平成28年度 東京都Ⅰ類B 専門記述 講評&解答例 0 001112 154926 KL15492 頒布・複写を禁じます 1.憲 法 問 題 外国人の人権について説明せよ。 解答例 外国人とは,日本国籍を有しない者をいう。では,外国人は人権享有主体たりうるか。憲法第三 章の標題が「国民の権利及び義務」となっていることから問題となる。 思うに,人権は,人種,性別,身分の区別に関係なく人間であることを根拠として論理必然的に 享有しうる性質を持つ(人権の普遍性) 。また,人権の前国家的・前憲法的性格ならびに憲法の国際 協調主義(前文3項・98 条2項)の立場から,権利の性質上,日本国民のみを対象としていると解 されるものを除き,外国人にも人権の保障が及ぶ。 もっとも, 国民と外国人との間には, 日本国との結合関係が恒久的か一時的かという差異がある。 それゆえ,具体的にいかなる人権がいかなる限度で外国人に保障されるかは,日本国との恒久的な 結合関係を前提としている人権かどうかといった人権の性質や,日本国との結合関係の強さといっ た外国人の種類を考慮して個別に決すべきである。 具体的には,入国の自由や在留の権利は認められないとされる。国際慣習法上,外国人の入国を 拒否しうるのは当該国家の主権的権利であり,入国の許否は当該国家の自由裁量によるものである からである。また,国民主権の見地から原理的に排除される選挙権や被選挙権などの参政権や公務 就任権,第一次的には各人の所属する国の責任である生存権などの国家の給付を求める社会権も保 障されないと解されている。 ただし,社会権は参政権と同じように外国人に対して原理的に排除されているわけではない。ま た,生存の基本にかかわるような領域で,生活の本拠がわが国にある定住外国人については,立法 政策によって社会権の保障を及ぼしても社会権の性質に矛盾するわけではない。彼らは非定住外国 人より手厚い保護を必要とするからである。 (約 720 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 1 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] 人権の普遍性に関する典型論点からの出題である。本問のテーマは他の試験種を踏まえると,過 去に数回出題されており, 多くの受験生が準備していたものと思われる。 外国人の人権については, どの教科書も同じようなことが書かれているので,①外国人の定義,②性質説,③入国の自由,④ 参政権,⑤公務就任権,⑥社会権といったキーワードが書けているかどうかで勝敗がつくと思われ る。 2 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 2.行政法 問 題 行政手続法に定める「行政指導の中止等の求め」及び「処分等の求め」について,それぞれ説 明せよ。 解答例 1 平成 26 年,行政不服審査法の改正に伴い,行政手続法も「行政指導の中止等の求め」および「処 分等の求め」の各制度を新設し,国民の権利利益の保護を図るための手続を整備した。 2 「行政指導の中止等の求め」 (行政手続法 36 条の2) 法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は,当該行政指導が法律の要件に適合しな いと思料するときは, 一定の事項を記載した申出書を提出して, その中止等を求めることができる。 これは,法律に基づく行政指導を受けた国民が,当該行政指導が法律の要件に適合しないと思料す る場合に,行政に再考を求める制度である。 この申出があったとき,行政機関は必要な調査を行い,当該行政指導が法律の要件に適合しない と認めるときは,当該行政指導の中止その他必要な措置をとらなければならないとされる。 3 「処分等の求め」 (行政手続法 36 条の3) 何人も,法令違反の事実がある場合で,その是正のためにされるべき処分または行政指導がされ ていないと思料するときは,一定の事項を記載した申出書を提出して,その是正のための処分等を 求めることができる。この制度は,何人も法律違反をしている事実を発見した場合に,行政に対し 適正な権限行使を促すための法律上の手続を定めたもので,行政事件訴訟法3条6項1号の非申請 型義務付け訴訟に対応する手続といえる。 この申出を受けた行政庁・行政機関は,必要な調査を行い,必要があると認めるときは,当該処 分または行政指導をしなければならないとされる。 (約 630 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 3 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:B[標準] 行政手続法の改正箇所からの出題である。解答例に記しているように,新設された各制度は国民 の権利利益の保護を充実させるもので,今後の出題に大きな影響を与えるものと思われる。新しい 条文を何度も読み込んできた受験生には書き易かったと思われるが,そうでない人は敬遠したので はないだろうか。それゆえ,難易度の判別が難しい問題である。 