エバラ時報 No.251 p.13 吉川 成

〔解説〕
ボイラ給水ポンプ(BFP)
Boiler Feed Pump
吉 川 成
*
Shigeru YOSHIKAWA
ボイラ給水ポンプ(BFP)は,火力発電所の心臓部に相当する極めて重要な補機の一つであり,事業用火力発電設備の
大容量化,高温高圧化,運用方法の変化,と歩調を合せて,改良・進歩の歴史を歩んでいる。BFP の大型化・高圧化の変
遷と主な仕様,従来型超臨界圧火力及びコンバインドサイクル火力それぞれの発電所向け BFP の代表的な構造,材料,軸
封及び軸受の特徴,BFP の大容量・高性能化開発や 100% 容量 BFP 開発と納入実績,再生可能エネルギー導入に伴う火力
発電所運用方法の過酷化に適応する BFP の耐力向上のための構造設計改良,並びに原価低減や省スペース化のための BFP
設計合理化への取組み事例について解説する。
In a thermal power plant, the boiler feed pump (BFP) is one of the critical auxiliary machines that are equivalent to the heart of the
plant. In pace with the increases in the capacity of equipment for thermal power generation, improvements to adapt to higher temperatures and pressures, and changes in operation method, BFPs have been improving and advancing. This paper explains how BFPs have
been upsized and made compatible to higher pressures; main specifications of BFPs; structures and materials of typical BFPs for conventional supercritical thermal power plants and for combined-cycle thermal power plants; characteristics of the shaft seal and bearing;
technological development for higher capacities and performance; actual development and delivery of 100%-capacity BFPs; improvements to the structure design for increasing the stress resistance of BFPs so that they can adapt to more severe conditions in the operation of thermal power plants associated with the spread of renewable energy; and examples of efforts to streamline the BFP design for
manufacturing cost reduction and space saving.
Keywords:Feed water pump, High pressure, Efficiency, Super critical thermal power, Combined cycle thermal power, Reliability, Specific speed,
Shaft strength, Bearing, Double casing
動停止頻度の増大など運転条件が厳しくなり,より一層
1.は じ め に
の高機能・高信頼性が要求されている。
本稿では,高圧ポンプの主用途である火力発電用ボイ
2.変 遷
ラ給水ポンプ(以下 BFP と呼ぶ)について,その変遷や
構造・技術上の特徴について概説する。
2-1 従来型(コンベンショナル)火力向け BFP
BFP は,火力発電所の心臓部に相当する極めて重要な
BFP は,ボイラへ高温高圧水を送るポンプであるから,
補機の一つである。火力発電では,高圧蒸気でタービン
その変遷はボイラの大容量化,高温高圧化と密接な関係
に動力を与えて,タービンと直結された発電機が回転す
がある。
