第3節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識

第3節
国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
内閣府では、日本の高齢者と諸外国の高齢者の生活意識を調査するため、昭和 55 年度から 5 年ご
とに「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を実施しており、今年で第 8 回目となる。本節
ではその調査結果を基に、高齢者の意識について取り上げる。
内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(平成 27 年)
・調査対象国:日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデン
・調査対象者:60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
・調 査 時 期:平成 27 年 10 月∼平成 27 年 12 月
・有効回答数:日本 1,105 人、アメリカ 1,003 人、ドイツ 1,008 人、スウェーデン 1,000 人
1 経済的な暮らしについて
(1)50 代までに行った老後の経済生活の備えについて、
「特に何もしていない」と回答する高齢
者の割合は、日本が約 4 割
50 代までに老後の経済生活に備えて特に行ったことを尋ねたところ、日本とアメリカは「預貯
金」
「個人年金への加入」、ドイツは「預貯金」
「不動産取得」、スウェーデンは「個人年金への加入」
「債券・株式の保有、投資信託」と回答する割合が多い(図 1 − 3 − 1)
。また、
「特に何もしていな
い」と回答する高齢者が、日本は 42.7%と最も多く、他国は 20%台となっている。
図1−3−1
老後の生活費に対する備え(複数回答)
(%)
60
50
56.9
56.7
56.7
46.6
42.7
42.6
40.5
40
33.2
29.7
30
20
10
0
26.1
20.9
19.6
15.9
7.1
6.4
5.0
0.5
日本
1.4
15.7
13.5
13.8
5.6
8.0
4.3
2.8
アメリカ
ドイツ
個人年金への加入
貴金属の保有(金、宝石等)
特に何もしていない
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
36
6.8
3.3
0.1
預貯金
不動産取得(賃貸収入を得るための取得等)
その他
25.4
21.4
0.9
0.7
3.2 3.1
スウェーデン
債券・株式の保有、投資信託
老後のために職業能力を高める
無回答
第 章
(2)貯蓄や資産は足りないとする高齢者の割合は、日本が 57.0%
1
現在の貯蓄や資産について、老後の備えとして十分と考える高齢者の割合(「十分」と「まあ十
高齢化の状況
分」の計)は、スウェーデン 72.7%、アメリカ 68.8%、ドイツ 66.3%となっており、日本は最も少
ない 37.4%となっている。
一方、貯蓄や資産が老後の備えとして足りないと考える高齢者の割合(「やや足りない」と「まっ
たく足りない」の計)は、日本が 57.0%と最も多く、アメリカ 24.9%、スウェーデン 18.9%、ドイ
ツ 18.0%と続いている。
図 1 − 3 − 2 老後の備えとしての現在の貯蓄や資産の充足度(複数回答)
「十分だと思う」+「まあ十分だと思う」
「やや足りない」+「まったく足りない」
37.4%
57.0%
10.4
27.0
34.9
22.1
14.3
38.0
33.6
0
29.0
10
20
12.6
40
50
3.7
5.4 1.4
18.9%
43.7
30
11.8
18.0%
32.7
6.7
3
13.1
72.7%
スウェーデン
節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
30.8
66.3%
ドイツ
4.3
24.9%
68.8%
アメリカ 2.7
第
日本 1.3
60
14.3
70
80
4.6 1.7
90
100
(%)
社会保障で基本的な生活は満たされているので資産保有の必要性はない
十分だと思う
まあ十分だと思う
やや足りないと思う
わからない
まったく足りないと思う
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
日本の高齢者は、公的年金の他に、50 代までに行った老後の備えとして、主に「預貯金」や「個
人年金への加入」を行っているが、一方で約 4 割は「特に何もしていない」と回答している。また、
5 割超が、現在の貯蓄や資産が老後の備えとして「足りない」と回答している。若い時期から老後
