GKH021004 - 天理大学情報ライブラリーOPAC

55
「
福 島プ ラ ン 」 の再評価
一先人に 学 ぶ一
太
〔
要
田
耕
軌
旨〕 本稿は日本における英語教育史上-一
時期を画した 「
福島プラン」の再評価を
試みたものである。わが国の英語教育は明治以来さまざまな批判にさらされ,その都度
い くつかの改革案 ・改善案が提案されてきた。旧文部省は1
9
2
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年に Ha
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を招碑 し,英語教育の改革を委ねた。P
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6
年 まで滞 日し各種の改善 ・改革案
を発表,この影響を受けた若 き英語教師 (
新教授法の使徒)たちは各地で懸命に改革に
取 り組んだ。その中で磯尾哲夫を中心 として県立福島中学校 (
旧制)にて実施 された
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l
me
rの提唱する口頭教授法を,わが
「
福島プラン」 と称された教授プログラムは,P
国の歴史的,地理的,文化的風土に合わせて独白の立場から立案 ・応用 されたものであ
った。その特徴は徹底 したオーラル ドリルによる基礎固めから出発 し,読解 ・作文にい
福島プラン」は1
9
3
2
年から1
9
3
9
年ま
たる 4技能のバランスのとれた指導法であった。「
で続 き,長期間命脈を保ったとはいえないが,そこには今 日的視点からして今なお学ぶ
べ き教訓が多 くある。めまぐるしく変わる指導要領に振 り回されることなく,先人たち
の作 り上げた独創的な教授法から学びなお し,揺るぎのない永続性ある英語教育プログ
ラムを構築するために 「
福島プラン」の再評価を試みた。
〔
キーワー ド〕 福島プラン,P
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,口頭教授法,英間英答,スピー ド
1.序
1
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年文部省 は 日本の英語教育 を改善せ んが ため に英国か ら Ha
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rを招聴 した。
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年 まで滞 日し,その間幾多の改善案 を提 唱 し我が 国の英語教育界 に多大 な影響
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rの滞 日中に,その影響 を受 けて英語教育 の改革
を与 えた ことは周知の とお りであ るo Pa
に取 り組 んだ英語教 師たちの中に磯尾哲夫 を主任 とする若 き教員 たちがいた。 これ ら若 き教員
たちが福 島県立福 島中等学校 (
旧制) にて実施 した英語教育 は当時 「
福 島プラン」 と呼 ばれ,
全 国の英語教師か ら注 目を浴 びた。今で こそ福 島プランと言 って も, どの ような ものか見当が
つかない英語教 師は多いであろ う (
む しろ知 ってい る者 は限 られてい るであ ろ う)
。 しか し彼
らの活躍 した時期 は永 くは続か なか った (
1
9
3
0-1
9
3
7
) とはいえその内容 を今一度検討 し,そ
こか ら現在 に通 じる もの を受け継 ぐこ とは,英語教育改革の火 を継続す るとい う意味で重要で
ある と考 える。 と くに指導要領改定のたびに猫 の 目のご とく変 わる英語教育の実情か らして,
新 しきことばか り追い求めず過去 か ら学ぶ ことは必要である。以下において 「
福 島プラ ン」 と
はいか なる ものであったのか,そ して現在 の英語教育- の活か し方 について も併せ て考 えてみ
たい。
「
福 島プラン」が全国的に知 られる ようになったのは,1
9
3
3
年の第1
0回英語教授研究大会 に
56
天 理 大 学 学 報
9
3
4年 6月 8日,福 島で開催 された福
おける磯尾 と清水 の授業実演 によってである。 さらに翌 1
島県英語教育研究大会 にて さらに詳 しく公 開 された。 この とき資料 として謄写版刷 りに したパ
9
3
4年 7月 "
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ンフレッ トが配布 され, これが 1
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ntとして発表 された (
小篠 ,1
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5
)
。原文 は磯尾哲夫 と清水 貞助 が編纂執筆 した。
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nに収録 されている原文 と 『
斯 の道 ひ とす じに一一一 磯尾哲 夫教授 追
本稿 で は, この Bu
悼集』 (
三戸雄一編 ,1
9
6
9) に寄せ られた同僚 ・後輩教員 たちの想 い出 (
清水貞助 ,山口国松,
橘 正観),お よび小篠 (
1
9
9
5
)
,伊村 (
1
9
9
7)の著書 に もとづ き福 島プランの再評価 を試みた。
2.背
景
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rは来 日 (
1
9
2
2)以来,多 くの論文 を発表 し各地で講演 を行 うこ とによって,彼 の提
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d) を普及 し, 日本 の英語教育の改善 に努めた。その努力 は大
唱す る口頭教授法 (
体東京 を中心 とす る先進的な中等学校 レベルの諸学校で実現 を見 たが,それ をいわゆる地方の
県立 中等学校 にて実践 し,全 国の英語教 師たちを驚かせ たのが 「
福 島プラン」 であった。伊村
は,同プランを東京高師英語科出身の 「
新教授法の使徒 たち」 のあげた最大の成果である とい
4年 (
1
9
2
5
)東京高師 を卒業,九州 (
熊本,鹿児 島)の公立 中学
う。伊村 によれば磯尾 は大正 1
1
9
3
0)旧制福 島中学 に破格の待遇で招 かれた。そ して昭和 7
にて教鞭 をとった後,昭和 5年 (
午 (
1
9
3
2
)
,東京高師新卒業生清水 貞助 も同校 に赴任 した。その年の 6月,青木常雄が福 島中
9
3
2
) に よれ ば,磯 尾 主 任 の
学 へ 授 業 参 観 に訪 れ た。そ の 「
福 島 中学 校 参 観 記」 (
青 木 ,1
驚 く計 りに熱心 に,いか に も愉 快 そ うに教授 に当 って い る」 とあ り,
下 ,5人 の教 諭 は 「
1,2,3年生 は純然たるオーラル ・メソッ ドによる授業 を受 け,教師の浴 びせかける矢継 ぎ
早の英間に,生徒 たちは一斉 に, また個人で英語で応答 し,また速射砲 のごとき文型練習 に も
来て見 れば ます ます高 し
驚 くべ き速度で応答 した様 は壮観 であ った とい う。青木の驚 きは,「
富士 の峰」 との賛辞 に凝縮 されていた。青木の 「
参観記」が評判 を呼 び,全 国各地か ら参観者
1
9
3
3)の第1
0回英語教授研 究大会 (
東京) にて公
が押 し寄せ, これが契機 となって昭和 8年 (
1
7名),清水 は 2年生 (
1
5
名) を連 れて公 開授 業 を
開授 業 となったのである。磯尾 は 4年生 (
0
0名近 く大変 な盛 り上が りをみせ た。英語科 の
行 い参観者 に多大な感銘 を与 えた。参観者 は6
生徒 たちは経費 の加減で クラス全員の参加 はで きなかった とある。
では磯尾 たちの 「
福 島プラン」 とは どの ような ものであったのだろうか。その概要 を小篠 ,
伊村 らを参照 しなが ら以下述べ るこ とにす る。
3. 「
福島プラン」の概要
原文は Th
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zuと題 されてお り,英語教授研究所 (
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ntとして掲載 され,下記 の項 目か らなっている。総論 は清水 が各論
1
0
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1
9
3
4)の Suppl
は磯尾が執筆 した。本稿では主 として上記原文の第六章 まで に焦点 を当て福 島プランの特徴 を
検討 してみる。原文の概要は以下の とお り。 なお実際の授 業計画案 を,現場英語教員向けの具
体 的指導案 (
Appe
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xI)か ら再録 し,その内容 を も p.