ることによって発電を行う。ここで使われる蒸気は,
ボイラなど事業用火力発電設備の単機容量は,設備費
BFP によってボイラへ高温の水を送り込むことでつくる
率の低減(スケールメリット)を目的として大容量化が
ことができる。したがって,万一 BFP が計画外停止する
図られると同時に,熱効率の向上を目指して蒸気条件の
と,発電を行うことができなくなることから,BFP には
高温高圧化が行われてきた 1)。
極めて高い信頼性が必要である。
日本国内における歴史をたどると,1955 年には単機最
また,近年において,再生可能エネルギーの普及に伴
大容量は 66 MW であったが,1965 年に 325 MW,1969 年
い,火力発電には,発電系統安定化のための負荷調整機
に 600 MW,1974 年には 1 000 MW 機が運転開始され,急
能,急速負荷変化対応など,過酷な運用方法への対応が
速に大容量化の道を歩んできた。1980 年以降には,単機
求められている。BFP についても,部分負荷運転や,起
容量 600 MW 以上のユニットが主流となり,1990 年以降
には多数の 1 000 MW 級ユニットが建設されている。
*
風水力機械カンパニー カスタムポンプ事業統括 企画管理統
括部
蒸気条件の推移に関しては,1959 年には我が国初の蒸
気圧力 16.6 MPa(タービン入口)のユニットが製作され
13
─ ─
エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
表 1 700 MW-USC プラント BFP 仕様
た。その後,より高い発電効率を達成するため,1967 年
には我が国初の超臨界圧定圧ボイラが運転開始された。
さらに,超臨界圧化は急速に進行して,1974 年に建設さ
れた発電ユニットにおいては 82% を占めるに至った 1)。
用途
容量
t/h
1 200
730
MPa
38.05
37.26
回転速度
min − 1
6 000
6 300
℃
188.4
184.1
蒸気タービン
電動機(流体継手付)
17 500
12 000
2
1
水温
BFP は, そ の 要 項 が 流 量 約 1 700 t/h,吐出し圧力約
駆動機
30 MPa,軸動力約 20 000 kW に達する。このような高圧
出力
力を実現するため,BFPの回転速度は5 000 ~ 6 000 min
起動及び予備
吐出し圧力
単機容量 1 000 MW 級の超臨界圧ボイラに使用される
−1
主給水
kW
台数
の高速回転となる。BFP と駆動機の組合せは 50% 容量の
蒸気タービン駆動(T-BFP)2 台,起動及び予備用の増
2-2 複合サイクル(コンバインドサイクル)火力向け
速ギア付電動機駆動(M-BFP)1 台とするのが一般的と
BFP
なった。図 1 に,ボイラ圧力の増大と BFP 吐出し圧力の
このような従来型(コンベンショナル)火力発電システ
関係を示す 。
ムの大容量化,高温・高圧化の動きと並行して,1980年代
2)
なお当社は,
超臨界圧,
超々臨界圧(USC )発電ユニッ
半ばには,より高効率な火力発電システムとして,ガス
トのいずれも,その国内初号機に BFP を納入している。
タービン燃焼サイクルとその排熱を利用した蒸気ター
また,1 000 MW 発電ユニットにも国産としては初めて
ビンサイクルを組み合わせた複合サイクル(コンバイン
となる BFP を納入した実績を有する。
ドサイクル)発電が実用化された。タービン翼の冷却及
1980 年代に入り,原子力発電所が多数建設されてベー
び耐熱技術開発が継続して行われ,ガスタービン燃焼温
スロード運用を担うようになったことに伴い,事業用火
度上昇によって,発電効率が更に向上し,最新のコンバ
力では,中間負荷運用に対応したユニットが多数となり,
インドサイクルプラント(1 600 ℃級ガスタービン)では
中間負荷域においても高効率を維持可能な超臨界圧変圧
送電端効率が 60%に達するようになった。また,ガスター
貫流ボイラが主流となった。これに伴い,電動機駆動に
ビン燃料に二酸化炭素排出量の少ない LNG を使用するこ
ついても可変速仕様が要求されるようになり,増速歯車
とと併せて,環境負荷の低い火力発電システムとして,
内蔵の流体継手付きのものが採用されるようになった。
近年数多く建設されるようになっている。このコンバイン
熱効率向上の取組みは,継続して行われており,1989 年
ドサイクルプラントでは,排熱回収ボイラ(HRSG 注 2)へ
には主蒸気圧力 31.1 MPa, 主蒸気温度 566 ℃の,700 MW
