27 大腸検査の新戦力 「CT コロノグラフィー」 関 大腸検査の新戦力として CT コロノグラフィー (大腸 CT 検査)が臨床に登場したことをご存じ でしょうか。大腸病変の画像検査法としては、一 般に、注腸 X 線検査、大腸内視鏡検査が実施さ れています。近年、マルチスライス CT の普及や 大腸解析ソフトの開発により、CT を使った新た な大腸画像検査として CT コロノグラフィーが臨 床導入されました。当院でも、2015年7月より、 CT コロノグラフィーの臨床活用を始めました。 今回は、大腸画像検査の新メンバー 「CT コロノ グラフィー 」 について、お話したいと思います。 CT コロノグラフィーは、大腸を炭酸ガスで拡 張させた状態で CT を撮像し、画像データを3次 元処理することで、大腸の形態や内腔の状態を解 析する検査法です。大腸内に充満した気体と腸管 壁とのコントラストを利用して3次元画像を作成 し、注腸 X 線検査や大腸内視鏡と同じような画 像(仮想注腸,virtual barium enema,図1a; 仮想内視鏡,virtual endoscopy,図1b)で大腸 を観察し、両者を比較しながら画像読影を行うこ とができます。大腸内視鏡では、腸管の狭窄や屈 曲によりファイバーを奥まで送り込めないケース がありますが、炭酸ガスは腸管の狭窄や屈曲を難 なく通過しますので、大腸内視鏡が届かない領域 でも仮想内視鏡を作成して観察することができま す。また、大腸ファイバーでは観察できないよう な方向からでも、3D 画像処理を用いれば自由に 観察することができます。ヒダの裏側に隠れてい る病変も、仮想内視鏡であれば映し出すことがで きるわけです。更に、注腸検査や大腸内視鏡は、 腸管の内腔から粘膜面のみを観察しているのに対 し、CT は内腔の情報のみでなく腸管壁および周 囲臓器の情報もデータ収集しているので、腸管壁 内の状態や周囲への病変のひろがりを多方向 か ら の 断 層 像( 多 断 面 再 構 成,multi-planar reconstruction,図1c)で観察することが可能で す。このように、CT コロノグラフィーは、ひと 裕 史 (a) (b) (c) (d) 図1 結腸脾弯曲部の鋸歯状腺腫 (a) 仮想注腸:結腸脾弯曲部に隆起性病変(矢印)を 認める。 想内視鏡:亜有茎性(Isp)の形態が観察される。 (b) 仮 (c) 冠状断再構成:大腸病変(矢印)と周囲臓器との 関係が観察される。 (d) 大腸内視鏡:内視鏡下に切除され、鋸歯状腺腫 と診断された。 新潟県医師会報 H28.5 № 794 28 つの検査から様々な形態の画像情報を提供し、大 腸病変の評価に役立てることができる検査法です。 CT コロノグラフィーには、病変の検出能を向上 させる3D解析機能も導入されています。 コンピュー タ処理によって大腸を切り開いて展開したような 画像(仮想展開像,virtual gross pathology)を 作成し、異常所見の有無を効率よく拾い上げる手 法はそのひとつです。また、設定したサイズを超 える隆起構造を大腸病変の候補として自動検出し て 表 示 す る コ ン ピ ュ ー タ 支 援 機 能(computeraided detection, CAD)も開発され、当院の大腸 解析ソフトにも実装されています。 CT コロノグラフィーは、検査手技による患者 の身体的苦痛が少ない点においても有用です。 CT コロノグラフィーで大腸を拡張させるために 用いる炭酸ガスは、空気に比べて腸管からの吸収 が約130倍速いと言われています。このため、CT コロノグラフィーでは、検査後のお腹の張り(腹 部膨満感)や腹痛が少なく、検査終了後にトイレ に駆け込むようなことはほとんどありません。ま た、撮影体位は基本的には背臥位、腹臥位の2方 向のみで、入室から検査終了まで約10 ~ 15分程 度と短時間で検査は終了します。