The TRC News, 201605-03 (May 2016) LC-MS/MS 法を用いた抗体医薬品の定量 -マウス血清中ヒト型抗ヒト TNFα モノクローナル抗体の分析法開発の紹介- 櫻井 周 バイオメディカル分析研究部 要 旨 抗体医薬品の LC-MS/MS 分析では、抗体医薬品に特異的なアミノ酸配列を選定し、内因性の IgG と識別する必要がある。TRC が保有する特性解析の技術と生体試料中薬物濃度測定の技術を融合すること で、抗 HER2 ヒト化モノクローナル抗体に続き、ヒト型抗ヒト TNFαモノクローナル抗体の分析法を開発 したので紹介する。 った。特異的な配列を決定するためにはマウスに内在 1. はじめに する IgG との比較が必要となる。そこで,当該医薬品 のトリプシン酵素消化物を質量分析計で測定し、 医薬品市場は低分子医薬品からバイオ医薬品へのパラ MASCOT 検索を用いてアミノ酸配列を検索した。 次に ダイムシフトが急速に進み、市場規模は抗体医薬品を アミノ酸配列のシーケンスデータベースを用いてマウ 中心に拡大が見込まれる。このような環境の変化を鑑 ス IgG との配列を比較し、抗体医薬品に特異的な配列 み、我々は 2013 年に汎用性の高い LC-MS/MS を用い を推定した後、定量プロテオミクス用ソフトウェア た抗体医薬品の分析法開発に着手した。マウス血清中 「Skyline」を用いて、分子量やイオン強度等の観点か の抗 HER2 ヒト化モノクローナル抗体分析では、採取 ら適切な MRM トランジションを設定した(図 1) 。サ した血清から抗体医薬品に特異的なアミノ酸配列をモ ンプルの前処理は、マウス血清からプロテイン G との ニターした定量値が ELISA(従来法)で得られた結果 アフィニティを利用して抗体医薬品を含む免疫グロブ と 類似 した プロ ファイ ルを 示す こと を確 認し た リン G(IgG)を単離し、還元・アルキル化した後、 (http://www.toray-research.co.jp/new_bunseki/pdf/TRC12 トリプシン消化を行った。 0(41-42).pdf 参照) 。 LC-MS/MS 法は抗体作製を必要としないことから短 3. 直線性及び再現性の確認 期間での分析法構築を可能とし、抗体医薬品の開発期 間の短縮に寄与するものとして期待される。そこで、 マウス血清に標準溶液を添加して 0.10~10.0 µg/mL の これまでに蓄積してきたノウハウを生かし、ヒト型抗 検量線用標準試料を分析し、絶対検量線法によって直 ヒト TNFα モノクローナル抗体についても定量法を構 線性を確認した結果、濃度とピーク面積の間に良好な 築したので紹介する。 直線関係が認められた(相関係数:0.99) 。3 濃度水準 の QCサンプル (LQC: 0.200 µg/mL、 MQC: 1.00 µg/mL、 HQC: 8.00 µg/mL)を調製し、各濃度 n = 5 で分析した 2. モニターイオンの選定と前処理 精度 (%CV) 結果、 真度 (%Nominal) は 102.0%~115.0%、 抗体医薬品の定量は、抗体医薬品に特異的な配列(ペ は 1.4%~6.4%であり、良好な再現性を確認した。 プチド断片)を決定し、MS/MS で選択的に検出して行 1 The TRC News, 201605-03 (May 2016) 強度 (10×3) 300 0 1400 m/z 図 1 Skyline によって作成された Library Match 4. まとめ マウス血清中ヒト型抗ヒト TNFαモノクローナル抗 体の分析法を開発した。当該医薬品のモニターイオン はソフトウェア(Skyline)を用いることで簡便かつ効 率的に設定することができた。マウス血清中に内在す る IgG と識別し、 良好な直線性及び再現性を確認した。 引用文献 1) Highly Sensitive and Robust Workflow for Therapeutic Monoclonal Antibody Analysis from Complex Matrices, Thermo Fisher Scientific. 2) 新生化学実験講座 1 タンパク質、東京化学同人. 櫻井 周(さくらい あまね) バイオメディカル分析研究部 バイオメディカル分析第 1 分析室 主任研究員 趣味:料理 2
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