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第14回 東 京 都 輸 血 療 法 研 究 会 報 告 書
ディスカッション
(座長:半田先生)
ありがとうございました。
(座長:半田先生)
それでは、総合討論をさせていただきます。
講師の皆さん方で、今の点でご質問等々ありますか。あるいはご意見、追加すること等いかがで
すか。
会場の皆さんが非常に静かですので、松﨑先生のまねをしまして、もう一度、皆さん方の施設で
産科・周産期を実際に扱われている方はどのぐらいいらっしゃるか、手を挙げていただけますか。
どうでしょうか。周産期を扱われている施設からいらしている方は。
わかりました。それほど多くはないということですね。そういう意味では、身近なところでは、
なかなか実感がない点もあるかと思います。
早速ですが、今 4 人の方に発表していただきました。藤田先生にはオーバービューということ
で。まず、奥田先生に検査ということで発表していただきましたが、一番の問題点は不規則抗体が
(兵藤先生)
墨東病院は、そういった場合に産婦人科だけでなく、救命科の先生方も一緒に参加してくださっ
て、実際に産科だけでシミュレーションを行ったりすることは、実情ではできていない状況です。
ただ、見えるところに、そういった流れみたいなものを、明文化したものを貼っておくとか、そう
いった対応は最低限やってはいます。
一方で、確かに未受診で出血でという方が来ないわけではないんですけれども、多くの場合は、
陽性かどうか。あとは、緊急の輸血が多いということで、いわゆる ABO 等々ですね、交差適合試
他の施設で妊娠出産を取り扱っていて搬送されてくることが多いので、まったく情報がないという
験をどのように扱うか、この 2 点があると思います。
ことは現実的には少ない。これから先、問題になってくるのは、いざ、そういうところに遭遇した
特に、兵藤先生もおっしゃっていたように緊急で予期しない出血になると思います。その点に関
して、緊急輸血のマニュアルは当然あると思いますが、一番重要なポイントは何でしょうか。当然、
ときに、本当に迅速に対応できるかということなので、われわれは、その辺は東邦を見習って、シ
ミュレーションを定期的にやっていかなければならないと考えております。
どんどん血液を供給しなければいけない。赤血球と FFP、血小板があるということですが、その
辺はどういう形で、どういう考え方がよろしいでしょうか。
(座長:半田先生)
今の点で、藤田先生いかがでしょうか。輸血の管理者として何か。
(奥田先生)
東邦大学大森病院の取り組みとしましては、やはり先生にお示しいただきましたように、緊急輸
(藤田先生)
血シミュレーションを産科病棟、もしくは分娩室のほうで実施しております。事前に血液型の情報
当院は救命センターがあるので、産科の先生も慌てずにオーダーもできるし、診療が進められる
がわかっている場合には、基本的には同型でノークロスでいくと。もしくは、まったく血液型の情
環境にあるので非常に助かっています。以前、救命が関与していない、産科の先生も慌ててしまっ
報がない患者さんがいらした場合には、ガイドラインにのっとり、O 型赤血球、AB 型の FFP 製
た時代は、シミュレーションなどをしたり、現場に行って、慌てない、間違えないためにはどうし
剤を準備して動くというような、多職種での合同のシミュレーションを実施しています。
たらいいかということは工夫をしておりました。
その点、今日は千葉大の方はいらっしゃいますか、いらっしゃらないですかね。千葉大の方々も
(座長:半田先生)
今の点ですね、もちろん産科だけではないと思いますが、特に産科医療においては出血に対する
対応というので、いかがでしょうか。参加している皆さん、緊急輸血の検査、あるいは不規則抗体
産科の救急に対して、緊急輸血や大量輸血に対するシミュレーションなど熱心にやられていると聞
いております。産科出血に対しても外傷と同じように練習というか、シミュレーションが重要だろ
うと思います。
の検査で何かご質問ございますか。
実際、マニュアルを施設で用意しておかなければいけないということですね。特に予期しないと
いうことなので、常にそれに対する対応をきちんと決めておくことが重要だということですね。
(田﨑先生)