1
5以下で示 した。
Ⅰ.Ai
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rの通称 Te
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4:英語教授研究所) といわれている もの を
採用)
「
福 島プラン」の再評価
57
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3. 1 それでは Ai
m の項 目から膜に見てみよ う。
3. 1. 1 A
i
m:(目的)
福 島中学校 における英語教 育の 目的 は,英語 (
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nな らびに wr
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n)の実用的運用力
をつけさせ,これによって英文学 を学 びこれを鑑賞する力 をつけさせること。それ とともに上
級学校 (
旧制高校 など)への受験の準備 も怠 ることな く, また他教科の学習時間にも影響 を及
ぼさぬ こと。
3. 1. 2 Axi
o
ms (
指導原則)
ここでは Pa
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me
rの提唱する Te
n Axi
o
ms がそのまま採用 されているoそ して上記 1
0原
則 に対応 して英語授業の一般原則が, さらに1
0項 目に分かれて具体 的に述べ られている。以下
略述する。
この1
0項 目の内容は,英語教育学 という分野が出現 している現在か らして も,これ以上望 む
ところはないほどである。 まず音声か ら入 り, しか も体系的に聞 き方 と話 し方 を充分 な反復練
習 をとお して行 ない,教材はすべて音声で理解 してか ら目で確認する。文法の教 え方は帰納的
に,後 に Fr
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sが提 唱 した Or
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eの原型が置換表
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e) と してす で に出現 してい る。 も と よ り置換 表 に よる文 型 練 習 は
Pa
l
me
r直伝であるが,機尾たちはそれを踏 まえなが ら応用 したのである。 と くに教材の順序
立てに留意 し,初期では語嚢の負担 を軽 くして,音声 と基本文型の習得 に専心する くだ りは,
その まま Fr
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45)に受け継
が れ て い るか の観 を呈 す る.第 二 次 大 戦 後 日本 の英 語 教 育 界 を席 巻 した Fr
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58
天 理 大 学 学 報
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rの 日本 で の業績 に,Fr
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r こそ さ ま ざ まな文 型 練 習 の 産 み の 親 で あ り,実 践 者 で あ り,Fr
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rの各種の置 き換 え練習の一つ に過 ぎないことは,今 日だれ しも認め ざるを
得 ないところであるO
また訳読は,生徒が教材 を十分 に音声で阻噛 してか らのち, これを課す とい う指導法は, こ
れ を実施 している教師は現在 どれほどいるであろうか。英語の入門初期か らこれに徹 しておれ
ば,学級規模 など他の諸条件 に問題 はあるとして も,す くな くとも現在 の多様 な教育機器の発
達の程度か らして,入門期の音声指導に一貫性があれば英語教育 はもっと改善 されていたので
なかろうか。
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ここではさらに授業展開にあたっての留意すべ き1
0項 目が述べ られている。
a・さまざまな言語記号 (
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- を適切 な割合で教 えること。
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上
b.英語 は思考の道具であるか ら,生徒 に初期か ら英語で考 える,すなわち英語で思考 を形成
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h)がで きるようにすること。
すること (
C . 授業時 間は識別
・了解 (
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n)のみ な らず,主 と して連合 (
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n) ・融
合 (
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n)の作業 に注 ぐこと。そのために反復お よび復習練習 を十分 にすること。
d.生徒 をさまざまな言語使用の技能 に熟達せ しめること。
e.一次的技能 (
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)である聞 き方 と話 し方 を最初 に教 えること。音響 ・調音像
を作 り上げるべ く,学習初期 にあっては直接 口頭教授法 を広 く利用すること。音響 ・調音
像 を習慣化す るには発音 は極めて重要であるか ら,十分注意 を払 うこと。
f.二次的技能 (
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)である読み方 ・書 き方は,一次的技能 と密接 な関連の下
に養成することO主眼はたとえ読解 にあって も教材 はすべて 目に触れる前 に口頭で取 り扱
うこと。書 く作業は聴解 ・口頭作業 にて十分 に理解 した材料 にもとづ き行 うこと。すなわ
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e)-読解 ・作文- を識別 させ ること。
聴解 ・発話 を優先 させつつ諸感覚 (
g.翻訳 は二次的な技能であ り,同 じ内容 を二つの異なった言語で連続的に考 えることである
か ら,生徒が教材 を十分理解するまで控 えること。 ここでい う t
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nを磯尾 はつ ぎ
の ように定義 しているo (1)新出教材 を理解す る (
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n)ため に, 日本語 を用
いること。 (2) 日本語か ら英語-の作文練習O (3)英文 を日本語 にて表現すること。
h.発音は音響 ・調音像 を形成する上で大 きな助 け となるゆえ,体系的聞 き取 り ・発話訓練 は
最初か らカリキュラム上の重要な一部 を形成する ものである。
i,文法 は (
口頭)練習 を基盤 として帰納的に,かつ文型構文 と置換表 によって教 えること。
j.教材の順序立てに十分注意すること。 これによって語嚢の負担 を過大 にする
ことな く,
限定 された語桑 と易 しいテクス トを十二分 に活用すること。
上記に接 して,その優れた英語教育への取 り組み方 にわれわれは驚か ざるを得 ない。「
英文
学の鑑賞」が 目的の 1つに掲 げ られているのは,当時 として英語教師 として理想 とした ところ
世紀の視点か ら批判す るのは的外れである。それ よりも話 し言葉
であったろうか ら,これを21
・書 き言葉の両面 を等 しく重視 しなが ら,小篠 も指摘 しているように,当時の中学校の 目的の
「
福島プラン」の再評価
59
一つであった旧制高枚 などへの進学のために,他教科の授業時間に影響 を与えぬ よう充分配慮
していることも充分 に評価 しなければならない。
4.授業運営の組織化 (
Organi
2
:
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on)
ここでは,前述の一般原則 1
0項 目ならびに授業運営か ら教員の役割にいたるまで,1
1
項 目に
分 けて述べ られている。
まず第- に教師間の協調 ・共同関係が明確 に述べ られている。すなわち各教師は担当す るク
ラスの英語全体 について責任 を負 う。つま り 1週 5時間の英語授業は同一教師がこれを担当す
るとい うことである。 リーデ ィングの授業 と作文の担当教師は別人 とい うようなことは しては
ならぬ, ということである。上級学校への受験が近づいている学年では, リーディングと作文
は別教師 とい うことがあったのであろう。磯尾 はこれを戒めたのであった。教 師は担当 クラス
の英語授業すべてについて責任 を負 うべ Lとい う原則である。 きわめて当然のことである。 ま
た各教師は週 に一度 は公 開授業 を行 ない,他教師の批判 を仰 ぐこと。 これまた当然 といえば当
然であ りなが ら,実施するとなると教 師経験のある者ならばだれ しも感 じるとお り,非常 にた
め らうところである。 これを実施 したとい うことは教員全員の間で強い向上心が共有 されてい
た とい うことであろう。そ して重要な事柄は教科会議 に諮ること。そ して他校の授業参観 に出
かけることなど,全 くその態度 には頭の下がる思いがする。
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ngなるものを設定 し,生徒 は毎学期, リーディング,書 き取 り,請
つ ぎに 1
桑テス トのいずれかを受 けなけばならない, としている。 さらに毎月一回テス トを行い,クラ
ス内における相対 的評価 を知 らす こと。そ して特筆すべ きは,テス トはその学級 を担当 しない
教 師が作成すべ きこと, となっている。 これに耐 えうる教師が どれほどあるだろうか。授業担
当者 とテス ト作成者の間で 日頃 よほ ど綿密 な打 ち合 わせ を しないか ぎり,到底 な し得 ない業務
である。 これを敢 えて実行せ んとした ところに磯尾 たちの意気込みが感 じられる。
当時は旧制中学の時代であるか ら,生徒 は同世代 のエ リー トたちであったろう。その中か ら
また上級学校へ進むのである。当時の競争 と現在のそれ とを同一 レベルで論 じることはで きな
模擬試
いが,福 島プランにも進学希望者 に対す る特別授業への配慮がなされているO そ して 「
験」 をで きるだけ実施せ よと述べ ている。
さて教師の 日々の業務 について以下の ように述べ られている。 (1)生徒 か ら提 出 された質
問には授業開始以前 に答 えてお くこと。 (2) さまざまな教材 を 「
謄写版刷 り」で作成 してお
くこと。 (3)他 クラスの授業 を参観すること (
これは上ですで に述べ た)
。 (4) 日々のテス
ト答案の採点。 (5)一 日の授業が済んだ後, 日々の小 テス トで間違 った生徒 に再 テス トを行
う,あ るいは進度 の遅い生徒 や進学希望の生徒 に補習教材 を提供す ること, となってい る。
(
