Page 1 海洋科学技術センター試験研究報告JAMSTECTR8(1982) 海水

海洋科学技術センター試験研究報告JAMSTECTR 8 (1982)
海水 の光学特性に関 する研究( 第8報 )
Mie散 乱関数 に よる光散乱係数 の計算
佐 々木 保 徳*1浅 沼 市男*2 宗 山
敬*1
多 分散懸濁 系 である海水 の散乱 をMie散乱 と仮定し ,計算 によって推測 す る過程
を概 観した。
ここで は 体 積 散 乱 関 数 ,全 散 乱 係数 および前方散 乱 係数をと り上 げ ,こ れらの
関数 およ び係数 を計算 するにあ た り,用い た懸 濁粒子 に関 するデ ータは, 1979
年
12 月13日およ び14 日に 東 京 湾 の 2観 測 点 で 観 測した ものである。 これら の懸濁
粒子 の粒度 分布 を示す関数 として ,指数 型分布関 数 とJunge 型分布関数 によ る適応
を試 みた結果 ,指数型分布関数 の方が適切 であっ た。 なお ,懸濁粒子 はすべ て植物
プ ラン クトンで ,球形で ある と仮定 し ,海水 の屈折率 ,海水 に対す る懸濁粒子 の相
対屈折 率 をそれぞ れ1-33 およ び1.02 とし, さらに波長 に依存 し ない ものとし た。
体 積散乱関数 は前方( 透過光の方 向 )と後方( 透過光 から180 °の方向 )に極大 を示
し ,前方で は後方 の約103 拾である。こ の傾向は ,両多分散 系に共通す る。
また ,両 係数 と もに,短 波長 側で大 きく,長波 長側 に向かっ て徐 々に小さくな り
全般的 に は顕 著な波 長依存性 は認め られない。
Studies on the Optical Properties of Seawater (Report 8)
Calculation on the Scatteringof Light by the Mie Theory
Yasunori Sasaki*3,Ichio Asanuma*4, Kei Muneyama*3
This report is a tutorial review on the calculation process of the scattering of light of seawater, that is polydispersed
suspension.
Calculations
are
based on the postulation that the scattering of light by suspended
particles is
Mie scattering. This
scattering
functions
Data
where
report is especially concerned
and total and foreward
scattering coefficients.
used for calculations were taken from
measurements
were
made
with volume
on
December
two
stations in Tokyo
14 ―15, 1979.
size distribution functions of these stations, mathematical
attempted
Junge
by applying
to the suspended
type distribution functions. The
For
former
proved
particle
formulations
particles the exponential
to be more
Bay
were
type and
effective.
*1 海洋保全技術部
*1 潜水技術部
*3 Marine Environment Department
*4 Manned Undersea Science and Technology Department
81
The
suspended
phytoplanktons.
solids were assumed
Both
to consists of only spherically shaped
the refractive index of seawater (1.33) and the relative
refractive index of suspended
particles to seawater (1.02) were also assumed
to be real, and
of wavelength.
Volume
independent
scattering functions
showed
two
local maxima,
the direction of transmitted light (right in front), another
180 ° from
transmitted
light (right in back). The
former
that is, one in
in the direction of
has about 103 times
larger values than the latter at every wavelength, even in the case of different
particle distribution patterns.