先ほどの奥田さんのコメントですが、患者血液型が確定している場合、緊急のときには同型でノ
ークロスと言っていましたが、生食法は全然やらないのですか。
(奥田先生)
若干、乱暴な言い方になってしまいますが、そのような患者さんが来た場合には、不規則抗体へ
の対応は二の次になってしまいます。やはり迅速に血液製剤を現場へ供給するという体制を重要視
しております。
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(奥田先生)
すみません、言葉足らずで。当院では、血液製剤を入庫するときは、事前に血液型のチェックを
しております。それで基本的には生理食塩水法を省略して、輸血の払出しをしております。
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第14回 東 京 都 輸 血 療法研究会報告書
(座長:半田先生)
もう 1 つ追加ですけれども、すでに他施設で輸血をされてきている場合、検査上何か考慮する
ことはあるのでしょうか。
第14回 東 京 都 輸 血 療 法 研 究 会 報 告 書
次医療機関に振り分けるべきかどうかというのは、先生が示した臨床的意義のある不規則抗体と分
けるべきなのか、あまり気にしないでいいのか。クリニックで不規則抗体保有者の診療を続けてい
って、いざ出血することを考えて、高次施設に早めに紹介したほうがいいのか、その辺の見解を教
えてください。
(奥田先生)
当然ながら、異型輸血をされてきた患者では、部分凝集反応という形で血液型が確実に出ないよ
うなケースもありますので、血液型が確定できないうちは、やはり O 型の赤血球製剤を使います。
血漿製剤に関しましては、AB 型製剤を使ったりいたします。
(奥田先生)
不規則抗体があって、高次医療機関に紹介というのは、なくはないと思います。というのは、小
さい施設は、どのぐらい輸血検査が実施できるか、どのぐらいの精度で検査ができるかというのが
1 つのポイントでもありますし。また、例えば大量出血をすれば、それはまた別問題で、それは不
(座長:半田先生)
規則抗体があろうが、やはり迅速に輸血を出すということをしないと患者さんの命に関わることも
ありがとうございました。
ございますので、そこの判断がそれぞれの施設でできるかというところが重要なポイントかと思っ
いかがでしょうか。フロアの方々、非常に静かですけれども、せっかくですから何かございます
ております。
か。よろしいですか。
もう 1 つ、不規則抗体というのがポイントだと思いますが、実際に産科の周産期で不規則抗体
(座長:半田先生)
は、今どのぐらい問題になっているのでしょうか。実態として、例えば当院の経験では、年間 1
ありがとうございました。
例あるかないかというところですが、実際ご経験はどうでしょうか、奥田さん。
それからもう 1 つ、産科の場合の問題点は出血なわけですね。今、兵藤先生のお話だと、例え
ば羊水塞栓症は DIC が先行すると。弛緩出血に関しては、その後で DIC が出てきて、両方とも最
(奥田先生)
現実、東邦大学でも年間 1 例、もしくは数症例経験しております。
終的には大量出血になるということで、それが 1 つの特徴であるということですけれども。FFP
の話が出ていたと思います。この点で、今わが国では FFP しか使えないということと、欧米では
クリオが FFP の代わりになっているということですね。あとは、フィブリノゲン製剤が使用され
(座長:半田先生)
実際、いかがでしょうか、兵藤先生。
(兵藤先生)
不規則抗体が検出されるのは、数パーセントぐらいあるように思いますけれども、もうちょっと
る場合もあるということです。日本としては、FFP からクリオに代わるべきなのかどうかという
ところは、兵藤先生いかがでしょうか。
(兵藤先生)
FFP の代わりをクリオが完全にできるわけではないと思います。FFP は FFP として、ボリュー
あるかな、
「問題となる」
、つまり溶血性疾患が出てくるところまで行くのは、本当に年間あるかな
ムも同時に必要なときには有効でしょうし。あとは、一部の羊水塞栓症の治療に必要な凝固因子は、
いかぐらいだと思います。ただ、軽い症例になってくると、生まれた後で新生児黄疸として出てく
クリオだとその分画に入ってこないものもあると聞いておりますので、やはりクリオだけで解決す
