Title トマス・モアユートピア研究( Abstract_要旨 )

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トマス・モアユートピア研究( Abstract_要旨 )
伊達, 功
Kyoto University (京都大学)
1967-01-23
http://hdl.handle.net/2433/212068
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【1
4】
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博
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士
学 位 の 種 類
経
学 位 記 番 号
論
学偉授与の 日付
昭 和 4
2 年 ユ 月 23 日
学位授 与の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 2項 該 当
学位論文題目
トマ ス ・モ ア
経
学
博
第 1
2号
ユ ー トピ ア 研 究
(主 査)
論 文調査委員
教 授 出 口 勇 蔵
論
文
内
教 授 堀 江 英 一
容
の
要
教 授 堀 江 保 蔵
旨
主論文は ,1
6世紀 イギ リスの ヒューマニス ト, トマス ・ モア Tho
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eの 「ユー トピア」 に関す
る一研究で あ って, 3葦 か らな る。
第 1 章 , ユ- トピアの系譜では, 古今東西のユー トピアについて一般的 にみ られ る属性 を明 らかに しよ
うと して, それ らを非現実性 ・ 情緒性 ・ 逃避性 ・ 孤立性 ・ 回顧性 および恩弁性 の 6つ とす る。
第 2 章,
「ユ ー トピア」 の内容分析 は本論文の主な内容をな している。 著者 は克明にモアの著述の内容
1節 に分けて展開 し, 多 くの引用文を挿入 して, 政治 ・ 経済 ・ 家庭 ・ 教育 ・ 文化 ・ 宗教な ど
にそ くして , 1
についての論 旨の解釈をのべてお り, 読者 に, 原著を再読す るの感を与 える。
第 3 葦 は, 第 2 章 において述べ られた諸論点の うち, 著者 が と くに関心を もつ 2 つの論点を と りあげて
論 じる。 1つ は近代社会主義 との思想上の関係の問題で あ り, 2つは宗教的寛容の問題で ある。
参考論文 と して提 出された ものは
「 トマス ・ モア 『
ユ - トピア』研究序説」
,「 トマス ・ モア 『ユ-
トピアrB 分析 の視角」 および 「へ クス
ユ ー トピア』研究 にお
ターの 『
ユ ー トピア』論」 の 3論文で あるが, 著者 には この他 に 「 トマス ・ モア 『
けるカウッキ- ・ チエムバ - ズ ・ エイムズ」 と題す る論文がある。
これ らの論文 はいずれ も, 著者が主論文をか きおえてか ら執筆 した ものであ って, 諸外 国およびわが国
における, 最近 にいたるまでの 「ユ - トピア」に関す る諸研究者 の研究業績 について論評を加 えた もので
ある。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
およそユ ー トピア思想は, 社会思想の中で特異な地位を 占めるものであるが, しか し, それは時をえ ら
ばず所を とわず に現われ るとい う性質を ももつ もので ある。 それだ けに, 社会思想史の- 課題 と してユ ー
トピア思想の研究を と り上げることは, 一見容易 にみえて, 実は大変困難なので ある。 なぜな らば, ユ -
トピア思想の研究の名の下 に, 研究者の, 社会 に関す るほ しいままな感想や希望が入 りま じって きて, 学
術研究で あるのか社会評論であるかがは っき り区別で きな くな るおそれがあるか らで ある。
主論文 においては, 著者 は最近の トマス ・ モア研究を考慮す ることな く, もっぱ ら自分の考 えるところ
を拠 りどころと して解釈を加 えている。 そ して著者の解釈の結論を一句で表現す ると, 主論文の最後 にい
っているとお り,
「貴重な る真実を内包す るところの, 偉大な る冗談だ」 とい うことにな る。
しか し冗談 と して単純 に片づ けるには,
「ユ- トピア」 は偉大な社会思想の諸要素をあま りに多 くもち
す ぎてい る。 著者 の解釈が この点をかえ りみて克 明に行なわれているのは, 当然の ことで ある。 架空の人
物 , ヒス ロデ イが物語 るユー トピアの社会 は, 共産主義社会であるが如 くで あ って, 一面では私有財産の
社会的意義 と承認 しているところもあ り, 人間の平等を主張 していなが ら, 奴隷の存在を も認めているな
ど, 首尾一貫 した社会思想 とはいいがたい諸要素を含 みなが ら, しか もヨー ロッパ の ヒューマニズムの立
場か らみた社会観 と して, はなはだ魅力 に富んだ叙述 にな っている。 この次第 は申請者の叙述 において き
わめて明 らかで ある。
しか し, 主論文 において参考 とされた他の研究業績 が古 くまたその数 もす くないので, 著者の立場が現
在 の学界 において 占め るべ き立場が明白とな らず ,
「ユー トピア」 研究史上 における著者の立場は不明の
ままで ある。 これが主論文 について指摘 されねばな らぬ重要な欠陥で ある。
しか しなが ら, 著者のその後の研究成果 はあたか もこの欠 陥を補 っている。
モアの研究 は, 諸外 国においてほ, 第二次大戦ののちににわかに再燃 した観が ある。 伝記 と してほ, チ
エイ ンバーズ R.