水を送るためのBFPが必要となる。
超々臨界圧(USC)プラントが運転開始されている。
注 2:Heat Recovery Steam Generator
注1
注 1:Ultra Super Critical
3.BFP の構造
表 1 に,このプラントにおける BFP の仕様を示す 2)。
3-1 コンベンショナル火力向け 3)
(1)ケーシング構造
超臨界圧や USC プラントの BFP に要求される吐出し
45
40
35
圧力 MPa
31 MPa
約30 MPa
ように設計された二重胴バレル型多段ポンプが使用され
ボイラ圧力
吐出しカバーとボルトによって締め付けられた構造を有
約20 MPa
する。外胴,
吐出しカバー,
吐出しノズルの肉厚や,
カバー
17 MPa
15
る。剛性の高い鍛造製の円筒形外胴の中に,
内部ケーシン
グと回転体が一体となって組み込まれ,外胴の一端が,
25 MPa
25
超臨界圧
超々臨界圧
(USC)
締付ボルトのサイズ・本数は,設計圧力(吐出し最高使
用圧力)に対して十分な強度を有するよう,発電用火力
10
5
以上の高温となる。BFP は,高圧・高温仕様に適応する
給水ポンプ吐出し圧力
30
20
圧力は,30 ~ 35 MPa 程度の高圧で,給水温度も 180 ℃
約38 MPa
1967年
1989年
技術基準などの公的規格に準拠して設計される。
外胴は単純な肉厚円筒で高圧とその変動に対して安定
0
図 1 ボイラ圧力と給水ポンプ吐出し圧力
しており,吐出しカバーとの間に渦巻ガスケットを挿入
14
─ ─
エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
して締付ボルトで固定することで,給水の外部への漏れ
3-2 コンバインドサイクルプラント向け 3)
を防止する。締付ボルトは,
油圧式レンチ,
ボルトヒータ,
(1)ケーシング構造
あるいはボルトテンショナを使用して伸び管理を行い,
コンバインドサイクル火力向けの BFP は,廃熱回収ボ
締付力が適正に得られるようにする。
イラへ水を送る。要求される吐出し圧力は 15 ~ 20 MPa
吐出しカバー側又は必要圧力に応じて吸込側から中段
程度で,給水温度も 150 ℃程度と,超臨界圧火力プラン
抽出フランジを設けて中間圧力を取り出し,再熱器冷却
トに比較するとかなり低い。このため,ケーシング構造
スプレーなどに供することが可能である。
は,一重胴輪切り型多段ポンプが多く使用される。ただ
(2)内部構造
し,プラント急速起動や給水温度急変への追従性が要求
内部ケーシング及び羽根車などハイドロ部品の構造に
されるため,熱応力・変形解析評価が必須の技術となる。
は,水平二つ割・羽根車背面合せ・渦巻型のものと,輪
輪切り型ケーシングは,吸込ケーシング・吐出しケーシン
切り型・羽根車一方向配列・ディフューザ型のものがあ
グ・中胴・中間抽出ケーシングがケーシングボルトで締
る。後者の場合はバランスデイスクなどのスラストバ
め付けられ,各ケーシング間の接合部は,メタルタッチ
ランスのための部品が必要となる。
でボルトの締付け面圧によってシールするのが基本構造
(3)材料
である。しかしながら,熱変形解析結果によっては,必
耐圧部品である外胴・吐出しカバーには,鍛造炭素鋼
要に応じ O リングを装着することで熱過渡時にも給水の
が用いられ,ガスケット面や高流速部にオーステナイト
外部への漏れを完全に防止する構造を採用する。
ステンレス鋼を盛金して侵食を防止する,内部ケーシン
(2)内部構造
グや羽根車には 13Cr あるいは 13Cr-4Ni のマルテンサイ
コンバインドサイクルプラントの排熱回収ボイラは,
ト系ステンレス鋳鋼が用いられる。
高圧・中圧・低圧ドラムの 3 段構造が多く,BFP の途中
(4)軸封と軸受
段から中間圧の給水を抽出して,中圧ドラムへ給水する
国内事業用火力においては高速・高圧条件に対して摩
構造とする。つまり 1 台の BFP で中圧・高圧給水を賄う
耗が少なく連続運転に適する非接触型のスロットルブッ
ことができる。吸込ケーシングから中圧・高圧給水の合
シュやフローティングリングが用いられることが多かっ
計流量を吸い込み,抽出段から中圧ドラムへの給水量を
たが,近年,特に海外プラントでは,メカニカルシール
抽出した後の段においては,高圧ドラムへの給水量だけ
が採用されることが多い。軸受に関しては,強制給油方
を昇圧する。このため,
抽出前後段で異なる Ns(比速度)
式が採用される。
の羽根車及びディフューザを適用することが多い。
