3-1-7 事 例

第
3部
「地域」を考える―自らの変化と特性に向き合う―
第1 節
事 例
3-1-7
株式会社ファーストインターナショナル
地域産業の仕組みを変えた地域商社機能を有する企業
青森県八戸市にある株式会社ファーストインターナショ
八戸市主催による台湾での商談会などに同行し、りんご
ナル(従業員 7 名、資本金 1,000 万円)は、1994 年に八
の取り扱いをスタートしたところ、台湾国内での需要の急
戸商工会議所の有志が中心となり、地元企業や個人の出
騰に伴い、輸出数量も年々増加していった。
資によって設立された地域密着型の貿易商社機能を持っ
需要の急騰に対応するための新たなりんご仕入先の確
た企業である。1994 年当時、八戸市は全国屈指の水産
保が急務となるなか、八戸市に隣接する南部町において
都市であったが、水揚げ量は昭和 60 年代の 80 万トンを
町をあげてりんご農家を支援し、組織化による輸出に向
ピークに減少に転じ、中心市街地には空き店舗が目立ち
けた取組が始まった。町の農林商工課が事務局となり、
始めていた。同時期に八戸港にシンガポール、香港、台
各農家に無理のない数量を割り当て、コンテナにまとめ
湾を結ぶコンテナ定期航路が開設されたことを受け、地
て出荷する手法をとった。同社は南部町と台湾の企業の
域の可能性を広げるために地元産品の輸出入を支援する
仲介を行い、農家向けに輸出用の選果や、箱のデザイン、
商社を作ろうと考えたことが設立のきっかけであった。
船輸送向けの梱包等の指導を行った。
同社は地元企業や地域住民の支援を受けてできた企業
南部町のりんご輸出事業の成功がきっかけとなり、同
であるため、地域から信頼を得ているだけではなく、八
社には各地から様々な果樹等の海外輸出への協力依頼が
戸市からも応援を受けているため、海外の取引先からも
来るようになり、現在では八戸港に限らず、東京や神戸
信頼を得ている。しかし、スタートから順風満帆であった
などの国際港を利用するなど、より広域的に地域の農産
わけではなく、会社設立当初は、社員の多くは貿易につ
物を海外に輸出する取組を行っている。現在はりんごだ
いてのノウハウを有しておらず、取引先のあてもない状態
けではなく、長芋、水産物などをアジア圏や北米を中心
であった。そこで八戸商工会議所を通じて、東京の大手
に輸出するほか、北米からは木材、建材、食品、家具、
商社経験者を役員に招聘してノウハウを蓄積するとともに、
水産品、雑貨など多種目を輸入するまでに事業を拡大し
地道な営業活動を開始し、会社設立約 1 年後にようやく
ている。従業員 7 名のうち 6 名は語学に堪能な地元の若
初めての商談が成立するに至った。
者を雇用しており、売上も順調に伸ばしている。
事業が転機を迎えたのは、2002 年に実施された、台
同社の吉田取締役は、「海外輸出のために必要な、販
湾の WTO 加盟に伴う、青森りんご輸入枠制限の撤廃で
路開拓や輸出手続き等を担う地域に密着した商社の力に
あった。会社設立当初から青森の名産であるりんごを海
よって、小さな農家で作られたりんごが海を渡った。地域
外に輸出することを目指し、生産者と地道に関係性を築
産業の衰退の打開策として地域密着型商社である当社の
いていた。そこで、台湾の WTO 加盟をチャンスと捉え、
役割は、今後益々重要になってくる。
」と語る。
中小企業白書 2015
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第1章
地域活性化への具体的取組
台湾・中国等向けのりんご
【事例からの示唆】
■成功要因
■地域資源の活用
-生産者と市場をつなぐ地域商社機能の重要性-
地元の企業や個人からの出資や行政からの応援による
本事例のように地域内外をつなぐ仲介者としての企業
地域密着型の商社という企業の形態が、地域内では顔の
は、広く市場を意識した取組により需要を獲得するととも
見える安心感につながるとともに、地域外では信用に結
に、域内の企業に対する助言を送る上で極めて重要な役
びついており、創業から20 年で現在の経営基盤を築くこ
割を果たしていると考えられる。一方で、仲介者としての
とができた要因の 1 つであると考えられる。また、地域内
役割を果たすためには地域に密着していることが重要で
外に対する地道な営業活動を展開したことが信用から信
ある。例えば、南部町の取組をきっかけに、山形県のあ
頼へと結びついたことも重要な観点であるといえる。さら
る自治体から地元産のりんごの輸出を行いたい旨の申出
に、事業を発展させる過程で、極めて重要になる販路及
が同社へ寄せられて取引を開始したが、1 年で終了した。
び仕入先の確保において、自助努力のみならず行政によ
その理由として、台湾での山形県産の認知度が低かった
る支援を適切に活用したことも事業の発展に寄与したと考
ことに加えて、台湾向けの価格設定ができなかったことが
えられる。
挙げられる。その背景には、南部町の時とは異なり、そ
八戸市や青森県、ジェトロ青森の主催する商談会など
の自治体が地域外の企業である同社からのアドバイスを
の機会を積極的に活用するとともに、隣町の南部町と協
受け入れる土壌が整っていなかったことも考えられる。こ
力し、町をあげて輸出向けのりんごの供給体制を整えた。
の例からは、地域外の商品を取り扱う場合に、輸出に向
特に南部町の事例の場合、同社が輸出に向けて選果方法
けて地域と足並みをそろえて商品の展開をすることの難し
から、箱のデザインに至るまでアドバイスをしていること
さが読み取れる。また、こうした場合に各地域に密着し
から、一般的な商社の果たす商品仲介以上の取組、地域
た仲介者がいれば、仲介者同士で連携することで、スムー
密着型の商社にしかできない役割を果たしたことも特徴
ズな取引の展開や地域と連携した商品開発が可能になる
的であるといえる。
と考えられる。
そして、現在の従業員の構成を見ても、ほとんどが地
元の若者であり、域内にある資源の強みを活かした取組
■今後の課題
により、市場から得た利潤を域内に還元する経営構造に
会社設立時に大手商社から人材を招聘したことや行政
なっており、より地域密着型の商社としての信頼が地域に
からの応援が同社の信用に結びついたことからも、地域
おいて高まっていると考えられる。
内でそうした人材の確保が難しい場合には、外部からの
支援が非常に重要であり、こうした企業の活動を支援す
る取組も必要であるといえる。
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2015 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan