参考例題(3-6) 「放流の原則」とゲート開度の算定

参考例題(3-6)
「放流の原則」とゲート開度の算定
ここで取り扱うゲート操作の実施要領は、固定した時間表に基づいて実施されます。ゲ
ート操作の時間間隔は 10 分とし、毎時 0,10,20,30,40 および 50 分の 1 時間に計 6 回
行います。ゲート操作の指示は、操作始動の 1 分前に行うこととし、毎時 9,19,29,39,
49 および 59 分に行うこととします。
ゲート操作指示のための検討はすべて自動で実施しますが、その結果については操作員
の確認が必要となります。また、操作員は自動で得られた結果と異なる指示を行うことも
当然可能となりますが、これらの操作員との対話を 1 分以内に終えることが可能かどうか
については、今後の検討課題です。
ゲート操作の指示はゲート開度ステップで行われ、ゲート操作は各ゲートの開度で行わ
れます。ゲート開度ステップから各ゲート開度の算出は、すでに示したゲート開度の自動
配分のプログラムに従って行うことになります。
ここに、ゲート開度ステップとは、ゲート開度の総和(cm)を 5 で除した値のことで、
ゲート操作は 5 cm を 1 単位として行うことを意味します。
この 5 cm のゲート操作は、ゲートの標準開閉速度が毎分 30 cm(2 秒につき 1 cm)です
から、10 秒間の操作に相当します。このゲート操作の可能性については個々の開閉装置の
性能に対して確かめる必要があります。また、この 5 cm のゲート操作は、許容流量差Δq と
も密接に関係します。これは、ゲート開度ステップ S のときの放流量を Qo(S)とすれば、
Qo(S) - Qo(S - 1) ≦Δq
あるいは、Qo(S + 1) - Qo(S) ≦Δq の関係式が成立する必要がある
からです。
放流したい流量をここでは目標放流量 Qob とし、ゲート操作後の放流量を Qo とすれば、こ
の両者の関係には次の 3 つの場合が考えられます。
(a) Qob - Δq < Qo < Qob + Δq
(b) Qob ≦ Qo < Qob + Δq
(c) Qob -Δq < Qo ≦ Qob
ここに、
(a)は最も一般的な場合で、通常の流水制御はこの式を満たすように行われます。
これに対して(b)は放流量の下限値を規制する場合、(c)は上限値を規制する場合です。
Qo(S) ≧ Qob の条件を満たすゲート開度ステップ S の最小値を S p 、 Qo(S) ≦ Qob の条件
を満たす S の最大値を Sm とすれば、目標ゲート開度ステップ Sob は(a)
,(b)および(c)
に対してそれぞれ次のように得られます。
(a)については、目標ゲート開度ステップ Sob は S p , Sm のいずれも条件を満たします。た
だし、貯水位が上昇時には Sob = Sm 、下降時には Sob = S p とすれば、操作間隔を長くでき有
利とされます。(b)については Sob = S p 、(c)については Sob = Sm と得られます。
現行のゲート開度ステップを So とすれば、Sob > So では開操作、Sob < So では閉操作が
求められたことになります。しかし、この結果を直ちに実行に移すわけではありません。
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ここでは、ゲート開度ステップの時系列データを用いて、これから行うべき操作の妥当
性を検証します。これは、例えば現ステップ So が閉操作の結果として得られ、次に開操作
が求められる場合には、この開操作を延期して、状況の進展を観察する場合の方が適切と
考えられるからです。時系列データと状況判断とを組み合わせて、操作の緊急性を確認し、
必要と認められる場合についてのみゲート操作の検討を行うことになります。
開操作によって放流量を増やすこと、あるいは閉操作によって放流量を減らすことは、
いずれも「放流の原則」を満たすように行うことが必要です。この「放流の原則」の適用
については、すでに定水位制御の例題において説明していますが、その後の検討結果を含
めて、再度解説することとします。
「放流の原則」の条文は、
「国土交通省所管ダムの操作規則及び操作細則に関する記載例」
では、次のようになっています。
(放流の原則)
操作規則第 20 条
所長は、ダムから放流を行う場合においては、細則で定めるところによ
り放流によって下流に急激な水位の変動を生じないよう努めるものとする。
(放流の原則)
操作細則第 7 条
規則第 20 条の規定により、ダムから放流を行う場合において、下流に急
激な水位の変動を生じないように努めるものとした放流の原則は、次に定める方法を基
準とする。
放流の直前における
放流量(Q)
(立法メートル/秒)
ゲート操作の
最小時間間隔
(分)
1 回の操作における放流量の増加割合
0 ≦ Q < ○
○ ≦ Q < ○
○ ≦ Q < ○
○ ≦ Q < 300
10
10
10
10
○以内
○以内
○以内
○以内
(立法メートル/秒)
ただし、気象,水象,その他の理由により特に必要があると認める場合においては、流
入量の時間的な増加割合を限度として放流を行うことができる。
2 所長は、気象,水象,その他の理由により、ダムによって貯留された流水が、サーチャ
ージ水位を超えると予想される場合、又はダム本体及び貯水池等に異常が生じた場合、そ
の他緊急かつやむを得ない場合においては、前項の規定によらないことができる。
また、これに関連する規定として、次の条文があります。
(放流に関する通知等)
操作規則第 25 条 所長は、ダムから放流することによって流水の状況に著しい変化を生ず
ると認める場合において、これによって生ずる危害を防止するため必要があると認めると
きは細則で定めるところにより関係機関に通知するとともに、一般に周知させるため必要
な措置を執らなければならない。
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(放流に関する通知等を行う場合)
操作細則第 10 条 所長は、次の各号の一に該当する場合においては、規則第 25 条の規定
により関係機関に通知するとともに、一般への周知を行うものとする。
一
コンジットゲートから放流を開始するとき。
二
クレストゲートから放流を開始するとき。
三