1. はじ め に
リ タ ス , その 他 ),無機性 懸 濁粒 子( 鉱 物 粒子 ,底
最近 ,海 洋 計 測手 法 の一 つ の方 法 とし て ,光 学 的
土 , その他 ), その他 とな る。
手法 を用 い た り,ま た は物理 的 ,生 物的 側 面 か ら海
こ れ ら物 質 の光学 的 特性 は ,種 類 ,大 きさ, 形状 ,
洋現 象 その もの を論 じるに さい し ,光 が関与 す る こ
屈 折率 ,波長 に よっ て 大 きく異 な る。 大 きさ と形状
とが とみに多 くなっ てい る。 さらに バ イオ マスエ ネ
とは基 準 を設定 す る こ とが難 し く ,ま た ,仮に 設 定
ルギ ーの 利用 の た めの研 究 な どの よ うに ,従 来 とは
し た とし て も,それ ら と吸 収 ,散乱 を結 びつけ る こ
全 く異 なっ た側 面か らの アプ ロ ーチ が行 な われ る よ
とは困 難 であ る。特 に プ ラ ン クト ン な どの よ うに ,
うに な り, この よ うな傾向 は今 後 ますま す上 昇 の一
形状 が きわめ て不規 則 な もの に つい て は ,一 層 ,困
途 を た どる もの と思 われ る。
難 であ る。
これ に 伴い ,海中 にお け る光 の 挙動に 関 す る質 問
断 面 が円 形 ま たは楕 円 形 の 粒 子 は ,断 面積 と吸 収
を受 け る こ と も多 く なっ て きた。し かし ,海洋 の光
散乱 を解 析的 に 結 びつ け , それ ぞれ吸収 断 面 積 ,散
の研 究 に た ず さ わる者 で さえ ,確固 たる自信 を もっ
乱断 面 積 と呼 ぶ量 との関 係 で論 じ られ る ことが多 い。
て答 え る こ との で きな い こ とが多 い 。
また ,海 洋 の光学 では ,懸 濁粒 子組 成 が 複雑 なため,
それ は現 象が 複雑 であ り , それ らを測定 す る ため
通常 ,球形 粒 子 を仮 定し て議論 さ れ るこ とが多 い 。
の海中 測 器 の製 作 や現 場 操作 が難し く,研究 者 が少
懸 濁粒 子 の 光学 的 パ ラメ ータ ーとし て ,重要 な も
な い こ とな どの理 由 か ら デ ータが不足 し てい る こ と
のに屈折 率 が あ る。特 に海中 の光 散乱 を論 じる うえ
に よる と言っ て よい だろ う。
で必 要 とな るの は ,海 水に対 す る懸 濁粒 子 の相対 屈
光 が物質中 を通過 す る と き ,物 質 に よっ て吸 収お
折 率 であ り ,厳密 に は 複素屈 折 率 とな る。 この値 は
よび散乱 を受 け る。海中 にお け る光 を考 え る と ,光
無 機 性懸 濁粒 子 で は大 きく ,プ ラ ン クト ンの よ うな
自身 に は 2種 類 あ る。 それ らは海 面 に 到達し た太陽
生 物 性粒 子 では ほ と ん どIR: 近 い値 が報 告 されてい
直達 光 お よび天 空 光 が海 面 を通 過 し ,海中 に入 射 し
る。
た と き生 じ る平 行光 と非 平 行 光( 拡 散光 )とであ る。
ま た ,波 長に つ い て は同 様に ,光 の 海 水中 の 波長
これ らは深 度 が増 すに つ れて ,進行中 に吸 収 お よ
に換算 し ,解 析 を 行 な わなけ れば な らな い 。 懸濁粒
び散 乱 を受 け て減衰 す る と と もに ,平行 光 が散 乱 を
子 の光学 的 特 性 の 波 長 依存 性 は無 機 性 懸 濁粒 子 より
受 け る と,拡 散 光に 移行 し てい く た め ,深 さが増 す
も生 物 性 懸 濁粒 子 の 方 が大 きい 。
と と もに ,平行 光が 占 め る割 合 は徐 々に減 少 す る。
海中 で 光 を吸収 ,散乱 す る物 質 を大別 す る と,水
本報告は,東京湾で観測し た懸濁粒子の粒度分布
分 子 ,生 物 性懸 濁粒 子( 動 植物 プ ラ ン クト ン , デト
を もとに ,体積散乱関数,前方散乱係 数お よび全散