を見据えて準備を始めることが重要と考えられる。
2 仕事について
(1) 収入の伴う仕事をしたいと回答した高齢者の割合は、日本が 44.9%
今後、収入を伴う仕事をしたいか尋ねたところ、調査対象国すべてで高齢者の過半数が「収入の
伴う仕事をしたくない(辞めたい)」と回答している。その一方で、収入を伴う仕事をしたい(続
けたい)とする高齢者の割合は、日本が 44.9%と最も多く、アメリカ 39.4%、スウェーデン 36.6%、
ドイツ 22.7%と続いている。(図 1 − 3 − 3)。
37
図1−3−3
今後の就労意欲
(%)
80
76.6
63.4
60.1
60
54.9
44.9
39.4
40
36.6
22.7
20
0.5
0.2
0
日本
0.7
アメリカ
収入の伴う仕事をしたい(続けたい)
無回答
ドイツ
スウェーデン
収入の伴う仕事をしたくない(辞めたい)
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
(2)収入の伴う仕事をしたい主な理由は、日本とアメリカは「収入が欲しいから」
、ドイツとス
ウェーデンは「仕事が面白いから」
収入を伴う仕事をしたい(続けたい)理由として、日本とアメリカは「収入が欲しいから」、ド
イツとスウェーデンは「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」と回答する割合が多
く、仕事に求めるものの違いが表れている(図 1 − 3 − 4)
。
図1−3−4
就労の継続を希望する理由
(%)
60
54.4
52.7
50
48.9
49.0
40
31.9
28.1
30
24.8
20.8
20
10
16.9
14.9
7.1
2.2
2.8
1.5
0.9
0
日本
アメリカ
収入がほしいから
仕事を通じて友人や仲間を得られるから
その他
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
38
16.9
14.8
ドイツ
3.0
3.1
4.9
0.4
スウェーデン
仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから
働くのは体によいから、老化を防ぐから
無回答
第 章
調査対象国すべてで高齢者の半数以上が「収入を伴う仕事はしたくない」と回答するなか、日本
1
の高齢者の 44.9%は「収入の伴う仕事をしたい」と回答している。就労を希望する高齢者に対して、
高齢化の状況
多様なニーズに対応した就業機会の提供を図る必要がある。
3 友人・知人との交流について
(1)近所の人と「病気の時に助け合う」高齢者の割合は、日本が最も少ない
ふだん、近所の人とは、どのようなお付き合いをしているか尋ねたところ、日本、アメリカ、ス
ウェーデンは「外でちょっと立ち話をする程度」
、ドイツは「お茶や食事を一緒にする」と回答す
る割合が最も多い(図 1 − 3 − 5)。「相談事があったとき、相談したり、相談されたりする」と回
答する割合は、ドイツ 48.3%、スウェーデン 31.2%、アメリカ 28.3%、日本 18.6%となっており、
第
また「病気の時に助け合う」と回答する割合は、ドイツ 31.9%、アメリカ 27.0%、スウェーデン
節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
3
16.9%、日本 5.9%となっており、いずれも日本の割合が最も少ない。
図 1 − 3 − 5 近所の人との付き合い方(複数回答)
0.6
9.7
日本
0.0
18.6
15.6
24.2
6.1
18.4
アメリカ
15.2
13.5
45.9
27.0
28.3
24.9
1.2
1.3
38.7
14.3
ドイツ
67.3
41.9
5.9
5.2
31.9
7.3
48.3
50.1
16.3
0.0
8.4
スウェーデン
16.9
3.2
89.7
24.3
31.2
9.2
0
10
35.9
20
30
40
無回答
外でちょっと立ち話をする程度
病気の時に助け合う
相談ごとがあった時、相談したり、相談されたりする
お茶や食事を一緒にする
50
60
70
80
90
(%)
その他
物をあげたりもらったりする
家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする
趣味をともにする
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
39
(2)相談や互いに世話をする友人がいないと回答する割合は、日本が最も多い
家族以外の人で相談し合ったり、世話をし合ったりする親しい友人がいるか尋ねたところ、「い