第 7 条第 1 項に規定する基準を超えて放流するとき。
四
第 7 条第 2 項の規定により放流を行う場合において、下流に急激な水位の変動を生じ
ると予想されるとき。
五
その他、下流に急激な水位の変動を生じると予想されるとき。
(放流に関する通知等の方法)
操作細則第 12 条 規則第 25 条に規定する放流に関する通知等は、次の各号に定める方法
により行うものとする。
関係機関に対する通知は、第 10 条に規定する放流を開始する約 1 時間前に行うものと
一
する。
二
一般に周知させるため必要な措置は、別表第○に掲げる警報所により行うものとする。
イ
ダムに設置されたサイレンの吹鳴は、第 10 条に規定する放流を行う約 30 分前に行
うものとする。
ロ
ダム以外の警報所のサイレンもしくはスピーカー(擬似音によるもの)の吹鳴は、
各警報所地点の水位が上昇すると予想される約 30 分前に行うものとする。
ハ
イ,ロに規定する措置のほか、警報車による下流の巡視を行うものとする。
二
サイレンもしくは擬似音による吹鳴の方法は、次に定める方法によるものとする。
吹 鳴
休 止
吹 鳴
約1分
約10秒
約1分
以上の規則と細則が「ダムの管理
環第 79 号、国河治第 171 号
(左記を 3 回繰り返し)
例規集」(平成 18 年版)に収録される記載例(国河
平成 13 年 11 月 28 日)の「放流の原則」ならびにそれに関
連する規定です。しかし、この記載例については解説が示されていませんので、従前と異
なる表現に変更した意図を正しく理解することは極めて困難であると言わざるを得ません。
同じダムの管理例規集には、〔参考〕多目的ダムの操作規則の解説として、次の従前の規
定が収録されています。
参考例題(3-6)
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(放流の原則)
第 24 条
所長は、ダムから放流を行なう場合においては、放流により下流に急激な水位の
変動が生じないよう、かつ、放流が無効放流とならないよう努めるものとする。
(解説)
本条は、放流について守るべき原則を掲げたものである。
まずその一つは、放流に伴う下流の危害を防止する見地から、放流に際して下流の水位
に急激な変動を生じさせないよう努めることである。本条を待つまでもなく施設の管理者
としては当然の義務であり関係者間でも放流に伴う事故の防止については種々措置を講じ
ているが、これらの措置と相まってその効果をあげるよう特に本条に掲げたものである。
なお、実際の放流に際してどの程度が急激な変動と目されるかはかなり困難な問題とな
るので、あらかじめ、一定の基準を設けておくべきであろう。
また、放流に伴う事故は、放流開始直後に起こることが多いので、放流に際しては特に
この点に留意することも肝要と思われる。
次に今一つの原則は、放流が無効放流とならないよう努めるべきことである。勿論この
点についてもこと更云う必要のないところであるが、第 22 条(水位の上昇)等と同様の趣
旨で、利水側の要請により特に掲げたものである。
なお、この〔参考〕は〔資料〕多目的ダムの操作規則の解説(河川局開発課
昭和 41 年
7 月)と同一の内容となっています。同じ例規集には、〔参考〕大雪ダム操作規則(解説)
も収録されています。この事例では、規定および解説は次のようになっています。
(放流の原則)
第 24 条 部長は、ダムから放流を行う場合には、放流により下流に急激な水位の変動を生
じないよう努めるものとする。
(解説)
旧規則では、この条に無効放流の防止が併記されていたが、下流水位の問題と無効放流
は性質が全く異なるものであり、かつ無効放流については他の条で規定がすでにあること
から、新規則では削除した。
なお、従来「急激な水位の変動」を 30 分間に 20~50cm 程度(個々の河川の状態によっ
て河川管理者が判断して定める。)の水位上昇と考えて、これを通知・警報等の基準として
きたところであるが、一部にこれを流入量の増加のしかたの如何にかかわらずダムの放流
量を増加させる場合に絶対守らなくてはならない最高の基準と考えているむきがある。
本条において「努めるものとする。」と表現したのは、利水のための放流のように緊急性
の少ないものを除き、上記の基準が絶対でないこと(例えば、制限水位維持のために流入
量=放流量という操作をする場合、一定率調節により洪水調節を行うために放流量を増大さ
せていく場合など)を表したものである。
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なお、前者の第 24 条は、横山ダム(竣工 1964 年)を対象としており、後者(大雪ダム
竣工 1975 年)の解説の旧規則とは当然、前者のことです。
操作細則に関しては、同例規集には〔参考〕ダム操作細則作成要領(案)があります。
この〔参考〕は以前は〔資料〕と呼ばれたもので、横山ダム操作細則を基礎として標準化
を試みたものと推測されます。ここでは、関連する規定は次のようになっています。
(放流の原則)
第○条 所長は規則第○条の各号の一においてダムから放流を開始するときは、次に定め
るところによらなければならない。
ただし、気象水象その他の状況により特に必要があると認める場合においては、流入
量の時間的な増加割合を限度として放流量を決定することができる。
放流開始後 1 時間まで
1 時間後 2 時間まで
2 時 間 以 後
ゲート操作の
最小時間間隔
1 回の操作による
最 大 放 流 量
5 分ごと
10 分ごと
10 分ごと
毎秒 ○立法メートル
〃 ○
〃
〃 ○
〃
2 所長は、気象・水象その他の理由により、貯留された流水が堤体を越流すると予想され
るとき、又は堤体に異常が生じたとき、その他緊急かつやむを得ない理由により放流を
行なわなければならない場合は前項の規定によらないことができる。
(解説)
ダムからの放流によって下流に急激な水位変動を与えてはならない。このため一定時間
内に増加し得る放流量には一定の限度がある。この限度は次のようにして定めることとす
る。
ダム下流において流量変化に対し最も水位変動の激しい個所数個所を選定し、これらの
基準点において
放流開始後 1 時間までは
30 分間に対する水位上昇が 50 センチメートル
放流開始後 1 時間以降は
30 分間に対する水位上昇が 1 メートル
