5.2.2 社会と調和した情報基盤技術の構築

第 5 章 募集対象となる研究領域
○ 戦略目標「人間と機械の創造的協働を実現する知的情報処理技術の開発」(165 ページ)、「分野を超
えたビッグデータ利活用により新たな知識や洞察を得るための革新的な情報技術及びそれらを支える
数理的手法の創出・高度化・体系化」(168 ページ)の下の研究領域
5.2.2 社会と調和した情報基盤技術の構築
研究総括:安浦 寛人(九州大学 理事・副学長)
研究領域の概要
情報技術は、社会の神経系としてあらゆる社会活動の基盤であり、現実の社会において、価値創造や
問題解決をするための最も重要な手段となっています。新しい人工物システムは、各社会がこれまでに
構築してきた文化や規範と調和ある発展が可能であるとき、その社会に受容され、そのシステムによっ
て社会に変革(イノベーション)が生まれます。
本研究領域では、より良い社会の実現を目的とする情報基盤の要素技術の研究と、それらの技術を対
象とする社会と調和させるために必要な制度や運用体制、ビジネスモデルまでも含めた総合的な議論と
実践を行う場を提供します。
例えば、全世界的な気候変動への対応を目的とするような大規模な情報システムから、特定の地域(国
内外)の社会問題を解決するための情報技術まで、社会的に解決すべき新しい課題を研究者自らが設定し、
知的情報処理、計算機科学、センサー技術、ネットワーク技術、シミュレーション技術、ロボティクス、
知的インタフェースなどあらゆる情報技術分野の要素技術の基礎研究による課題解決の手段の提供とそ
れを社会に受容させるまでのシナリオの構築を、具体的な現場の実問題と取り組みながら進めていく形
でのフィールド型研究を実施します。
研究の推進方法としては、情報技術分野の研究者が自然科学、工学、生命科学、社会科学の研究者と
連携すること、または諸分野の研究者が情報技術分野に参入することを重視します。それにより、様々
な分野の研究者が相互に影響し合い、異分野横断・融合的な視点で問題解決に取り組むことで、社会と
調和した革新的な情報基盤技術を創出することを目指します。さらに、研究のみならず政策立案者や産
業界のメンバーとの交流の場を設定する等を通じ、情報技術による社会変革の牽引役となる将来の世界
レベルの若手研究リーダーの輩出を目指します。
募集・選考・研究領域運営にあたっての研究総括の方針
(1) 背景
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第 5 章 募集対象となる研究領域
近年、コンピュータや半導体の急速な進歩によって情報技術分野は飛躍的な発展を遂げており、行政、
金融、教育、通信、交通など社会基盤のシステム構築や、様々なサービスの高度化と効率化に大きく貢
献しています。これらの情報技術は歴史や文化、地域が異なる社会と調和しながら発展することで人々
に受け入れられ、私たちの生活の基盤(社会情報基盤)として必要不可欠なものとなっています。
しかしながら、科学技術が進展してきた現在においても、高齢化への対応(労働力人口の減少、社会保
障)、国際化/グローバル化への対応、地球環境問題(CO2、森林減少、生物多様性の維持)、エネルギー供
給、食料や水の供給、産業構造の変化への対応など様々な解決すべき社会的課題が山積しています。
(2) 提案募集する研究
このような状況を踏まえ、本研究領域では社会と調和した情報基盤技術の構築を目指し、情報技術に
より社会的課題の解決に挑む研究提案を募集します。現在の情報技術分野における科学的・技術的な貢
献はもちろんのこと、その研究成果が現在の社会問題に対し、どのように役立つのかという視点を含め
た提案を求めます。さきがけの提案書の「研究課題要旨」には、上記の 2 つの観点を説明し、
「研究構想」
の「5.研究の将来展望」ではどのような社会問題の解決に提案する研究が貢献するかを、できるだけ具
体的に記述してください。また、領域の概要でも述べたとおり、研究分野は知的情報処理、計算機科学、
センサー技術、ネットワーク技術、シミュレーション技術、ロボティクス、知的インターフェイスなど
あらゆる情報技術分野を対象としますが、情報技術分野の研究者からの研究提案だけでなく、自然科学、
工学、生命科学、社会科学などの諸分野の研究者が情報技術分野に参入し、学際的な視点で課題解決に
取り組むことも歓迎します。
以下に解決すべき課題例を挙げますが、これに限定されるものではありません。
(例 1) 国際化•グローバル化への対応
(例 2) 社会の高齢化への対応
(3) 採択後に研究領域でおこなう取組み
研究の推進にあたっては、研究者が自ら現場に入り込んで実社会の問題を認識し、基礎研究による課
