セメント - 格付投資情報センター

業種別格付方法
公表日:2016 年 6 月 10 日
セメント
この格付方法は、主として日本国内で事業展開するセメントメーカーに適用する。
I.事業リスクの評価
1.産業リスクの見方
セメントは主にコンクリートの原料として用いられ、建設工事全般で基礎や構造材などとして使われ
る。用途は限られているが、セメントが持つ機能や価格優位性を踏まえれば、他素材に代替される可能
性は低い。単価が安く、かさばるため、運賃負担力が弱い。基本的には地産地消の製品で、内需型産業
の側面が強い。
対象市場は国内建設投資の数パーセントで、規模は小さく成長も見込めない。半面、ボラティリティ
ーはさほど大きくない。差別化がほとんどできない製品で顧客の継続性は低いが、市場規模に応じた生
産能力の削減が進んでおり、輸入圧力も小さいことから業界構造は比較的安定している。
典型的な装置産業で投資負担は重い。とはいえ、設備の物理的な耐用年数はかなり長く、製造方法が
成熟していることから、維持・更新も含め、投資期間中に設備が陳腐化するリスクは小さい。
これらの点を総合的に勘案し、セメントの産業リスクを中程度と評価している。
(1)市場規模、市場成長性、市場のボラティリティー
セメントの国内市場規模は 1 兆円に満たず、小さい。需要は基本的に国内建設投資に連動しており成
長は見込めず、長期的に見れば減少基調だろう。一方で、建設投資の大きな落ち込みや新素材による代
替などで需要が急減することも想定しにくい。
公共投資予算や景気動向による需要変動はあるものの、ボラティリティーは大きくない。インフラ投
資として不可避な公共工事が一定程度存在するほか、民間建設投資の対象物は事務所、生産施設、物流
施設、医療・福祉施設、住宅など多様な分野に分散しているためだ。
(2)業界構造(競争状況)
長期的には減少傾向にある国内需要だが、年間 4000 万 t を大きく割り込む状況を現時点で R&I は想
定していない。一方、国内セメント業界は、4000 万 t 程度の内需を前提とした生産能力削減が完了して
いる。品質や流通の制約から輸入は限られる一方で、大手各社は一定の輸出基盤を構築し調整弁として
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翻訳及び翻案等を含みます)し、又は使用する目的で保管することは禁止されています。
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活用している。新規参入も考えにくい。需給のバランスがとれた状態は続きそうで、業界構造は安定し
ている。大手 3 社で販売シェア 8 割程度を押さえる寡占状態にあり、下位の会社も含めシェアの変動は
わずかだ。川下である生コン業界は中小企業が多くを占め、セメント業界の価格支配力を制約している
点には注意が必要だが、競争状況は比較的緩やかといえよう。
(3)顧客の継続性・安定性
メーカーが製造したセメントは一部の例外を除き、特約販売店かメーカー直系の生コン業者に販売さ
れる。その先も生コン販売の協同組合や販売店が介在し、流通構造は多層的かつ硬直的だ。生コンは工
場で練り混ぜを開始してから 90 分以内に建設現場に到着しなければならないという地理的制約もある。
結果としてセメントメーカーのシェア変動は小さい。ただ、セメント、生コンとも製品は規格化されて
おり、品質面での差別化も難しい。最終ユーザーである建設業者からみると、特定の会社と固定的に取
引をする必要性は低く、顧客の継続性・安定性が高いとは言えない。
(4)設備・在庫投資サイクル
製造設備の中心となるキルン(セメント焼成用の窯)の新設には数百億円が必要で、継続的な維持・
更新投資も欠かせず、投資規模は大きい。ただ、セメントの製造方法自体は成熟しており、物理的な耐
用年数はかなり長い。維持・更新も含め、投資期間中に設備が陳腐化するリスクは小さい。設備投資サ
イクルは比較的長いと評価している。
(5)保護・規制、公共性
信用力に大きく影響するような保護や規制はない。
(6)コスト構造
典型的な装置産業で減価償却費や修繕費など固定費の負担が重い。コスト構造は柔軟性に欠ける。
セメント産業特有の要因として、リサイクル原燃料の活用がある。製鉄所で発生する高炉スラグ、火
力発電所で発生する石炭灰を中心に、汚泥や建設発生土、木くず、廃プラスチックなどの廃棄物・副産
物がセメント製造の原料や燃料の一部として活用されている。原燃料コストの削減につながるだけでな
く、受取処理手数料がセメントメーカーの採算を下支えしている。ただしリサイクル原燃料の利用は、
生産効率悪化や設備損傷につながることもあり、無制限に増やせるわけではない。
