12.垂直統合 ・教科書(網倉久永,新宅純二郎 『経営戦略入門』) 第12章 「垂直統合」 P.389~P.414 ・概要 本章では垂直統合の基本について説明し、市場、 準市場、準組織、組織などについて解説する。さら に、それらを技術や競争と結びつけて考察する。 1 12. 垂直統合 12.1 垂直構造の中での事業領域 12.2 市場と組織 12.3 垂直統合と競争 12.4 垂直統合と技術 2 12.1 垂直構造の中での事業領域 垂直統合(Vertical Integration) 事業(製品)分野1 事業(製品)分野2 原材料 原材料 部品 垂 直 統 合 ___ 部品 最終組立 最終組立 販売 ・サービス 販売 ・サービス 顧客 顧客 3 12.1 垂直構造の中での事業領域 垂直統合(Vertical Integration) – 定義 同一製品分野内で「取引関係にある分業単位」へ進出して企業活動の 範囲を拡大すること – (Backward Integration; 後方統合) • 川上分野への進出 • 組立→部品・原材料"make or buy"の決定 – (Forward Integration; 前方統合) • 川下分野への進出 • 組立→販売 4 12.1 垂直構造の中での事業領域 川上統合と川下統合 事業(製品)分野1 原材料 川 上 統 合 部品 最終組立 販売 ・サービス 川 下 統 合 顧客 5 12.1 垂直構造の中での事業領域 技術進歩による業態の変化-半導体- シリコン結晶 材料 スライス刃物 (ex.日本ディスコ) シリコンウエハ 2410億円 化学薬品 (ex.信越化学) 半導体 4兆3400億円 製造装置 4429億円 (ex.ニコン) 検査装置 564億円 環境装置 322億円 設計 製造 金額データ:2001年 日本市場 半導体 コンピュータ ユーザー 携帯電話 (システムメーカー) 自動車 6 12.1 垂直構造の中での事業領域 業態による競争力の変化 – 中核部品 急速な技術進歩、最終製品の差別化の源泉 → Ex) 電子機器における半導体 – 汎用部品 によるコスト削減 – 同等の統合状態におけるKFSの変化 半導体:新製品開発→製造技術 7 自動車のサプライチェーン • 部品点数が多く、深いサプラ イチェーン。 – 通常把握しているのは、1次、2 次まで。 – サプライチェーン調査 • 1次の415社・3432品目調査 • 15万取引、15,000拠点、13,000 社。 – 被災して供給ストップした品目 のほとんどが、2次以下。 8 グローバルサプライチェーン 部分移転 海外(タイ)のサプライチェーン 日本のサプライチェーン ローカルコンテントを 1次で判断すると 過大評価 実際の ローカルコンテント 今まで海外進出して いなかった三次、四次 の中小企業の海外進 出が課題。 Local Production Import from Japan 9 液晶テレビの企業出身国別シェア(台数ベース) 80% Japan Korea 60% EU China 50% Others 70% 40% 30% 20% 10% 0% 2003CY 2004CY 2005CY 2006CY 2007CY 2008CY(F) 10 液晶パネル生産における国別シェア(出荷量) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1995 1996 1997 1998 Japan 1999 2000 Korea 2001 2002 Taiwan 2003 2004 2005 China 出所:三星経済研究所(1999),DisplaySearch(2002,2006) 11 液晶テレビのコスト構成: 46インチLEDタイプのケース TV manufacturer profit labor cost etc general etc other TVexpense set parts TV set shipment price 100% TV set cost 83% 17% 5% 14% pan e l m an u fac tu r e r pr ofit 5% labor c ost, de pr e c iation e tc 9% oth e r m odu le par ts 7% LCD module LED BLU shipment dr ive r IC price liqu id c r ystal 64% 24% 1% 2% polar ize r 4% c olor filte r 6% glass su bstr ate 5% Source: 新宅作成。