ずれもいない」と回答した高齢者の割合は、日本が 25.9%と最も多く、ドイツ 17.1%、アメリカ
11.9%、スウェーデン 8.9%と続いている(図 1 − 3 − 6)
。
図1−3−6
親しい友人の有無
日本
57.5
アメリカ
1.9
39.8
ドイツ
3.2
32.2
2.4
28.1
スウェーデン
0
41.8
同性の友人がいる
同性・異性の両方の友人がいる
わからない
3.4
11.9
17.1
59.2
40
1.0
25.9
47.6
3.2
20
13.8
60
0.7
8.9
80
0.6
100
(%)
異性の友人がいる
いずれもいない
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
日本では高齢化が進み、高齢者のいる世帯構成は単独世帯が増加傾向にあり、平成 26(2014)
年では約 25%を占めている。こうした状況のなか、近所の人との付き合いについて、相談する・
される、病気の時に助け合うと回答する割合が、調査対象国のなかで低い水準となっており、さら
には家族以外の人で相談や互いに世話をし合ったりする友人がいない割合は高い水準となってい
る。高齢者が地域社会から孤立しないよう、様々な取組が求められる。
40
第 章
4 老後生活の満足度について
1
高齢化の状況
(1)日本の高齢者の 77.5%は、経済的に困っていない。
経済的な意味で、日々の暮らしに困ることがあるか尋ねたところ、経済的に困っていない高齢者
の割合(「困っていない」「あまり困っていない」の合計)は、スウェーデンが 87.3%と最も多く、
日本 77.5%、ドイツ 77.0%、アメリカ 68.3%と続いている(図 1 − 3 − 7)
。
図 1 − 3 − 7 日々の暮らしで経済的に困ることの有無
5.9
アメリカ
6.3
16.7
25.9
51.6
25.2
32.0
0.0
第
日本
0.2
36.3
節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
3
ドイツ
4.1
スウェーデン 2.6
0
18.8
31.0
10.1
46.0
29.1
20
困っている
0.2
58.2
40
少し困っている
60
あまり困っていない
0.0
80
困っていない
100
(%)
無回答
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
41
(2)調査対象国すべての高齢者の約 9 割は、老後生活に満足している。
総合的にみて、現在の生活に満足しているか尋ねたところ、現在の老後の生活に満足している高
齢者の割合(「満足している」と「まあ満足している」の計)は、スウェーデン 97.1%、アメリカ
95.2%、ドイツ 91.9%、日本 88.3%となっている(図 1 − 3 − 8)
。
図1−3−8
現在の生活への満足度
日本
30.7
57.6
アメリカ
71.1
ドイツ
41.3
61.0
スウェーデン
0
20
満足している
0.9
2.7
1.2
24.1
50.6
6.3
まあ満足している
60
やや不満である
80
不満である
0.2
1.7
0.5
2.4
36.1
40
0.1
3.3
8.4
100
(%)
無回答
資料:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平成 27 年)
(注)対象は 60 歳以上の男女(施設入所者は除く)
本調査では、日本の高齢者の約 8 割が経済的に困っておらず、約 9 割が現在の生活に満足してい
ると回答している。
一方で、日本は老後の備えとして現在の資産や貯蓄を不安と考える割合や家族以外の人で相談し
合ったり、世話をし合ったりする親しい友人がいない割合が、他の国よりも多いという結果も出て
いる。こうした点に加え、状況の変化により生活の満足度が低下する可能性も勘案して、高齢期の
生活を支える取組を進めていく必要がある。
42
第 章
1
コラム:介護離職の防止に向けて(∼介護と仕事の両立支援に取り組む民間企業∼)
高齢化の状況
『仕事と介護の両立への取組』
アステラス製薬株式会社
◎介護に関する取組
①休暇や休業に関する制度
・介護休暇(対象家族が 1 人の場合 5 日、2 人以上の場合 10 日)
・介護休業(通算 1 年間 ※同一の要介護状態が継続している場合でも、複数回取得可能)
・短時間勤務(複数時間帯から選択可 ※事由解消まで取得可能)
・看護休暇(子とは別途に、配偶者または親の介護が必要なときに 5 日)
・寄り添い休業(家族余命宣告時に 1 週間以上 6 か月以内の範囲で 2 回まで取得可能)
②補助制度 ※社員共済会からの補助
・介護支援補助(一時的に介護施設・機関又はヘルパーを利用した場合に対する補助)
第
③周知・啓発