2.個別企業リスクの見方
産業リスクが対象企業の属する業界の標準的なリスクを示すのに対し、以下のような個別企業リスク
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により各社の事業リスクは相違する。
多角化事業を手掛けている場合、収益源の分散効果が見出せたり、利益・キャッシュフローを下支え
したりするようであれば、プラス評価につながる。
(1)展開地域の分散
セメントは 1kg 当たり 10 円程度と単価が安い。タンカーやトラックなどによる大量輸送は可能だが、
運賃負担力は弱く、基本的には地産地消の製品だ。国内で見ても一定の地域ごとに市場が形成され、需
要動向や競合状況が異なり、収益環境は変化する。展開地域の分散が図られていれば、収益の安定性向
上につながる。さらに、海外で成長が期待できる地域に展開できていれば、収益の獲得機会が広がる。
(2)営業基盤
営業基盤が強ければ、生産・販売の安定性向上に資する。スケールメリットが働く装置産業なので、
能力に見合う販売量を確保し高い稼働率を維持できれば、コスト競争力強化にもつながる。
(3)コスト競争力
製品の差別化が難しいため、コスト競争力の差が収益力・キャッシュフロー創出力の強さや安定性に
直結する。製造方法が成熟している地産地消の装置産業という特性から、工場単位での規模と立地が評
価の中心になる。加えてリサイクル原燃料の活用度合いや処理手数料の多寡もコスト競争力を左右する。
II.財務リスクの評価
財務リスクの分析では、財務データといった定量要因に加えて、財務運営方針や流動性リスクなども
評価している。セメント業界では、事業特性から以下のような財務指標を重視している。
(1)収益力
ROA(総資産事業利益率)
、EBITDA(利子・税金支払い前、償却前利益)/総資産平均
装置産業であるため、投下資本が効率的に回収できているか否かを判断する。利益ベースの資産効率
として ROA、キャッシュフローベースの資産効率として EBITDA/総資産平均を重視している。
(2)規模・投資余力
EBITDA、自己資本
大規模な装置産業であるため維持・更新投資が不可欠なほか、多角化や海外展開など将来に向けた戦
略投資を継続して行えるだけの投資余力を確保することが、利益・キャッシュフローの維持、成長に欠
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かせない。投資余力を測る指標としてまずは、運転資本増減や金利などの影響を除いた基礎的なキャッ
シュフロー創出力として EBITDA を重視する。加えて、キャッシュフローの水準を超える大型投資を、
財務リスクを高めることなく適時に実施できるかどうか、自己資本の厚みも重視している。
(3)債務償還年数
純有利子負債 EBITDA 倍率、純有利子負債営業 CF 倍率
投資規模が大きいため、一定の負債調達は避けられない。有利子負債とキャッシュフローのバランス
である債務償還年数は、負債の負担感を評価するうえで重要な指標だ。キャッシュフローは EBITDA
を主に使うが、有利子負債の返済原資となる営業キャッシュフローにも目を配る。
(4)財務構成
自己資本比率、ネット D/E レシオ(純有利子負債の自己資本に対する倍率)
投資規模が大きいことに加え、多角化や海外展開も視野に入れると、事業リスクに対するバッファー
の評価は重要だ。大規模戦略投資に必要な資金調達余力も評価する必要がある。ネット D/E レシオを
重視しており、自己資本比率にも目を配る。
III.セメント業界の格付
発行体格付
個別企業リスク
展開地域の分散
営業基盤
コスト競争力
財務リスク
指標
重要度
◎
◎
◎
収益力
規模・投資余力
債務償還年数
財務構成
ROA
EBITDA/総資産平均
EBITDA
自己資本
純有利子負債EBITDA倍率
純有利子負債営業CF倍率
自己資本比率
ネットD/Eレシオ
重要度
○
○
◎
◎
◎
○
○
◎
産業リスク 中程度
注) 重要度は、◎極めて重視 ○重視 △比較的重視
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*これまで公表した同種の格付方法は、本稿に代替されます。
R&I が格付対象の評価に用いる格付付与方針及び格付方法(以下「格付付与方針等」と総称します)は、R&I が独自の分析、研究等に基づいて作成し
た R&I の意見にすぎず、R&I は、格付付与方針等の正確性、適時性、網羅性、完全性、商品性、及び特定目的への適合性その他一切の事項について、明
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