検査の際、腸管 蠕動を押さえるための抗コリン剤 (ブスコパン等) の筋肉注射は必要ですが、内視鏡検査にしばしば 用いられることのある鎮静剤の投与は、CT コロ ノグラフィーでは不要です。このように、CT コ ロノグラフィーは、検査中の患者の身体的負担が 少なく、検査後は速やかに日常生活に戻ることが できます。一方で、ガス吸収速度が速いため、十 分に大腸が拡張した状態を保ちながら撮影を行う ためには検査中に炭酸ガスを持続的に注入するこ とが必要となります。このため、CT コロノグラ フィーでは専用の炭酸ガス自動注入器が装備さ れ、撮影中はガスの注入圧や注入量をモニターし ながら炭酸ガスの持続注入を行っています。 注腸 X 線検査や大腸内視鏡検査と同様に、CT コロノグラフィーにおいても前処置が必要です。 注腸 X 線検査の前処置として用いられるブラウ ン法は、検査前日より低残渣食を摂ってもらい、 下剤としてクエン酸マグネシウム(マグコロール P)の高張液を服用することで、体内の水分を腸 管内に吸収して腸管を膨張させ、残渣を排泄させ る方法です。この方法は、服用する量が少ないの で患者さんの受容性が良好で、腸管内の残液も少 なくなりますが、残渣が腸管壁に付着しやすく、 新潟県医師会報 H28.5 № 794 この方法を CT コロノグラフィーに用いた場合、 残便が隆起性病変と紛らわしく偽陽性となりやす いことが問題となります。大腸内視鏡検査の前処 置として用いられるゴライテリー法は、腸管洗浄 剤としてポリエチレングリコール(ニフレック) の等張液を約2リットル服用し、多量の飲水で腸 管を膨張させ、残渣を洗い流す方法です。洗浄力 が高く残便は少なくなりますが、腸管内に残液が 多く残るため、CT コロノグラフィーに用いた場 合、残液に浸って観察できない腸管面が広範囲に 及びやすいという欠点があります。これらの問題 を解消するため、当院では、大腸 CT 検査に適し た腸管内の水分状態を保ち、固形残渣の付着を避 ける水様便の形成を促すために、難消化性デキス トリンを含んだ CT コロノグラフィー専用の検査 食を採用し、ラキソベロンとマグコロール P を 組み合わせた前処置を行っています。また、新た な手法として、fecal tagging という方法が開発 されました。fecal tagging は、経口の陽性造影 剤を用い、腸管内の残液や残渣を高濃度に標識す ることで、病変と識別しやすくする方法です。残 液や残渣は、単純 CT では腸管壁と CT 値が近い ために識別することが困難とされていますが、陽 性造影剤と混合することで CT 値が上昇し、コン トラスト差によって腸管壁の病変と区別すること が容易となります。fecal tagging 用の硫酸バリ ウムが、いよいよ日本でも販売される予定で、 CT コロノグラフィーの診断精度の更なる向上が 期待されています。 このように、大腸 CT 検査は、注腸 X 線検査 や大腸内視鏡検査に比べて様々な利点を持ってい ます。しかし、各種大腸検査には、それぞれに利 点、欠点があります。大腸内視鏡検査では、病変 の色調や微細構造を観察することができ、生検に よる組織診断や内視鏡的切除術を行うことができ ます(図1d) 。X 線被曝についても内視鏡検査 では問題となりません。また、 注腸 X 線検査では、 バリウムの流れ方を観察することで、動態的な通 過状態の評価や、残渣か粘膜病変かの識別を行う ことができます。 CT コロノグラフィーは、大腸疾患の病態解析 に新たな可能性をもたらしました。検査目的や患 者状態を考慮して適切に適応を選択することで、 大腸疾患の診療に大きく貢献することが期待され ます。 (県立がんセンター新潟病院 放射線診断科)
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