図 2 にコンベンショナル火力向け BFP 構造図の代表例
ポンプ分類は,輪切り構造ディフューザポンプである。
を示す。
全ての羽根車が一方向に配列されるためスラストバラン
吐出しノズル
吐出しカバー
吸込フランジ
温度検出用座
外胴
強制給油軸受
(ラジアル)
強制給油軸受
(スラスト)
スロットルブッシュ
スロットルブッシュ
再熱器スプレー用
中段抽出フランジ
ドレン&ウォーミング用ノズル
バランス戻りフランジ
図 2 超臨界圧火力向け二重胴バレル型 BFP 構造(例)
15
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エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
ス部品が必要となる。バランス部品には,バランスディ
BFP の効率向上は環境負荷軽減のためにも欠かせない命
スク型とバランスドラム型の 2 種類がある。バランス部
題といえる。BFP に使用される羽根車は,その比速度
品から漏れた水は,通常吸込側に戻す。バランス部品で
Ns がおおよそ 120 〜 250(m3/min,m,min − 1)の範囲
は圧力が低下することで水の温度上昇が起る。温度上昇
の遠心ポンプである。一般的に,この範囲においての比
を加味した水の飽和蒸気圧力が吸込圧を上回ると,水が
速度は大きいほうが,また同一比速度においては流量の
フラッシュしてそのままポンプ吸込みへ戻るとポンプの
多いほうが,ポンプ効率は高くなる。50%容量の主給水
健全な運転に支障を来たす。その場合は,バランス配管
ポンプとして BFP2 台が通常採用される BFP 構成である
を脱気器へ戻すように配管する。
が,これを 100% 容量 1 台とすることで,大容量化・高比
両吸込として流量を半分にすることで,必要 NPSH を
速度による効率向上を図るとともに,省スペース・省資
小さくすることができるので,初段だけを両吸込とした
源化に寄与することも可能となる 4)。
構造のものが多く使用される。
国内では,500 MW 及び 600 MW 超臨界圧火力向け主
(3)材料
給水ポンプを 100%容量 1 台の仕様で設計製作納入した
耐圧部品である吸込・吐出しケーシング及び抽出ケー
実績があり,順調に運転されている。また,一部の国・
シ ン グ に は,13Cr-4Ni ス テ ン レ ス 鋳 鋼 が, 中 胴 に は
地域においては,1 000 MW プラントで 100% 容量主給水
13Cr-4Ni ステンレス鋼が用いられる。
ポンプ 1 台での仕様が実用化されており,当社も最近こ
(4)軸封と軸受
の仕様に対応した大型 BFP を製作納入した。この BFP
軸封装置には,超臨界圧プラント向け BFP と比較する
の概略仕様を下記に示す。また,この BFP の出荷前の写
と,若干圧力や周速条件が緩やかなことから漏れ量の少
真を図 4 に示す。
ないメカニカルシールが採用される。軸受に関しては,
強制給油方式が採用されるが,超臨界圧コンベンショナ
ル火力向けに比較すると周速条件が緩やかであることか
ら,後述するように自己潤滑方式の採用もある程度まで
可能である。図 3 にコンバインドサイクル向け BFP 構造
図例を示す。
4.BFP の大型化・高性能化
火力発電設備の大容量化・高圧化に伴い,BFP も大型
化・高圧化の歴史を歩んできた。BFP は,ボイラに要求
される高圧力を作り出すため,火力発電所で使用される
16-72 01/251
ポンプの中でも,最も消費動力が大きくなる。このため,
吸込フランジ
図 4 1 000 MW 超臨界圧火力向け 100% 容量 BFP
高圧ドラム給水用フランジ
中圧ドラム給水用フランジ
吐出しケーシング
吸込ケーシング
中胴
ケーシングボルト
軸受
(スラスト)
軸受(ラジアル)
メカニカルシール
メカニカルシール
バランス部品
図 3 コンバインドサイクルプラント向け BFP 構造(例)
16
─ ─
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ボイラ給水ポンプ(BFP)
容量 3 200 t/h ×全揚程 3 800 m ×軸動力 37 700 kW
5.BFP の耐力向上
×回転速度 5 000 min − 1
比速度 約 250(m3/min,m,min − 1)
近年,太陽光,風力などの再生可能エネルギーが多く
大容量・高比速度化は,一般的にポンプ効率にとって
導入されるようになってきた。再生可能エネルギーは,