W.Cha
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sの著述が大戦前 に出て, 新たな光を与 えていたが, 大戦ののちに, エ-
s と- クスター J.
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rの研究が公刊 され, さらに最近 には, 国際的な編集陣営の手
ムス R.Ame
にかか る権威 あるモア全集 Th
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eがア メ リカか ら出る とい う勢
いで あ って, 現代の研究者 はこれ らの研究をふまえて 自分の立場を明 らかにす る義務を, 学会 に対 して荷
な っているので ある。 申請者 はこの点を反省 したためか, 以上の諸外 国の研究を隈な くたずねて, それ ら
の見解を紹介す るとと もに, 自己の立場を豊かにす るための素材 と した。 のみな らず 申請者 はまた, わが
国における戦前 ・ 戦後の諸研究 について も同様の検討 に乗 り出 して, その結果 を参考論文 において発表 し
て いる。
さて, 著者の 「ユ ー トピア」 研究の これまでの結果 は, 必ず しも斬新な ものが実の っているとはいいが
たい。 結論 に折衷的な ところが多分 にあ って, 著者独 自の立場が明確 にな っているとはいえないか らで あ
る。 またモアの社会思想の研究のためには, モアの他の著述, なかで も書簡 についての研究 は欠かせない
はずで あるが , この方面へ は研究 は延 びていないか らで ある。 この点で, 調査員は不満を感 じないわけに
はゆかない。 また社会思想一般 にたいす る著者の見解 が特 に優れた ものがあるとも思 えない ことも, 調査
員を満足 させていない。
しか しなが ら, 他面か らい うと, 著者が主論文 において しめ している見解 には, 最近の外 国の諸研究 の
成果 とほぼ同 じものがあることを物語 って もいるので ある。
「ユー トピア」 の執筆の事情 か ら, 第
1編 お
よび第 2編の内容を, 執筆の時 について確定す ることは, 最近の- クスターの業績 によ って確定 した とい
ってよいが, 著者の解釈 もまた偶然 にもその結果 に近 い もの にな っている し, モアの思想をば近代社会主
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義その もの と していない点で, カウッキ- の見解 に同 じていない点 もまた, 最近の研究成果 と一致 してい
るといえるのである。
著者の論 旨の展開は, 独 自の立場か ら生まれ る明快 さを もっ とはいえない。 けれ ども, 行文は流暢で あ
って, 読者を相 当たの しませ るに足 るものを もっている。 これ もまた この研究 に積極的な評価を下す こと
のできる一要素である。
なお, 主論文においては rユ- トピア」 研究の文献の表示が不完全で あるが, 参考論文 においてはその
欠陥 も補われている。 これ もまた学位請求論文 と しては至当な成果 と考え られ る。
要す るに, 申請者の研究は, 主論文 と参考論文 とを一体 と して扱 うときに, 日本 における 「ユー トピア」
研究の これまでの成果をと り入れ, 外国における最近の研究を参考 に しなが ら, 行なわれた独 自の研究 と
い うに値い し, わが社会思想史学界 につ くす貢献 もまた相 当の ものがあるとい うことがで きよ う。
以上の理 由によ って, 本論文は経済学博士 の学位論文 と して価値 あるもの と認める。