報道発表資料 平成 28 年 6 月 3 日( 1 / 3 ページ) グリーンケミストリー(環境に優しい合成化学)を実現する 新しいナノ材料「微細ナノ粒子懸濁液」を開発 大阪府立大学(学長:辻 洋)大学院工学研究科の徳留靖明准教授、高橋雅英教授と、フランス、ポル トガル、英国の共同研究者らから成る研究チームは、触媒・物質吸着・イオン交換・生体親和という複 数の特性を併せ持つ、微細ナノ粒子懸濁液(※1)を安価かつ簡便に合成する新たな手法を開発しまし た。この手法を用いて得られる結晶は自然界にも存在するものなので、水を溶媒に用いた広範な応用分 野で利用可能で、環境に優しい合成化学を意味する「グリーンケミストリー」への貢献が期待されます。 なお、本研究成果は 2016 年 4 月 28 日に、アメリカ科学雑誌「ACS Nano」のオンライン速報版で公開 されました。 (※1)懸濁液=液体中に粒子が分散しているもの。今回の場合、粒子が極めて微細であるため溶液 は濁らず透明になる。 ■研究成果のポイント■ 従来法とは異なる合成スキームを開発し、微細ナノ粒子懸濁液 の合成に成功 安価な原料から、室温・大気環境下、水溶液プロセスにより、 極めて簡単に(混合するだけで)合成可能 得られる結晶は、層状複水酸化物(LDH)と呼ばれる自然界 にも存在する環境材料であり、生体親和性・触媒特性・イオン 交換性・物質吸着性をはじめとした優れた機能性を示すととも にグリーンケミストリーに大きく貢献 合成したナノ粒子の懸濁液。10 nm(1 億分 の 1 メートル)以下の微細ナノ粒子が高濃度に 分散した液体が得られる。粉末状固体粒子と イオン・分子の中間的な特性を示す。 層状複水酸化物(LDH)は自然界にも存在する環境材料であり、グリーンケミストリーを可能にする機 能性材料として注目されています。一方で、天然 LDH および合成 LDH は共にマイクロメートルサイズの 大きな結晶の凝集体となりやすく、 大きな比表面積と高い活性を持つナノ LDH 粒子の作製は困難でした。 今回、本研究成果で開発した手法により、微細ナノ LDH 粒子(3~10 nm)の水性懸濁液の合成が可能と なりました。 またこの手法は、室温・大気環境下で、汎用的な原料を溶解した溶液を 24 時間放置するだけでナノ LDH 粒子懸濁液が合成でき、煩雑なプロセスを伴わないのが大きな特徴です。かつ、材料合成からその利用 までを一貫して水性溶液中でおこなうことができるため、低環境負荷のグリーンケミストリーに大きく 貢献できることが期待されます。 報道発表資料 平成 28 年 6 月 3 日( 2 / 3 ページ) 背景 ナノ触媒は、反応物と接触可能な大きな表面積を持ち、また、反応後の溶媒からの分離が簡単である ため「均一系触媒」と「不均一系触媒」の利点を併せ持つ触媒として注目されています。特に、ユビキ タス元素から合成可能であり、グリーンケミストリーの実現を可能とするようなナノ材料群の創製が求 められています。層状複水酸化物(LDH)は層間にアニオン(陰イオン)を取り込んだ層状化合物であり、 その結晶表面および層内空間は、触媒特性・物質吸着性・イオン交換特性といった機能性を有していま す。したがって、LDH 結晶のナノ微細化により新たなグリーンナノ触媒の開発が期待されます。一方で、 LDH 結晶は容易に粗大な結晶へと成長(凝集)するため、ナノメートルサイズの LDH 粒子を合成しそれを 安定に回収することは困難であるとされてきました。本手法ではこの問題点も解決し、凝集しないナノ LDH を高濃度に得る手法を開発しました。 研究手法と成果 微細ナノ結晶を合成するには高濃度の原料成分溶液を用いて反応をおこなうことが求められます。し かし、このような条件では粒子が凝集・ゲル化しやすく、分散ナノ粒子懸濁液を得るのは困難でした。 