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乱係数の計算過程を示し ,合わせて結果を吟味し た
ものである。
この報告では計算の過程に重点を置 き,海中での
光の散乱を概念的に とらえることを意図した。
この報告が海洋の光が関与する観測 データを解析
する上で,多少なりとも参考となれば幸いである。
2. 理 論
Mi
e はMaxwell の電 磁 方程式 を球形 粒 子 に適 用 し
これを粒 子 表面に お け る電 場 ,磁場お よび エ ネル ギ
ーに関 す る連続 条件 の もとに 解 き次 の よ うな解 を え
y - mc『
た。
D ; 粒径
すな わ ち ,1個 の粒 子 に強 度lo の偏光されていな
20 ; 真空中での波長
い 自然 光 の 入射 が あ っ た と き,散 乱角 θにお け る単
71ω; 海水の屈折率
位 立体 角 あ た りの 散乱 光強 度I ∂は次 式 で 表 わ さ れ
m ; 海水に対する粒子の相対屈折率
る。
一方 ,光の散乱 は次式によって定義される体積散
た だし ,θは入射 光 の進 行 方 向 か ら はかっ た角 度,
乱関数 β(∂) で表わされる。
お よび り は それ ぞ れの 振 動 方向 が観 測 面に 垂 直
お よび平 行 な直 線偏 光成 分 を表 わし ,観測 面 は入射
光 と散乱 光 を含 む面 とす る。
こ こで, dJ
(0) は ,放 射 照 度lo(W/m')が入 射 す
る 微小 体 積要 素d v が θ 方 向 に 散 乱 す る 放射 の 単位
立 体角 あ た り の 強 度 で あ る。 し た が っ て,・ 微 小 体 積
要素 中 の 粒 子 が 1 個 で あ る と き , 1 個 の 粒 子 に よ る
た だし ,
散乱 の 体 積 散 乱 関 数 はl/dv=
1とお く と ,
単位体積中の粒子数ヵ沁 である場合は,体積散乱
関数は,
とな る 。
と こ ろ で ,海 水 中 の 懸 濁粒 子 は多 分 散 粒子 で あ る
た め ,a は 粒 径 の関 数 の形 で与 え な け れば な らない。
そ こ で ,粒 径 D 以 上 の全 粒 子 数 を 表 わ す 累 積 粒 子 数
関 数 をN .
D とすれば・ dN .
D/dD ’NこD は粒径Dに
おけ る単 位 粒 径 あ た り の出 現 粒 子 数 を与 え る。 し た
がっ て , 微 小 粒 径 幅 dD中 に 存 在 す る 粒 子 数 は ,
N汕 ・dD とな り, こ れ ら粒 子 に よ る 体 積 散 乱 関 数
は71 をN乙D‘ dD でお きか え ,
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となる。
その結果 ,最大粒径をD max 最小粒径をD min
夕
とすれば,全懸濁粒子に よる全散乱係数bお よび前
方散乱係数hf はそれぞれつぎの ようになる。
なお ,関数 N ,
Dは・ D の 大 きい 方 か ら小 さ い 方 へ
向 か っ て 定 義 さ れた 関 数 で あ る か らN 二D <0 とな り,
(5)式 と(6)式 とを 実 際 に 計 算 する とき は ,粒 径 に 関 す
る 積 分 下 限 は Drn
a
x 9上 限 は D min とし な け れ ぱ な
らな い 。
観 測 点 と 観測 日; Observation
stations and its date
A点, StatianA ; 1979 年 12月 13日 13 Dec. 1979
B 点, StationB ; 1979 年 12月 14日 14 Dec. 1979
3.
結 果 およ び 検 討
図 1 海 洋 観 測点
3.1 懸 濁 粒 子 の 粒 度 分 布
本 報 告 で 用 い た懸 濁 粒 子 の 粒 度 分 布 に関 す る デ ー
Observation stations
タ は , 昭 和51 年12 月13 日 お よび14 日, 第 1図 に 示
す 東 京 湾 のS
t n. A お よびStn.
