中大理工の“研究力”

中大理工の
“研究力”
中央大学理工学部には、理工学の広範な領域をカバーする 100 以上の研究室があり、教授陣は日夜、研究・教育活動を行っています。
ここでは各分野の最先端を走る研究内容を3つだけご紹介します。
防災
有川 太 郎 教 授
都市環境学科
海岸 ・ 港湾研究室
(上)キャンパス内にある、波の挙動について
実験できる設備。
(下)流体計算と構造計算の連成解析による
防波堤の滑動の様子。
“The coastal disaster prevention” is the never-ending learning field.
現地を知ることから始まる
「沿岸 防 災 学 」は、終わりのない 学 問 分 野
2011 年の東日本大震災を経験し、防災や街づくりに対する日本人の意識が高
まりました。また、東日本大震災は、日本国内の防災のあり方、考え方をがらり
と一変させました。大きな地震、さらにそれに伴う津波の被害は甚大でした。壊
滅的な被害を受けた地域に赴き被害状況を調べ、沿岸部の「防護施設」の破壊メ
カニズムの解明に取り組んできました。
私はもともと、沿岸の波浪変形や防護施設の設計をテーマとしていましたが、
震災以降の状況を鑑み「海岸・港湾研究室」では、地震・津波や温暖化などの気
候変動が沿岸部に対して与える影響とそのメカニズムを解明し、その被害を防止・
軽減する方法「沿岸防災学」を、工学的な視点から研究しています。
研究の大きな目的の一つは、
「沿岸部における街づくりのあり方を体系化するこ
と」です。安全性を高め防災・減災を図るとともに、地域の自然を取り戻し、人
と海との密接な関係を維持していくことは大きな課題です。もちろんそこには、
その時代の社会状況や地域の経済的制約との兼ね合いがあります。
「沿岸防災学」では、海岸工学だけではなく、
経済学、
社会学、
行動学、
心理学など、
様々な要素が絡んでおり、分野横断的な学問となります。それだけに、それぞれ
の専門家との連携も必須です。
環境や時代が変われば、人々の価値観も変化すると思われます。その意味では、
「沿岸防災学」は、終わりのない学問なのかもしれません。ただし、どのような時
代においても、自然災害から、人々の命を守るということは共通していると思い
ます。そのような観点から学問として成熟させていきたいと考えています。
「課題を追究し、解決策を考えることで社会に貢献したい」
、そう考える方ならば、
ぜひ一緒に取り組んでみませんか。
各 学 科 の 研 究 領 域 の 内 訳については1 0 ・ 1 1 ペ ージ の「 学 科 一 覧 」をご 覧ください 。
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Faculty of Science and Engineering 2017 理 工 学 部
(左)人工血液「人工酸素運搬体“HemoAct™”」。その色は血液そのもの。
(右)
(ヘモグロビン - アルブミン)クラスターの分子モデル。
Practical use of “artificial blood” for emergencies,
disasters, and saving pet animals.
災 害 時 、緊 急時、そしてペットの 命を救う
「 人 工 血 液 」の実用化へ
体の血液の 40%を失うと生命に関わる ──。日本は世界最高レベルの輸血・献血システムを
備えていますが、それでも10 数年後には献血者人口の減少により、深刻な血液不足の危機が訪
れると推計されています。
大規模災害時の輸血液の大量需要に加え、慢性的な輸血液不足に対する懸念から、いつでも
どこでも使用できる人工血液の常備が危機管理の重要施策なのです。
2013 年、私たちはヘモグロビンに血清タンパク質であるアルブミンを結合させた「(ヘモグロ
ビン-アルブミン)クラスター」を初めて合成し、それが生理条件下で酸素を安定に輸送できるこ
とを実証しました。人工血液の実用化に向けた大きな成果でした。
人工血液は学生時代から約20年越しの研究テーマ。
「ヘモグロビンとアルブミンという血液の
2 大成分を利用すれば」というアイデアが、独創的で合理的な発明に繋がりました。シンプルな
発想ですが、なぜかそれまで誰もやったことがなかったんです。
すでに動物実験を経て、犬などのペット用には 5年後、人間用には10年後の実用化をめざし
て研究を加速しています。ここからは、医学、薬学、獣医学チームとの連携です。
数年前、実は人工血液の研究を断念しようとも考えていました。長年研究に携わってきて、実
用化の壁の高さを嫌と言うほど知っていたからです。それでも、もう一度だけ──。小さい頃か
ら粘り強い性格でしたが、どうも私は諦めるタイミングが人より遅いようです。
ナノ
小松 晃之 教授
応用化学科
生命分子化学研究室
まずは大きな目標を決めて、それに向かって邁進することが大切でしょう。将来やりたいこと、
就きたい職業、目標を定めるのに、早すぎることなんてありません。
宇宙
國井 康晴 教授
電気電子情報通信工学科
知能遠隔制御システム研究室
Approach the boundless universe from the field of the electrical,
electronic, and communication engineering.
電気電子情報通信工学の分野から果てしない宇宙に迫る
「ロボット」というと、機械的なイメージが強い方が多いのではないでしょうか。私はこの分
野で離れたところから人が操縦する「遠隔制御技術(テレオペレーション)」という方向から、
関連する技術を研究しています。この技術を用いて惑星探査の技術検討を JAXA(宇宙航空
研究開発機構)と共同で行っています。この研究の大きな目標は、生活圏の維持・保全・拡大
への貢献であり、そのための人の「時間的・感覚的・物理的限界を補う技術」の確立です。宇
宙探査もその一つの例だと考えています。
遠隔制御された移動ロボット「ローバ」が活躍するのは、地図がなく謎に包まれた未知の環
境、たとえば地球上の火山、海底、被災地などから宇宙空間の惑星表面まで、その多くは人間
が生きていけない場所です。あらゆる障害が待ち受ける未知環境では、センサや計測系に高
い精度はそれほど期待できません。高精度を求めても必ず誤差は出ますし、想定外の事態は
必ず発生します。目的を達成するためには、むしろ「精度が高くなくても動ける」という発想
が大切です。誤差をどこまで許容しようか、という逆転の発想もときには必要なのです。
自分の周囲の環境を計測し、得た情報をもとに自律的に行動できる知能をつくりながら「主
役はあくまで操縦する人間」というのが研究の基本です。これは主体性の問題ですが、
「自分
がしたいことを、ロボットやローバを使って実現する」ということです。ここではロボットは、
あくまでも人にとっての道具であり、分身なのです。
これらは移動ロボットに関する技術であり、センサ情報処理、情報通信、人工知能、制御、
ソフトウェアなどの電気 ・ 電子・情報通信分野からのアプローチだからこそ、宇宙工学分野に
限らず、医療や自動車など他のさまざまな分野への展開も期待できます。みなさんも誰も行っ
たことのない未知の世界を、一足先に、ロボットの目を通してのぞいてみませんか。
(上)JAXA と共同で技術検討を行っている
ローバ。
(下)さまざまな分野への展開も可能な遠隔
制御技術の開発へ。
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