節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
・介護保険制度や自社制度に関する冊子の全社員配布
3
・介護と仕事の両立に関するセミナー
・社内イントラを使った、介護に関する情報提供
◎ 2007 年より女性活躍を中心としたダイバーシティ推進に取り組んでいる。ダイバーシティの実現には
多様な社員一人一人が職務に全力投球できる環境の整備や意識醸成が重要と考え、育児や介護を含むラ
イフイベントと仕事との両立支援にも力を入れている。
◎一連の取組の結果、自社制度の利用者は少しずつ増えている。特に介護休暇の利用者の増加が顕著で、
以前の利用人数は年間 10∼20 名程度だったが、啓発活動後は約 30 名以上に増えた(人数はグループ
会社を含む)。
制度を活用してもらうには、制度を創るだけでは十分ではなく、本人や職場の理解が進むことが必要と
の認識が共有されるようになった。
◎現在の課題は「介護中も短時間勤務や休業を利用せず普通に働き続けたい」
「キャリアや評価を諦めたく
ない」というニーズへの対応である。このため、2016 年度からは在宅勤務制度を大幅に緩和している。
『介護離職防止に向けた取り組み ∼「介護」を理由に仕事を諦めない∼』
東日本旅客鉄道株式会社
◎介護に関する取組
①介護期の働き方の選択肢増
・短時間勤務(一日 6 時間勤務)
・短日数勤務(月に 4 日間の休暇取得可能)
・介護休業制度(対象家族 1 人につき 365 日取得可能)
②社内コミュニケーション支援
・ポータルサイト運営(双方向の情報発信)
・社員ネットワーク活動(機関別会議)
③企業風土醸成
・「両立支援ガイドブック」の全社員配布
・社内報、フォーラム等でのトップメッセージ発信
④労働時間制
・全企画部門へのフレックスタイム制度
◎多様な人材がその能力を最大限発揮できる企業グループをめざし、ダイバーシティ他各種施策に取り組
43
み、人材の育成・活躍を基本的哲学に大いに反映させている。
◎年齢や性別にかかわらず多様な社員が、ワーク・ライフ・バランスを充実させ、その能力を発揮し、い
きいきと活躍できる職場づくりが重要であるとの考えのもと、育児と介護を理由とした短時間・短日数
勤務制度などの仕事と家庭を両立する「制度」と、制度を利用しやすい「企業風土づくり」の両面から
取り組みを行っている。
◎「働きたい」
「働き続けたい」という社員の意欲に応え、すべての現業機関での制度利用を可能としたこ
とは、経営的には非効率であったが、「超えねばならぬ壁」として経営トップが決断し、メッセージを
丁寧に発信してきたことは今後も継続していくこととしている。
◎これらの制度を利用する社員の不在中の職場や同僚の理解、カバー力、職場マネジメントを引き出して
いる。復職や就業継続を可能にする工夫をすることで、男女とも育児や介護などの個人的な事情を抱え
ても仕事を離れずに済み、あるいは休職しても仕事に戻って活躍できる職場風土の醸成を継続していく
こととしている。
コラム:ドイツにおける認知症の人への有償ボランティアのサービス
◎ドイツでは総人口 8199 万人中 157 万人が認知症患者と推計されており、認知症の人が地域の中でより
よく生きていくための専門職による支援、ボランティアによる支援が行われている。さらにドイツでは
専門職とボランティアの中間的なかたちで有償ボランティアが認知症の人の支援をしている。
◎有償ボランティアの一つに「敷居の低い世話サービス」という組織がある。ここでは、日常生活支援の
みで身体介護は行わず、在宅訪問や、施設などでサービスを提供する。
◎サービス実施団体はサービスプロバイダーや市民団体であり、有償ボランティアはサービス実施団体か
ら支払いを受ける。賃金は、最低賃金の時給を下回っている。要介護者が支払う金額は、個人でサービ
スを受ける場合は 1 時間 15 ユーロで、公的介護保険サービスを使う場面よりも安い。
◎有償ボランティアは社会貢献をしているという充実感も得られ、一定の収入を得られる。さらに、有償
ボランティアが日常生活支援の役割を担うことは、人材の数の限られた専門職が専門性を活かした業務
に集中しやすくなる面もある。
44
第 章
1
コラム:社会的課題の解決に向けた多世代の支え合い∼「“わくわく”学習会」で活躍する地域のシニア達∼
高齢化の状況
◎非営利活動法人キーパーソン 21 は、神奈川県川崎市を中心に、キャリア教育を軸として、貧困世帯の
子供の居場所づくり・学習支援などの活動を行っている。平成 26 年に川崎市から学習支援・居場所づ
くり事業を受託し、中学 2∼3 年生を対象に「中原“わくわく”学習会」を開講。貧困世帯の中学 1 年
生に対しては、独自に企業や会員からの寄付を募って、学習支援「小杉“わくわく”学習会」を実施し
ている。