福 島中学では読解教材 の応用練習のためのプリン トを予め配布 してお き,生徒 はそれを全て
綴 じて授業 に持参 し,授業では指定 された箇所 について和訳 を含む応用練習 に励んだ という0
ちなみに福 島中学ではテクス トの全文和訳は行 わず,和訳 は定期 テス トの手段 として主 に用い
られた (
山口 1
9
69)
。
5.授業手順 に関 す る一般原則
(
Genera
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授業手順 の原則は,第 3項 目の一般原則1
0項 目をさらに説明 した内容 である。 まず第一 に
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」 とい うことが強調 されている。 これは,英語学習の最初か ら音声
6
0
天 理 大 学 学 報
を重視す る としなが らも,教材 を日で確 かめ,書 いて確認す る作業で以 って仕上げなければ,
聴覚 ・口頭練習で学習 した内容 は把持 されない とい う理 由で,音声練習一辺倒 を戒め,バ ラン
スの とれた学習方法 によって教材の定着 を図ること, としている。 これは当然の こととはいえ,
習得技 能の持続 ・応用の点か ら見て優 れた見識である。
そ して言語記号 (
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)-
語句,連語,文法事項,文型 な ど-
を徹底 し
た 反 復 練 習 に て, しか も多 様 な 方 法 を用 い て 行 う こ と を 強 調 して い る。教 材 の 了 解
(
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n) と融合 (
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n)にはさまざまな文脈 での反復練習が最 も確実 な方法である
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丘c
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。
n) と融
と説いている。 まさ しく時 を越 えて通用す る方法 である。 ここで了解 (
令 (
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n)い う概念 を磯尾 はつ ぎの ように説明 している。 これ らは Pal
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rの Axi
。
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て用 い られている用語 であるoI
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nとは学習事項 (
語句 ・文)の意味 をそれ と理解
して習得することである。意味の理解 には,初期 の段 階では,具体的な事物や絵 な どを利用 し
て,音声 を とお して行 う。そのあ と文字で確認する。 日本語訳 は ときお り,進度の遅い生徒が
教材 の意味がつかめない ときにのみ与 える。一旦訳語 によって意味 を理解 させ たな らば,その
あ とは訳語は使用せず,音声 とその意味内容 とを結 びつけるようにす る。単語 は絵 よ りも日本
語訳 による方が理解 し易い。そ して 日本語訳 よ りも実物 を見せ る方が理解 は早い。 また新出単
語 は文脈で示す方が効果的であ り,同義語,反意語,定義 による説明な ど適宜適切 な方法 を選
択す ることとしている。 こう して眺める と,外 国語教育の原理 は遥か以前か ら確立 されていた
ことが分 かる。昨今語嚢の教 え方 について さまざまなアイデ ィアが提案 されているが,それ ら
の原型 は磯尾たちの時代 にすでに確立 されていたのである。
了解 (
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n) と関連 して融 合 (
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n)の説 明 はつ ぎの よ う に な され て い る。
I
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nとはその語 を了解す るこ とであるの に対 し,f
us
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nとは言語記号音声-
た とえば
に接 してその象徴す る事柄 ・事物が即座 に頭 に浮かび, またその道 の過程 をも指す。
つ ま り言語記号 に接 して意味 を理解 し,表現 したい事柄が 目標言語で即座 に言 えることである。
そ して f
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nの過程 は i
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nのそれ よ りも,時 間がかか り,困難である。それゆえ耳,
口, 目そ して文字で書 く, これ ら 4つの作業 を繰 り返 して融合 に持 ってゆ く。清水 (
1
9
6
9) は
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n) をつ ぎの ように説明 している。「
従来の英語教授 法 は ともすれ ば,単 に意味 了
融合 (
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y)段 階 で 終 わ っ て い た が,福 島 プ ラ ン で は 全 学 年 を 通 じて Or
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解 させ る (
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nをは じめその他 の作業
を通 じて,金属 を溶接するように,英語 とその意味 を硬 く融合 させ る (
f
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e) ことに努力 を傾
けた」。つ ま り,生徒が 日本語で頭 の中で訳 (
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n) を しない ように,発話 の
速度 に注意 を払 うこと。了解 ・融合 は文法 について も同様 である とす る。
さらに福 島プランの特徴の一つは,授業活動の テ ンポの速 さである。青木はその素早い英 間
英答 に驚嘆 した。磯尾 はス ピー ドについて こう述べ ている。早 いテ ンポでの発話は限定 された
時間を活用するのに役立つ。 またそれによ り生徒 に日本語で頭のなかで訳 をす るの を防 ぐこと
がで きる と。ただあ ま りに も速い発話 は,生徒 の発音がお ろそかになる と戒めてお り, この点
は よ く分 かっていたのである。 とい うのは翌年全 国大会 (
1
9
3
3年)の公 開授業 を参観 した黒 田
(
伊村 1
9
9
7)は,教 師 (
清水)の英語が速過 ぎて,かつその教師の方言の靴 りに影響 されて内
容が理解 しに くか った と述べ ていた と評 していた。いずれに して も 「ス ピー ドは正確 さの不可
欠の一部 な り」(
Spe
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y.P.2
80,指導原則 5 :法令出版) と
磯尾 は述べ ている。
正確 さについてつ ぎの ように示 されている。最 も頻度の高い言語記号の正確 な習得 に最大の
「
福島プラン」の再評価
61
努力 を傾 けること。頻度の低い言語記号の間違い よ りも,基本的言語記号の正確 な習得が重要
である。易 しい (
基本的)言語記号 を正確 に習得す ることは,難 しいそれの習得 より重要であ
ると。生徒 の間違いを訂正す る際,過剰訂正 と訂正不足のバ ランスをとることo間違いを訂正
する場合,つねに教師が正 しい形 を示す よ りも,生徒 に自分で判断 させ,正 しい形 を発見する
よう奨励すること。 これは文型の習得 についてまさに卓見である。 この帰納的学習の重要性 は
Fr
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sの Or
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hで も,その後の Audi
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Li
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dで も強調 されているが・はる
か第二次大戦以前の時代 にすでに提唱 されていたことを確認 したいo外 国語教育 について新 し
く,かっ よ り効果的な ものは急 に現れて くる ものではないのである。 とにか く生徒はすべ て教
師に依存するのではな くて,それまでに培 った知識 を総動員 して 自分の発話 を自分で訂正する
学習態度 を身につけることによ り,その学習は さらに進歩す るか らである。 これは現在で も通
用する優れた指導態度である。なんで も教師か らの 「
正解」 を求めたがる学習者の多い現今,
心 して聞 くべ き提言である
。
また生徒 を指名 して作業 をさせ るとき, 1人 に 1分以上の時間を費や してはならない として
いる。 1人の生徒のために時間を浪費するのは,他の生徒 の練習時間を削ることにな り,単調
さがクラスを支配することになる。つ ぎつ ぎと生徒 を指名 し,作業に変化 をつけることが大切
であると述べている。
個人練習 と全体練習については,全体作業の方が時間を有効 に使 うことがで きるとし, また,
特 に初期の段階では, より効果的であるとい う。全体作業は進度の遅い生徒 に役立つが,進 ん
だ生徒 には刺激 を与 えないことがあるか ら,これにも注意 を払 うようにとしている。いつの時
代で も両者のバランスをとることは難 しい。近年の発達反別 クラス編成 はこれに対す る妙薬 に
なるであろうか。
授業の準備 と復習のために大いに謄写版刷 りを活用せ よとの下 りは, コピー機やパ ソコンの
なかった時代の教師たちの苦闘が しのばれる。連 日の謄写版刷 りの仕事 は,授業 に欠かせぬ教
材提供の上から実 に疲労 を伴 ったことであろう。橘 によれば謄写版刷 りは連 日深更 にまで及ん
だ とい う。
日々の授業では,書 き取 りによる語嚢テス ト,英間英答, リーデ ィングによる復習がなされ
ている。テス トは生徒 の学習 を促進することを目的 とし,意欲 をそ ぐようであってほならない
と説 く。定期テス トは学習内容全般 を測定 し,生徒の適性が発揮で きるよう等 しく機会 を与 え
るようにとしている。テス ト内容 は,容易 ・中程度 ・難度の 3段階にわけ, この順序 に もとづ
いて問題 を作成することとしている。そ して生徒の興味 を終始維持 し続けるために,学習作業
に変化 を持 たすこと,特定項 目に時間をかけ過 ぎないこと,生徒 自身に進歩 を実感 させ ること
が肝要であると結 んでいる。実 に配慮の行 き届いた指針である。
6.授業手順 (
Li
nesofApproach)
つ ぎに第Ⅵ項で Li
ne
50
rAppr
o
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hと題 して,つ ぎの1