本研究では、独自の手法で作製したナノ結晶性 LDH ゲル体に対して pH 刺激を与えることで、ゲルが自発 的に解こうし LDH ナノ結晶を安定・高濃度に含む水性懸濁液を得ることに成功しました(図 1) 。得られ たナノ結晶は Ni(II)と Al(III)を含む LDH であり、10 nm 以下に鋭いサイズ分布を持ちます(図 2)。ま た、その粒子サイズはナノメートル 1 ナノメートル刻みで制御することができます。 図 2.動的光散乱(DLS)法により測定した LDH 図 1. 適切な条件に調整した出発原料を密閉放置 ナノ粒子水性懸濁液の粒度分布.単分散結晶粒 すると 24 時間以内にナノ LDH 水性懸濁液が形成 子が形成しており凝集体はみられない. 今回の研究で合成に成功したナノ LDH 水性懸濁液は、クネーフェナーゲル縮合(塩基触媒反応)およ びオレフィンのエポド化反応(酸化反応)に対する高い触媒活性、反応選択性を示すことが明らかにな りました。これらの反応の一部は水中で進行し、環境負荷の高い有機溶媒を利用する必要がありません。 また、結晶の粒子サイズが小さいためナノ触媒としての特性を示します。均一系触媒である水酸化ナト リウム(NaOH)と今回作製した LDH 材料のそれぞれを、pH 指示薬であるフェノールフタレインと共に透 析チューブに入れイオン交換水中に浸した場合の時間変化を示したのが(図3)です。NaOH はイオンと して透析チューブ外へ拡散するため指示薬の色が消えますが、LDH ナノ粒子はその塩基性表面によりフェ ノールフタレインを変色させるのみならず、透析チューブ内に留まり続けることが可能です。 報道発表資料 平成 28 年 6 月 3 日( 3 / 3 ページ) この結果は、得られた材料が「均一系触媒」のような分散(混和)性により反応分子との効果的な 接触が可能であると同時に、 「不均一系触媒」のように溶液から分離することができるナノ触媒であ ることを端的に示しています。 図 3.ナノ触媒特性を示すためのデモンストレーション 今後の期待 LDH の機能性は結晶を構成する金属元素や層間に取り込んだアニオンに大きく依存します。本手法 ではこれら全てを自在に変化させ、多様な機能性を持ったナノ粒子を作ることが期待できます。ま た、触媒のみならず吸着やイオン交換等の多様な応用に利用可能であり、とりわけ水溶液を反応場 にしたグリーンケミストリー(例えば、水質浄化や二酸化炭素の吸着等)への応用展開が期待され ます。 研究助成資金等 本研究は科学研究補助金、日仏交流促進事業(SAKURA プログラム) 、イオン工学振興財団からの支援を 受けて行われました。 発表雑誌 論文名:Layered Double Hydroxide Nanoclusters: Aqueous, Concentrated, Stable, and Catalytically Active Colloids toward Green Chemistry 著者:徳留靖明 1、森本剛司 1、樽谷直紀 1、Pedro D. Vaz2,3、Carla D. Nunes2、Vanessa Prevot4,5、Gavin B. G. Stenning3、高橋雅英 1 ( 1 大 阪 府 立 大学 大 学 院 工 学 研 究 科 、 2Universidade de Lisboa,Portugal 、 3ISIS Facility, Rutherford Appleton Laboratory, United Kingdom、4Université Clermont Auvergne Université Blaise Pascal, France、5CNRS, France) 掲載誌:ACS Nano doi: 10.1021/acsnano.6b02110 公表日時: 2016 年 4 月 28 日(火)(web 速報版)
© Copyright 2024 ExpyDoc