完成工事部分の請負報酬金債権であることは知っていた。
しかし,Yは,当該債権が譲渡された際,異議をとどめない承諾をしているのだから,私が知っ
ていたか否かは関係がない。また,Yは債務不履行を理由に本件請負契約を解除しているが,Y
が異議をとどめない承諾をした後に債務不履行が生じている以上,そもそもYは,私に対して,
本件請負契約の解除を主張することはできないと考える。
解答例
1 Aは工事の完成前に請負代金債権をXに譲渡しているが,請負契約は双務契約である以上,請負
代金債権は本件請負契約の成立時に発生するから,このような譲渡も有効である。そして,YはA
X間の請負代金債権の譲渡に対して(異議をとどめない)承諾をしているので,Xは債務者Yに対
する対抗要件も具備している(467 条1項)
。したがって,Xは,Yに対して請負代金債権の債権者
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解答例
3
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としての地位を主張できる。
2 しかし,Yは,Aの債務不履行を理由に本件請負契約を解除しているので,残代金の支払義務は
消滅したと主張して,請負代金債権の譲受人であるXへの支払いを拒絶することが考えられる。こ
れに対して,Xは,請負代金債権の譲渡について異議をとどめない承諾をしたYは,契約解除によ
る残代金の支払義務の消滅をXに対抗できない(468 条1項前段)と主張しているが,このXの主
張は認められるか。
(1) そもそも,債務者Yは,債権譲渡の承諾後に生じた譲渡人Aの債務不履行による解除を譲受人
Xに対して主張できるか。Xが主張するように,Yが譲受人Xに対して主張できる抗弁事由は,
承諾の時点で主張できた事由でなければならないとすれば,
その時点ではAの債務不履行はなく,
Yは本件請負契約を解除できなかったのであるから,異議をとどめない承諾の効力を問題にする
までもなく,YはXに対して解除を主張できないことになる。
しかし,
請負契約は双務契約であり,
債権譲渡前すでにAの仕事完成義務が発生している以上,
債権譲渡時にすでに契約解除を生ずるに至るべき原因が存在していたというべきである。
したがって,Yは,債権譲渡の承諾後に生じたAの債務不履行による解除もXに対して主張で
きると解する。とすれば,AX間の債権譲渡について異議をとどめない承諾をした債務者Yは,
本件請負契約の解除を譲受人Xに対抗できなくなるとも思える。
(2) もっとも,Xは,譲り受けた債権が将来完成されるべき未完成工事部分の請負報酬金債権であ
ることを知っていた。
Xは,
そのような事情を知っていたか否かは関係がないと主張しているが,
この主張は正当か。悪意の譲受人も異議をとどめない承諾による保護を受けられるかが問題とな
る。
思うに,468 条1項前段の定める,異議をとどめない承諾による抗弁喪失の効果は,債権譲受
人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するため法律が付与した法律上の効果と解すべきで
ある。したがって,悪意の譲受人に対してはこのような保護を与えることを要しないと解する。
本問では,譲受人Xは,債務者Yの抗弁権発生の基礎となる事由,すなわち,譲り受けた債権
が将来完成されるべき未完成工事部分の請負代金債権であることを知っていたので,異議をとど
めない承諾による保護を受けることができない。したがって,Yは,Xに対して,本件請負契約
の解除を主張できる。
3 以上より,Xは,Yに対して,譲り受けた請負代金債権の支払を求めることができない。
(約 1220 字)
以 上
4
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解答例
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講 評
難易度:B[標準]
昨年と同様,問題文に当事者の主張が示されており,その主張の当否を検討させる形式の問題で
ある。本問は,債権譲渡における異議をとどめない承諾の効力に関する判例(最判昭 42.10.27)の
事案をベースにしている。この判例は,択一式試験でも何度も問われているので,本問の答案を書
く際にも判例の理解を示すことが不可欠となる。もっとも,判例の事案を知らなかった受験生も多
かったと思われるが,判例の事案を知らなかったとしても,Xの主張をていねいに読んでいけば,
何を書けばいいのかを発見するのはそれほど難しくないだろう。
本問では,
「Xが,Yに対して,譲り受けた請負代金債権の支払を求めることは可能か」が問われ
ているので,まず,債権譲渡の有効性と対抗要件の有無を検討する必要がある。
次に,問題文には,
【Xの主張】が示されているが,これは,債権譲渡の譲受人Xから支払請求を
受けた債務者Yの反論を想定したうえでのXの主張であり,Xの再反論ともいうべきものである。
そこから,本問におけるXY間の争点,つまり,本問で論ずべき論点が導き出される。すなわち,
