巻頭言 - 全国老人保健施設協会

巻 頭 言
老健施設の
医師需給問題について
全老健副会長、介護老人保健施設ハートランド・ぐらんぱぐらんま理事長
平川 博之
巻頭言では折に触れて人材問題を取り上げてき
間、診療所医が週45.8 時間、老健医が週38.5 時
た。その多くは介護職についてであったが、今回
間とされている。当直、急変時の呼び出しや拘束
は、老健施設の医師について述べてみたい。
時間を考えると少なすぎる数値である。ブラック
まず老健施設医の需給状況だが、依然として関
企業と言われないように適正な勤務時間を決めな
係者からは医師がいない、足りないとの声が聞こ
ければ、真に必要な医師数は算出できない。
えてくる。急な退職でもあれば後任が見つからず、
「地域偏在」も深刻で人口10 万対の医師数は、
斡旋業者に法外な紹介料を支払って埋め合わせて
最大の京都府が約300 人、最少の埼玉県が約150
いるという話も聞く。数だけでなく、医療依存度
人と倍の開きがある。今後、新専門医制度が導入
の高い利用者に対応できるスキルを備えた医師の
されると、規定の症例数の収集や研修受講の利便
確保といった質も求められる。さらに管理医師の
性を求め、地方から大都市部への医師流出がさら
平均年齢が67.3 歳と高齢化していることを考慮
に加速され「地域偏在」は拡大する可能性がある。
すると、将来展望も含め、医師が充足していると
その他にも「診療科目間格差」
、急増する女性
は言い難い。
医師への出産・育児支援問題、フリーランス医師
そのような折、厚労省は「医療従事者の需給に
問題等の供給側の要因と少子高齢化による人口の
関する検討会」を立ち上げた。小職は全老健を代
減少、受療率の低下等需要側の要因も適正医師数
表して「医師需給分科会」
「看護職員需給分科会」
の算出に絡んでくる。
に出席している。そこで本稿では医師需給分科会
検討会の主題である医学部の臨時定員増の措置
の議論を紹介しながら、老健施設の医師需給問題
だが、入学定員は平成19 年度の7,625 人から、平
について述べてみたい。
成27 年度は1,509 人増の9,134 人になった。昨年
本分科会では、平成29 年度で期限切れになる
の出生者数は約100 万人だったので極端に言えば
医学部臨時定員増措置(地域枠制度等)を存続さ
約100 人に1 人が医学生となる。このまま増加措
せるか否かを議論しつつ、今後の適正な医学部定
置を継続すると、国の中位推計では平成36 年、
員数を検討している。議論の前提が「必要とされ
高位推計では平成45 年に医師需給は均衡となり
る適正な医師数」の算出である。しかしさまざま
以降は医師過剰となるという。しかし、定員増措
な要因があるため算出は容易ではない。
置後も我々老健施設関係者に医師需給が改善した
例えば平成24 年の我が国の医師数は約30 万人
との実感はない。ただの数合わせだけでは、深刻
で、人口千人当たりの臨床医数は2.3 人でOECD
化が懸念される「地域間格差」や、老健施設を 1
加盟国の平均2.8 人を下回る。しかし、この数値
つの診療科目と捉えれば「診療科目間格差」等の
で医師の過不足は語れない。ドイツは4.1 人と日
抜本的な解決とはならないと考える。
本の倍近いが、ひと月以上のバカンスをとるため、
いずれにしても明確な効果が出ていない現実を
医師不足だと地元の院長は嘆いているらしい。我
踏まえると、医学部臨時定員増措置は当面延長す
が国の医師勤務時間は、病院勤務医が週53.2 時
るべきであると考える。
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