以内なら水位変動は許容できるものとし、基準地点の水位流量曲線より 30 分間に増加し得
る流量を求めるものとする。なお 30 分間に対する水位上昇が 50 センチメートルまたは 1
メートルという数値は一提案であるので各々の河川について検討し、できるだけこの数値
を小さくする必要がある。
次にゲート操作の最小時間間隔であるが 30 分に対する水位上昇が 50cm であるからとい
って 30 分ごとに 50 センチメートル分の流量を放流してはならず、徐々に放流しなければ
ならない。例えば最小 5 分ごとにゲート操作をするとすれば、1 回の操作による最大放流量
は、基準地点の水位変動が 50/6 センチメートルに相当する流量となる。
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(放流に関する通知等を行なわなければならない場合)
第○条
所長は、次の各号の一に該当する場合においては、別紙第 2 に掲げる関係機関(以
下「関係機関」という。)及びダム下流に通知並びに警報を行わなければならない。
ダムから放流を開始するとき。
(下流における水位の変動が 30 分につき 20 センチメー
一
トル未満と予想されるとき。)
ダム下流において 30 分につき 20 センチメートル以上の水位変動が生じると予想され
二
るとき。
第○条第 1 項ただし書き及び第 2 項の規定によりやむを得ず放流を行ない、下流に急
三
激な水位の変動が生じると予想されるとき。
(解説)
警報を行なう場合は次の場合とする。
1.ダムから放流を開始するとき。
2.ダムから放流を行なうことによってダム下流の基準点(水位変動の最も激しい地点)に
おいて 30 分につき 20 cm 以上の水位変動を生じさせると予想されるとき。
3.やむを得ず急激な放流を行なうとき。
警報は上に述べた項目に該当する場合にそれぞれ行なうものとするが、1 回の放流計画
において、1 と 2 または 1,2 および 3 が重なる場合は当然警報は一つの場合において行
なえばよい。
新規にダム管理を行なう個所については上に述べた考え方によることとするが、既に
管理を行なっているダム及び既に管理を行なっているダムと一体として警報を行なうダ
ムは従来より行なっている警報の方法をとってよいこととする。
(放流に関する通知等を行なうとき)
第○条
所長は、第○条各号の一に規定する場合において、放流に関する通知等を行なう
ときは、次の各号に定める時刻に実施しなければならない。
一
第○条第 1 号に規定する場合には、放流を開始する約 30 分前に関係機関に通知すると
ともに放流を開始する約 7 分前よりダムに設置されたサイレンの吹鳴を行ない放流を開
始する直前に吹鳴を完了し、警報車は放流を開始する約 30 分前にダムを出発し、警報を
行なわなければならない。
二
第○条第 2 号に規定する場合には、放流を行なう 1 時間前に関係機関に通知し、放流
を行なう約 1 時間前に各地点のサイレン(ダムに設置されたサイレンを除く。以下この
条において同じ)を吹鳴させるとともに各地点において水位の変動が生じる約 30 分前に
各地点のサイレンを吹鳴させるものとし、ダムに設置されたサイレンの吹鳴は、放流を
行なう約 7 分前より行ない、放流を開始する直前に完了するものとする。
警報車は放流を開始する約 30 分前にダムを出発し、下流の状況を管理所に連絡しなが
ら、各地点において水位の変動が生じる約 30 分前に警報を行なわなければならない。
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第○条第 3 号に規定する場合には、少なくとも放流を行なう約 30 分前に関係機関に通
三
知するとともに各地点のサイレンを吹鳴させるものとし、ダムに設置されたサイレンの
吹鳴は放流を行なう約 7 分前より行ない放流を行なう直前に完了するものとする。
警報車は放流を開始する約 30 分前にダム出発し、下流の状況を管理所に連絡しながら、
各地点において水位の変動が生じる約 30 分前に警報を行なわなければならない。
(解説)
ダムに設置されたサイレンの吹鳴を、放流を行なう約 7 分前に行うこととしたのは、サ
イレンの吹鳴時間が約 7 分であるからである。
(サイレン吹鳴の方法)
第○条 所長は次に定める方法によりサイレンを吹鳴させるものとする。
1分
5秒
休
1分
15秒
休
5秒
1分
休
1分
15秒
休
1分
5秒
休
1分
吹鳴
吹鳴
吹鳴
吹鳴
吹鳴
吹鳴
止
止
止
止
止
6分45秒
(解説)
特定多目的ダム法施行規則には
約1分
吹 鳴
休
止
約1分
とあるのでこれを 3 回繰り返すこ
吹 鳴
ととした。なお既に管理を行なっているダム及び既に管理を行なっているダムと一体とし
て警報を行なうダムは従来より行なっているサイレンの吹鳴方法をとることとする。
これらは、河川管理施設であるダムに対する「放流の原則」に関わる規定ですが、利水
ダムに対しては、次のような規定になっています。
ここでは、利水ダムに対しては、標準操作規程(建河政発第 68 号
昭和 51 年 10 月 26
日)を参考とします。なお、この規定は同例規集に〔資料〕ダムの標準操作規程の解説と
して収録されます。
(放流の開始及び放流量の増減の方法)
第 12 条 貯水池からの放流は、第 22 条第 1 号の規定によってする場合を除くほか、下流
の水位の急激な変動を生じないように、別図第 2 に定めるところによってしなければな
らない。ただし、流入量が急激に増加しているときは、当該流入量の増加率の範囲内に
おいて、貯水池からの放流量を増加することができる。
(解説)
1.本条はダムからの放流及び発電放流により下流河川の水位が急激に変動して人命その他
に危害を加えることのないように、又護岸のはらみ出し等の河川災害が起きないように
放流の最大変化量を定めるものである。
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放流量の変化量の限度は、放流の影響の及び区間内でもっとも危険な個所を対象とす
ることとして、おおよそ 50 センチメートル以下であれば安全であろうと想定し、30 セン
チメートル程度を目安に検討することにしている。
2.当該ダムの放流量の増加又は減少の割合の最大限度を規定する別図第 2 は、既往のデー