るものが、われわれはあまり認識していない、でも何らかの影響というのは多少あると思いますけ
るというのは、ちょっと難しいのだろうと思います。
れども、それでもやはり 1~2%までないぐらいではないでしょうか。
ただ、先ほどもお示ししましたけれども、クリオは非常にフィブリノゲンが濃縮されております
ので、小規模な施設にまでというのは難しいかもしれませんけれども、そういった症例が搬送され
(藤田先生)
よろしいですか。
てくる施設においては、墨東病院ではつくっていただいているので大変助かっていますけれども、
そういった施設では、もれなくクリオが使えるような状況というのは、日本の産科全体の医療にと
っては望ましいのではないかと考えています。
(座長:半田先生)
どうぞ。
(座長:半田先生)
話が前後しますが、FFP は溶かすのに時間がかかるということもあります。そうすると、緊急
(藤田先生)
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性ということもあるので、どうしても前もって、大事になる前に入れてしまうという傾向が、先ほ
不規則抗体関連で質問です。不規則抗体があると、小規模のクリニックから紹介されるんですけ
どの松﨑先生のデータでもあるような気がするんですね。それから先生も、当然 FFP は先行して
れど、不規則抗体があるというだけで。奥田先生にお伺いしたいのは、不規則抗体あるなしで、高
使うべきだというお話もされましたけれども、実際にクリニックで兆候というのはわからない、突
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第14回 東 京 都 輸 血 療法研究会報告書
然来るわけですね。ということは、FFP が溶解するまでの時間というのは非常に問題だと思いま
す。いかがでしょうか、その点は。
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(松﨑先生)
今回、産科クリニックの勉強をして、産科クリニックに血液センターが異型の血液を供給するこ
とはたぶんなく、O 型を供給することもないです。同型を必ず供給していますし、追加が来るとき
(藤田先生)
クリニックと受け入れの病院で立場は違って、兵藤先生のご意見は、大病院で、受け手の側で
FFP を先行してもいいという話だったんですけれども、クリニックの場合は、必ずしも FFP を先
行して、それが赤血球の代わりに使われ、赤血球輸血が遅れるようなことがあってはいけない。送
る側はショックインデックスに基づいて、血圧の維持をしながら高次医療機関に送るわけです。
も同型です。クリニックでは、FFP を使ったり、出血があると思ったときには、早く高次病院に
送るというのが一番で、自分のところで何とかしようと思わないのがよいでしょう。これは、産科
に限らず、小さい病院ではそうするべきだと思います。
それと、トラネキサム酸については、海外ではいろいろなスタディがされていて、WOMAN
(World Maternal Antifibrinolytic Trial)というスタディがありますけれども。今、オキシトシ
FFP はクリオに比べて薄いので、産科出血が起こったときには、分単位で悪くなっていくとこ
ンとか、プロスタグランジンを使って出血が止まらなければ、トラネキサム酸を投与するというプ
ろを寸断で止めるには濃縮された製剤でないと有効ではないと考えております。FFP を 1 本 2 本
ロトコルがあって、投与量は 1A (アンプル)iv で搬送するというプロトコルもあるようです。日本
入れても、その止血には、ないわけではないでしょうけれども、すぐに消費されてしまうことを考
のガイドラインを読むと、あまり抗線溶療法のことを書いていないので、もう少し海外の方法を評
えると、クリニックの立場での輸血は、やはり赤血球輸血など血圧の維持に努めて、速やかに搬送
価するというか、知ったほうがいいのかなと思いました。
病院に送るというのが私の私見です。
赤血球をやりながら FFP が必要になる、大量輸血に移行する例は、
もちろんクリニックでも FFP
(座長:半田先生)
を使って送っていただいてもいいかと思います。そういうことで、FFP のみで搬送されてくる例
ありがとうございました。
を見ると、果たして FFP は先に適応があったのかなという例もございます。逆に、トラネキサム