B で そ れ ぞれ 観 測
た 場 合 で あ り ,参 考 と し て 示 す。
し た もの で あ る 。
懸 濁粒 子 の 粒 度 分 布 の 表 わ し 方 に は , 種 々 の 方 法
が あ る が , こ こ で は 累 積 粒 子 数 関 数 を 用 い る もの と
と す る 。 こ こ で N >D は 粒 径 が D よ
>D
り も大 き い 粒 子 の 総 数 を 表 わ す 。
し・
そ れ をN
St n. A
とS
t n. B と の累 積 粒 子 数 分 布 を示 し た
各 図 中 で ,実 線 で 示 し た もの は , 指 数 分 布 を 仮 定
し た 場 合 で あ る 。 そ れ ぞ れ は つ ぎ の よ うに な る 。
N
>D 二2.7 1 7 x 104-
D  ̄1
‘083(St n. A)( 個/lsX)
ツD ° 1.059 x 104 ・
N
×103 ・D  ̄1
‘059 (Stn. B)( 個 ん冫)
>D °3.391 な お , 粒度 分 布 の 測 定 は , コ ー ル タ ー カ ウン タ ー
N
に よ っ た。
3.2 体 積 散 乱 関 数 , 前 方 散 乱 係 数 お よ び 全 散 乱
係数 の計 算
もの が 図 2 で あ る 。
N
な お , 破 線 で 示 し た もの は ,J unge 分 布 を 仮 定 し
び}. 2589-D tn.
び3.4959°
D(S tn*
ツD 二1・5 1 5 )(104.
こ れ ら の 3 パ ラ メ ー タ ー は , そ れ ぞ れ(5)式 ,(6)式
お よび(7)式 か ら計 算 し た。 前 方 散 乱 係 数 と 全 散 乱 係
A )( 個/ ㎡)
数 の 積 分 計 算 は台 形 公 式 に よ っ た 。 前 方 散 乱 係 数 で
B )( 個/ ㎡)
は ∂ に 関 す る 積 分 区 間(S
D に 関 す る 積 分 区 間(Stn.
tn.A。Stn.B と もに〔0,5 〕),
A; C 0.1, 32.0〕,Stn.B;
C 0.1, 16.0〕) を も と に 100 等 分 し た 。 全 散 乱 係
数 で は θ に関 す る 積 分 区 間〔S tn.A.B とり こC0, a・〕)
を200
等 分 し , D に 関 す る 積 分 区 間(S tn.
A;
CO.l, 16.0 3, S tn. B;〔0.1, 32.0〕)を100 等 分 し た。
こ れ ら の 計 算 R:は. Stn. A, Stn. B と もに 指 数 型
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分 布関 数 を用 い た 。 粒 径D に 関 す る積 分 区 間 の 下 限
かし ,前 方 散乱係 数に 比し て ,い かに小 さい か が わ
は0,1 μm とし た。た だ し, Mie の 散 乱 を 仮 定 し た 場
か る。
合 ,0,1 μm とい う値 は ,波 長 に比 べ て 小 さ い た め ,
計 算 で求 め た 散乱係 数 は ,い ず れ も短 波長 側 か ら
必 ず し も Mie散 乱 を 仮 定 す る こ と が適 切 で は な い か
長 波長 側 へ ,徐 々に小 さい値 を とっ て はい る が ,顕
も知 れ な い 。
著 な波 長依存 性 を示し てい な い 。 し かし ,実 際 に は
ま た ,海 水 の屈 折 率71ω , 海 水 に 対 す る 粒 子 の 相
対 屈 折 率 の値 は , そ れ ぞ れ1.33 お よび1.02
植物 プ ラン クト ンは有 機体 であ り, 入射光に 対 し て
を用 い
複雑 な 波長 依存 性 を有 す る吸 収現 象 を呈 す る ため ,
た 。 ま た ,懸 濁粒 子 は , す べ て 植物プ ラ ン クト ン で
実 際 の散乱 は それ らの影 響 を受 け , さらに波 長 依存
あ る と 仮定 し た。
性 が存 在 す る と見 るの が妥 当 であろ う。
計 算 に はDEC 社 のVAX- 11/780
型 電 算 機 を使
用 し た 。Stn. B の 前 方 散 乱 係 数(400nm
∼700nm
)
の 計 算 に 約3. 時 間 を 要 し, 上 記 計 算 機 に よ る数 値 積
さ らに , これ らの両 散乱 係 数 を現 場 にお け る下向