タ等をもとに、貯水池からの放流量と下流河川の水位上昇との相関関係を適確に把握し
て、ダム放流に伴う下流河川の水位上昇の割合が 30 分につき 30~50 センチメートルの
範囲に入るような「放流量と一定時間内(10 分間)の放流量の変化量(別図第 2 におけ
る増分)の関係図」として作成する。放流量増加制限曲線図の作成手順を示す。
この図において、時間間隔を 10 分間と短くしているのは放流量の変化をできるだけ滑
らかにしたいためである(さらに可能なら 5 分間としたい)。実際の操作にあたってはで
きるだけ流量の変動が小さくなるように行わなければならない。
注)この規定の適用範囲は一般の放流時又は洪水時前の予備放流における放流の開始
から洪水に達するまでのすべての期間にわたるものであるから、放流量が洪水量ま
での図を作成しておく必要がある。
3.ただし書き以下で示す放流限界は予測できないような急激な出水の場合に定められた水
位を確保するため規定するものである。現在から一定時間経過した時の、貯水池から放
流できる限度 Q 'o を、現在放流量 Qo に、同じ間隔の一定時間前の流入量 QI 1 及び現在流入
量 QI 2 によって求められる現在流入変化率
QI 2 - QI 1
を乗じて求められる式
QI 2 + QI 1
2
2(QI 2 - QI 1 ) ⎪⎫⎪
⎪⎧
Q 'o = Qo ⎪⎨ 1 +
⎬
⎪⎩⎪
QI 2 + QI 1 ⎪⎭⎪
によって与えられるものとしている。ここにおいても一定時間は 10 分か 5 分の短い間隔
が望ましい。
4.洪水を迎えるとき、貯水池の水位が予備放流水位を下まわっていると、往々にして放流
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の開始時期が遅れがちであるが、この遅れが許容限度をこえると、放流の原則を守りな
がら放流量を増加させていたのでは、流入量が洪水に達する前に貯水池の水位をオーバ
ーするので、このような事態を回避するために、放流の原則をこえた急激な放流を余儀
なくされることになる。
放流に伴う事故は、放流開始直後に起こることが多いので、放流に際しては、放流開
始の時期を失しないよう、特にこの点に留意することが肝要である。
筆者注)本条から除外される洪水時における措置(第 22 条第 1 号)には、「ただし、貯水
池からの放流は、下流の水位の急激な変動を生じないため必要な最小限度において、そ
の急激な変動を生じないようにしてすること」の規定があります。
(放流の際の関係機関に対する通知)
第 14 条 法第 48 条の規定による通知は、ダムの洪水吐又は放流管からの放流(当該放流
の途中における放流量の著しい増加で、これによって下流に危害が生ずるおそれがある
ものを含む。以下次条において「ダム放流」という。)の開始の少なくとも 1 時間前に、
別表第 1(一)欄に定めるところにより行うものとする。
2
前項の通知をするときは、○○地方建設局長(以下「局長」という。)に対しても、別
表第 1(二)欄に定めるところにより、河川法施行令(昭和 40 年政令第 14 号。以下「令」
という。)第 31 条に規定する当該通知において示すべき事項と同一の事項を通知しなけ
ればならない。
3
発電所の放水口からの放流によって下流の水位の著しい上昇が生ずると認められる場
合において、これによって生ずる危害を防止するための必要があると認められるときは、
前 2 項の規定の例により通知しなければならない。
(解説)
1.本条は、法第 48 条及び施行令第 31 条の規定にもとづき洪水吐ゲート等からの放流によ
る危害防止のため放流の際に通知すべき関係機関、通知すべき場合、通知の時期及びそ
の方法を規定している。
2.第 1 項は、第 11 条の規定により放流を行う場合及び放流の途中で放流量を著しく増加
する場合は、ダムからの放流水が通過する地域を管轄する都道府県、ダムからの放流に
よって河川の水位の変動に影響を及ぼすおそれがある河川の区間に沿う市町村及び当該
地区を管轄する警察に対し 1 時間以上前に(イ)ダムを操作する日時、(ロ)その操作によっ
て放流される流水の量又はその操作によって上昇する下流の水位の見込みを通知するこ
とを規定している(施行令第 31 条)。
別表第 1(省略)
第 2 項は、関係機関に対し前項の通知をするときは、同項と同一の内容の通知を河川
管理者である○○地方建設局長に対しても行うことを規定している。
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第 3 項は、ダム放流以外の発電放流についてもこれによって下流河川の水位が急激に
上昇するおそれがある場合には、洪水吐ゲート等からの放流を行う場合と同様な措置を
とることを定めている。
3.関係機関に対する通知は、放流の途中において放流量を著しく増加させる場合にも行わ
れることとされている。洪水時におけるダムの操作状況等を伝えるダム情報は、ダム下
流地域の防災活動を実施するうえで極めて有用なものであるので、地元関係者と十分協
議を行い、地元の意向を取り入れて具体的に通知の実施方法を定め、観測の結果、当該
ダムの操作状況、その後の見通しなどの情報の連絡がすみやかに、かつ、的確に行われ
るように努めなければならない。
この場合、ダムの操作状況の通知は、ダム放流量だけについて行うとダムが洪水を起
こしているかのように受け取られる向きもあるので、必ずダム流入量,ダム調節量,ダ
ム放流量の順に伝えるよう実行すべきである。
4.別表第 1 の例示で、関係機関に対する通知の方法を「加入電話」としているが、加入電
話は台風などの異常気象時において通信回線の容量の不足、通信施設の被災等により通
知不能になることが多々見受けられるので、不測の事故時等を考慮して、風雨及び出水
によって被災しないような通信系統の確立が望まれる。通信施設はできるだけ専用無線
とすべきであるが、有線の場合には暴風雨時の断線等を考慮して系列とする。
注)1.この通知、通報に係る処置は次条の一般への周知のための処置と併せて、ダム
管理上最も重要なものであるので、便宜のため通信連絡系統図を作成しておくべ
きである。
2.ダムの下流に別のダムが存する場合は当該ダムに対して通知するものとし、第
2 項の○○地方建設局長のあと及び別表第 1(二)欄の○○地方建設局長のあとに○
○ダム管理主任気受注者を付記する。