ちなみに,新しい制度としては,処分権限の行使を示す行政指導を行う際にその根拠の明示を義 務付ける行政手続法 35 条2項も重要である。これら3つの制度は試験種を問わず,今後も要注意と なろう。 4 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 3.民 法 問 題 通謀虚偽表示の意義について述べた上で,効果について説明せよ。 解答例 1 通謀虚偽表示の意義について 通謀虚偽表示とは,相手方と通じて行った真意でない意思表示をいう。表意者が真意でないこと を知っている点では心裡留保と同じであるが,相手方と通謀している点が異なる。 2 通謀虚偽表示の効果について (1) 通謀虚偽表示は,原則として無効である(94 条1項) 。当事者双方に表示どおりの効果を生じ させる意思がない以上,少なくとも当事者間ではこれを有効とすべき理由がないからである。 (2) しかし,通謀虚偽表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない(94 条2項) 。意思 表示の外形を信じて取引関係に入った者を保護する必要がある(第三者の信頼保護)とともに, 虚偽の意思表示をして真実を伴わない外形を作出した権利者がその権利を失う結果となってもや むをえない(権利者の帰責性) ,と考えられるからである(権利外観法理の現れ) 。 ア 「善意」とは,通謀虚偽表示であることを知らないことである。権利外観法理に基づく規定 は,第三者の無過失を要求することが多いが(109 条・192 条・478 条など) ,94 条2項の「善 意」については,虚偽表示をした権利者本人の帰責性が大きいので,条文の文言どおり,無過 失は必要でない(判例) 。 イ 「第三者」とは,虚偽表示の当事者およびその包括承継人(相続人)以外の者で,その表示 の目的について法律上の利害関係を有するに至った者である。 ウ 「対抗することができない」とは,善意の第三者に対して無効を主張することは,虚偽表示 の当事者だけでなく他の第三者も許されないことを意味するが,善意の第三者からは,無効を 主張することも有効を主張することも許される。 エ なお,判例は,通謀虚偽表示がなくても,所有者が他人名義の登記という外観について事前 の了承や事後の承認を明示または黙示にしていた場合に,94 条2項を類推適用して,虚偽の外 観を信頼した善意の第三者を保護している。 (約 790 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 5 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] 過去の本試験の出題傾向から,本年度は民法総則(特に意思表示)からの出題が予想されたとこ ろ,やはり民法総則(意思表示)から出題された。本問の通謀虚偽表示は, 「専門記述対策講座 講 義編 民法」で扱われており,同講座の答練でも出題されているので,ある程度勉強した受験生で あれば,書くべき知識は十分に持っているはずである。ただし,通謀虚偽表示の「効果」について は,条文(94 条1項・2項)を説明するだけでは不十分であるし,逆に,94 条2項に関するすべて の論点を説明しようとすると時間が足りなくなる。したがって,書くべき知識の取捨選択が本問の ポイントとなる。 6 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 4.経済学 問 題 市場での自由な取引だけでは望ましい資源配分が実現しない場合を3つ挙げ,それぞれ説明せ よ。 解答例 自由な市場が望ましい資源配分を実現できない状況を市場の失敗という。市場の失敗が生じる理 由としては,①不完全競争,②外部性,③公共財,④費用逓減産業,⑤情報の非対称性などがある が,以下では,②,③,④の3つを論じる。 外部性とは,財の消費や生産から市場を経由することなく直接に他の消費者や生産者に損害(利 益の場合もある)を与えるという技術的外部性をいう。工場の騒音により住民に費用が生じる場合 には,企業が自身で負担する生産の限界費用に加えて,近隣住民が負担する外部限界費用も発生す る。自由な市場では生産の限界費用が価格と等しくなる点で生産量が決定されるが,社会的な資源 配分の効率性から見ると,外部限界費用と生産の限界費用の合計にもとづいて生産量が決定される べきである。よって,自由な市場では限界費用が過小に評価され生産量は過剰になる。 公共財とは,非排除性と非競合性を備えた財のことである。非排除性とは,代金を支払うことな く財を消費する人(フリーライダー)を消費から排除できないことをいう。次に,非競合性とは, 1単位の財を多数の人で同時に消費することができることをいう。例えば,生活道路は通行料を徴 収することが困難であるので非排除性がある。また,同時に多くの人が同時に道路を利用できるの で非競合性もある。生活道路の建設には膨大な費用がかかるが,公共財であるために建設費用の負 担をせずに利用だけをするフリーライドができることから,結果として,自由な市場では,道路の 建設費用が賄えず道路は過小供給に陥る。 