付加価値率は次の論文を参照。 Nakagawa. K.., W. W. Song, & S. Katsumata (2011) Customized component transaction with insufficient trust: Case of the LCD industry (Japanese), Discussion Paper Series No. 339, Manufacturing Management Research Center, The University of Tokyo. 12 液晶モジュールのコスト構造 (46インチ) Japan Korea Taiwan 7% 6.5% 67% 26.5% labor cost, depreciation etc 14% 6.5% 67% 26.5% other module parts 12% 6.5% 67% 26.5% panel manufacturer profit LCD module LED BLU shipment price 38% driver IC liquid crystal polarizer color filter glass substrate Total cost 2% 3% 7% 10% 7% 27.4% 42.9% 23.2% 58.7% 16.8% 40.1% 38% 31.2% 47.4% Swiss 28.8% 28.3% 18.2% 10.8% 9.7% 1.7% 14.6% 62% USA 14% 46% 20% 20% ↑ JAPAN ↑ KOREA ↑ TAIWAN ↑ ? Others Source: 1. Data from LCD report of Fuji Chimera Research Institute, 2010. 2. Same as previous slide. 13 Global HDD Production in 2011 Malaysi Korea 2% a 12% Singap ore 1% China 30% Philippi nes 5% Thailan d 50% 世界のHDD生産の 半分がタイ 14 Global Supply Chain of HDD A Case at Factory in Thailand Thailand Japan Japan Malay sia Thailand Thailand Japan USA China Korea Thailand Thailand Thailand 部品生産の源流は 多様である Thailand Thailand China Japan Japan Philippines 15 HDDの付加価値分析:ドライブの生産はほとんどなく なったが、日本の製造付加価値は2割以上 Others Depreciation Freight Material/Maintenance Direct Labor 2.7% 1.1% 0.2% 0.7% 2.3% 100% 70% Parts Cost 93% Mechanical 32.7% parts 100% 95% 100% 5% PCBA 24.1% 30% 30% 70% 90% 10% Media 15.5% 30% 70% Head 20.7% 30% 70% cost (total) 22% Japan 78% Oth e r Source: Data from HDD factory in Thailand, 2011. 16 ファスナー 中国での製造コストの3割は日本コスト • 中国での製造コストの3割は日本コストになる。 中国での製造コスト 日本コスト 30% 中国コスト 70% • 機械設備、Yバーとスライダーの一部は日本から の輸入に依存。 • Yバーの生産にノウハウがあり、Yバーの品質が ファスナー全体の品質を決める。 今後、海外での生産比率は、少しずつ高 められ、最終的には約9割になる見込み。 17 液晶パネルのシェアは低下したが、 日本付加価値は10倍に成長した。 価 格 以前は、付加価値全体を日 本企業で支えていたが、市 場規模の拡大とともにアジ ア各国が参入、価格が下落 した。日本市場の投資額は むしろ増加。 パネル製造 付加価値 金 額 価格 市場 時間 部品 部 品 コ ス ト 60 ~ 70 % 韓国 Panel 付加価値 台湾 Components 部品 材料 Material 材料 市場規模 40億ドル (1992年) 600億ドル (2004年) 市場拡大 © 新宅@東大MMRC 18 12. 