有利である。一方,大容量化に伴う軸動力の増大に伴い,
化石燃料を使わず,発電に伴う二酸化炭素を排出しない
回転速度が 50%容量 BFP と同じである場合,トルクが
ので,地球温暖化防止対策の一つとして今後も普及が進
大きくなる分,必要な強度を維持するための主軸直径は
むと考えられる。一方,太陽光・風力は天候や風況といっ
従来に比較して太くなる。同一回転速度で同一揚程とす
た気象条件によって発電出力が大きく変動するので,電
れば羽根車の直径は変わらないので,主軸が太くなる分,
力系統の安定運用が困難となる短所を抱えている。これ
羽根車子午面流路が邪魔された形となる。このため,主
に対して,火力発電所には,より高い需給調整機能を備
軸の流路表面や羽根車から出た水の流れを減速して圧力
えた柔軟な系統運用が求められるようになってきた。具
に変換するボリュート及び段間流路を含めたハイドロ形
体的には,負荷変化速度の向上,最低負荷率の低減,起
状について,非定常流れ解析を含む CFD
動時間の短縮である。
注3
を駆使して,
高効率を達成するための最適形状を求めた。
このような火力発電所の需給調整対応化に伴い BFP に
また,主軸径に関しても,主軸強度解析によって 50%
ついても,起動停止頻度の増大,給水温度変化,小水量
容量(従来実績設計)からの軸径増大が最小限となる最
運転頻度の増大など運用条件が過酷化している。これに
適径を求めた。100% 容量 BFP の場合は,1 台仕様である
対応して,構造,材料,設計面での見直しを行い,BFP
ので,万一 BFP が計画外停止すると,プラント発電容量
の耐力(ロバスト性)向上を図る取組みが行われてきた。
を 100% 喪失するので,主軸各部が十分な強度を保持で
図 5 は,上記の運転条件に適合するように構造及び設計
きるように考慮したことは言うまでもない。
上の対応を適用した BFP 構造の一例である。また具体的
注 3:Computational Fluid Dynamics
な改良対策項目と,対処となる事象や原因について表 3
表 2 は,代表的出力 ・ 規模の発電所に納入した BFP の
に示す(表中一部の対策は,必ずしも運転条件過酷化対
性能比較である。BFP 軸動力は,プラント出力の約 3.5
応に限るものではないが,全般的な BFP 機能信頼性向上
~ 4% を占めており,大容量化による効率上昇で軸動力
の一環として導入してきたものである 5))
。
比を低減することも可能である。500 MW 仕様の場合は,
6.BFP の合理化
100% 1 台とすることによって,BFP 軸動力のプラント
定格出力に対する比の約 0.5 ポイント削減を達成してい
既に述べたとおり,BFP は火力発電システムの主配管
る。ただし,同じ出力であっても,水温(密度)や,容量,
系統における心臓部の機能を担うものであるから,高度
全圧力に違いがあるため,一概に軸動力比だけで比較す
の機能・信頼性が要求される。一方で,できるだけ廉価
ることはできない。効率に着目すると 500 MW の場合に
に電力を供給することも,特に電力需要が逼迫していて
は,2 台仕様の効率 82%に対して 1 台仕様で前述のとお
新規火力発電所の建設が多く予定されている新興国に
り 86%と 4 ポイントの向上が達成されている 。
とっては重要なことである。このため,発電プラント機
4)
器構成簡素化への協力や機器の原価低減に努めることも
ポンプメーカに求められる課題のひとつである。
ここでは,
BFPの合理化への取組みをいくつか紹介する。
表 2 代表的 BFP の仕様
プラント
定格出力
容量
MW
t/h
全圧力 回転速度
MPa
min
−1
6-1 ブースタポンプの廃止
軸動力
効率
台数
出力比
超 臨 界 圧 火 力 向 け BFP は,回 転 速 度 が 5 000 〜
kW
%
台
%
6 000 min − 1 と高速であり,必要 NPSH(NPSHR)は高
82
2
4.00
くなる。発電容量が大きくなるほど BFP の流量も増える
17 747
86
1
3.55
ので,NPSHR は更に高くなる。これに対して,BFP に
11 157
83.5
2
3.72
5 000
22 589
85.3
1
3.76
与えられる有効 NPSH(NPSHA)は脱気器の据付高さ
30.6
5 500
12 711.7
85
2
3.63
1 650
30.5
5 500
18 393.3
86
2
3.68
1 700
31.2
6 000
19 279.5
85.5
2
3.67
500