費用逓減産業とは,1つの企業が生産量を増大させると平均費用が下がり続ける産業のことであ り,電気,ガス,通信など巨大な固定設備を要する産業が多い。費用逓減産業では,生産量を多く すればするほど価格を低くすることができるために,自由な市場では生産量が大きい企業が優位に なり生産量の少ない企業は市場から退出する。こうして競争が消滅して自然独占が生じる。自然独 占の下では,利潤最大化の結果として価格が限界費用よりも高い水準に設定されるため,供給量が 過小になり,消費者の利益が大きく損なわれる。 (約 890 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 7 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] ミクロ経済学についての良問である。外部性や公共財の概念を限界費用や排除不可能性などの詳 細な専門知識により説明できるかで点差がついたであろう。市場の失敗はミクロ経済学全体の中で は応用的な分野であるが,公害・公共財・費用逓減産業などは地方政府の事業とも関わりが深い上 に財政学とも重複する。この分野は受験生としては勉強不足などあり得ない。しかも,市場の失敗 のうち「情報の非対称性」は論じる必要が必ずしもないことから,ミクロ分野からの出題としては 例年よりも易しい問題であったといえる。 8 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 5.財政学 問 題 地方財政計画について、その概要及び役割を説明せよ。なお,歳入・歳出の構成についても言 及すること。 解答例 日本には約 1,800 の地方団体が存在するが,これらを内閣が個別に把握し検討することは現実的 ではない。地方財政計画とは,これら地方団体の普通会計を1つの財政主体とみなし,翌年度の歳 入と歳出の見積もりを表したものである。これにより,地方団体を統一的に把握することが可能に なる。ここで普通会計とは,一般会計と公営事業会計を除く特別会計を合わせたものであり,地方 団体の財政状況を統一的な基準で見るために用いられる。地方財政計画は地方交付税法第7条によ り内閣がそれを作成し,国会へ提出および国民へ公表することが義務付けられている。ただし地方 財政計画は内閣による地方財政の見積もりであり,地方団体に対して法的拘束力は持たない。地方 財政計画に含まれる歳入としては,地方税(ただし法定外税や超過課税は除く),地方譲与税,地方 特例交付金,国庫支出金,地方債がある。歳出としては給与関係経費,一般行政経費,公債費,投 資的経費,公営企業繰出金がある。地方財政計画に基づく歳入不足が地方交付税交付金の算定根拠 となる。平成 27 年度の地方財政計画(通常収支分)の規模は約 85.3 兆円であり,前年度より約 1.9 兆円増加している。 続いて地方財政計画の役割であるが,第一に国家財政と地方財政との整合性を図ることが挙げら れる。国の毎年の予算編成を受けて,それとの整合性を保ちつつ地方財政を構成する必要がある。 第二に地方団体が標準的な行政水準を確保するための財源を保障することが挙げられる。地方全体 の歳入と歳出を見積もることで地方団体の資金の過不足を把握し,主として地方交付税交付金によ って不足分を埋め合わせることになる。そして第三に地方団体の財政運営の指針となることが挙げ られる。地方財政計画に基づき,国と一体となった地方財政運営が実現されることにより,効果的 かつ効率的な財政運営が可能になることが期待される。また近年では,地方財政の健全化という観 点も重要である。 (約 810 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 9 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:B[標準] 地方財政計画に関するやや細かい知識を要する問題である。 「地方の予算の見積もり」程度の理解 ではかなり苦戦することが予想される。最低でも「地方団体の普通会計を一括して,歳入と歳出の 見積もりをしたものである」ということぐらいは答えられるようにしたい。歳入と歳出の構成は覚 えている限りのものを書くようにしてほしい。地方財政計画の役割については,常識的な考え方で かなり書けるものと思われる。例えば国と地方の整合性などは知らなくても容易に想像できるはず である。 10 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 6.政治学 問 題 ミルズの「パワー・エリート」について,リースマンの多元主義と比較しながら説明せよ。 解答例 ミルズは,大衆社会状況下にある 1950 年代のアメリカの権力構造を明らかにするために, 「パワ ー・エリート」という概念を提唱し,権力集中化の傾向を説いた。彼は,権力のヒエラルキー(階 層秩序)において最上位に位置するエリート層の分析こそが現代社会の分析において重視されるべ きだと考えた。ミルズによれば,権力者は,政治・経済・軍事の3つの制度的秩序において,それ ぞれの支配位置を占めている人々(政府高官・財界幹部・高級軍人)であり,彼らこそがパワー・ エリートとよばれる存在なのである。