◎学習会では、学習サポーターと呼ばれる支援員が子供達の勉強を支援しており、学習サポーター25 名
中 11 名が地域のシニア達で構成されている。
◎シニア達は時間にも心にも余裕があり、子供達一人ひとりの学習の進捗状況を把握したり、家庭の事情
にも寄り添ったり、丁寧に向き合うことができる。朝山代表によると、シニア達は子供達に対して頭ご
なしに否定的なことを言うことがなく、認められる経験をした子どもは、自分に自信を持てるようにな
り、学習への取り組みはもちろん、自分の未来を考える意欲がわいてくるようになるという。
第
◎本事業は、学習支援、居場所づくり、そして団体の活動の柱でもあるキャリア教育の実践によって、着
節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識
実に効果を上げている。成績データのある子供の約 72%に成績の向上がみられ、中学 3 年生 13 名全員
3
の高校進学が決まった。
◎こうした支援を行うことは、ワーキングプアを防ぎ、貧困の連鎖を解消する一助となる。また、核家族
が増える中、シニア世代を中心とした多世代交流は、子供たちにとっても貴重な財産となり、将来選択
の中で大きな役割を果たしていくだろう。
コラム:100 歳まで働ける職場で多世代がつながる
◎さいたま市に「100 歳まで働けるものづくりの職場」を目指した「BABA ラボ」という工房がある。
「BABA ラボ」は、定年後、地域で自分の得意なことやこれまでの経験を活かし、なおかつ歩いて行け
る距離で、お小遣い程度でも稼げる所があれば、という思いから作られた。
◎ここでは、おじいちゃん・おばあちゃんが孫の面倒をみるときに使いやすい、使ってみたいと思わせる
グッズを、地域の高齢者たちの経験と知恵を生かして開発している。
◎高齢者だけでなく、30∼40 代の子育て中のメンバーも多い。現在、約 50 名が登録し、実際の作業に
応じて賃金を支払う仕組みとなっているが、作業は細分化し、より多くの人が作業できるように工夫し
ている。
◎工房に子供や孫を連れてきても問題なく、手作業が苦手でも、メンバーの賄いの食事を作るボランティ
アとして参加することも可能だ。作業を細分化し、あえて「非効率」にすることで、いろいろな年代の
方が参加できるようにしているのが魅力でもある。
◎両親が遠くに住んでいる、核家族の若い夫婦が、自分の子供に「おばあちゃん」の温かさを経験させて
あげたい、また、年を重ねても生き生きとしている姿を、これから年を重ねていく自分の希望にしたい、
という思いから集まっている。
◎おばあちゃんがしばらく顔を見せないと、心配で電話をかけたり、訪ねていったりすることもある。工
房が住んでいる地域にあるからこそ、工房の外でもつながりが生きている。
◎健康寿命が延伸しているとはいえ、高齢者が現役時代と同じように働くことは難しい。高齢者の就労に
は、加齢に伴う心身の変化への対応を含めた仕組みを考えることが不可欠である。
◎また、高齢者の姿は、若い世代にとっては将来の自分である。加齢に伴う変化を認識したうえで、自分
自身が高齢期に至ったときに、どこでどういう働き方をしたいのか、将来に向けた心構えや準備を人生
の早い段階から考えておく上で、若い世代にとっても重要な場となっている。
45
コラム:「新しい東北」の創造に向けた取組
◎東北地方は、震災前から、人口減少や高齢化等、現在の地域が抱える課題が顕著であった。このため、
復興を単なる原状復帰にとどめるのではなく、これを契機に地域の課題を克服し、我が国や世界のモデ
ルとなる「新しい東北」を創造することが期待されており、先進的な取組を加速するための先導モデル
事業等を実施してきた(平成 27 年度で事業終了)。
◎『ほっこりふれあい食事プロジェクト』は、仮設住宅の高齢者が保育所・幼稚園で子供と一緒に給食を
食べ、ふれあうことにより、孤食の解消や、生活の不活発化を原因とする心身機能の低下等の課題に対
応するとともに、高齢者の生きがいを創出する取組。日本栄養士会及び被災 3 県の栄養士会の協力を得
て実施しており、平成 27 年度は、被災 3 県の 12 か所の保育所等で、事業を計 30 回実施した(延べ
393 名参加)。
◎特定非営利活動法人全国コミュニティライフサポートセンターでは、
「地域包括ケアシステム」の一翼
を担う、住民の主体的な支え合い活動や生活支援サービス事業の立ち上げを後押しするとともに、新た
な活動分野の開拓を進めている。
具体的には岩手県、宮城県、福島県の各県において、住民や、行政、社会福祉協議会などを対象とした
研修講座や、東北を中心に集めた実践事例集の発行、アドバイザーの派遣等を実施。東北地方も含めた
全国の中山間地域等で、高齢者等の生きがいづくりや、改正介護保険法の「新しい総合事業」を担う福
祉人材の確保などを目指している。
46