890
29.67
5 500
9 999
500
1 630
30.1
5 500
600
1 000
30.1
5 500
600
1 860
33.2
700
1 120
1 000
1 050
で決まり,通常 20 〜 25 m 程度である。このため,連絡
配管を介して BFP の上流側にブースタポンプを設置し
て,BFP の NPSHR を確保することが通常である。
17
─ ─
エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
①
③
⑨
⑥
⑧
⑦
⑩
④
②
⑤
耐力向上施策箇所を示す各番号の詳細は
表 3 の同番号に記載
図 5 耐力向上施策を適用した BFP 構造例
表 3 BFP の耐力向上策
No
劣化事象
注4
①
原因
耐力向上策
吐出しノズルの減肉
高速流,偏流による浸食
内面にオーステナイトステンレス鋼を盛金
②
内胴高差圧部の浸食
起動停止頻度増大に伴うメタルタッチシー
ル又は自緊式ガスケットのシール性低下
補助 O リングの併用
③
初生キャビテーション
DSS 運用等に伴う小水量運転時間の増大
一段目羽根車入口を小水量設計のものと交換
④
小配管取付部のクラック発生
小水量運転時間の増大等に伴う脈動影響
管台を剛性の高い構造に変更
⑤
芯ずれによる振動
起動停止頻度増大に伴う配管荷重の変化
振れ止め装置の設置
⑥
軸受振動の増大
小水量運転時間の増大等に伴う脈動影響
全円型軸受胴体に変更
⑦
軸受メタルの損傷
潤滑油中の異物介在による 13Cr 鋼特有のワ
イヤウール損傷
主軸ジャーナル部に炭素鋼を盛金
⑧
突変振動発生
ギアカップリング歯面の滑り不良によるト
ルクロック
フレキシブルディスクカップリングに更新
⑨
スラストデイスクはめあい部のフレッテ
イング
軸端ナット締付力の低下。デイスク当たり
面の経年変形によるデイスク固定の緩み
ロッキングスリーブ型軸端ナットの採用
つば付スラストデイスクの採用
⑩
中段抽水メカ部品の劣化
吸込カバー側に取り付けられ,内胴回転体
取り出しに必要ないため長年未点検となる
吐出カバー側から取り出す構造として,抽水
管及び抽水メカ部品を廃止
注 4:No. は図 5 中の番号が示す部分
これに対して,BFP の初段羽根車をインデューサ付と
る。これに対して,内部ケーシング(中胴)が輪切り型
して NPSHR を下げ,ブースタポンプと連絡配管を廃止
のものは,高価な内胴を必要としないことと,同一性能
する設計も一部プラントの起動用 M-BFP における実用
(圧力)で比較した場合,内部ケーシング直径は若干小
例がある。これによって省スペース・省資源化によるプ
型にできるため,外胴の直径も小さくできるという原価
ラント建設費低減につながっている。図 6 は,インデュー
面での長所がある。しかし,回転体を点検するためには,
サ付 BFP の構造図例である 。
一度中胴・回転体を縦置きにした上で,一段ごとに,中胴・
4)
ガイドベーン・羽根車を主軸から抜いていくという作業
6-2 フルカートリッジ輪切り型二重胴 BFP
図 2,6,7 に紹介する BFP は,いずれも内部ケーシン
が必要になり,現地での点検が困難という短所があった。
グ(内胴)が上下二つ割構造のものである。この構造の
これに対して,中胴・回転体に外胴カバー,軸受・軸封
BFP は,図 7 に示すように,内胴の上半分を分解するこ
部品を含めた外胴以外の部品を,一体で外胴から抜き出
とで,主軸・羽根車を回転体として組み立てられた状態
し可能なフルカートリッジ構造とすれば,フルカート
で取り出すことが可能なので,発電所現地における点検
リッジ部を工場へ返送することで,現地での点検を不要
作業が容易になるという長所があり,これまで国内外の
とすることが可能となる。当社では,350 MW 超臨界圧
発電所に数多く採用されてきた。しかし,内胴は複雑な
100% 容量(700 MW 超臨界圧 50% 容量と同一)輪切り
構造の鋳鋼であるため,製造原価が高いという短所があ
型二重胴 BFP の製造納入実績を有する。図 8 はフルカー
18
─ ─
エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
中段抽出
吸込
吐出し
インデューサ
バランス配管へ
バランス戻り
図 6 インデューサ付 BFP
冷却器,切替え式フィルターなどの機器類が設置される。
通常の油タンクは,油ポンプ流量の 3 倍以上の容量を必
要とする。計装品として,前述の油圧監視のほかに,フィ