0項 目に分 けて指導方法 を詳述 してい
ne
so
rAppr
o
a
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bこそ福 島プランの白眉 といえよう。 これを小篠 (
前掲書) を参照
る。 この Li
しなが ら検討 してみる。
6. 1 Fr
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学習の全過程 を通 じて,音声 と意味の連合 をはかることに意が注がれている。それを達成す
る最 も簡単 な,且つ 自然な方法は教師が生徒 に英語で話 しかけることであると。教師はいろい
6
2
天 理 大 学 学 報
ろな身振 り ・動作 などを示 して英語で話す○最初,生徒 は音声 と意味 とのつなが りは漠然 とし
た ものに しか感 じないであろ うが,教師 もさまざまな実物,絵,行動 を示すことによ り,だん
だん学習が進むうちに文脈の助 けによって,生徒 は音声の意味するところが分かって くる。 こ
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nを行 うことにより生徒の音声の
の積み重ねによって,読み物 に入るときに Or
聞 き取 りが向上するのである, とする。Or
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o
nの有効性 ははるか以前か ら言われ
なが ら, これを長期 間にわたって実行 した教 師の数は,極めて少 なかった と言わざるを得 ない
のが, 日本の英語教育の実情でなかったか。筆者 自身 も己 を省みて申 し訳 ない と思 う。or
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nを行 うことによって教 師 自身,簡潔 に教材 を口頭 で もとめ発表する力がつ くの
である。Or
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i
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nは教師,生徒 の両者 に益するところ非常 に大 なる指導方法である
ことは,今 も昔 も変 わらない。ただつ ぎつ ぎとめまぐる しく変わる指導要領 に振 り回される現
在の中学 ・高校の英語教師の苦衷 は, とくに近年の文科省 の一貫性,持続性のない政策 を考慮
してみれば同情 に耐えないの ものがある。当時は指導方法などについて,現在 よりも教師の創
意工夫 に裁量の余地が認め られていたことは磯尾 たちの活動か ら充分察せ られる。
6. 2 Fr
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上記の ように して音声 と意味の連合 をはか りなが ら, さらに多読によってこれを強化する活
動 を機尾は Fr
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nとして奨励 し,生徒の語嚢が定着するのはこの作業によ
ってであるとしている。
6. 3 I
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また音声 と意味の融合 を確立する方法 として,命令文 による ドリル (
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)が
提示 されている。これは教師が学習段階に応 じて,英語で命令 を発 し,生徒がそれを行動で示
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nsである。これ も学習が進 むにつれて,早
す練習である。いわゆる Eng
純な命令文から複雑 な行為 にいたる命令文へ と段階を追 って実施するように設定 されている。
l
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rの教材 を踏 まえての ものである。 この練習の特徴 は一つの命令文か らつ ぎ
これは勿論 Pa
の命令文へ と,その命令する内容が関連づけ られてお り,一連の文脈上関連ある言語活動 とし
て出来上が っていることである。戦後一時脚光 を浴びた Fr
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e
sの Pa
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eは構造言語
学 による理論武装 は していたが,それに対する批判の一つ に Pa
t
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eでは練習文相
互の間に文脈上何 のつなが りもない ということであった。
これ か らす る と,pa
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lあ るい は そ の指 導 に従 って編 纂 され た
Ke
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rdの Thi
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三部作) に見 られる,英間英答練習は,練習文相互の間で
脈絡上つなが りがあ り,優れた教材であった。現在 この Thi
nki
n
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nEn
gl
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hを用いている教
師は どれほ どいるだろうか。つ ぎつ ぎと新 しい理論 を追いかけ,新機軸の教材 を市場 に出す よ
り,優れた教材 を徹底 的に活用す ることが最大の教育的効果 を生む と筆者は確信するのだが。
口頭練習 をとお して文法 を教 えるのに,これは じつに優れたテクス トである。同書に次例の よ
うな文例があったように記憶 している。
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「
福島プラン」の再評価
63
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見事 なつなが りの英間英答練習である。前述 した とお り戦後 日本の英語教育界 に導入 された
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hは,その Pa
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eで もてはや されたが ,1
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年か ら1
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3
6年
l
me
rの 日本での業績 に,充分 に目が届かなかったので ないか と思 われる。Pa
l
me
r
までの Pa
こそ さ ま ざ まな文 型 練 習 の考 案 者 で あ り,実 践 者 で あ り,FI
i
e
sの Pa
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r
n Pr
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eも
pa
l
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rの各種の置 き換 え練習の一つに過 ぎないのは,だれ しも認め ざるを得 ない ところであ
る。 とくに文脈上つなが りのある英間英答練習は Fr
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sの Or
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1Pr
ac
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i
c
eには欠けていること
l
me
rを応用 した磯尾 たちの指導法は見事である。
を考 えると,Pa
6. 4 Pronunci
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福 島プランでは音声がなによりも重視 されている。その習得のために音声学の知識 に もとづ
く聞 き取 り ・発話練習が組み込 まれている。音声記号 も当然習得すべ きもの とされている。当
時は Jo
ne
sの音声記号が一般 的であったゆえそれが採用 されているO そ して母音,子音 など
きちん と順序立てされた音声指導がな されていた (
山口)。 また音声記号 による教材 の提示 も
あったようだ。これは Pa
l
me
rの著作,たとえば A GT
,
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Spo
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h(
1
924)の
例文はすべて音声記号で,抑揚記号 もつけて示 されていたが,それに倣 ったのであろう。そ し
ne
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cdi
c
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o
nなどさまざまな練習方
て体系的聴 き取 りお よび発話練習 をお こなうために pho
法が採用 された。口形図を用いての練習 も提案 されている。 また各母音に番号 をつけ,教師が
番号 を指示すると生徒 はそれに該当す る母音 を発 した り,また逆 に教師の発する母音 を生徒が
番号で示 し,母音の識別 ・発声 を確実 にす る技法が探 られた とのことである (
山口)。音声練
lue
nc
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i
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eに集約 されている。f
lue
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eとはその名の とお り流
習は最終的には f
暢 に英文 を発する練習であ り,話 し方 ・読み方の予備 的段階の訓練である。その指導技術 の一
つにC
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Z
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ngとい うのがある。口馴 らし ドリル と名付 け られている ようである。英文全体
な り意味単位 をひとまとめに して流暢 に発する練習である。昨今声 に出 して読みたい英文 など
とい うことが よくいわれ,そのための教材が多種出回っているようであるが,先人たちの工夫
me
r
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hi
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に接 して恥 じ入 るばか りである。語学学習については新 しさものはない (
ne
w unde
rt
hes
un.