照度 消 散係数 と比 較し た もの が表 1 である。
海中 の光 は ,波 , その他 の影 響 を強 く受 け る ため
分 は , 前 述 の 積 分 区 間 分 割 が ほ ぼ限 界 で あ る 。 =
浅い 層 ほ ど( 海 面 に 近い ほ ど )不安 定 で ,変 化し や
また ,
(1)
式 中 のi \, 12の 計 算 に は , 級 数 和 を と
すい 。 その ため ,現 場 にお け る下向 照 度消 散係 数 は
る必 要 が あ り ,級 数 和 が 十 分 収 束 す る に は , 項 数71
水深 3 mと5 mで測定した下 向照 度 の値 か ら求めた。
をa7 の 約10 数 倍 に とらなけ れぱな らな い こ とが わ か
実 際の粒 子 では 。吸収 効果 を伴 うが ,これ は散乱
っ た 。 こ の こ とか ら ,粒 径 が 大 きく , か つ波 長 が短
効果 よりは少 し 小 さくな る傾向 にあ る ため ,全散乱
か い ほ ど ,x が 大 きく な る た め ,71 を 大 きく と ら な
係 数 か ら推 して平 行 光に対する全 消 散係 数 は400 nm
け れ ば な ら ない 。
で0.2 ∼0.25 程 度, 700nm
こ の 計算 で は ,a7 の値 の変 化 に 伴い ,7
[ も変 化 さ
せ た た め , n.は最 大300 近 い 値 に まで 達 し た 。
で0.15 ∼0.2 程 度 になる
だろ う と考 え られ る。
これ らの 値 を照 度 消 散係 数 と比 較 す れ ば,や や大
以 上 の 計 算 で 求 め た 体 積 散 乱関 数 を 図 3に 示 す。
きくなっ てい る 。実際 に は3∼ 5m の 深さ で は ,拡
Stn. A お よびStn. B と もに, 海 水 が 多 分 散系( 不 均
散光 が平 行 光 に 対し て はる かに 卓越 し た割 合 を占 め
一 粒 子 分 散 系 )で あ る こ とを よ く示 し て い る 。 す な
てい る こ とお よ び拡散 光に 対 す る 全消 散係 数 は ,平
わ ち ,均 一 粒子 分 散 系 の 場 合 は ,散 乱 光 の 位 相 が す
行 光に 対 す る よ り も,一 般 に 小 さく なるこ とを 合 わ
べ て 同 じ であ る た め ,大 きく振 動 す る 。
せ て考 え れば ,十分納 得 で きる値 であろ う。
ま た ,い ず れ も前 方 お よ び 後 方 に散 乱 の 極 大 が 存
在 す る こ と を示 し て い る 。
現 場 で は照 度 消 散係数 は ,短 波 長側 と長 波 長 側 で
大 きくなっ てい る。 これは特 に 長 波長側 では水R:よ
ま た , 前 方 へ の 散 乱 の 極 大 値 が後 方 へ の そ れ の約
る吸収 効 果 が急激 に増大 す る こ とと ,溶存 有 機物 ,
1000 倍 とな っ てい る。 こ の 比 は粒 度 分 布 関 数 が異
その 他 に よる吸収 効果 が加 わっ た こ とに よる もの で
っ て も, ほ ぼ同 じ 値 と なー )てい る。 前 方 ,後 方 と も
あ る。
散 乱 の極 大 値 は 波 長 が 短 かい ほ ど大 き く ,長 く な る
また ,大 気中 で光 が 大気 マ ス mに相当 す る光路 を
に つ れ て徐 々に 小 さ く な る 。 散 乱 の 極 小 は ,粒 度 分
進 む さい の Mi
e散乱 に よる消 散を示 す近 似式 とし て
布 , 波 長 のい か ん に か か わ ら ず ,透 過 光 の 方 向 か ら
し ばし ば次式 が用い られる。
約90 °の方 向 に生 じ てい る。 Mi
e散 乱 で は ,散 乱 光
の分 布 に 著 し い 方 向 性 の存 在 す る こ と が明 らか であ
る。
昭 和54 年12 月14 日 の 粒 度 分 布関 数 を もとに , 計
算 し た 前 方 散 乱 係 数 お よ び全 散 乱 係 数 を 図4 に示 す。
こ の図 に よる全 散 乱 係数 と前 方 散乱 係 数 の差 が 後
方散 乱 係数 に相当 する。
海 洋 を 遠 隔 探 査 す る うえ で ,前 方 散 乱 係 数 よ り も
重 要 な 役 割 を に な うの は ,後 方 散 乱 係 数 で あ る 。 し
