百貨店 - 格付投資情報センター

業種別格付方法
公表日:2016 年 5 月 27 日
百貨店
この格付方法は、日本百貨店協会加盟店など、原則として、対面での接客サービスを主な販売手法に
採用している小売企業の格付に適用する。大手百貨店のように、カードやショッピングセンター運営な
どの事業を幅広く展開している企業の格付には、百貨店以外の多角化事業の評価も加味している。多数
の商業テナントを集める商業施設運営会社は、収益がテナントの売り上げに連動する度合いが高く、百
貨店との類似性も高いため、評価にあたっては本格付方法を適用している。
I.事業リスクの評価
1.産業リスクの見方
一般的に、百貨店は多層階でまとまった面積を必要とするため、国内では、大都市の商業集積地に好
立地の出店場所を見つけることが難しい。百貨店業態による新規出店で、既存商圏内の競合がさらに激
化するリスクは限定的だ。ただ、駅ビルやショッピングセンター(SC)など他業態店舗の出店やインタ
ーネット販売の浸透により、競合範囲は拡大している。
取扱商品の多くは委託仕入れや消化仕入れで、百貨店の在庫リスクは小さい。店舗投資も長期間かけ
て回収していくことが可能である。一方、不要不急の商品構成比が高く、売り上げは景気や資産価格の
変動に左右されやすい。経済環境が悪化する局面では、小売業の中で最も大きな影響を受ける。人件費
や賃借料など固定費の負担が重く、収支構造の柔軟性にも欠ける。店舗競争力を維持できていれば、安
定した利益を確保できるが、いったん衰えると赤字体質に陥りやすく、その立て直しは容易ではない。
以上を総合的に勘案し、百貨店の産業リスクは比較的大きいと判断している。
(1)市場規模、市場成長性、市場のボラティリティー
2015 年(1~12 月)における日本百貨店協会加盟店の総売上高は 6 兆 1743 億円。人口が減少傾向に
あるうえに、主力商品で売上構成比が高い衣料品の競合も激しい。中長期的にみて、市場規模の縮小は
避けられないと予想される。
百貨店は、衣料品や雑貨など、ファッション性が高く、比較的高額な商品を扱うことから、所得の増
減だけでなく、株価や不動産価格など資産価格の変動の影響を受けやすい。百貨店市場のボラティリテ
ィーは小売業の中では大きい。
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(2)業界構造(競争状況)
競争状況はやや厳しい。百貨店は、贅沢品のような高額品など不要不急の要素が強い商品を、接客サ
ービスという付加価値をつけて販売するのが特徴だ。所得水準の高い顧客のニーズを満たす受け皿とし
て機能しており、富裕層や中高年層といった固定客を抱えている。もっとも、近年、インターネット販
売を含めた他業態の店舗が増え、商品の種類や購買チャネルが多様化しており、消費者も買い物をする
際に利用する店舗を使い分けるようになっている。一等地に立地する百貨店は、その地域の象徴的な位
置付けは変わらないものの、以前に比べると競合範囲は拡大しており、エリア内での存在感は弱まって
いる。
(3)顧客の継続性・安定性
顧客の継続性・安定性はやや低い。顧客がどの百貨店を選ぶかは、ブランド力や、利便性、店舗の雰
囲気、親の代からのなじみといった要素が決め手になる。それだけに、行きつけの百貨店ができると、
買い上げ金額による割引やポイントサービスなどの優待・特典で囲い込まれて、同じところで買い物を
するようになることが多い。とはいえ、他業態を含め競合範囲が拡大している状況下で、以前よりは顧
客の流動性は高まっている。百貨店全体でみて、顧客の定着度も徐々に低下している。
(4)設備・在庫投資サイクル
旗艦店クラスの新規出店や、大型の増床・改装には数百億円規模の資金が必要になるが、立地する場
所は駅前の一等地など、商業集積地として地位が揺らぎそうにないところであり、投資回収に長期間か
かっても許容できる。一方、売り場改装のように継続的に発生する更新投資は一般に大きな負担になら
ない。
百貨店の場合、仕入れの形態として、売れない商品は取引先が引き取ることになっている委託仕入れ
や消化仕入れが多い。店頭在庫の大部分は所有権がないため、百貨店の在庫負担は軽い。
(5)保護・規制、公共性