題解決の手段の提供とそれを社会に受容させるまでのシナリオの構築を含めた研究に取り組んでいただ
きます。このため本研究領域では、課題解決の視点に留まらず、さらにその 1 歩先を見据えて、
「情報技
術をベースに、将来どのような社会を構築すべきか」ということを議論する場を設けます。また、研究
者の考える社会像と研究アプローチを経済界のリーダーや政策立案者へ向けてプレゼンする機会を設定
します。さらには、企業の若手研究者等との議論の場を用意し、さきがけ研究の成果を将来に社会実装
するための人的ネットワークの構築を促していきます。以上のような取り組みにより、さきがけ研究に
おける自身のシナリオをより深掘りできるよう、研究領域として支援していきます。
以下に社会的課題および解決のためのシナリオの例を挙げますが、これに限定されるものではありま
せん。例 1 では、
「地域固有の文化の良さを維持しつつ、国際的な多様性を受容する社会の構築」を将来
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第 5 章 募集対象となる研究領域
あるべき社会像と想定しています。その社会像を実現するためのサービスは「言語や生活習慣を維持し
つつ、異なる文化的背景を持つ人々とスムーズなコミュニケーションを実現するサービス」および「生
活習慣の違いに違和感を持たない教育」であり、さらにそのサービスを提供するためには「自動言語翻
訳」や「文化の違いを見える化する技術」および「異文化を受容する意識を醸成する教育プログラムと
そのための教材」等の技術や製品を開発する必要があるという例です。
(例 1) 国際化•グローバル化への対応
1. 目指すべき社会像
– 地域固有の文化の良さを維持しつつ、国際的な多様性を受容する社会の構築
2. 必要なサービス
– 言語や生活習慣を維持しつつ、異なる文化的背景を持つ人々とスムーズなコミュニケーション
を実現するサービス
– 生活習慣の違いに違和感を持たない教育(経験)
3. 必要な技術や製品
– 自動言語翻訳
– 文化の違いを見える化する技術
– 異文化を受容する意識を醸成する教育プログラムとそのための教材
4. 自身の研究の貢献
例 2 では、
「社会の高齢化への対応」という観点で「高齢者が QOL を維持しつつ、できるだけ社会への
負担を軽減しながら長寿を全うできる社会」という目指すべき社会像を設定した場合、
「予防医学による
現役年齢の延長」
「高齢者の社会貢献の場の実現」等のサービスが必要と考えます。そのためには、
「ビ
ッグデータ解析を用いた疫学的な研究とその成果の社会への迅速なフィードバック」、
「経験を活かした
各分野のアドバイザー制度 (ICT の活用によるクラウドソーシングサービスなど)」の技術が求められる
という例です。
(例 2) 社会の高齢化への対応
1. 目指すべき社会像
– 高齢者が QOL を維持しつつ、できるだけ社会への負担を軽減しながら長寿を全うできる社会
2. 必要なサービス
– 予防医学による現役年齢の延長
– 高齢者の社会貢献の場の実現
3. 必要な技術や製品
– ビッグデータ解析を用いた疫学的な研究とその成果の社会への迅速なフィードバック
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第 5 章 募集対象となる研究領域
– 経験を活かした各分野のアドバイザー制度(ICT の活用によるクラウドソーシングサービスな
ど)
4. 自分の研究の貢献
なお、本研究領域では、研究終了時点で研究成果の実用化や社会へのサービスの実装を目指している
わけではありません。さきがけ研究の中で社会シナリオを自ら考え、構築する力を養い、その社会の実
現を見据えながら基礎研究を推進する姿勢を身につけていくことを狙いとしています。研究を推進する
中で、問題が存在する現場へ自ら赴くフィールド型の研究経験や、さきがけの研究者領域内および政策
立案者や企業等の社会のステークホルダとの対話・議論等を通じて、個々の研究者が将来の情報技術分
野を担うリーダーとして成長することを強く期待しています。
※ 本研究領域の募集説明会を下記日程で開催いたします。ご関心のある多くの方々の参加をお待ちして
おります。
◆日時:6 月 16 日(木)14:30~15:45
◆場所:JST 東京本部別館 2 階 A-2 会議室
(東京都千代田区五番町7 K’s 五番町)
詳細については、http://www.senryaku.jst.go.jp/teian.html をご覧ください。
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