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た だ し α お よび β は オ ン グ スト ロ ー ム係 数 ,j は
波 長 で あ る。
そ こ で海 水 の場 合, m
= 1 とお き, * = 0.4 (μm)
の場 合 と λ= 0.7 (μm)の 場 合 の全 散 乱 係 数( それぞ
れ0.1603 お よび0.1119)
た 結 果 ,a は0.6430,
を もとにα お よ び β を 求 め
β は0.08893
とな っ た 。
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(1) A 点, Station A
指数型分布関数
Junge型分布関数
(2) B点, Station B
Exponential
type particle size distribution function
J unge type particle size distribution function
図2 懸濁粒子の粒度分布
Particle size distributionsof suspended particles
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(1) A点, Station A (2) B点, Station B
図3 粒度分布関数を もとに計算し た体積散乱関数
Volume scatteringfunctionsat several wavelengths calculated
from the particlesize distributionfunctions
た仮定 が 沢 山 と り入 れ られ てい る ため ,計 算 に よっ
て得 られ た結果 は ,恐 らく 実際 の粒 子にお け る現 象
とばか な りか け はな れ た もの になっ てい る であろ う
と考 え られ る。
し かし ,現場 で光 散乱 を 正確 に測定 す る ことは ,
現状 で はま ず困 難 であ る こと ,ま た ,海洋 遠 隔探査
その 他 の研 究 を進 め てい くう え で ,光学 特 性 を理解
する基 礎理論 とし て , これ で十分 であ る こ とな どを
考 え合 わせれ ば , きわ めて有効 な解 析 であ る と考 え
られ る。
た だ , この よ うな解 析の もとにな るパ ラメ ータ ー
は測定 が難し く ,必 ず し も適 切 な値 で はな い ため ,
もっ と実 際的 な値 を設定 す る こ とが 可能 とな れば ,
さらに洗 練 され た理 論 とな る はず であ る。
懸 濁粒 子の 形状 を楕 円 形や その他 の形 と仮 定し ,
その場 合 の系 の光 散 乱 を解析 的 に 求 め よ う とす れば
粒度分 布のほか ,配向を確率的に考えなけ れぱなら
なくなり,一層複雑 となることが確かである。し か
b ;全 散 乱 係 数 , total scattering coefficient
bf ; 前方散乱 係数 , foreward scattering coefficient
し,必ずし も,より一層現実的 な結果 が得 られると
は限らない。
なお ,結果の解析で も触れたように ,散乱 と吸収
図4 B点における粒度分布関数を
もとに計算した全散乱係数と
前方散乱係数
Total and foreward
scattering coefficients
calculated from the particle size distribution
function at station B
とは,同時に存在する表裏一体とも言える光現象で
あることを考 えれば,恐 らく両者間には互になんら
かの寄与を及 ぼし合っていると考えられる。
また,植物プ ランクトンのような複雑な有機体粒
子の光散乱を理論的に取扱 ううえでは,散乱 と吸収
との両者を不 可分な もの とし て考慮するこ とが自然
さらに ,こ れ らの αお よびβの値 を もとに。λ- 0.5
である。
お よび λ= 0.6の ときの β/ 即 の値 を求 め た とこ ろ ,
0.1389( 計算値; 0.1422 )お よび0.1235 (計算 値;
0.1256) とな り,計 算 値 とほ ぼ等 し くなる 。
この こ と は多 分散系 であっ て も,散乱 を計算 す る
文 献
1) Beardsley G. F. Jr.