) ことを思い起 こせば,今 日の音読教材 の異様 な流行 は我々に何 を迫っ
ているのであろうか。暗謂 な くして英語教育は成立 しないことは自明である。
6. 5 Ques
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onandn s
A
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re(
以下 QA作業)
l
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rの指導技術 の根幹 をなす もので,磯尾 たち もこれ を
英文 による質疑応答 ドリルは,Pa
柱 にさまざまな ドリルを提案 している。 まず Que
s
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r Pr
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c
e
dur
eとは何 を指
すのか,それを確認 し,ついで学習の どの段階で どの ように して行 うのか,教材 は何 を用いる
のかについて見てみ よう。
QA作業 は磯尾 によれば口頭教授法の中で最 も効果的な練習法 と位置づけている。す なわち
聴覚 ・発話訓練,流暢 さと口慣 らし,置 き換 え ・転換練習,理解 と融合訓練 など最 も多様性 に
富む言語習得技能を活用する作業 として位置づけている。す なわち読み方 ・作文の習得 にいた
る練習手順であ り,両方の技能 に熟達する重要な手順 としている。
QA作業は一般的に c
o
nve
r
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o
nとみなされる傾向が強いが,QA練習 は 「
会話」 とは全 く
異 なる もので,両者 を混同せぬ ように注意 をうなが している。「
会話」 とは社交的活動であ り,
思想や感情 を伝 えるコミュニケーシ ョン活動であると磯尾 は明言 している。現在で も QA練習
6
4
天 理 大 学 学 報
と会話ない しはコミュニケーシ ョンを混同する向 きがあるが,磯尾 は明確 に両者の相違 を指摘
し,QA作業の行 うべ き場 をつ ぎの ように示 している。
この手順の最重要な点は,教師の英語の質問に対 し,生徒 はその質問文 に含 まれている言語
材料 を用いて英語で答 えることである と。質問はつ ぎの ような ものであること。
まず応答は,質問か らす ぐにそれ と分かる易 しい もので,複雑 な判断,記憶,理解な どを含
む行為や,生徒の未知な言語材料 を必要 としない ものであること。生徒 は質問を理解 した ら即
座 に答 えること。 日本語 とのつなが り (
訳語)で理解 されるような言語材料 は用いないこと。
そ して視覚 をとお してのつなが りが少 ないほど QA作業の効果 は上がるとい う。生徒 は質問 を
耳 に してその言語材料 (
語句)が耳 に残 っている間にそれ らを用いて適切 な解答 を行 う。 した
がって質問文の語句 を活用 し,質問文 を置換 え,転換,完成,修正 して解答 を作成することが
QA手順の真髄 をなす ことになるのである。質問文の種類の中で s
e
que
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alg
r
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叩 Sと称 され
ている ものに注意 を向けてみ よう (
カ ッコ内の応答文は筆者)0
(1)
(2)
(3)
(4)
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)
この一連の質問はなかなか味 わいのある ものである。教 師は本 を教卓の上 に置 き, (1)の
質問 を発す る。ついで本 をその まま教卓 において (2)の質問に移る。 これは (1)の質問文
前 置詞) を問 う。
に対 し否定文 で応答す る こ とを狙 ってい る。つ いで (3)で本 の所在 (
(4)で何が教卓の上 にあるのか,話題 の中心 を問 う仕組みである。Pal
me
rの考案 したこれ
ら QA は非常 に多様 で さまざまな応答の仕方 を要求 しなが ら音声 による基本文型の習得 を目指
している。 これは理屈 による説明 よりも類似 の質問 を次 々と発することにより,生徒 たちに求
め られる文型操作 を聴解練習 をとお して自然 に,帰納的に身体で障えてゆ く方法である。磯尾
st
he bo
o
k
はさらに質問の形式 を直接疑問か ら間接疑問- と移行する手順 も用意 している。I
o
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‥‥とか Iwa
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okno
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.
.
.とい う質問形式で間
接的な応答の練習- と発展 させ ようとの工夫 もしている。
A手順 は単 に文型習得のみ を目指 しているのではな く,学習が進むにつれて読解教材
この Q
の理解度のチェ ックについて も用い られている。そ して生徒の進歩に応 じて QA は教科書の内
容 にのみに限定 されることな く,徐 々に自由度 を増 して自発的発話へ とつなごうとする工夫が
A手順の レベルを徐 々に上
なされている。 この初歩の段階か ら教材の程度 と内容 に応 じて,Q
げてい く技法 は,い まなお学ぶべ きところが多い。今 日どれほどの教員が この技法 を自覚 し活
A手順 については,稿 を改めてこれだけを独立 して検討する価
用 しているであろうか。 この Q
値があると確信する次第である。
6. 6 Readi
ng
読むこととは連続する音響 ・調音像 をその文字記号か ら瞬時 に正確 に理解することであ り,
辞書お よび文法書の助けを借 りて暗号解読的に意味 をとることではない, と定義 されている。
そ してス ピー ドが極めて重要であると言 う。初期 の段階では教材 は生徒がすでに音声で理解 し
ている語句のみか らなる ものを用い,後の段階では相当分量の新出語句 を含む教材 を用いるこ
と, としている。
読み方は精読 と多読 に分けられる。精読ではテクス トは Or
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n,それにもとづ
「
福島プラン」の再評価
65
く QA による質疑応答 とその後 に続 く文字 にて示 されている練習問題 によって徹底的にお こな
う。多読では言語記号 よりもテクス トの内容理解 に注意を払 う。生徒は多 くのページを速 く読
めるように励み,r
e
adi
ng s
pa
n(
一 目で理解で きる範囲)の拡大 に努める。黙読の段階 に入
る前 に音読の練習 を充分積 む。音読は語桑 を増やす最 も優れた方法であるか らだO
内容理解のチェックには, (
a)概 要 を日本語で言 わせ る, (
b)英語 に よる質疑応答 , (
C)
文 を意味単位 (
t
ho
ug
ht
uni
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) に分 け させ ること,お よび (
d)教 師が意味単位 を音読 し,坐
徒が黙読する,な どの練習方法がある。そ して me
nt
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r
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ns
l
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o
nの癖がつかぬ よう注意す
ること, としている。
6. 7 Di
ct
at
i
on
書 き取 りは,口頭練習を一次的技能 とす るとそれに次 ぐ二次的技能であ り,読み方 と相補的
関係 にあるとい う。書 き取 りは音声記号 または文字で行 う 2種 に分けられている。音声記号の
書 き取 りでは単音,連続音,単語,単語連結 を書 き取 る。受動的な立場か られば,書 き取 りは
聴取お よび理解の練習 とな り,表出面か らみれば正書法の練習 となるとしている。
書 き取 りの文章は初期の段階では 3-4行 を超 えてはならない, としている。学習段階の進
んだ レベルで も1
2
行以上超 えてはならない。教師の音読は自然かつなめらかで, 1秒間につ き
5音節の速度であること, としている。教材 は初期の段階では,既習の教材 を用いるが,後の
段階では逸話 などその都度適切 な教材 を用いることを勧めている。既習教材の書 き取 りは,内
容理解,語嚢習得,文法習得 な どの点か ら非常 に優れた練習方法であ り,外 国語教師ならばだ
れ しも心得ている筈の指導法である。書 き取 りは単 なる語句や文の聞 き取 りではな くて外国語
の総合的能力 を高める練習法であると同時に,それを測定する優れた評価法で もあることは,
01
1
e
rたちの研究 (
1
9
8
3)か らも明 らかである。
6. 8 Gr
ammar
磯 尾 は文 法 を次 の よ うに定 義 づ け てい る。す なわ ち文 法 とは短 い 言 語 単 位 (
s
ho
r
t
e
r
uni
t
s
)か ら出発 して よ り長い単位 に論理的に積み上 げてゆ く情報 を与 えるための,あ らゆる
指示,規則,図表 などの総体であると。 したがってい くつかの文法用語は品詞 を確認するため
に必要であるとしている。そ して語順が重要であ り,それは置換表お よび各種の分析表などに
よって教 えるのが最 も効果的である という。語法は教育ある母語話者のそれを正用法 とする。
,
文法の習得 は一連の規則の形式で教 えるのではな く 「
練習 によって」(
pr
a
c
t
i
c
eme
t
ho
d)
習得 させ るべ きで,そのために構文形成の規則 を示す範例文 (
s
ampl
es
e
nt
e
nc
e) を記憶 させ
mpl
es
e
nt
e
nc
e
ること。そ してそれ らを類推的に用いて他の文 を構成するように訓練する。Sa
とは最 も重要な構文パ タンを示 している文である。この点 に関 しては置換表 を利用 しての多量
の ドリルが効果的であ り,文法的説明が必要な場合, 日本語による説明を与えるべ きである と
している。
6. 9 Compos
i
t
i
on
作文は自由作文 と制限作文に区別 されている。 自由作文 は, さまざまな制限作文の訓練が充