(放流の際の一般に周知させるための措置)
第 15 条 法第 48 条の一般に周知させるため必要な措置は、ダム地点から○○地点まで(貯
水池からの最大放流量が○○m3/s をこえるときは、ダム地点から××地点まで)の○○
川の区間についてとるものとする。
2 令第 31 条の規定による警告は、
別表第 2 に掲げるサイレン及び警報車の拡声機により、
それぞれ次に掲げる時期に行うものとする。
(1)ダム地点に設置されたサイレンによる警告にあっては、ダム放流の開始約○○分前に
約○○分間
(2)ダム地点以外の地点に設置されたサイレンによる警告にあっては、ダム放流により当
該地点における○○川の水位の上昇が開始されると認められる時の約○○分前に約○
○分間
(3)警報車の拡声機による警告にあっては、前項の区間に含まれる各地点について、ダム
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放流により、当該地点における○○川の水位の上昇が開始されると認められる時の約 15
分前
3
発電所の放水口からの放流によって下流の水位の著しい上昇が生ずると認められる場
合において、これによって生ずる危害を防止するため必要があると認められるときは、
前 2 項の規定の例により警告しなければならない。
(解説)
1.本条は、河川法第 48 条、同施行令第 31 条、同施行規則第 26 条の規定により行う一般
への周知について具体的に明らかにするものであり、水泳,魚釣り,キャンプ,砂利の
採取等を行っている人々がその土地のものでなくても危険を知って十分余裕をもってそ
れを避けうるための連絡の方法として、警告を行うためのサイレン、警報車等の構造又
は能力とその吹鳴広報等の時間的及び場所的内容を規定している。
一般に周知させる方法として施行令第 31 条では立札による掲示を行うほか、サイレン,
警鐘,拡声機による警告を行うこととされている。
2.第 1 項はダムからの放流の程度に応じて下流河川水位に対する影響を検討し、ダム放流
量の大きさによって警告を行うべき場所をダムからの距離を基準としてあらかじめ決定
している。
第 2 項は必要個所に設置されたサイレンを鳴す時間をダム地点と下流地域とに分けて
定めている。ここの○○分は放流開始又は水位の上昇が予定されている時から前で、そ
の危険から余裕をもって退避できる時間として約 10 分を考えている。又その継続はそれ
ら危険な現象が起こると思われる直前まで必要である。吹鳴の方法については河川法施
行規則第 26 条に規定されている通りとし、そのもつ内容については立札その他によって
十分一般に周知せしめておく必要がある。
別表第 2(省略)
なお、施行規則第 26 条に例示されている立札のほか、子供達が水遊びや魚釣りなどに
興じる場所には子供向けの立札をたてることが望ましい。
また、警報車の拡声機での警報は、サイレンによる警告を行う地域に対して、放流並
びにそれによる河川の水位の上昇の程度等、できるだけその危険の内容を周知させるよ
う、約 15 分前くらいに行うことを規定している。
第 3 項は第 14 条における通知の処置の場合と同様、ダム放流以外の発電放流について
も下流水位の急激な上昇が考えられる場合については同様な処置をとることを定めてい
る。
注)この一般への周知のための措置についても実際の運用上の便宜のためその警報の
系統、内容、地域等及び警報車の巡回経路、時間的条件等を盛り込んだ警報系統図を作
成しておく必要がある。
3.サイレン等による警告については、もっぱらサイレンによる方法がとられてきたが、①
騒音公害、②マイカー普及時代の警告方法としては不十分(サイレン吹鳴後に放流があ
参考例題(3-6)
11/18
ることを知らずに河川に入る人がある)などの理由により、きめ細かな事故防止対策が
求められている。
この対策としては、サイレンのほかにスピーカー装置を併設し、①平常時のダム放流
にはスピーカーを使用、②洪水時におけるダム操作の際にはサイレンを使用するほか、
スピーカーにより音声で地元民にダムの様子を知らせるなどの使い分けが望ましい。
このほか、特に水泳、釣あるいはキャンプの適地や河川公園等のように人の集まる場
所には、ダム放流が行われていることを継続的に周知させるための表示装置等の設置も
必要である。
4.一般への周知については、従来は、ダム放流開始に先だって行われる警告にとどまって
いたが、最近では、洪水による出水の際には放流開始後においても地域防災の見地から
洪水の状況に応じて適時警告すべきであるとの要望が強い。この要望に応えるため、そ
の実施方法について関係市町村と協議しルール化しておくことが望まれる。
なお、ここで用いた資料を列挙すれば、次のとおりです。
(1)国土交通省所管ダムの操作規則及び操作細則に関する記載例について
(国河環第 79 号 国河治第 171 号 平成 13 年 11 月 28 日)
(2)〔参考〕多目的ダムの操作規則の解説(河川局開発課 昭和 41 年 7 月)
(3)〔参考〕大雪ダム操作規則(解説)
(4)〔参考〕ダム操作細則作成要領(案)
(5)河川法第 2 章第 3 節第 3 款(ダムに関する特則)等の規定の運用について
別添第 1 標準操作規程(最終改正建設省河政発第 68 号 昭和 51 年 10 月 26 日)
(6)〔資料〕ダムの標準操作規程の解説
これらは、いずれもダムの管理 例規集(平成 18 年版)に収録されています。
操作規則「放流の原則」の条文については、無効放流に対する規定のある旧規則(2)に
対して、その後の(3)ではこれを削除しており、記載例(1)は(3)と同一の内容となっ
ています。したがって、「急激な水位の変動」に関わる部分については、記載例(1)は従
前と全く同一で変更はないものと思われます。しかし、操作細則「放流の原則」について
は、記載例(1)は旧細則(4)と条文の基本となる構成は全く同一ですが、その内容は大
幅に異なります。
これは、操作規則「放流の原則」の(3)に示される解説でも明らかなように、「放流の原
則」は洪水時を含むすべてのダムからの放流を適用の対象とし、細則(4)は洪水時を含む
条文となっています。これに対して、記載例(1)では、細則第 7 条の表に示される放流の
直前における放流量は 300 m3/s までであり、この流量は記載例の想定ダムの洪水調節図に