①「Yが異議をとどめない承諾をした後に債務不履行が生じている以上,そもそもYは,私に対し
て,本件請負契約の解除を主張することはできない」という【Xの主張】から,債務者は債権譲渡
の承諾後に生じた債務不履行による解除を譲受人に対抗できるかが問題となり,②「当該債権が将
来完成されるべき未完成工事部分の請負報酬金債権であることは知っていた」という【Xの主張】
から,悪意の譲受人も異議をとどめない承諾による保護を受けられるかが問題となる。あとは,①
②の論点について,判例の見解を中心に論ずることができれば,合格ラインの答案となるだろう。
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解答例
5
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3.経済学
問 題
消費者行動に関する次の問いに答えなさい。
(1) 無差別曲線(原点に対して凸型の形状)が互いに交わらない理由を,図を用いて説明しな
さい。
(2) 必需品と奢侈品の違いを次の用語を用いて説明しなさい。
用語:需要の所得弾力性
(3) 上級財である第1財と下級財である第2財を消費する消費者を考える。第1財の価格が
上昇したとき,それぞれの財の需要に与える影響を次の用語を用いて説明しなさい。なお,
説明の際には図を用いること。
用語:代替効果,所得効果
解答例
(1) 効用理論においては,消費者がBよりAを好みCよりBを好むならば,必ずCよりAを好むとい
う推移律の仮定をおく。もしも,無差別曲線が交わるならば,この推移律の仮定が満たされず,消
費者の選好に矛盾が生じる。下図においてAはBより右上方の無差別曲線上にあるので,消費者は
BよりAを好むと考えられる。またBとCは同じ無差別曲線上にあるので,BとCは無差別である。
よって推移律の仮定より消費者はCよりAを好むはずであるが,AとCはやはり同一無差別曲線上
にあるために無差別ということになってしまい消費者の選好に矛盾が生じてしまう。よって,無差
別曲線は交わらない。
(約 270 字)
x2
A
B
C
u1
u2
O
6
x1
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解答例
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(2) 上級財のうち需要の所得弾力性が1より大きい財を奢侈品,1より小さい財を必需品という。奢
侈品は需要の所得弾力性が1より大きいことから,所得が1%増加したときに需要は1%より大き
く増加する。このことからエンゲル曲線は,反り上がるように急上昇する形状になる(左図)
。
一方,必需品では,所得弾力性が1より小さいことから,所得が1%増加したときに需要が1%
より小さく増加する。このことから必需品のエンゲル曲線は,所得の増加とともに傾きが徐々にな
だらかになる形状となる(右図)
。
(約 230 字)
奢侈品への需要
必需品への需要
エンゲル曲線
O
所得
エンゲル曲線
O
所得
(3) 図において元の予算制約線をABとし,そのもとでの最適消費点はE点で表されているとする。
第1財の価格が上昇した場合には,予算制約線は縦軸切片(A点)を中心に左シフトしてACのよ
うになり,最適消費点はE′に移動する。財の価格が変化するときの最適消費点に与える効果(E
→E′)を全部効果といい,代替効果と所得効果に分けられる。価格変化後の新しい予算制約線A
Cに平行で,価格変化前の元の無差別曲線に接するような補助線FF′を引くと,E→eへの変化
が代替効果,e→E′への変化が所得効果となる。補助線FF′においては,効用水準が変化前と
同じであることから,価格は変化しているが実質的な所得は変化していない。
第2財の消費量
F
A
E′
e
E
U
U′
O
C
F′
B 第1財の消費量
代替効果(E→e)は,効用を一定と仮定して相対価格の変化(予算制約線の傾きの変化)によ
る消費量の変化を表す。第1財の価格が上昇したことから代替効果では,第1財の消費量を減少さ
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解答例
7
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せる効果が生じる。所得効果(e →E′)は第1財の価格上昇により実質的に所得が減少すること
から生じる消費量の変化を表す。第1財は上級財であるので,実質的な所得の減少により第1財の
消費量を減少させる効果が生じる。よって,E′点はe点よりも左方に位置する。一方,第2財は
下級財なので,実質所得の減少により消費量が増大するため,E′点はe点より上方に位置する。
よって,第1財の代替効果と所得効果はともにマイナスとなり全部効果においては消費量が大きく
減少する。第2財の代替効果と所得効果はともにプラスとなり全部効果においては消費量が大きく
増大する。
(約 650 字)
以 上
講 評
