帰家からみるライフコースの変容 ―JGSS-2009LCS を用いた居住歴の縦断分析― 吉田俊文 1. 問題の所在と報告の目的 本報告の目的は、若年期における初離家後の親元への戻りに関して、時代的趨勢、階層差に着目して記述的分 析を行うことである。 山田(1999)のパラサイトシングル論以降、若年者の居住歴は社会的にも学術的にも大きな関心を集めてきた。 事実、政府公表集計を用いた親との同居に関する静態的分析(西 2015; 山田 1999) 、NFRJ や世帯動態調査を用 いた初離家に関する動態的分析(Fukuda 2009; 鈴木 2007)を通して多く実態が解明されている。その一方で、十 分に明らかにされていない部分が、 「帰家」である。鈴木(2007)による萌芽的分析はあるものの、いまだ若年期 の居住歴を完全に復元したかたちでの定量的分析はなされておらず、課題が残っているといえよう。 以上をふまえて、本報告では、(1) 帰家率の推定、(2) 帰家率の時代的趨勢、(3) 定位家族の経済資源と帰家の 関連、という 3 つの問いを検討していく。 2. 方法 本報告で使用するデータは、 「日本版 General Social Survey 2009 ライフコース調査(JGSS-2009LCS) 」である。 分析対象は、15 歳から 30 歳までの期間に親との別居を経験したことのある者とした。親との同居の再開時点を 帰家の生起と定義し、初離家が生じてから帰家するまでの各年をレコードとする Person-year data を作成した(30 歳までに帰家を経験していない者は観察打ち切り) 。主たる独立変数は出生コーホート、15 歳時の世帯の収入レ ベル(回顧)である。分析には、カプランマイヤー法ならびに離散時間ロジットモデルを用いた。 3. 結果 予備的な分析をおこなったところ、以下の結果が得られた。第 1 に、初離家後の帰家の生起割合は、全体では およそ 25%であった。ただし、初離家年齢によってサンプルを分割すると大きく異なる結果が得られた。第 2 に、 近年の出生コーホート(1973-1980 年、ref: 1966-1972 年)ほど有意に帰家ハザードの上昇がみられた。第 3 に、 定位家族の経済資源が豊かであるものほど高い帰家ハザードを示していた。 以上を踏まえると、日本社会では、初離家後の親との再同居が進展しており、初離家の非生起化・遅延のトレ ンドとあわせて考えれば、若年期に親と同居する期間が伸長しているものと予想される。さらに、こうした居住 歴の変容は、日本社会に全体に画一的に広がっているわけではなく、階層差を伴っていると予想される。 大会当日は、他の社会人口学的属性を統制した多変量解析をおこない、より詳細な検討をおこなう。 文献 Fukuda, Setsuya, 2009, "Leaving the parental home in post-war japan: Demographic changes, stem-family norms and the transition to adulthood," Demographic Research, 20(30): 731-816. 西文彦,2015, 『親と同居の未婚者の最近の状況 その 10』総務省統計局. 鈴木透,2007, 「世帯形成の動向」 『人口問題研究』63(4): 1-13. 山田昌弘,1999, 『パラサイト・シングルの時代』ちくま新書. 謝辞 日本版 General Social Survey 2009 ライフコース調査(JGSS-2009LCS)は、大阪商業大学 JGSS 研究センター(文 部科学大臣認定日本版総合的社会調査共同研究拠点)が実施している研究プロジェクトである。 (キーワード:帰家、JGSS-2009LCS、イベントヒストリー分析)
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