よればこのダムの洪水量ですから、この細則の記述は、洪水時を除外していることになり
ます。
参考例題(3-6)
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この記載例(1)の取り扱いは、同様に洪水時を除外している操作規程(5)あるいは(6)
と同一と言えます。ただし、操作規程では、第 22 条(洪水時における措置)の条文におい
て「ただし、貯水池からの放流は、下流の水位の急激な変動を生じないため必要な最小限
度において、その急激な変動を生じないようにしてすること」の規定があります。また、
この解説には、「貯水池からの放流は、下流における水位変動による危害防止上定められて
いる第 12 条の規定(操作規程の「放流の原則」の規定)どおり放流できないときでもその
はずれが最小限度となるように注意して下流河川の水位の変動が急激にならないように行
うことを規定している。」とあります。
洪水時を除外している記載例(1)では、この規定あるいは努力すべきことの記述が欠落
しています。
記載例(1)の第 7 条を従前と同一の規定とするためには、2 つの方法が考えられます。
その 1 つは、表の放流量の範囲をこの例では計画最大放流量の 2,100 m3/s とする案です。
2,100 m3/s とすれば少なくとも従前と適用範囲は同一となりますが、操作規程とはやや内容
の異なる規定となります。
操作規程と同一の規定とするためには、第 1 項を非洪水時、第 2 項を洪水調節ただし書
き操作を含めた洪水時、第 3 項をその他とする案です。この場合には、次のようになるも
のと思われます。
第 7 条 規則第 20 条の規定により、ダムから毎秒 300 立方メートルの水量を限度として放
流を行う場合において、・・・(以下同文)
2.所長は、第 15 条の規定により洪水調節を行う場合、及び第 16 条の規定により洪水調節
を行った後の水位の低下を行う場合においては、ダムからの放流は下流の水位の急激な
変動を生じないため必要な最小限度において、その急激な変動を生じないように行うこ
ととする。
3.所長は、気象,水象その他の理由により、貯留された流水がダムの堤体を越流すると予
想されるとき、又は、ダム本体及び貯水池等に異常が生じた場合、その他緊急かつやむ
を得ない場合においては、この限りではない。
ここでは、洪水調節ただし書き操作は計画された操作と考え第 2 項とし、第 3 項の緊急
かつやむを得ない場合からは除外しています。
第 10 条(放流に関する通知等を行う場合)の記載例(1)については、第 3 号と第 5 号
について確かめる必要があります。
第 3 号の「第 7 条第 1 項に規定する基準を超えて放流するとき」については、第 1 項の基
準はゲート操作の最小時間間隔 10 分に対する規制値ですから、この規定では従前の 30 分
を 10 分単位に変更したことになります。現行では、この規定は(4)に示されるように、
30 分につき例えば 30 cm 以上の水位変動が生じると予想されるときとなっています。現在
参考例題(3-6)
13/18
のダム操作規則あるいは操作規程はすべて 30 分を 1 単位としていますから、もし、この慣
行を積極的に変更する意図であれば、この変更を必要とする主旨について入念な説明が必
要になるものと思われます。
つぎに、記載例(1)の第 5 号「その他」については、内容から考えて洪水時を含めて想
定したものと推測されますが、洪水時については放流量の範囲が明らかですから、単に「下
流に急激な水位の変動を生じると予想されるとき」とすべきではなく、急激な水位の変動
に対して基準となる値を与えておくべきです。
記載例(1)のこの規定は、第 7 条を(1)非洪水時,(2)洪水時,(3)その他とする場
合には、次のようにすべきです。
1.コンジットゲートから放流を開始するとき
2.クレストゲートから放流を開始するとき
3.第 7 条第 1 項の規定により放流を行う場合において、ダム下流に 30 分につき○○セン
チメートル以上の水位変動が生じると予想されるとき。
4.第 7 条第 2 項の規定により放流を行う場合において、ダム下流に 30 分につき○○セン
チメートル以上の水位変動が生じると予想されるとき。
5.第 7 条第 3 項の規定により放流を行う場合において、下流に急激な水位の変動が生じる
と予想されるとき。
この第 3 号の「30 分につき○○センチメートル以上」については、基準となる値が放流
量により異なる場合には、例えば「30 分につき放流量が毎秒 150 立方メートル未満につい
ては 30 センチメートル、毎秒 150 立方メートル以上 300 立方メートル未満については 50
センチメートル以上」となります。
また、この 3 号の規定は、10 分に対しては基準を満たしますが、前 20 分の放流量が基準
を超えるため、結果として水位の変動が急激になる場合と、第 7 条第 1 項のただし書きに
よる放流で、10 分に対する基準を超え、かつ 30 分に対しても水位の変動が急激になる場合
とが想定されます。
第 4 号の「30 分につき、○○センチメートル以上」については、放流量が計画最大放流
量以下である場合と、これを超える場合とにわけて考える必要があります。このため条文
は、例えば「30 分につき、放流量が毎秒 300 立方メートル以上、2,100 立方メートル以下で
は 100 センチメートル、毎秒 2,100 立方メートルを超える場合には 50 センチメートル以上」
となることが考えられます。洪水調節が規定された方法に従いかつ貯水位がサーチャージ
水位に達しない場合には、許容値を大きく設定することは可能ですが、洪水調節ただし書
き操作が適用され、貯水位がサーチャージ水位を超え、かつ放流量も計画最大放流量を超
える場合には、水位の変動に対する危害の発生も非常に敏感になるものと想定されますか
ら、許容値を小さくしてより注意を喚起する方向での措置が必要となるものと思われます。
なお、第 5 号については、ダムからの放流が計画的に行われる性格のものではありません
から、許容値を設定することは困難です。
参考例題(3-6)
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ここでは、細則第 10 条の構成を、ダムから放流を開始するとき(1,2),非洪水時(3),
