幾何学特論 I レポート課題 島川和久 平成 28 年 5 月 17 日 1 セル複体のホモロジー レポート問題 1. n 個の円周のブーケ S 1 ∨ · · · ∨ S 1 の整数係数特異ホモロジー群を求めよ。 2. S 1 を複素平面 C の単位円周と同一視し,f : S 1 → S 1 を連続写像とするとき,S 1 の 1 次元ホモロジー群 H1 (S 1 , Z) ∼ = Z の任意の元 k に対して f∗ (k) = dk が成り立つよ うな整数 d が存在する。この d を記号 deg(f ) で表し,f の次数とよぶ。以下を示せ。 (a) f が定値写像なら,deg(f ) = 0 である。 (b) f (z) の実部が常に正であるとき,deg(f ) = 0 が成り立つ。 (c) f が,式 f (z) = z n で与えられるとき,deg(f ) = n である。 (d) 任意の連続写像 f, g : S 1 → S 1 に対し,式 (f · g)(z) = f (z)g(z) で写像 f · g : S 1 → S 1 を定めるとき,deg(f · g) = deg(f ) + deg(g) が成り立つ。 (e) 任意の連続写像 f, g : S 1 → S 1 に対し,式 (f /g)(z) = f (z)/g(z) で写像 f /g : S 1 → S 1 を定めるとき,deg(f /g) = deg(f ) − deg(g) が成り立つ。 3. 種数 g (g ≥ 1) の有向閉曲面 T (g) の R 係数特異ホモロジー群を求めよ。 4. 係数環 R が Z, R, および Z/2Z の各場合に,種数 g (g ≥ 1) の非有向閉曲面 P (g) の R 係数特異ホモロジー群を求めよ。 1 コチェイン複体とコホモロジー 2 解説 全ての n で,dn+1 ◦ dn = 0 であるような加群の系列 K = {C n (K), dn }: dn dn+1 ··· − → C n (K) −→ C n+1 (K) −−−→ C n+2 (K) → − ··· をコチェイン複体とよぶ。 K = {C n (K), dn } および L = {C n (L), dn } がコチェイン複体であるとき,すべての n で dn ◦ f n = f n+1 ◦ dn が成り立つような凖同型 f n : C n (K) → C n (L) の族 f = {f n } を K から L へのコチェイ ン写像とよぶ。各レベルで合成をとることによりコチェイン写像の合成が自然に定義され, コチェイン複体とコチェイン写像は圏を構成する。 定義 2.1. コチェイン複体 K = {C n (K), dn } に対し,Z n (K) = Ker dn を C の n 次元輪 体群,B n (K) = Im dn−1 を n 次元境界輪体群とよぶ。定義から B n (K) は Z n (K) の部分 加群であり,商加群 H n (K) = Z n (K)/B n (K) が定義される。これを K の n 次元コホモロジー群とよび,次数つき加群 {H n (K)} を H(K) で表す。 コチェイン写像 f = {f n } : K → L はコホモロジー群の間の凖同型 H n (f ) : H n (K) → H n (L) を誘導し,H(f ) = {H n (f )} は次数付き加群 H(K) から H(L) への射となる。明らかに, 対応 K 7→ H(K) はコチェイン複体の圏から次数付き加群の圏への関手である。 定義 2.2. f, g : K → L がコチェイン写像であるとき,条件 dn−1 ◦ Φn + Φn+1 ◦ dn = g n − f n を満たす凖同型 Φn : C n (K) → C n−1 (L) の族 Φ = {Φn } が存在するとき,f と g は(コ チェイン)ホモトピックであるといい,Φ を f と g の間の(コチェイン)ホモトピーとよぶ。 命題 2.3. 二つのコチェイン写像 f と g がホモトピックであるとき,H(f ) = H(g) が成り 立つ。 i j コチェイン複体の圏における系列 0 → K − →L− → M → 0 は,加群の系列 jn in 0 → C n (K) −→ C n (L) −→ C n (M ) → 0 がすべて完全であるとき,コチェイン複体の短完全系列とよばれる。 i および j はコチェイン写像だから,次の系列を誘導する。 i∗ j∗ H n (K) − → H n (L) −→ H n (M ), 2 n∈Z 次の可換図式を考えよう。 .. . x dn+1 .. . x dn+1 .. . x n+1 d in+1 j n+1 in jn 0 −−−−→ C n+1 (K) −−−−→ C n+1 (L) −−−−→ C n+1 (M ) −−−−→ 0 x x x n dn dn d 0 −−−−→ C n (K) −−−−→ C n (L) −−−−→ C n (M ) −−−−→ 0 x x x n−1 n−1 n−1 d d d .. .. .. . . . n n n n ′ H (M ) = Z (M )/B (M ) の元 z = [c](c ∈ Z (M ))と c ∈ (j n )−1 (c) に対し, [(in+1 )−1 (dn (c′ ))] ∈ Z n+1 (K)/B n+1 (K) = H n+1 (K) は c, c′ の選び方に依らず一意的に定まる元である。そこで,d∗ (z) = [(in+1 )−1 (dn (c′ ))] と おくことにより,連結凖同型 ∆ : H n (M ) → H n+1 (K) が定義される。 i j 定理 2.4. コチェイン複体の完全系列 0 → K − →L− → M → 0 から誘導される系列 ∆ j∗ i∗ ∆ i∗ ··· − → H n (K) − → H n (L) −→ H n (M ) − → H n+1 (K) − → ··· は加群の完全系列である。(これをコホモロジー完全系列とよぶ) 定義 2.5. 次数付き加群 K = {K n } において各 K n が有限生成なら,K は有限生成である という。また,有限個の n を除いて K n = 0 であれば,K は有界であるという。有限生成 かつ有界な次数付き加群 K = {K n } のオイラー数を次で定義する。 n ∑ (−1)n rank K n ∑ 補注 2.6. K が次数付きベクトル空間の場合は,χ(K) = n (−1)n dim K n である。 χ(K) = レポート問題 1. C = {C n , dn } がコチェイン複体のとき,すべての n で B n (C) は Z n (C) の部分加群 となることを示せ。 2. 命題 2.3 を示せ。 3. ベクトル空間の短完全系列 0 → U → V → W → 0 において,U および W の次元が 有限であれば V の次元も有限であり,dim V = dim U + dim W が成り立つ。 4. K = {C n (K), dn } をベクトル空間のコチェイン複体とする。次数付きベクトル空間と して K が有限生成かつ有界であるとき,次が成り立つことを示せ。 χ(H(K)) = χ(K) ヒント:次の二つの短完全系列に着目せよ。 0 → B n (K) → Z n (K) → H n (K) → 0, 3 dn 0 → Z n (K) → C n (K) −→ B n+1 (K) → 0
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