分 になされるまで控 えるべ きである。初期の段階では作文練習は既習教材 にもとづ き行 うこと。
練習問題の大部分は直接教授法 タイプの ものであること。つ ぎの ような練習が示 されている。
(1) Co
mpo
s
i
t
i
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we
r
s
66
天 理 大 学 学 報
生徒 は文字で与 えられた質問に文字で答 える。
(
2) Compos
i
t
i
o
nbyCo
nve
r
s
i
o
n
多 くの同 じ (
あるいは多様 が 文 を与え,生徒 は指定 された文型 に転換す る。例 えば
1人称か ら 3人称へ,現在時制か ら過去時制へ,能動態か ら受動態へ など。
(3) synt
he
t
i
cs
e
nt
e
nc
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di
ng
ある文型 を与え,それを用いて同 じ,あるいは類似の文型の文 を作成 させ る。
(4) co
mpo
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i
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nbyCo
mpl
e
t
i
o
n
l語 ない しはい くつかの語 を抜いた文 を与え,生徒 は最 も適切 と思われる語句 を補 っ
て文 を完成する。
(5) Cr
it
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c
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s
mo
fFo
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黒板 に書かれた生徒の作文 をクラス全体で訂正 した り批評 した りして,適切 な英文 に
仕上げてゆ く。
(6) co
汀e
C
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no
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s
s
t
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t
e
me
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s
い くつかの不完全 な英文 を示 し,これを生徒 に訂正 させ る。
(7) Fr
a
mi
ngQue
s
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i
o
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予め与 えられた解答 を引 き出す ような質問文 を作成 させる。
(8) Exe
mpl
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丘C
a
t
i
o
ns
ある特定単語の さまざまな意味お よび相法 を例示するような英文 を書かせ る。 日本語
を英語 に直す作文練習はテス トの場合 をのぞいては勧め られ としている。
6.1
0 Tr
an$
l
at
i
on
ここでい う 「
翻訳」 とは新出語句の識別のための手引 きであ り, 日本語か ら英語へ,英語か
ら日本語への作文作業 をさす。次の ような指針が示 されている。
(1) 日本語の使用 は,理解の遅い生徒 には役 に立つ ことがある。
(
2) 生徒が和訳 に苦労 して時間を浪費する くらいならば,教師が適切 な訳 を与 える方が よ
い。
(3) 日本語の使用 により授業時間を不当に浪費 し,それにより英語の雰囲気 をこわ し 「
言
語感覚」 の発達 を遅 らせてはならない。
(4) テキス ト全体 を訳す必要はない。必要な箇所のみで よい。
(5) 生徒の翻訳作業は迅速 に,全体の意味が取れておれば訳文の質にこだわる必要はない。
7.福島プランの再評価
それでは 「
福 島プラン」 について,小篠 (
1
9
9
5)
,伊村 (
1
9
9
7)
,清水 (
1
9
6
9)
,橘 (
1
9
6
9)
,
1
9
6
9)やⅠ
.
R.
E.
T.
に当時掲載 された参観記 などを参照 しなが ら,その評価 を試みてみ よ
山口 (
う。
小篠 は福 島プランについてつ ぎの ように評 している。
すなわち 「
福 島プラン」 には少 な くとも 3つの教授法上の特徴があるとい う。 まず第 1に,
福 島中学校英語 コースは,組織的な,計画 されたコースであるか ら,教員たちは教授 目標, 目
指 している成果 について明確 に理解 していたこと。
第 2は英語科 コースを計画 した教員 たちは,授業 において最大限の時間節約の手段 と方法 を
追求 したこと。そのため教員たちは生徒 に瞬時の反応 を求めたこと。
「
福島プラン」の再評価
67
第 3は,言語教育のどの面 もおろそかにされてお らず・オールラウン ドな言語教育が実践 さ
c
o
de) と しての言語 も,4
れていた とい うこと。す なわちス ピーチ と しての言語 も,規範 (
技能を通 して,独創的な多様 な練習方法 によって教 えられていたことo多種多様 な多 くの練習
方法 を用いる理由は,一つ には生徒 にはいろいろの記憶の型があるので,耳 ・口 ・目 ・手のす
べての感覚 に訴 えること,一つには 4技能の能力 を養成す るためには,同時に多 くの方面か ら
1
9
6
9) はいうo
の学習することが有効であるか らであるだ と清水 (
以上の 3点に加えて,小篠は英語科 は他の教科の学習時間を奪 うことな く生徒 の進学入試 に
も配慮 しなが ら,英語の話 し言葉,書 き言葉の実際の運用力の養成 に努めていたことを高 く評
価 している。 また Pa
l
me
rの指導法の影響 についてつ ぎの ように述べているo
すなわち 「
福 島プラン」の中核 をなす第六章 Li
ne
so
rAppr
o
ac
bに詳 しく述べ られている指
導技法 には 「
Pal
me
rの技法 も一部含 まれているが,特 に Pa
l
me
rの技法が集中的に使用 され
ているという印象 を与 えるほどの ものではな く,Pa
l
me
r独 自の口頭練習指導法 と言われる も
のは I
mpe
r
a
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ve Dr
i
l
lぐらいの ものである」 と○ この I
mpe
r
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ve Dr
i
l
lは,山口 (
1
9
69) に
r
s
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fEn
gl
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s
h(
1
929)の最初の1
0
課が用い られた とのことである。
ょれば TheFi
ちなみに Pa
l
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rの The Or
alMe
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ho
do
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n
g Lan
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1
921
)や Thes
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ud
yandTe
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hi
n
go
fLan
gua
ge
s(
1
91
7)の中で紹介 されている数多 くの技法のほとんどは,
磯尾 たちのプランでは取 り上げ られていない と言って よい, とい うのが小篠の評である。ただ
「
pal
me
rの指導技法 を日本的 コンテクス トに合わせて修正 した もの もこのプランには存在す
るとい うことは注 目して よい」 と付言 している。「口頭教授法 も日本 的状況 に適応 させた形で
採用 されている,と言 ことがで きる」 としている。そ して小篠は外来の指導法 を採用する場合,
そのまま採用するのでな くて,その国の置かれている 「
地理的,歴史的,社会的条件 に規定 さ
れるその教科の教育 目的と目標 などを勘案 して修正 を加えて採用すべ きことを 「
福島プラン」
1
9
6
9) は 「
福島プランは従来の教授法の
は示 してお り,その見事 な実例であると言 う。清水 (
長所 をすべて採 り入れ,それを集大成 した ものである」 と述べている。わが国では,今 なお英
米で提唱 された指導法や指導技法 を追いかける傾向があるが,我々は 「
福 島プラン」の実践者
たちか らまだまだ学ぶ ところがある。
他方伊村 は評価 とい うより,青木や寺西たちの福 島中での参観記お よび全国研究大会での公
9
3
3) などを紹介 しなが ら,磯尾や清水 たちの授業振 りが どれほど参観者
開授業参観記 (
黒 田1
を驚嘆 させ たかについて述べ ている。た とえば公開授業の前夜,青木 は生徒 たちの宿舎 を訪ね,
非公式 に 4年生 に上級学校の入試問題程度の英文和訳 を 4題や らせてみたが,見事 な成績であ
ったとい う。当時オーラルでは英文読解力 はつかない とい う批判があったので,それ を確かめ
l
me
rと Pe
t
e
∫Rus
s
o(
東京高師付中)がオー
たかったのである。 また公開授業 を参観 した Pa
Ẁhi
c
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he丘氏hs
e
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no
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heye
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"とい うユーモ ラ
ラル ・テス トを試みた。質問の中に `
スな問いがあ り,生徒たちは面食 らったが, しば らくして "
Tbe
r
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sno
taf
i
f
t
hs
e
as
o
n.