垂直統合 12.1 垂直構造の中での事業領域 12.2 市場と組織 12.3 垂直統合と競争 12.4 垂直統合と技術 19 12.2 市場と組織 垂直的な流れの調整 – 市場か企業組織か? 市場取引: による調整 組織内の管理的権限にもとづく指示: による調整 – 効果的な調整とは 必要なものが、必要なときに、必要な量だけ、正確に流れる – 自動車メーカーの部品統合度の差 日本のほうが購入比率が高い→市場取引か? 20 12.2 市場と組織 準組織と準市場 – 下請(系列)部品メーカー、系列販売会社→「 」 • 価格以外の要求 (納期、コストダウン、品質、設計の指示) – 長期、安定的、継続的な取引関係→「 」 • トヨタ - 新日鐵、東芝 – 「純粋な市場」:スポット市場 21 12.2 市場と組織 内部組織の経済学 – 経済学 • 各取引主体が自己利益の最大化を考えて、価格情報に合わせて、 合理的に行動すれば、効果的な調整がなされる。 • 「インビジブル・ハンド」アダム・スミス – 現実には、垂直統合されたビッグ・ビジネスの登場 22 12.2 市場と組織 市場と組織 – ロナルド・コース 『内部組織の経済学』 (1937) • 市場取引にかかるコスト:情報収集、契約、将来の不確実性 – オリバー・ウイリアムソン 『市場と企業組織』(1975) 限定された合理性 不確実性・複雑性 機会主義 少数性 情報の偏在 → の発生→ の節約→垂直統合 市場から組織へ – チャンドラー 『経営者の時代(The Visible Hand)』 23 12.2 市場と組織 市場と組織 24 12.2 市場と組織 計画経済の垂直構造 – 組織-準組織-準市場-市場 の選択 – 市場の失敗 – 組織 -計画経済- の失敗 • 旧ソ連式計画経済 – ノルマ(量と納期)達成の義務 →部品・原材料の過大な在庫投資 • 事前の計画 →規格、品質、デザインの固定 →イノベーションの余地無し 25 12.2 市場と組織 市場と組織 – 垂直統合と情報の流れ • 垂直統合のメリット: (cf.取引コスト) 品種やデザインについての市場動向 需要量の予測 – 事例 • 繊維産業 日本:川上に大企業、川下ほど多数の小規模企業 アメリカ:1970年代前半に垂直統合・競争力回復 市場取引→不正確な需要予測 →(規模の経済)→生産過剰→「投げ売り」→赤字 • アルミサッシ トーヨーサッシ:直接販売 不二サッシ:問屋ルート(間接販売) →1970年代後半、過剰在庫で不渡り • 建設機械 コマツ:直接販売 キャタピラー三菱:商社、問屋経由の販売 26 12.2 市場と組織 トヨタの製販統合の例 自動車 メーカー サプライヤー 発注内示 (1カ月前) ディーラー 発注確定 (1カ月前) 日次発注 (2-3日前) 仕様変更 (3日前まで) 発注 販売 生産 搬入 ユーザー 出荷 引き渡し 参考①:富野貴弘・呉在恒・田中正・東正志(2008)「受注生産システムの方向性と課題‐サプライ ヤーから販売にいたる自動車産業の事例」MMRCDP No.217 参考②:富野貴弘(2010)「日産方式と受注生産-トヨタとの比較を通じて-」 MMRCDP No.295 27 12.2 市場と組織 – 参考文献 今井・伊丹・小池『内部組織の経済学』 東洋経済、1982 (1)取引参加者各人の決定原理の特徴 • M1=価格、ないしはそれに準じたシグナルを主な情報媒体とする、各人 の個人的利益・効用の最大化を原理とする自由な交換 • O1=権限による命令 (2)取引参加者集団のメンバーシップおよび参加者間の相互関係の特徴 • M2=自由な参入・退出 • O2=固定的・継続的関係 28 12.2 市場と組織 (1)\(2) M1 M2 M2+O2 市場 M1+O1 中 O1 O2 間 組 織 組織 29 12. 