洪水時(4),その他(5)に対する規定と分類して取り扱うこととします。
関係機関に対する通知は、記載例(1)についてはすべて放流を開始する約 1 時間前に行
うこととされます。これに対して、旧細則(4)では、大概(1,2)については放流を開始
する約 30 分前、(3),(4)については放流を行う 1 時間前、(5)については放流を行う約
30 分前となっています。ダム操作規程(5),
(6)では、
(1)~(5)に対して放流の開始の
少なくとも 1 時間前に行うこととされます。
関係機関に対する通知についての記載例(1)の規定は、旧細則(4)の規定を整理し、
操作規程と同一となるよう変更されたものと思われます。一般に周知させるため必要な措
置として行われるサイレンの吹鳴については、記載例(1)では、ダムに設置されたサイレ
ンは第 10 条の(1)~(5)の放流を行う約 30 分前に、ダム以外の警報所のサイレン等は
各警報所地点の水位が上昇すると予想される約 30 分前に行うこととされます。
細則(4)では、ダムに設置されたサイレンは、第 10 条の(1)~(5)に対して、放流
を開始する約 7 分前より吹鳴を行い、放流を開始する直前に吹鳴を完了させることが規定
されます。
ダム以外の警報所のサイレンについては、放流を予告する吹鳴と、水位の変動を警告す
る吹鳴とがあり、放流を予告する吹鳴については第 10 条の(3),
(4)に対しては放流を行
う約 1 時間前、
(5)に対しては放流を行う約 30 分前に行うこととされます。水位の変動を
警告する吹鳴については、水位の変動が生じる約 30 分前に行うことが規定されます。
一般に周知させるため必要な措置についての記載例(1)の規定は、従前の規定を整理し、
慣行を標準化したものと理解されます。記載例(1)では、ダムに設置されたサイレンのみ
が放流を予告する吹鳴を行い、ダム以外の警報所のサイレンは水位の変動を警告する吹鳴
のみを行うことになります。したがって、「放流の原則」を満たすとは、放流を行う前に関
係機関に対する通知を適切に行い、かつダム下流に急激な水位の変動を生ずることのない
ようにダムから放流することが大前提です。ただし、やむを得ない状況により下流に急激
な水位の変動が生ずると予想される放流を行う場合の「放流の原則」とは、放流を行う前
に関係機関に通知し、かつ実際に水位の変動が生ずる前に一般に周知させるための必要な
措置を講ずることができることです。すなわち、この通知と危害防止のための警告とが規
定に従って行うことができない場合には、下流に急激な水位の変動が生ずると予想される
ダムからの放流はできないことになり、下流に急激な水位の変動を生じない範囲での放流
のみが許されることになります。
記載例(1)の第 7 条において、洪水調節時を除外し、適用する範囲をこれ以外に限定し
ているのは、この理由によるものと推測できます。これは、洪水時には規定した洪水調節
の方法によって放流量が決定され、これをダムから放流することが規定されますが、この
放流が下流に急激な水位の変動が生ずると予想されるときは、通知や一般への警告の実施
状況によっては放流することができなくなる恐れがあるからです。しかし、河川の水位-
参考例題(3-6)
15/18
流量関係の一般的な性質から明らかなように、流量が大きくなれば水位の変動割合は徐々
に小さくなりますから、水位変動の許容値について十分な配慮を行えば、洪水調節時を除
外する必要はないものと判断されます。
記載例(1)の第 7 条では、第 1 項は非洪水時、第 2 項は異常洪水時その他となり、洪水
調節時の「放流の原則」について規定がないのは適切とは思われません。
関係機関への通知については、時間が適切で対応するのに十分な時間的余裕が確保でき
れば、その目的の大半は満たされるものと考えられ、放流予測が不十分で内容に多少の正
確さを欠くとしても、それを問われることは少ないものと思われます。これに対して、危
害を防止するための一般への警告については、これを適切に行うことは極めて難しいこと
と言えます。これは、警告は危害を及ぼす事象が生ずる前に適切に行うことが必要であり、
警告はそれが警告であると認識されなければ意味がないからです。
ダムからの放流を常に円滑に行うための方策として、一般への警告を乱発することが考
えられます。警告を乱発しておけば、放流に際してのこの制約から免れることは可能とな
りますが、反面警告としての有効性を損なうことになってしまいます。
警告として認識され、かつ有効に作用するためには、警告と危害を及ぼす事象との間の
相関関係が十分に有意であることが必要です。この目標となる有意水準については、ダム
下流河川の利用状況あるいは利用形態により当然異なることが予想されますから、ダム毎
に検討すべきものと思われます。
しかし、特徴として、ダム下流に急激な水位の変動を生ずると予想されるダムからの放
流すなわち記載例(1)の第 7 条第 1 項のただし書きが適用されるダムからの放流が必要と
なるのは、単発的ではなく、連続的に起こることです。これは、ダム流入量の変動割合が
急激であることに起因し、この変動割合が急激な水位の変動をもたらす場合には、この事
象は時間的に継続することを意味します。そこで、ここでは急激な水位の変動を生ずると
予想されるダムからの放流が必要となった時点で一般への警告を行うこととします。ダム
からの放流はこの警告の実施状況が適切である場合にはこの放流を行いますが、警告の時
間が不足する場合は下流放流制限を満たす放流とします。
一般に警告開始直後の 30 分間については、30 分間に行うべき警告がなされていませんか
ら下流放流制限を満たす放流となりますが、それ以後については下流に急激な水位変動を
生ずる第 7 条第 1 項のただし書きを適用したダムからの放流が可能となります。なお、危
害防止のための措置をこの要領で行う場合には、事象が連続的に起こることとなるため、
警告と危害を生ずる水位変動との間の相関関係を極めて高く保つことが可能となります。
急激な水位の変動を「30 分につき○○センチメートル以上」と規定する場合の下流放流
制限については、ここでは第 7 条第 1 項の基準を示す表を、これを導く算定根拠となった
水位-流量関係に逆算し、パラメータを放流量から下流水位に変更して次のように行いま
す。
30 分の水位変動の許容(規制)値を H a cm とし、20 分前のダムの放流量に対する下流水
