平成 28 年度の住宅市場はどうなるか?

Report.3
平成 28 年度の住宅市場はどうなるか?
-平成 28 年度住宅市場動向調査結果の概要-
住宅金融支援機構 業務推進部 調査役
峰村 英二(みねむら えいじ)
早稲田大学政治経済学部を卒業後、筑波大学大学院、多摩大学大学院で
ベイズ統計学、計量経済学、ファイナンス理論等を学ぶ。博士(経営情報
学)、修士(経済学)、日本証券アナリスト協会検定会員補。日本ファイナ
ンス学会、日本金融・証券計量・工学学会、日本統計学会各会員。調査
研究レポート・学会誌掲載論文等多数。住宅総合調査室、調査部等を経
て、2015 年4月より現職。
要 旨
1 住宅金融支援機構は、平成 28 年 3 月に「平成 28 年度住宅市場動向調査」
を公表した。本調査は、住宅事業者、一般
消費者およびファイナンシャルプランナーの三者に対し、
今後の住宅市場動向に関するアンケート調査を実施し、
これを取
りまとめたものである。
2 住宅事業者に対し、
「平成 28 年度の住宅受注・販売等の見込み(平成 27 年度実績比較)」
を尋ねると、
「増加」
とする
回答割合が 65.3%と最も多くなった。
3 また、一般消費者及びファイナンシャルプランナーに対して「住宅の買い時感」
について尋ねると、
「買い時だと思う」
と
する回答割合が、
一般消費者で 61.9%、
ファイナンシャルプランナーで 68.6%と、
いずれも6割を超える水準となった。
4 住宅事業者の重点的取組事項と一般消費者が重視するポイントについては、住宅事業者、一般消費者ともに「建物の
性能」
が最も多かった。
「建物の性能」
で最も重視するポイントは、住宅事業者は「省エネルギー性」、一般消費者は「高耐
久性」
となった。
5 住宅事業者のリフォーム、
リノベーションや買取再販等については、他社との連携を含む実施済みが 66.5%となり、検討
中を含めると回答割合は83.8%と8割を超えた。また、一般消費者においても、
「リフォーム」
された中古住宅購入、購入
と併せて「リフォーム」
をする住宅取得について、
全体の 41.5% が「関心があり、検討している」
と回答している。
2. 住宅受注・販売等の見込み
(調査対象:住宅事業者)
1. はじめに
住宅金融支援機構では、平成 28 年 3 月に「平成 28 年
まず、住宅事業者に対し、
「平成 28 年度の住宅受注・
度住宅市場動向調査結果(平成 28 年度における住宅市
販売等の見込み(平成27年度実績比較)」
を尋ねると、
「増
場動向について)
」
を公表した。本調査は、住宅事業者、
加」
とする回答割合が65.3%と最も多くなった。これに対し、
一般消費者およびファイナンシャルプランナーの三者に対
「減少」
は9.8%、
「同程度」
は24.8%だった【図表1】。
し、今後の住宅市場動向に関するアンケート調査を実施
さらに、
「住宅受注・販売等が増加する要因」につい
し、
これを取りまとめたものである 。
て尋ねると、
「消費税率引上げ前」が 84.6%で最も多く、次
本稿では、当該調査のポイントを紹介しつつ、今後の住
いで、
「住宅ローン金利の低水準」
:64.7%、
「 その他」
:
宅市場の動向およびニーズ等について考察を行う。
17.7% などの順となった【図表1】。
1
このうち、
「 その他」
(自由回答)については、
「営業力の
強化」
などのほか、
「高気密・高断熱住宅への関心の高ま
り」
、
「Z EH に係る補助金、認知度の高まり」
、
「新商品の開
発」
などの回答もあり、高断熱性能、高性能設備機器や制
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1 本調査の詳細は、http://www.jhf.go.jp/about/research/other_house_trend.html を参照願いたい。なお、調査時点は平成 28 年2月であり、本調査結果は消
費税増税の再延期を巡る議論等が表面化する前に取りまとめられたものである。
[レポート3]平成 28 年度の住宅市場はどうなるか?