"とい
う答 えが返って きた とい う。生徒たちにとって初めて耳 に した母語話者の英語であったが巧み
にこな したのである。
ではつ ぎに福 島プランか ら学ぶべ き教訓 を引 き出 し,それ を筆者の評価 に代 えたい。以下列
挙する。
(1) 福島プランでは誰を対象 として英語 をどの ように教 えるか, という視点が明確 に意識
されてお り,それを英語教員全員 に周知 させ実行 に移 していたこと。
(2) つ ぎにこれ ら生徒たちの必要に対応 して, きわめて適切 な英語教育 プログラムを立て,
6
8
天 理 大 学 学 報
具体的に授業指導法 に反映 させていたこと○つ ま り音声 中心による英語の基礎固めが綿
密 な教授 プランの下に用意 され,これを英語科教員全員が理解 し,実行 したこと。
(
3) 校長の配慮。青年教師磯尾 に全幅の信頼 を置 き全 てをまかせていたこと。当時は教員
の採用 ・給料 は校長の一存で決定 され,校長の裁量は大 きかった。
(4) 進学校であることに配慮 し,他教科の授業 に影響 を及ぼさぬ よう節度ある教育方針。
(5) 自己の英語能力の向上に生徒以上 に努力 した教員たち。た とえば清水貞助 も橘正観 も
赴任すると毎朝磯尾 と学校への途中英語で会話 を交わ し,口頭発表力 を高める努力 を続
けた 。
(6) 教員たちの労力 を惜 しまぬ 日々の勤務ぶ り。常 に謄写版 にて教材 を用意 し,授業の効
果 を高めようとしていた。今 日のようにパ ソコンが利用で きるわけでな く,すべて補助
教材 は謄写版刷 りに頼 らざるを得 なかった。教員たちの負担は大変な ものであった と思
われる (
下記の現場の一
一日を参照).ただ生徒 の生活指導 な どは,現今の教員のそれほ
どでなかったであろうか ら,教育一本 にエネルギーを注 ぐことが出来た と思われる。
(7) 授業の主体は生徒であることを教員たちはよく理解 していたこと。すべての生徒 に能
力に応 じた活動の機会 を与え,結果 を認め,褒め,励 まして成功感,進歩感 を与 え,自
信 と興味 と意欲 を持たせ ることに努 めた (
山口)。 したが って生徒 の心理面 に充分 に心
配 りをして授業 を行 うことが教員間で確認 されている。 これは教授法 にのみ焦点があて
られる傾向のあった 「
福 島プラン」か ら,教授法 に劣 らず学ぶべ き重要なことが らでは
なかろうか。
8.教案の実際
それでは 1年生の授業の様子 を Ap
pe
ndi
x Iに示 されている授業計画案 を眺め,その一端 に
I
s
o
o,1
934)
0
触れてみることにする (
Ap
pe
ndi
xI (
第 1期 :4-5月)
Ⅰ.クラス :1学年 C組
Ⅱ.授業時間 :5
0
分
班.教材 :第 8課 :題名 「
A Ja
pa
ne
s
eBo
y」 :文法事項 :現在時制 :一人称現在 (
肯定文 ・
否定文)
Ⅳ.本授業時の目的 :
(1) 発音表記 を読み,簡単 な英文 を口頭お よび文字にて再出 し,それの理解 に熟達 させ る
こと。
(2) 当該教材の新出語嚢 を教 え,その形態 と用法 について練習を積 むこと
。
V.授業方法 :
1,復習 :
a)音声 ドリル
b)前回の教材か ら 5単語 を選び音声記号で書 き取 らせる。
C)前回の教材 を音読で復習
d)前回の教材 について体系的な英問英答 をすばや く行 う。
e)暗請
f)口頭作文
g)命令文による ドリル (
全体および個人)
「
福島プラン」の再評価
6
9
2.新教材提示 :
a)自由聴覚同化練習 (
Fr
e
eAudi
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o
r
yA
ss
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a
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i
o
nPr
a
c
t
i
c
e
)(
絵,教師の身振 り ・動
作などを用いて)
b)赤チ ョークにて新出単語の板書
C)発音お よび口馴 らし練習
d)体系的な高速 (
Ra
pi
dFi
r
e
)英問英答
e)教師の範読 (
生徒 は教科書 を閉 じたまま)
f)教科書 を閉 じたまま教師のあ とについて音読,ついで教科書 を開いて音読
g)生徒だけによる一斉音読
h)指名生徒 による音読
i)理解上問題 となる箇所の説明
3.本授業内容の確認 :
a)教 師は重要な文章を 1文ずつ翻訳 し,生徒 はそれを再度表現する。
b)上達度の早い生徒 に音読 させ クラス全体がそのあ とについて音読する。
4.宿題の提示
普通の英語授業では一般 に新教材の内容理解 について, まず教師の範読があ り,次 に教師の
あ とについてクラス全体が音読する。ついで数名の生徒 に指名 して音読 させ,訳読 させ る傾向
がある。 これに教師は授業時間の多 くを費やす。 しか し 「
福 島プラン」ではそれがない。上記
にあるとお り高速英間英答で内容 を把握 させ るのである。そ して理解上の困難点は,授業の終
わ りあた りで 「内容確認」 として重要箇所のみ教師は訳 を与 えて生徒 に口頭で確認 させている
ことである。訳読 に頼 らず口頭練習で音声の習得,文法項 目の学習,内容理解 と,5
0分の授業
時間で こな してゆ くのである。
9.現場 の一 日
(あ る教 師 の回想 )
それで は福 島 プラ ンにそ って教 師 たちは どの ような 日々 を送 ってい たの か。「追悼 集」
(
1
9
6
9
)に寄せた橘の一文か ら眺めてみ よう。
橘 はある日, 1年 , 2年 ,3年の 3クラスを受け持っていた。教師は授業毎 に生徒一人ひ と
りにプリン トを 2枚用意するのが常だった。 1枚 は予習指導案, もう 1枚 は応用練習題である。
橘 日 くこの応用練習題が大変であった。深更 まで謄写版刷 りに追われることはざらであった。
当該授 業に教 える重要語句一々について,和訳練習用の応用問題 をい くつか作 る。大概 1枚 の
紙 に1
0題か ら2
0
題位作 る。 これを時間の終わ りに 5分か1
0分位で,生徒 にその場で和訳 させ る。
これが福島プランでい う翻訳練習である。一斉 テス トの ときに出す英文和訳問題 も,全部教師
が この ように して作製 した応用問題であった。教科書 にある英文 をそのまま和訳 させ るのは,
想起テス トであって翻訳 テス トではない とい う。各学年 3クラスに,中間 と期末考査以外 に,
随時一斉テス トを実施,上記 したように出題採点 ともに 3人の教師が共通 にこれに当た り,評
価の公正 を期 した。
1
9
6
9
)はつ ぎの ように記 している。
福島プランが採 った独特の手順 を橘 (
ドリルの中心は高速英間英答練習で, これは会話力養成のため というより,総合的な文型練習
と語嚢練習である。最終 目標 は音声 と意味の融合である。
(1) 毎時間の終 わ りに,教師自作 の応用練習題 1
0-2
0について,英文和訳練習 を行 う。
70
天 理 大 学 学 報
(
2) 毎時間の単語書 き取 りテス ト。
(3) 一 ケ月ごとの各学年一斉単語テス ト。1
0分 ∼1
5
分で5
0語出題。
(4) 3年生以上で速読練習, 1時間1
0ページ程度。
(5) 文法,作文は 3年生以上で,宿題,暗諦本位。
(6) 5年生で毎時論文体英文の暗語,この暗言
削ま口頭 によるもので,問答練習 をも併用す
る。
この訓練法は最初か ら一貫 した方針で教 師全員一致協力 して,は じめて実 を結ぶ方法である
と橘 はい う。 目による学習か ら出発 した生徒が途中からオーラル中心の学習 に移行 して も混乱
を生ずるだけであると。
橘 はさらに受験指導 について述べている。生徒 は 1年次か ら3年次 まで猛勉強 を強い られた
ので, 4年 , 5年では受験準備の補習 など全 くや らな くて もよい程度 に,生徒 に実力がついて
いた とい う。磯尾 たちが初めて担当 した生徒たちが 5年後 に旧制高校 を受験 したとき,好成績
を収めた とのことであった。橘 はさらに言 う。オーラル ドリルをやっていると受験指導がおろ
9
6
9年当時は支配的であったが,福 島プランはこの常識 を覆 した。
そかになる, という考 え方が1
1
0
.結
語
今か ら7
0年以上 も前 に 「
福 島プラン」 と言 う実 に立派 な英語教育 プログラムがあ った。Ⅰ
.
Ⅰ
.
,
)などの音声機器 もパ ソコンもコピー機 もなかった時代である。 この教授法か ら
ビデオ,DVI
学ぶべ きことはすでに述べ た。生徒の気質,社会的条件の違いなどいろいろ理由はあるが,請
学教育は音声か ら入 り基礎固めをす るとい うのが常識である。基礎がため とは音声 と意味の融
合 を文型練習によってかためることである。一時文法 を軽視 した りする向 きがあったが,今 ま
た英文和訳 と文法の習得 をやかま しく言 う動 きが見 られる。 この辺で 日本の英語教育 はもう一
度先人たちの知恵か ら学ばねばならない。行政は適切 な学級規模 の実現 と優れた教師の養成に,
教師は適切 な指導 プログラム と教材の作成,お よびそれ を用いた指導法の確立 に専心すること
である。新 しいことを求める必要なない。モデルはすでにあるのだか ら。
まず,あれこれ指導要領 を改訂するより持続性のある計画 を立てることが肝要である。担当
大臣が変わるごとに,教育政策が変わるようでは百年の計 は立たない。過去数年の文科省 の方
針の変更 を見れば,このことは明 らかである。文科相 をは じめ担当部署の責任者は次 々と変わ
,
,
り 「
ゆとり教育」 「
国際理解教育」 などと言い,基礎学力の国際比較の結果 に一喜一憂 し,
その結果 についてだれ も責任 をとらない。現場への配慮 な ど全 くない0「
英語が話せ る 日本人
,「英語公用語論」 とか,挙句 の果ては英語特区による全教科英語で教 える小学
の養成」 とか
校の設置 とか, きわめて節操のない教育政策が横行 している現在,我 々は もう一度歴史か ら学
びなおす必要がある。福 島プランか ら学ぶ事柄はすでに上述 した。ただ し 「
福 島プラン」 にも
改善すべ き点がないわけではない。橘 は教師の力量 によって生徒の成績が左右 される事実が露
骨 に出す ぎた きらいがあるとし,教育は 「
人」が行 うとい う理念 は大いに生か されなければな
らないが,同時に 「
組織」が教育するという面が今後 さらに研究 されねばな らぬ と評 している。
また教師の精神的 ・肉体的負担 もかな りなものであった と推察 される。永続的プログラム とす
るには,いつ もゴムをピンと張 ったような緊張感の連続では教師自身の心身の疲労は大変であ
ったろう。 これに対 して 「
福 島プラン」の長所 を活か しなが ら永続性あるプランを立案 したの
が 「
福 島プラン」 とほほ同時代 に実行 された 「
湘南 メソッ ド」である (
伊村1
9
9
7
)
。その最大
の特徴 は,いつで もだれで も実行で きる,音声中心の教授 プログラムをとの理念か ら出発 した
71
「
福島プラン」の再評価
ところ にあ った と言 う。本稿 で は 「
湘南 メ ソ ッ ド」 につ い て論 じる余裕 はない。機 会が得 られ
れ ば考 えてみたい。
参考文献
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福島中学校参観記』「
英語教育史資料」 2 (
東京法令出版
1
9
8
0)pp.4
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0月号 : (
大修館 2
0
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中教出版 1
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0)
伊村元道 : 『
パーマーと日本の英語教育』 (
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I
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TheFuhus
hi
T
naPl
aT
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hi
n
gET
l
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"Suppl
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.
RE.
T,No.
1
06(
1
934)
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開拓 杜 1
9
61)
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geTe
s
t
i
n
gRe
s
e
ar
c
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Ne
wbur
r
yHo
us
e1
983)
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Ha
r
o
l
d. E. Pa
l
me
rの英語教授法 に関す る研 究-
日本 にお ける展 開 を中心 と して
-』(
第一学習社 1
9
95
)
大村喜吉 ・高梨健吉 ・出来成訓編 : 『
英語教育史資料』仝 5巻 (
東京法令出版
1
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清水貞助 : 『
福 島プランの解説』「
期 の道 ひとす じに一一 機尾哲夫教授追悼集」 (
三戸雄一編 :開隆堂
出版
1
9
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2
2-1
2
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清水貞助 ・加藤寿雄 : 「
福 島プランと湘南 プラン」『
英語教育』 (1月号)(
大修館
高梨健吉 ・大村喜吉 : 『日本英語教育史』 (
大修館
橘
1
9
7
5
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正観 : 『
福 島プランと今後の英語教育』 (
上掲追悼集)p
p.1
31-1
3
7
山口国松 : 『
福島プランの実際』 (
上掲追悼集)p
p.1
25-1
31
山田雄一郎 :英語教育は どこで間違 うのか (
ち くま新書 2
(
泊5
)
1
9
5
9)