このパワー・エリートは,利害が構造的に一致する1つのグ ループを形成しており, 国家の政策決定に大きな影響を与えているとされる。 このようにミルズは, 権力分立と民主主義の理念に立脚するアメリカにおいても,実際にはこのようなエリート支配を免 れえないと主張した。 ミルズの権力構造論は多くの論者によって批判された。その中で,最も正面からミルズの権力構 造論を批判したのが,多元主義に位置づけられるリースマンの権力構造論である。リースマンは, ミルズの『パワー・エリート』より先に出版された『孤独な群衆』の中で,権力エリート論とは反 対に,現代社会において,単一の階級支配から,権力が多様な「拒否権行使集団」へと拡散してい った結果,支配者と被支配者とを区別することが難しくなっていることを指摘している。拒否権行 使集団とは,さまざまな実業家集団,農民集団,労働組合,職業集団等のことであり,また自己に 攻撃が加えられたとき,これを中和することのできる力を持つ集団を指している。その意味で,そ れは本質的に自己防衛集団である。現代社会においては,こうした多くの拒否権行使集団に権力が 分散されているのである。 ミルズとリースマンは,ともに国家と個人との中間レベルに多様な社会集団を想定している点で は共通している。しかしながら,ミルズが,中間集団は次第に媒介機能を失いつつあることを大衆 社会化の特徴と捉え,権力エリートと中間レベルの利益集団とコントロールされやすい未組織で原 子化された大衆という3つの次元を想定しているのに対して,リースマンは,支配的な権力エリー トが存在せず,多様で多数の利益集団と,利益集団に対してある程度の力を持つ未組織な大衆とい う2つの次元で捉えているという相違点がある。さらに,ミルズは,権力エリートが全般的な権力 を持ち,すべての主要な政策決定に関与していると見ているのに対して,リースマンは,政策決定 者は争点によって異なると考えたのである。 (約 1050 字) 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 以上 11 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:C[難問] 昨年度の「ダールのポリアーキー」に引き続き, 「政治学者の基礎概念に関する問題」が出題され た。例年の東京都ⅠB試験では見られない傾向である。ミルズの「パワー・エリート」は,たとえ ば特別区試験などでは択一試験の頻出テーマであり,内容そのものは平易である。しかしながら, 専門記述で出題される場合,どのような論点を盛り込むべきか,悩んでしまった受験生が多くいた ことは想像に難くない。したがって, 「パワー・エリート」の内容そのものは平易なのであるが,論 述の組み立て方が非常に難しいという点において,本問は難問の部類に入ると思われる。 12 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 7.行政学 問 題 リンドブロムのインクリメンタリズムについて,合理的意思決定に対する批判に言及して,説 明せよ。 解答例 リンドブロム以前に主流とされていた意思決定モデルは合理的意思決定であり,これは,①価値 (目的)を設定し,②価値の達成に役立つ全ての手段を列挙し,③全ての手段について結果を予測 した上で,価値を最大化する手段を選択するというものであった。 リンドブロムは,この意思決定モデルは,人間の情報処理能力や計算・予測能力などの限界から して非現実的であると批判した上で,実際の政策立案者の決定・行動様式を次のように示した。 ①まず,政策立案の目的は,理想やめざすべき価値の実現ではなく,現実の弊害の除去に努める。 ②目的と手段を厳格に峻別するよりも,現実にとりうる手段にあわせて目的を調整する(目的と手 段のワンセット化)。③政策案の選択については,新たに理想的な選択肢を考案するのではなく, 現行の政策や実施方法の修正を基本として,実現可能な2,3の選択肢を挙げ,比較検討を通じて, この中から最善と思われる政策案を選択することで満足する。④問題の解決に当たっては現在の政 策に修正や変更を加えながら漸進的に問題解決をはかっていく。 リンドブロムは,以上のような意思決定方式を「インクリメンタリズム」とよび,現実の予算編 成過程において,限られた時間の中で効率的に予算を編成するために,前年度と変わらない部分の 査定よりも新規増分のみを厳しく査定することに注力していることを観察して提示した。リンドブ ロムのインクリメンタリズムは,政策立案者の決定・行動様式を説明するモデルとしては現実性が 高く「優れた記述モデル」と評価されたが,政策決定の規範モデルとしては,前例を肯定すること になるため保守的と批判された。(約 690 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 13 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] 東京都Ⅰ類Bの行政学は,かつての特別区で出題された問題を活用する傾向があり,インクリメ ンタリズムは今年の最有力出題テーマであった。