難易度:B[標準]
問(1)は『Quick Master ミクロ経済学 (第4版)
』に択一問題が収録されている。
この択一知識を活用して解答したい。また,無差別曲線が交差しない理由は,一部のテキストを除
けば,普通はテキストのかなり前の方の章で扱われるテーマであるので,正解の図を見たことがあ
る受験生は多いだろう。問(2)は,需要の所得弾力性からエンゲル曲線の違いに言及したが,需要の
所得弾力性について記述する解答も考えられよう。問(3)の代替効果と所得効果は頻出論点である。
所得効果の方向を正しく把握した上で正しく作図ができているかが得点の差になってくるだろう。
8
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解答例
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4.財政学
問 題
公共財の供給に関する次の問いに答えなさい。
(1) 公共財について説明しなさい。その際,フリーライダーの問題についても言及すること。
(2) クラブ財について,例を挙げつつ説明しなさい。
(3) リンダール均衡に至るプロセスについて,3,4行程度で簡単に説明しなさい。
(4) 中央集権的な公共財の供給が資源配分の非効率性を生み出すことを,オーツの地方分権
定理を用いて説明しなさい。なお,説明の際には下図を用いること。
DY
公共財の価格
DX:X地域の需要曲線
DX
O
DY:Y地域の需要曲線
公共財の数量
解答例
(1) 公共財とは消費の非競合性と消費の排除不可能性という2つの性質を併せ持つ財を指す。消費の
非競合性とは,ある消費者が財を消費する時,他の消費者が同時に同じ財を消費することを妨げら
れないという性質である。この性質のために公共財は等量消費という特徴を持ち,各消費者の限界
便益の和が限界費用に等しくなる時に最適供給が実現される。このため市場による公共財の供給は
最適な水準にならず,市場の失敗が発生する。また消費の排除不可能性とは,財に対する対価を支
払わない人を消費から排除できないという性質である。この性質のために,費用負担を免れて公共
財を消費する人がいるという,フリーライダー問題が生じる。
(2) 上で述べた公共財の2つの性質のうち,
消費の非競合性のみを満たす財のことをクラブ財と呼ぶ。
クラブ財の例としては会員制のスポーツクラブが挙げられる。会員制のスポーツクラブは会費を支
払った人のみしか利用できないので消費に関して排除的であるが,会費さえ支払えば誰でも自由に
スポーツクラブの施設を利用できるため,消費の非競合性が成り立っている。
(3) 政府は各消費者に公共財の個別化された価格を提示する。ただし個別化された価格の和は限界費
用に等しくなるようにする。各消費者は自らに提示された価格に対する公共財需要量を政府に報告
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解答例
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する。政府は報告された公共財需要量が等しくなるように個別化された価格を調整し,その需要量
において公共財供給量を決定する。
(4) 道路や公園などのように公共財の便益の及ぶ範囲が特定の地域に限定されるものを地方公共財と
呼ぶ。この地方公共財の最適な供給に関しては地域住民の便益を知る必要があるが,これについて
は中央政府よりも地方政府の方に情報的な優位が存在する。このため地方公共財の供給量は中央政
府よりも地方政府が決定すべきであるというのが,オーツの地方分権定理である。このことを下の
図を用いて説明する。
限界費用MCがcの水準で一定であると仮定する。X地域およびY地域の地方政府はそれぞれの
地域の公共財需要曲線について正確な知識を持っているため,自分の地域の公共財供給量をQXお
よびQYという効率的な水準に定める。これに対して中央政府は公共財の需要に関して画一的な情
報しか持たず,D
 ̄という平均的な需要曲線を用いて各地域の公共財供給量をQ
 ̄に決定する。このた
めX地域ではDWLXの,Y地域ではDWLYの大きさの死荷重損失が発生することになる。
公共財の価格
DY
DX
D
DX:X地域の需要曲線
DWLY
DY:Y地域の需要曲線
D :平均的な需要曲線
c
MC
MC:限界費用曲線
DWLX
O
QX
Q
QY
公共財の数量
(約 1000 字)
以 上
10
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解答例
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講 評
難易度:B[標準]
純粋公共財とクラブ財の定義,リンダール均衡,および地方公共財の供給に関する出題である。
(1)から(3)は経済原論で学んでいる内容である。クラブ財がやや細かいが,それ以外は標準的な内
容なのでしっかり得点してほしい。(4)は地方公共財の分権的供給を説明する問題であり,やや難易
