The TRC News, 201605-02 (May 2016) LC-MS/MS 法によるイオンペアフリー移動相を用いた核酸分析 -生体試料中オリゴヌクレオチド定量分析法の検討- 河野 憲史 バイオメディカル分析研究部 要 旨 オリゴヌクレオチドの LC-MS/MS 分析では、分離カラムへの弱い保持や金属配位の影響等様々な課 題がある。逆相分配ではイオンペア試薬を用いることが一般的であるが、イオンペアフリー(イオンペア試 薬を含まない)移動相を用いた血漿中オリゴ DNA 定量法を検討した結果、良好な直線性が確認されたので 紹介する。 1. はじめに 2. 検討結果 核酸医薬品とは,遺伝子とは異なりタンパク質をコー 測定対象化合物は癌原遺伝子である c-Myc の修飾アン ドしない合成オリゴヌクレオチドそのものが、DNA、 チセンス(AS c-Myc、分子量 4857)とした。分析法の RNA またはタンパク質を標的とし、直接作用すること 検討に際し、分離カラムを選定するため、異なるメー により機能を持つ医薬品の総称である。 カーの代表的な ODS カラムを 3 種準備した。また、 生体試料中のオリゴヌクレオチドの定量法として、 MRM トランジションは負イオン検出ターボイオンス LC-MS/MS は非常に有効なツールの 1 つである。オリ プレー法によって取得した MS スペクトルから設定し ゴヌクレオチドはその構造にリン酸基を有しているた た。イオンペアフリー移動相を用いた条件下で標準溶 め、分析法は以前の号で紹介した 1) ように移動相にア 液を測定し、得られたクロマトグラムを図 1 に示す。 ミン系のイオンペア試薬を用いた逆相分配によるもの が一般的である。しかしながら、イオンペア試薬が装 置に残留し、その後のイオンペアを用いない分析にお いて、ピーク形状の悪化、保持時間のズレ、感度低下 やバックグラウンドノイズの上昇等の症状を引き起こ すことがある。このためイオンペア試薬使用後は装置 メンテナンスが必要な場合が多く、MS ユーザーはそ の使用を敬遠することもある。 本稿では、イオンペアフリー(イオンペア試薬を含 まない)移動相による逆相カラムを用いた LC-MS/MS 図 1 各種 ODS カラムの比較検討(AS c-Myc) 分析についての検討事例を紹介する。 1 The TRC News, 201605-02 (May 2016) カラム C ではイオンペアフリーの条件で良好なピー クを得ることができた。そこで,カラム C を用いてヒ ト血漿中 AS c-Myc を分析(前処理:フェノール/クロ ロホルム抽出)した結果を、図 2 に示す。 図 2 ヒト血漿中 AS c-Myc 測定で得られたクロマト グラム及び検量線 血漿試料を前処理したサンプルにおいても、標準溶 液と同様に良好なピークを得ることができた。また、 50.0~5000 ng/mL の濃度とピーク面積の間に直線関係 が認められた。 3. まとめ イオンペアフリー移動相を用いた LC-MS/MS 分析に ついて紹介した。昨今、高極性化合物の保持に適した 分離カラムなども豊富にラインナップされている。分 離に適したカラムを選択することによって、イオンペ ア試薬を使用せずに分析することが可能となる。装置 の汚染を最小限に抑えることができれば、オリゴヌク レオチドの LC-MS/MS 法による分析は一層加速する ものと予想される。今後の課題として、高感度化とキ ャリーオーバー対策に注力する。 引用文献 1) 安田周平, The TRC News, No. 116, 41 (2012). 河野 憲史(かわの かずふみ) バイオメディカル分析研究部 バイオメディカル分析第 1 分析室 研究員 趣味:星空・プラネタリウム鑑賞 2
© Copyright 2024 ExpyDoc