このテーマは弊社の東京都Ⅰ類B択一記述公開模 試でも出題しており,極めて容易であった。 論述のポイントは,問題文にあるとおり,合理的意思決定を説明した上で,その問題点を指摘す ること,インクリメンタリズムの背景が予算編成過程で新規増分の査定に注力していることを観察 したこと,インクリメンタリズムの特徴,インクリメンタリズムに対する評価である。 14 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 8.社会学 問 題 家族の機能について,マードックの説を中心に説明せよ。なお,パーソンズの説についても言 及すること。 解答例 家族の機能についての学説では,マードックの「4機能説」が有名である。この説は,彼の「核 家族普遍説」を裏付けるものとして主張されたものである。 「核家族普遍説」とは,夫婦のみ,また は夫婦とその未婚の子どもから成る家族形態である核家族が時代や地域にかかわらず普遍的に存在 すると主張したものである。マードックは,人類の存続は核家族がその機能を果たすことによって 可能となるとの考えから,家族の持つ機能を4つに分類した。第1に,夫婦間の性的欲求の充足と 社会における性的秩序の維持を果たす「性」の機能,第2に,人類の存続に不可欠な子孫を残すと いう「生殖」の機能,第3に,第1次社会化のために子に対してしつけをするという「教育」の機 能,第4に,生産・消費の主体として経済活動の単位たる家計を営むという「経済」の機能である。 オグバーンは,かつて近代以前の家族は地位付与,経済,愛情,宗教,保護,教育,娯楽,地位 付与といったさまざまな機能を果していたが,近代化にともなってこれらの家族の機能はほとんど が学校,企業など他の機関に代替されるようになったとし,家族には「愛情」の機能だけが残った とした。 パーソンズは家族機能縮小説に対して,家族にしか果たしえない本来的な機能が存するとして, 子を生み育て基本的な価値観や道徳心を植え付けるという「子どもの(第1次的)社会化」機能と, 家族成員の情緒的安定や家族成員の保護をするという「大人のパーソナリティの安定化」機能の2 機能説を述べた。家族の2機能説をパーソンズが述べた背景には,20 世紀半ばの社会状況がある。 当時はオグバーンに代表されるように,家族機能は縮小しているとする説が支配的であり,さらに 離婚の増加などから, 「家族の解体」も論じられるようになってきていた。パーソンズは,このよう な家族機能縮小説や家族解体説に反対して,上述の家族の2機能説を提唱したのである。 家族の機能についての代表的な説には, マードックやオグバーン, パーソンズらのものがあるが, これらの説では他の社会集団では担えない家族の本質的な機能として「愛情,成員の情緒的安定」 が強調されていることに再度注目をしておくべきだろう。 (約 910 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 15 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] 問題の内容としてはきわめて標準的で,難易度も低いものであるといえる。東京都Ⅰ類Bの社会 学の専門記述は,例年,社会学の学説史(社会学理論)から出題される。そして数年に一度,学説 史から離れた課題が出されることがある。ただしその場合でも,現状の我が国について論じさせる ような時事的な問題が出ることはなく,あくまで家族社会学や地域社会学などの主要な理論につい て書かせるものとなっている。 この課題では家族の機能についての学説を記述することが要求されているが,そのうち,G.P. マードックとT.パーソンズについては必ず触れるように指定されているので,後は,W.F.オ グバーンや,場合によっては,核家族化による家族の機能縮小という前提自身に反論したE.リト ワクを付け加えてもよいだろう。 16 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 9.会計学 問 題 企業会計原則における損益計算書原則のうち,営業利益,経常利益及び当期純利益について, それぞれ説明せよ。 解答例 損益計算書は,企業の一定期間における経営成績を表す財務諸表であり,収益と費用を対応表示させ ることにより,以下に示す各種の利益が示されることになる。 まず営業利益とは,当該企業の主たる営業活動から生じる費用・収益から算定される利益である。具 体的には,一会計期間に属する売上高と売上原価から売上総利益を計算し,ここから販売費及び一般管 理費を控除することにより営業利益が算定される。営業利益は,下記に示す営業外の活動に伴う損益項 目や特別損益項目を含めていないため,当該企業の純粋な営業活動の成果を示しているといえる。 次に,経常利益とは,営業利益に受取利息や支払利息,有価証券売却損益その他営業活動以外の原因 から生ずる損益であって特別損益に属しないものを加減することにより算定される利益である。 経常利 益は,下記に示す特別損益項目を含めていないため,企業の業績尺度としての役割をもち,企業の正常 な収益力を示しているといえる。 