度が高いと言えよう。中央政府と地方政府の情報的な違いに注目して,それぞれがどのように公共
財の供給量を決定するかを考えてほしい。
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解答例
11
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5.会計学
問 題
企業会計において報告される計算書に関する次の問いに答えなさい。
(1) 損益計算書の意義について説明しなさい。また,そこで報告される以下の各項目につい
て,具体的な勘定項目を挙げながら説明しなさい。
① 営業利益
② 経常利益
③ 当期純利益
(2) キャッシュ・フロー計算書の意義について説明しなさい。また,そこで報告される三つの
キャッシュ・フローについて,具体例を挙げながら説明しなさい。
解答例
(1) 損益計算書とは,一定期間における企業の経営成績を表す財務諸表である。一定期間における収
益と費用を対応させることによって利益を計上することになり,この利益の大きさがその企業の経
営成績を表す。
① 営業利益
営業利益とは,当該企業の主たる営業活動から生じる費用・収益から算定される利益である。
具体的には,一会計期間に属する売上高と売上原価から売上総利益を計算し,ここから給料や減
価償却費などの販売費及び一般管理費を控除することにより営業利益が算定される。
営業利益は,
当該企業の純粋な営業活動の成果を示しているといえる。
② 経常利益
経常利益とは,営業利益に支払利息・受取利息,有価証券売却損益その他営業活動以外の原因
から生ずる損益であって特別損益に属しないものを加減することにより算定される利益である。
経常利益は,企業の業績尺度としての役割をもち,企業の正常な収益力を示しているといえる。
③ 当期純利益
当期純利益とは,経常利益に固定資産売却損益等の特別損益を加減して算定された税引前当期
純利益から当期の負担に属する法人税,住民税及び事業税を控除し,法人税等調整額を加減して
算定される利益である。当期純利益は企業の長期的な趨勢を示し,一会計期間における収益獲得
能力を示しているといえる。
(2) キャッシュ・フロー計算書とは,企業の一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を報告す
るために作成する書面をいい,財務諸表の一つである。このキャッシュ・フロー計算書においては,
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解答例
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一会計期間におけるキャッシュ・フローを「営業活動によるキャッシュ・フロー」
,
「投資活動によ
るキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに区分して表示する。
「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分には,商品及び役務の販売による収入,商品及び
役務の購入による支出等,営業損益計算の対象となった取引のほか,投資活動及び財務活動以外の
取引によるキャッシュ・フローを記載する。次に,
「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に
は,固定資産の取得及び売却,現金同等物に含まれない短期投資の取得及び売却等によるキャッシ
ュ・フローを記載する。最後に,
「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分には,株式の発行に
よる収入,自己株式の取得による支出,社債の発行・償還及び借入・返済による収入・支出等,資
金の調達及び返済によるキャッシュ・フローを記載する。
(約 1000 字)
以 上
講 評
難易度:B[標準]
本問は,損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の意義や内容を問うものである。いずれの内容
もテキストに記載されており,その意味では基本的なレベルであると言える。しかし,これらの内
容は少なくとも 2000(平成 12)年度以降には出題されたことがない。過去の出題傾向によると,会
計学については,過去に出題されているテーマが出題されやすい。そのため,こうした内容につい
ては,見落としがちなテーマとなり,実際,選択しなかった受験生が多かったのではないだろうか。
特に,損益計算書もキャッシュ・フロー計算書も具体的な項目が問われており,正確に暗記してい
た受験生は少ないであろう。その意味では,少々難易度が高いと言える。
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平成 28 年度財務専門官(専門試験)
解答例
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