9 タンク火災時に生じる諸現象 (1) ボイルオーバー 浮き屋根式タンクや

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タンク火災時に生じる諸現象
(1) ボイルオーバー
浮き屋根式タンクや屋根と側板を弱く結合した放爆構造の油タンクを含む、頂部
開放式タンクの火災において、貯油の燃焼中に生じ得る現象の一つ。油が長時間燃
えているうち、突然タンクから燃焼油が爆発的に噴出し、火災が一挙に激化する。
ア
ボイルオーバーの概要
原油や重油等のタンク火災において、長時間の燃焼によって油中の揮発成分の
みが燃焼し、残った非揮発成分が高温の重質層を形成して次第に下降(ヒートウ
ェーブ現象)していく。この高温の重質層が下降してタンク底部の溜まった水層
又は水エマルジョンの層に達すると、これらの水の層が過熱され、水蒸気爆発を
起こす。この水蒸気爆発により、燃焼中の表面部を含む高温油がタンクの直径の
10 倍以上に高く吹き上げられる。過去に経験したボイルオーバーの例では、直径
330mの火焰の塊が 1,800mの高さにまで達したことが知られている。また、ボイ
ルオーバーによる油の飛散距離については、直径 28mの原油タンクの火災で約
27m 離れた高さ 1.8mの防油堤を2方向に分かれて飛び越えた例もある。
ボイルオーバーの発生機構を図4-18 に示す。
Ⅳ―25
図4-18
イ
ボイルオーバーの発生機構の模式図
ボイルオーバーを発生し得る油種
ボイルオーバーを発生し得る油種としては、原油、重油、廃油(沸点範囲が広
い場合)等が考えられる。実際にボイルオーバーが発生した事故例における油種
では、原油が圧倒的に多いが、重油や軽油でも報告の事例があることから、原油、
重油、軽油や高沸点液体が長時間の火災になった場合、ボイルオーバーが起こる
可能性があるものとして対策を立てた方が良い。
ウ
ボイルオーバー発生時間の予測
高温層の降下速度は、過去の事故例や実験から求められており、安全率を考慮
して概ね 1~2m/h である。従って、ボイルオーバーの発生時間は推定でき、例
えば、油面の高さが 20m のタンクでは、火災後 10~20 時間とされている。
また、ボイルオーバーの発生が近くなると、次のような現象が生じるとされて
いることから、危険性を予測する判断材料となる。
(ア)
火炎が突然著しく高くなる。
(イ)
火炎が急激に輝きを増す。
(ウ)
「バチバチ」
「ジュー」といった音が激しくなる。
(エ)
油の塊が液面から飛散する。
(2) スロップオーバー
原油の火災時において、油表面に放水が行われた場合、降雨があった場合、とき
には泡消火が行われた場合等に、水分が表面近くの油層内で気化することにより、
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油が水と一緒に溢流する現象である。
油が粘性を有し、沸点が水の沸点以上である場合に発生し得る。ボイルオーバー
に比べれば穏やかな現象であるが、溢れ出た油がタンク周辺で燃えることから、火
災が拡大することになる。
(3) フロスオーバー
火災を伴わずに、タンクから油類が溢流する現象をいう。典型的な例としては、
高温の油中にそれより低い温度の油や水を入れた場合、油や水が沸騰して噴出する
ことがある。結果的には、火災になることが多い。
(4) BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)
沸騰状態の液化ガスが気化して膨張し、爆発する現象をいう。例えば、LPG タン
クが火災にさらされた場合、ガスが蒸発してタンク内圧が上昇し、内圧が安全弁の
設定圧力より高くなると、LPG の蒸気が大気に放出され、この蒸気に引火する(ジ
ェット火炎)
。その後、火炎によるタンクの強度低下、及びタンク内圧の上昇によ
りタンクが破壊され、外気に開放されると、圧力の放出によってタンク内部の気相
部と液相部の平衡状態が破られる。すると、高温の液相部が急激に蒸発して外部に
噴出し、蒸気雲を形成する。直ちにこの蒸気雲に着火し、巨大なファイアーボール
となる。
BLEVE は、外部から火災にさらされるだけでなく、タンク内の過剰な圧力、加圧
されたタンクの機械的な衝撃や腐食による損傷等によっても発生し得る。
BLEVE の発生機構を図4-19 に示す。
Ⅳ―27
図4-19
BLEVE の発生機構の模式図
(5) 蒸気雲爆発(Unconfined Vapor Cloud Explosion、UVCE)
可燃性物質が漏えい後、直ちに着火せず、可燃性物質の蒸気が大気中に雲のよ
うに拡散した後に着火爆発する現象である。例えば、2005 年 12 月に起きた英国・
バンスフィールドのタンク火災では、タンクから溢れ出たガソリンが長時間地上
に滞留した後、蒸気雲爆発している。
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