, Pak H., Carder K.,
1970, " Light scatteringand suspended
場 合 に は(8)式 のような式 で もαお よびβの 値を適当
particlesin the eastern equatorialPacific
に決 定 す れば十分 であ る とい うこ とを意 味す る。し
Ocean", Journal of Geophysical Research
か し ,実際 に は散乱 に も波長 依存性 が多 か れ少 な か
75(15), 2837- 2845
れ存在 す る と考 え られ るの で , その場 合 に は多 少 の
考慮 を必 要 とす るだ ろ う。
2) Brown
0- B., Gordon H. R., 1973, " Two
component Mie scatteringmodels of Sargasso
Sea particlesApplied
4, おわりに
ここで述べた海中 におけ る粒子による光の散乱は
Optics 12(10),
2461 - 2465
3) Kullenberg G-, 1968, " Scattering of
粒子を球形 とし ,粒度分布を関数表示 できるものと
light by Sargasso Sea Water Deep
し ,粒 子に入射 する光はすべて平行光であるとし ,
Research 15,
さらに粒子屈折率を実屈折率とするなどの理想化し
88
4) Owen
Sea
423-432
R.W., Jr., 1973, "The
effect of
JAMSTECTR
8 (1982)
表1 現場における下向照度消散係数と計算による全散乱係数,前方散乱係数との比較
Comparison between downward irradiance attenuation coefficientfrom
in-situ measurement , and total and foreward scattering coefficients
calculated respectivelyfrom the particlesize distributionfunction at
station B
波 長
warelenght
(nm)
JAMSTECTR
照 度 計 に よ る 下 向
照 度 消 散 係数(m-1 )
downward ir radiance
attenuation coefficient
全 散 乱 係 数(m
total scattering
coefficient
1 )
前 方 散 乱 係 数 ( mー1)
foreward scattering
coefficient
400
O、206
0. 1603
0. 1427
410
0. 235
o、1591
0.1416
420
0. 25 5
0. 1582
0. 1408
430
0. 25 6
0. 1550
0. 1380
440
0.181
o、1533
0. 1365
450
O、178
0.1515
0. 134
460
0.164
0. 1496
0. 1332
470
0. 137
0. 1479
0. 1317
480
0.126
0. 1446
0. 1299
490
0. 121
0. 1445
0. 1286
500
0.117
0. 1422
0. 1266
510
0. 132
0. 1404
0.1250
520
0.137
0. 137
530
0. 138
0.1370
0. 1220
540
0.135
0. 1348
0、1200
550
0.141
o、1336
0. 1189
560
0.139
0. 1320
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570
0.138
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580
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590
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600
0.250
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610
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620
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o、1077
640
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670
デ ー タな し
0. 1156
0.1029
680
デ ー タな し
O、1141
0. 1016
690
デ ー タな し
0. 1132
O、1008
700
デ ー タな し
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