参考例題(3-6)
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位を H( 20)、10 分前の放流量に対する水位を H( 10)、現在の放流量に対する水位を H(0)と
する場合、次に行うべきダムの放流量に対する水位が開操作(放流量増)の場合には、
H( 20)+ H a 、 H( 10)+ 2 H a 3 、 H(0)+ H a 3 のうち最も低い水位より高くならないこと、
閉操作(放流量減)の場合には、 H( 20) - H a 、 H( 10) - 2 H a 3 、 H(0) - H a 3 のうち最も
高い水位より低くならないことを下流放流制限とします。ただし、この放流制限を満たさ
ない場合であっても下流水位が放流量増では H( 20)+ H a より高くならないこと、減では
H( 20) - H a より低くならないことが満たされれば、警告が必要となる急激な水位の変動は
生じないものとして措置します。
細則第 7 条第 1 項のただし書きの規定については、同一の規定である標準操作規程第 12
条の解説にこのダム放流量の限度を求める算定式が示されます。
この算定式は、放流量の増分の限度をΔQo ( = Q 'o - Qo ) 、流入量の増分をΔQi ( = Qi 2 - Qi1 )
とすれば、ΔQo Qo = 2ΔQi ( Qi1 + Qi 2 ) と表すことができます。この解説では条文の「流入
量の増加率」をこの右辺のように取り扱っています。
ここで、現放流量 Qo が流入量 Qi1 に等しいとすれば、ΔQo とΔQi の関係は、
ΔQo = ΔQi ( 1 + ΔQi 2Qo ) となります。 Qo と ( Qi1 + Qi 2 ) 2 が等しい場合にはΔQo = ΔQi であ
り Qo が Qi 2 に等しい場合にはΔQo = ΔQi ( 1 - ΔQi 2Qo ) となります。すなわち、Qo = Qi1 のと
きΔQo < ΔQi 、 Qo = ( Qi1 + Qi 2 ) 2 のときΔQo = ΔQi 、 Qo = Qi 2 のときΔQo > ΔQi となること
を意味します。したがって、この算定式を用いる場合には、ただし書きを適用すると、ダ
ムからの放流が遅れ気味となる通常の場合は、ΔQo < ΔQi ですから、その遅れがさらに大き
くなることになります。逆に放流が先行している場合にはΔQo > ΔQi ですから、先行する度
合いはさらに大きくなります。これは、条文の主旨から考えて不適切です。
すでに、定水位制御の参考例題でも指摘したように、このただし書きは「放流量の一定
時間に対する増加割合は、流入量が当該放流量に等しいときの流入量の一定時間に対する
増加割合を限度とする。
」と解釈することが妥当なものと思われます。ここでは、この解釈
で第 1 項ただし書きを取り扱うこととします。
時間軸を分単位で現時刻を t = 0 とし、過去に向かって正とします。したがって、この座
標では現在から 10 分後は t = -10 となります。
第 1 項のただし書きをこのように取り扱うこととすれば、流入量が現時刻の放流量に等
しい時刻を t0 として、この場合の 10 分後に放流できる限度は t = t0 - 10 の流入量 Qi(t0 - 10)
となります。
流入量が 10 分前の放流量に等しい時刻が t1 である場合には、
放流できる限度は Qi(t1 - 20)
となります。流入量が 20 分,30 分前の放流量に等しい時刻がそれぞれ t 2 , t3 である場合に
は、10 分後に放流できる限度はそれぞれ Qi(t 2 - 30) , Qi(t3 - 40)となります。これは、10
分前の放流量 Q0( 10) の場合を例とすれば、放流できる限度を Q 'o として次のように説明され
ます。
参考例題(3-6)
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⎧
Qi(t1 - 20) - Qi(t1 ) ⎫⎪⎪
Qo( 10)
⎪
Q 'o = Qo( 10)⎪⎨ 1 +
= Qi(t1 - 20)
⎬ = Qi(t1 - 20)
⎪
⎪
Qi(t1 )
Qi(t1 )
⎪
⎩
⎭⎪
上式において、時刻 t1 は Qo( 10) = Qi(t1 )を満たします。また、この場合は操作規程解説の一
定時間は 20 分としたことになります。
ここでは、前述の 30 分前までの放流量を対象として得られた一定時間の異なる 4 種の放
流できる限度の値に対して洪水時もしくは ( dQi dt ) ( d 2 Qi dt 2 ) > 0 となる場合は 4 種のう
ちの最大値(流入量増)あるいは最小値(減)を用いることとし、それ以外は 4 種の平均
値を用いることとします。ただし、得られた放流できる限度の値が 5 分後の流入量の予測
値 Qi( - 5) を超える場合は、限度は Qi( - 5) とします。これは、放流が過度に先行するのを
避けるための措置です。
したがって、これを総括すれば、設定された目標放流量に対して次に操作すべきゲート
開度ステップを求める演算過程は、次のようになります。
1.目標放流量からゲート操作の必要性、ゲート開度ステップを変更することの必要性を確
かめる。
2.次に行う必要が生じたゲート操作がゲート開度ステップの時系列データと照合して、妥
当であることを確認する。
3.当該のゲート開度ステップの放流量が目標放流量の放流条件を満たすことを確認する。
4.この放流量がダム下流に急激な水位の変動を生じないこと確認する。
5.この放流量が第 7 条第 1 項ただし書きの放流できる限度の条件を満たすことを確認する。
満たす場合には、放流警報等の指示を行う。
6.関係機関への通知と一般への放流警報等が適切に行われていることを確認する。
この手順において、4 の下流放流制限を満たすことが確認できればこの過程はここで終了
します。また、6 の通知と警告が適切に実施された場合も終了することができます。それ以
外は、ゲート開度ステップを変更して 3 から繰り返します。
これらが、目標放流量から「放流の原則」を満たす操作すべきゲート開度を算定する過
程となります。
参考例題(3-6)
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