垂直統合 12.1 垂直構造の中での事業領域 12.2 市場と組織 12.3 垂直統合と競争 12.4 垂直統合と技術 30 12.3 垂直統合と競争 規模の経済と垂直統合 – スティグラー • アダム・スミス「分業の程度は市場の広さによって限定される」 • 産業の発展=市場の拡大:垂直統合 →分業の進展 • 衰退期 →再び、垂直統合 – 川上部門と川下部門の規模の経済(最適規模)の差 • 川上に規模の経済 → に分化(繊維機械) – 川上部門の切り離し • 川上は労働集約的 → の利用 (戦後の自動車、電気機械) →技術革新によって最適規模が大きくなると、下請企業が他社取引 – 川下部門の切り離し • 川上に規模の経済性 • 日本の繊維産業:紡績は巨大化(大阪紡績の成功) →川下の織布は 地場産業 レーヨン、合成繊維でも、大企業は川上に専念 31 12.3 垂直統合と競争 垂直統合の阻害要因 – 企業文化 • 川上企業:装置産業的に大量生産する素材産業にふさわしい企業文化 →顧客ニーズにきめ細かく対応する川下事業には不適当 Ex) TIの電卓事業 – 競争関係 • :従来の顧客と競争関係 • 川崎造船所(現、川崎重工) 第一次大戦中、末期に大量見込み生産 戦後の不況期に海運業に進出 →日本郵船、大阪商船からの受注ストップ 32 12.3 垂直統合と競争 交渉力のバランス – 供給業者、買い手との間の交渉力 • 集中度の相対的差異 集中度の高い産業が強い交渉力 • スイッチング・コスト(MPUとパソコンメーカー) – 垂直統合による脅し Tapered Integration – 川上産業の独占形成→川下企業の垂直統合 • USスチールの設立 →フォード、マコーミック収穫機は製鉄所建設で対応 33 12. 垂直統合 12.1 垂直構造の中での事業領域 12.2 市場と組織 12.3 垂直統合と競争 12.4 垂直統合と技術 34 12.4 垂直統合と技術 ユーザーノウハウの獲得 – 生産財(半導体、機械、鉄鋼) • ユーザー・ノウハウ →技術革新 →競争力 • とテクノロジー・プッシュ • の知識 – ユーザー・ノウハウ獲得の方法 • ユーザー産業からのヒトの引き抜き Ex) アメリカ • ユーザー企業との共同開発 Ex) 日本:準市場、準組織的な取引関係 • 小規模な川下統合 35 12.4 垂直統合と技術 ニーズの翻訳過程と開発成果(1) (翻訳機能) 生産財メーカー 生産財スペック 消費財メーカー 翻訳 消費財コンセプト 消費者 翻訳 ニーズ (A)高成果 失敗パ ターン (B)低成果 (C)低成果 (D)低成果 © 富田純一 36 12.4 垂直統合と技術 ニーズの翻訳過程と開発成果(2) (E)高成果 翻訳 生産財メーカー 消費財メーカー 消費者 提案 生産財コンセプト 消費財コンセプト ニーズ (翻訳機能) © 富田純一 37 12.4 垂直統合と技術 SAP(日本触媒) • 1983年、高吸水性ポリマー(SAP)「アクアリッ クCA」を発売 • 吸水性・液拡散性・吸引力が高い、かつ安価 であることから紙おむつ用樹脂として広く普 及 →売上高400億円弱、世界シェア25%(2004年)、 業界標準 © 富田純一 38 12.4 垂直統合と技術 © 富田純一 39 12.4 垂直統合と技術 © 富田純一 40 12.4 垂直統合と技術 コア・テクノロジーの放棄 – コア・テクノロジー Core Technology • ある事業で競争力を保つために、中核的な技術 • 他の企業から購入したほうが採算的に有利であっても、内製する必要 • 電子機器産業における半導体 – アメリカの電子機器メーカー:GE、RCA • 戦後、真空管から半導体事業に進出 • 半導体の急速な進歩 →設備の急速な陳腐化、低い利益率 • 半導体事業からの撤退 • 民生用電子機器における競争力の低下 (カラーテレビ、VTR) 41 12.4 垂直統合と技術 コア・テクノロジーへの執着 (日本の電子機器メーカー) – ソニー:トランジスタをラジオ、テープレコーダーに応用して成功 – 東芝、NEC、日立などは、ICへの技術転換を契機に本格参入 • コンピュータなど自社ユース • 電卓、時計メーカーに外販 – 川下メーカーの川上統合 • シャープ、キャノン、リコー • セイコー – カシオ • コア・テクノロジーは、ICすべてではなく「回路の論理設計」にある • 大量発注→日立、NECにカシオ専門の生産ライン • 最新の技術情報の獲得 42 12.4 垂直統合と技術 部品専門企業の発達 – コア部品の →標準的な汎用部品は • コンデンサー、フェライト、リレー – 電子部品専門企業の成長 • 田村製作所、太陽誘電、村田製作所、TDK 特定部品では世界市場の70~80%のシェア 日本の電子機器メーカーは高品質・低価格の部品を利用→競争力に貢献 – YKKのファスナー事業 • 布地まで内製 繊維機械も機械メーカーと共同開発 「布地こそファスナーの差別化要因」 43
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