図表 1 平成 28 年度の住宅市場に関する認識の比較
図表 2 「 その他」
(自由回答)からみた受注・販売等の増減要因
御機構等との組合せによって「ゼロエネシステム」
を導入す
ることにより、新たな顧客ニーズに適した住宅供給を推進
しようとする意識が示された 2【図表2】
。
3. 住宅の買い時感(調査対
象:一般消費者、ファイナ
ンシャルプランナー)
一方、
「住宅受注・販売等が減少する要因」では、
「土
「住宅の買い時感」
について尋ねると、
「買い時だと思う」
地仕入れが難航しているため」
、
「販売物件の減少」
など、
とする回答割合が、一般消費者で 61.9%、ファイナンシャル
供給に関するボトルネックの存在を指摘する声が多かった 3
プランナーで 68.6%と、いずれも6 割を超える水準となった 4
【図表2】
。
【図表1】。
2 経済産業省及び国土交通省が管轄する「ゼロ・エネルギー化推進室」では、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業」として補助制度を設けており、
補助の対象となる住宅を「高断熱性能、高性能設備機器と制御機構等との組み合わせによるゼロエネシステムの導入により、
年間の一次エネルギー消費量がネッ
トで概ねゼロとなる新築及び既築の住宅」としている。
(出所)
「住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業費補助金」(ネット・ゼロ・エネルギー・
ハウス支援事業)
3 また、これらの要因に次いで、「景気の先行き不透明感」や「将来的な消費税率を見越したエンドユーザーの様子見傾向」などの指摘もあった。
4 ファイナンシャルプランナーに対しては、「平成 28 年度の住宅取得環境」に係る質問の一つとして、平成 28 年度における住宅の買い時感について尋ねた。
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Report.3
その要因では、一般消費者で「消費税率引上げ前」:
住宅事業者に対し、住宅の仕様や営業態勢等に関して
74.7%、
「住宅ローン金利の低水準」
:66.2%、
「住まい給
今後重点的に取り組む事項について尋ねると、
「建物の性
付金等」
:15.6%などが上位に掲げられており、一方、ファ
能」:61.8%、
「土地の仕入れ」
:40.4%、
「住宅プランの提
イナンシャルプランナーで「住宅ローン金利の低水準」:
案力」:32.3%などの順となった。他方、一般消費者に対
100.0%、
「消費税率引上げ前」
:51.4%、
「住まい給付金
し、住宅事業者の選定の際に重視するポイントを尋ねると、
等」
:42.9%などの順となった 【図表1】
。
5
「 建 物の性 能 」
:59.2%、
「立地」
:49.0%、
「デザイン」:
このため、ファイナンシャルプランナーで「住宅ローン金
38.9%などの順となり、互いに「建物の性能」
を最重視して
利の低水準」
がより強く認識されている傾向があるものの、
いることが示された【図表3】
。
両者の基本的な意識は一致しており、消費税率の引上げ
また、
「建物の性能」に関し、住宅事業者は「省エネル
と足もとで低利推移を続ける住宅ローン金利の今後の動
ギー性」を最重要事項(92.0%)として認識し、次いで、
向が平成 28 年度の住宅市場動向を占う上で大きな鍵とな
「耐震性」:49.6%、
「高耐久性」:43.8%などを挙げてい
る可能性もある。
る。これに対して、一般消費者では「高耐久性」
を最も重
「買い時ではない」
とする回答割合は、一般消費者
他方、
視(72.4%)
し、次いで、
「耐震性」
:55.5%、
「省エネルギー
で6.4%、
ファイナンシャルプランナーで13.7%となり、
また、
「ど
性」:46.7%などを挙げている【図表3】。
ちらとも言えない」
とする回答割合は、一般消費者で31.7%、
この様に、
「省エネルギー性」
、
「耐震性」、
「高耐久性」