保護・規制、公共性は百貨店の産業リスクに中立だ。需要動向や必要店舗規模からみて、百貨店が大
型店を継続して出店することは考えにくく、出店に関する規制変更があっても、直接的な影響は軽微に
とどまる。ただ、規制変更が SC など他の小売業態の出店計画の見直しにつながる場合には、競合環境
の変化という形で百貨店の事業運営に影響が出てくる可能性がある。
(6)コスト構造
百貨店は、消化仕入れなど取引先に在庫リスクを負わせた仕入れ形態の比率が高く、一般に営業(売
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上)総利益率は 20%台にとどまる。一方で、人件費や店舗の地代家賃、減価償却費など、固定費負担が
重く柔軟性に欠けるという性質がある。競合店舗や消費者ニーズの多様化への対応策として、人気のあ
るテナントの導入や食品売り場の強化など事業戦略の選択肢が広がっているが、こういった分野は総じ
て利益率が低いことから、コスト構造の継続的な見直しが欠かせない。
2.個別企業リスクの見方
産業リスクが対象企業の属する業界の標準的なリスクを示すのに対し、以下のような個別企業リスク
により各社の事業リスクは相違する。
(1)主力店舗の営業基盤と競争力
百貨店の収益は、主力店舗である旗艦店や大型店が支える構造になっている。有力な商業地域に、競
争力が高い地域一番店やそれに次ぐ規模の店舗を複数展開していれば、安定した収益力を維持すること
ができる。他社との差別化という点からみても、競争力のある店舗ほど、取引先から売れ行きの良い商
品を揃え、より優秀な販売員を重点的に配置してもらえるのが一般的な傾向であり、商圏内でさらに優
位に競争が進めやすい。
(2)全店舗のポートフォリオ
人口動態や富裕層の数などからみて、都市部に関しては、安定した需要が見込める。一方、地方は、
都市部よりも少子高齢化が進んでいるうえ、高額所得者の絶対数も限られている。競合環境も都市部以
上に厳しい。
中長期的にみて、都市部や地方といった立地別の店舗構成比の違いが、各社間の収益力の差として表
れてくる可能性が高い。都市部に競争力のある主力店舗を持っていても、全店でみて、地方店の割合が
高いようだと、将来的に全体の収益の安定性が揺らぐような事態が出てこよう。
(3)多角化事業の競争力
百貨店事業は、人口動態や競合動向からみて、長期的に成長が見込みにくく、景気や資産価格の変動
で、売り上げが左右されやすい面がある。こうした課題を抱えながらも、グループ全体で一定の収益を
確保していくには、多角化事業の育成や強化が欠かせない。多角化事業において、競争力を高め、所属
業界での地位を向上させることで、一定の利益貢献が見込めるようになれば、安定したグループ収益を
維持することが可能になる。
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(4)商品提案力
小売業界では、業態間の垣根が低くなり、専門店やそうしたテナントを揃えた駅ビルや商業ビル、ア
パレルの直営店など、百貨店と類似した品揃えをする競合先が増えている。そのため、商品やサービス
の独自性や目新しさを追求したり、店舗としての統一感を出したりしていくことが戦略上重要になる。
立地やターゲットとする顧客層にマッチした商品・サービスを投入できる能力があるかも重要なポイン
トである。
(5)固定費負担の余裕度
景気や競合環境の悪化で百貨店事業の収益が圧迫された場合でも一定の収益性を維持していくには、
多角化事業の競争力強化と並んで、固定費負担の軽減に向けた取り組みも欠かせない。外部テナントを
導入しつつ、店舗運営コストを下げる戦略を採る企業がある一方、自主編集の売り場を強化し、利益率
の高い商品を、接客など手間を掛けながら販売し、利益確保を目指す企業もある。いずれの戦略におい
ても、売上総利益と販売管理費のバランスをうまく取りながら、コストをコントロールできているかと
いう点が重要と考える。
II.財務リスクの評価
財務リスクの分析では、財務データといった定量要因に加えて、財務運営方針や流動性リスクなども
評価している。百貨店業界では、事業特性から以下のような財務指標を重視している。なお、百貨店の
店舗には賃借物件が比較的多いことから、オペレーティングリース(不動産賃借含む)などオフバラン
ス処理されている部分について資産を負債で調達・購入したものとして、総資産、有利子負債、EBITDA
(利子・税金支払い前、償却前利益)を調整し、それに基づく指標をより重視している。
(1)収益力
EBITDA/総資産平均、営業収益(売上高)営業利益率
店舗投資など投下した資産から効率よく利益・キャッシュフローを確保しているかという観点から、
EBITDA/総資産平均を重要と考えている。また、資産効率の観点に加え、百貨店としての収益力の実
力や固定費負担の度合いを把握するため、営業収益(売上高)に対する営業利益の割合と併せて評価し
ている。
(2)規模・投資余力
EBITDA、自己資本
出店投資や増床、改装投資など必要な投資をタイミングよく実施していけるだけの投資余力や債務を
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償還する原資をどの程度確保できているか見る必要があり、その評価指標として、EBITDA を重視して
いる。
自己資本がどれだけあるかも確認している。自己資本が厚ければ、大型投資の際の外部からの資金調
達もスムーズに行くし、資産の毀損リスクが顕在化した場合などにも耐えられる。
(3)債務償還年数
純有利子負債 EBITDA 倍率
百貨店の場合、出店余地が限られることから、他の小売業のように継続的な新規出店によって、事業
基盤を拡充するケースは少ないが、競合企業の攻勢や事業環境の変化に対応していくためには、改装投
資の実施が欠かせない。増床のような大型投資を実施する場合、リース等を含めて相当程度の債務負担
を抱えることもある。そうした債務を返済していくのにどの程度の期間が必要かは、将来の投資余力を
確認するうえでも重要である。
(4)財務構成
自己資本比率、ネット D/E レシオ(純有利子負債の自己資本に対する倍率)
競争力に劣る店舗の整理が遅れたり、不採算の事業を続けたりしているようでは、いずれ新規出店や
増床・改装などの投資余力がなくなり、競争力低下に拍車がかかることになりかねない。したがって、
店舗閉鎖や事業の整理などに伴う損失に備えて、一定の財務耐久力を確保していることが必要だ。
III.百貨店業界の格付
発行体格付
個別企業リスク
主力店舗の営業基盤と競争力
全店舗のポートフォリオ
多角化事業の競争力
商品提案力
固定費負担の余裕度
財務リスク
指標
収益力
EBITDA/総資産平均
営業収益(売上高)営業利益率
規模・投資余力
EBITDA
自己資本
債務償還年数
純有利子負債EBITDA倍率
財務構成
自己資本比率
ネットD/Eレシオ
(※)リースは適宜調整
重要度
◎
◎
○
○
○
重要度
◎
○
◎
○
◎
○
○
産業リスク 比較的大きい
注) 重要度は、◎極めて重視 ○重視 △比較的重視
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*これまで公表した同種の格付方法は、本稿に代替されます。
R&I が格付対象の評価に用いる格付付与方針及び格付方法(以下「格付付与方針等」と総称します)は、R&I が独自の分析、研究等に基づいて作成し
た R&I の意見にすぎず、R&I は、格付付与方針等の正確性、適時性、網羅性、完全性、商品性、及び特定目的への適合性その他一切の事項について、明
示・黙示を問わず、何ら表明又は保証をするものではありません。また、R&I は、格付付与方針等の開示によって、いずれかの者の投資判断や財務等に
関する助言を行い、又は投資の是非等の推奨をするものではありません。R&I は、格付付与方針等の内容、使用等に関して使用者その他の第三者に発生
する損害等につき、請求原因の如何や R&I の帰責性を問わず、何ら責任を負いません。格付付与方針等に関する一切の権利・利益(特許権、著作権そ
の他の知的財産権及びノウハウを含みます)は、R&I に帰属します。R&I の事前の書面による許諾無く、格付付与方針等の全部又は一部を自己使用の目
的を超えて使用(複製、改変、送信、頒布、譲渡、貸与、翻訳及び翻案等を含みます)し、又は使用する目的で保管することは禁止されています。
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