最後に,当期純利益とは,経常利益に固定資産売却損益等の特別損益を加減して算定された税引前当 期純利益から当期の負担に属する法人税,住民税及び事業税を控除し,法人税等調整額を加減して算定 される利益である。この当期純利益は,費用や収益のすべての項目を含めて算定され,一定期間におけ る最終的な経営活動の成果を表すことになる。 (約 570 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 17 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:B[標準] 本問は,損益計算書における各種利益概念の内容を問うものとなっている。内容自体は,通常の 講義などで取り扱っているが,この論点を予想していた受験生は少なかったのではないだろうか。 その意味では,手の出しにくい問題であると言える。各利益の概念を正確に指摘することができた 受験生は一部の会計学を専門に学習した経験のある人を除いて,ほとんどいなかったのではないか と思われる。ただし,解答の精度は下がるが,大雑把に(簡単に)各利益の意味を説明できた受験 生はいたであろう。例えば,営業利益は営業活動から得た利益,経常利益は経常的に得られる利益, 当期純利益は1年間の利益,といった程度に簡単に説明し,それぞれの利益についてもう少し説明 を付け足すことは可能であると思われる。もちろんこうした説明では高得点は期待できないが,他 に選ぶべき科目が見つからない場合には,こうした対処の仕方も考えられる。 18 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 頒布・複写を禁じます 10.経営学 問 題 事業部制組織について、長所と短所に言及して説明せよ。 解答例 事業部制組織とは,組織区分が製品や地域ごとに編成されている分権的な組織を意味する。製品 別,地域別,顧客別などを基準に各事業部を設定するのである。 ここで各事業部は,独立採算で利益責任が課され,基本的にプロフィット・センター(利益責任 単位)として機能する。また,利益に対して責任を負うだけでなく,本社から各事業部に対して投 資の権限まで委譲される場合には,インベストメント・センターとして機能することになる。 一方,総合本社は,全社的な立場で,戦略立案,各事業部の評価,事業部間の調整などを行う。 特に,各事業部に対して予算の配分を行い,コスト・センターとして機能する点が重要となる。 次に,事業部制組織の長所と短所について説明する。 まず,長所については,迅速な意思決定が可能となり,環境の多様化や事業の複雑化(多角化) に対応しやすいという点が挙げられる。また,分権的な組織体制となり,トップ・マネジメントの 負担が軽減される,事業部長を将来の経営者として専門的に訓練・育成することが可能となる,R OI(投資利益率)等を基準とし各事業部の業績を客観的に評価し易い,事業部間での競争が促進さ れる,企業全体を各事業部に分けて比較的小集団の中で従業員は活動することになるのでモチベー ションの維持向上につながる,といった点も長所として挙げることができる。 次に,短所について説明する。まず,セクショナリズム(縦割り,縄張り主義)が発生し,事業 部が対立しやすいという点が挙げられる。さらに,各事業部は利益に対して責任を負うことになる ため,事業部長は短期利益志向になることが考えらえる,分権化およびセクショナリズムによる二 重投資の発生などの経営資源重複による非効率性が発生する可能性がある,といった点も短所とし て挙げることができる。 (約 750 字) 以 上 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 19 頒布・複写を禁じます 講 評 難易度:A[易問] 本問は,事業部制組織の意義や長所・短所に関する内容であり,特に難しい内容が問われている わけではなく素直な問題である。一般に組織形態については,長所と短所が重要であるが,今回は そのまま問題文に指示があるので,まず,事業部制組織の意義や特徴を述べた上で,長所と短所に 分けて説明することになる。この際,形式面で注意しなければならないことは,長所と短所の指摘 が単なる箇条書きにならないようにすることである。しっかりとした文章で記述した方がよい。ま た,事業本部制について言及した受験生もいるかもしれないが,特に指示がないので言及する必要 はない。また,カンパニー制などにも言及した受験生がいるかもしれないが,問題文に指示がない ため,カンパニー制には言及すべきではない。直接的には,事業部制組織とは関係ないからである。 事業部制組織については,講義でも取り扱っており,しっかりと復習してきた受験生にとっては 比較的容易な内容であったと言えるであろう。 20 公務員試験対策 平成 28 年度東京都Ⅰ類B本試験(専門試験) 解答例 著作権者 株式会社東京リーガルマインド (C) 2016 TOKYO LEGAL MIND K.K., Printed in Japan 無断複製・無断転載等を禁じます。 KL15492
© Copyright 2024 ExpyDoc