な
ファイナンシャルプランナーで17.6%となった【図表1】
。
どを重視している点で、住宅事業者と一般消費者との認
4. 住宅の質向上にむけて
(1)住宅事業者の重点的取組事
項と一般消費者のニーズ等
識は一致しており、今後とも、省エネルギー性能や耐震性
能を備えた住宅や長期優良住宅等に関する需要及び供
給が一層高まっていくことが想定される6。
図表 3 住宅事業者の重点的取組事項と一般消費者が重視するポイント
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5 本稿では、回答内容の比較を分かりやすくするために、回答選択項目の表記を揃えている。
6 住宅金融支援機構の【フラット35】Sの対象となる住宅は「省エネルギー性」、
「耐震性」、
「バリアフリー性」、
「耐久性・可変性」の4つのうちいずれかの性能が、
同機構の基準を上回っていることが条件となる。このため、
【フラット35】Sの条件は、本調査で示された住宅性能の重視ポイントを包括的にカバーするものとなる。
[レポート3]平成 28 年度の住宅市場はどうなるか?
(2)リフォーム、
リノベーションや買
取再販等について
昨今では、住宅の長寿命化やライフスタイルの多様化な
どに伴い、既存ストックを有効活用する余地が広がる中、
住宅リフォームやリノベーションに関する潜在的な需要が
高まっていることが指摘されている。さらに、
低炭素社会と
循環型社会の実現の必要性が重要視されるなかで、既存
ストックの耐震性向上や省エネルギー化を進める必要性
が広く認知され始めている。
本調査では、
これらの点を踏まえ、住宅事業者に対し、
リ
フォーム、
リノベーションや買取再販等に関する意識、実態
等について尋ねた 7。
その結果、
「既に自社で実施中」が 61.0%、
「既に他社と
の連携により実施中」が 5.5%と、既に6割以上の事業者が
これらの事業を手掛けており、さらに実施を検討している
事業者の回答割合を加えると、有効回答全体の 83.8%に
及ぶことが明らかとなった【図表4】
。
また、実施または検討している事業は、
「リフォーム」が
73.9%、
「リノベーション」が 69.5%、
「買取再販」が 44.9%と
なっており、通常のリフォームやリノベーションのみならず、
買取再販事業に関しても、現時点においてある程度の地
歩が築かれていることが示された【図表4】
。
他方、
一般消費者に対して、
「リフォーム」
された中古住宅
の購入等について尋ねると「関心があり、検討している」
が
41.5%に上っており、一定に関心が持たれていることが明ら
かとなった。とくに、回答者の年齢階級別でみると40 歳台
から50 歳台前半までの年齢層で「関心があり、検討してい
る」
とする回答割合が 50%近くまで上昇しており、約半数の
世帯で関心が持たれていることが示された【図表5】
。
これらの結果から、
リノベーションおよび買取再販等につ
いては既に多くの事業者が実施または検討中であり、また、
一般消費者の関心も高まっていることから、今後、
リノベー
ション及び買取再販等の潜在的なニーズを掘り起こすとと
もに、何らかの支援策を検討することが我が国の重要な課
題の一つとなることも想定されるものと考えられる。
※本稿において、意見に係わる部分は執筆者個人のものであり、住
宅金融支援機構の見解ではありません。
図表 4 リフォーム、
リノベーションや買取再販等について(調査対象:住宅事業者)
図表 5 「リフォーム」された中古住宅の購入等について(調査対象:一般消費者)
7 住宅事業者向けの調査においては、「リフォーム」について「クロスの張り替え等簡易な修繕工事」、「リノベーション」について「省エネルギーなどの性能や
機能を向上させる工事」、「買取再販」について「既存住宅を買い上げ、リフォーム・リノベーションを行って再販売する事業」とそれぞれ定義した。
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