ルター差圧,油タンクの油面,油温などの監視計器が必
16-72 02/251
要となる。これらの機器,計装品を備えた給油ユニット
図 7 内胴分解と回転体取り出し
は,据付面積や製造原価の点で大きな比率を占めるので
トリッジ型二重胴輪切り型 BFP の組立時と分解時の状態
強制給油を必要とするのかあるいは自己潤滑方式の採
を示したものである。
用が可能なのかの選定基準は,ラジアル軸受部分の周速
給油方式の合理化を考えることは意義がある(図 9)
。
やスラスト軸受形式による。超臨界圧火力向け BFP の場
6-3 自己潤滑軸受・適用範囲の拡大
BFP は,高回転速度・高出力であるため,軸受給油方
合は,回転速度が 5 000 min − 1 級の高速であり,軸動力も
式として強制給油潤滑を用いる。潤滑装置
(潤滑ユニット)
大きいことから,今後も強制給油が必要であると考える。
には主油ポンプ(MOP)と起動及びバックアップ用の補
タービン駆動の場合は,タービン側から潤滑油が供給さ
助油ポンプ(AOP)が設置される。基準給油圧力は 0.08
れ,流体継手付き電動機駆動の場合には,流体継手から
~ 0.12 MPa である。運転中油圧が低下(0.05 MPa)した
潤滑油が供給されるので,ポンプ軸受の潤滑方式が,製
場合,潤滑油給油配管に設置された圧力スイッチ又はト
造原価や設置面積に影響を及ぼすことはない。
ランスミッタによって警報を発し,同時に補助油ポンプを
一方,コンバインドサイクルプラント向けの場合,
自動起動させる。更に油圧が低下した場合(0.03 MPa)
BFP は通常,2P 電動機直結駆動であり,出力も 2 000 ~
は軸受保護安全のために給水ポンプを停止させる。潤滑
2 500 kW 程度と,超臨界圧火力向け BFP に比較すると
装置には,潤滑油を貯蔵する油タンク,油圧調整弁,油
小さい。タービンや流体継手がないことから,別置きの
a)
組立状態
b)分解時
図 8 フルカートリッジ構造,輪切り型 BFP
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エバラ時報 No. 251(2016-4)
ボイラ給水ポンプ(BFP)
吐出し
吸込
モータ
ポンプ
給油ユニット
6 700
1 400
油タンク
1 780
クーラー
補助油ポンプ
図 9 ボイラ給水ポンプ 外形図(給油ユニット付)
主軸
ラジアル軸受
スラスト軸受
図 10 自己潤滑軸受
給油ユニットが必要となり,軸受を自己潤滑方式とする
ては CCS(二酸化炭素分離回収貯蔵)の導入による二酸
ことができれば,据付面積縮小という面での合理化を図
化炭素排出抑制などの技術導入が進むと考えられる。こ
ることも可能となる。現在は,実績選定基準に基づき,
のような市場環境変化に対応し,火力発電設備の心臓部
強制給油方式を採用しているが,自己潤滑機構の改良,
ともいえる BFP についても,更なる効率向上,信頼性向
軸受冷却構造の改良によって,自己潤滑方式適用範囲を
上,原価低減など,その技術開発により一層努力してい
広げていくことが可能と考える(図 10)
。
く必要がある。
7.お わ り に
参 考 文 献
事業用火力発電に用いられるボイラ給水ポンプ(BFP)
の変遷,特徴,技術改良について概説した。BFP は,事
業用火力発電設備の大容量化,高温高圧化,運用方法の
変化と歩調を合わせて,改良・進歩の歴史を歩んできた。
電力需要増大への対応と環境負荷低減の両立を図ってい
く中で,火力発電は,今後ますます重要な役割を担うと
考える。我が国などにおいては,再生可能エネルギーと
の併用における負荷調整運用柔軟化,産油国などにおい
1) 火原協会講座 32 ボイラ(平成 17 年度版)概説 1「発電用ボ
イラのすう勢と技術開発の現状」(平成 18 年 6 月発行,一般社
団法人 火力原子力発電技術協会).
2) 火力原子力発電 入門講座 ポンプ及び配管・弁「Ⅲ ボイ
ラ給水ポンプ」(No.595 Vol.57 平成 18 年 4 月号,一般社団法
人 火力原子力発電技術協会).
3) 火力発電技術必携(第 8 版) 「8.ポンプ」
(平成 27 年度改訂版,
一般社団法人 火力原子力発電技術協会).
4) 吉川,「ボイラ給水ポンプ高性能化」,ターボ機械 2008 年 11
月号.
5)
火原協会講座27 発電設備の予防保全と余寿命診断「2-3 ポン
プ」(平成13年6月,一般社団法人 火力原子力発電技術協会)
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