もう時間がほとんどなくなってきたのですが、フロアの方、何かいかがでしょうか。よろしいで
酸とか、そういう基本的なお薬を使っていない。それから、使用すべきかしないべきかは兵藤先生
すか。
の言うとおりで、次にご質問したいところで、産科 DIC に対して、トラネキサム酸をもう少し使
用することができない環境が何にあるのかということを質問したい。
(田﨑先生)
すみません、松﨑先生、先ほどのスライドで、クリニックでは FFP のオーダーが増えていると
(座長:半田先生)
兵藤先生、いかがでしょうか。
いうことでしたが、1 回にオーダーされる量というのは、例えば 480cc とか、1 バッグとか 2 バッ
グとか、どのくらいの量が 1 つのクリニックから一度にオーダーされるのでしょうか。赤血球の
オーダーがまったくなくて FFP だけ依頼が来るわけですか。
(兵藤先生)
産科 DIC に対する治療というのが、産婦人科全体でも、まだ整理されきっていないというとこ
ろは私自身感じるところです。FFP とアンチトロンビンと蛋白分解酵素阻害薬というようなこと
(松﨑先生)
すみません、バッグ数までは、見ていないのでわかりません。
で、私が研修医だったころは、だいたいそんな感じでした。それから、何ら変わっていないような
診療というのも見掛けておりますが、いろいろな治験が集まってくるにつれて、トラネキサム酸が
非常に有効であるということが再認識されているようです。
(座長:半田先生)
それでは、時間となりました。産科領域は出血と、特に DIC を伴うというのが 1 つの特徴であ
あとは、近年出てきたリコンビナントトロンボモデュリンというのは、産科 DIC には、これか
って、今お話を聞いた限りでは、FFP の適応、赤血球の適応等々についても、完全にまだコンセ
ら先かなり重要なウエートを占めてくると思います。だから、そういったもので凝固の暴走を止め
ンサスを得ていないということもあるし、供給と医療施設の体制自体も、輸血量についても、もう
て、足りなくなったものを補うというふうに整理されていくことが、今後、行われていくんでしょ
少し考えていかなければいけないのではないかと、そういう結論だと思います。
うけれども、まだまだ産婦人科側も抗 DIC 対策が整理されていないので、そこのところをやって
ご清聴ありがとうございました。
いかなければならないと思います。
(座長:半田先生)
ありがとうございました。
松﨑先生、何かおっしゃりたいことで。
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閉会の挨拶
東京都輸血療法研究会 世話人代表
藤 田
浩
本日はお忙しい中、ありがとうございました。発表者の皆さま、座長をしていただいた先生方、
どうもありがとうございました。
本日は、アルブミン製剤の適正使用ということで、短い時間でわかりやすく田中先生に講義を
していただきました。大変ありがとうございました。また、東京都・日本赤十字社が取り組んで
いる輸血検査、輸血アドバイス事業等を含めて、熱心に行われていることが今回紹介されました
ので、引き続きやっていただきたいと思います。
また、今日のシンポジウムですけれども、2 年前のシンポジウムは小規模診療所の輸血という
ことで在宅輸血を取り上げましたけれども、それが今、小規模医療機関のマニュアルもできまし
たし、成果物も上がってきております。従って、今日の産科出血の討議した内容というものも実
のあるものに、将来、形としてつくっていかなければいけないと、代表世話人としては思ってお
ります。
産婦人科学会には兵藤先生から、トラネキサム酸の重要性なり、クリオの重要性を声高らかに
しゃべっていただいて、ぜひ日本赤十字社で、クリオをつくっていただける環境の実現を図って
いただけたらと思っております。
今年 1 年、お疲れさまでした。今後とも、来年もいい企画をつくって提供したいと思っており
ますので、よろしくお願いいたします。
今日はどうもお疲れさまでした。ありがとうございます。
第14回 東京都輸血療法研究会報告書
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発行日
2016年4月
発 行
東京都赤十字血液センター 学術課
印 刷
ジャパンステージ株式会社