「将来世代の責任」の所在

巻頭言
「将来世代の責任」
の所在
財務大臣政務官
中西 祐介
2015 年 10 月、第三次安倍改造内閣において財務大臣政務官を拝命しました。聞くところによ
ると、36 歳での政務官就任というのは大蔵省・財務省史上最年少とのことです。
31 歳で参議院に初当選した頃より、「若いね」と声をかけられることが多いのかと思いきや意外
に、風貌なのかキャラなのか理由は定かではありませんが、それほど「若い」と言われることはあ
りません。
しかし 36 歳という年齢は、まだまだ政治家としても、一社会人としても発展途上の「若さ」が
ある年齢です。
「若さ」という絶対的経験値が足りない自覚と、それを補う〇〇を持つ事こそ重要
だと考えます。
今夏の参院選で合区により新たに私の選挙区となった高知県には、坂本龍馬が土佐藩を脱藩する
際に歩いた「脱藩の道」があります。土佐から伊予に抜けるその道は関所を避け、峠を越える厳し
い山道です。大志を抱いた龍馬がその道を歩いたのは 26 歳、その後 5 年という、参議院 1 期に満
たない短い期間で薩長両藩を同盟に導き、大政奉還の原動力となったその矢先、京都近江屋で 31
歳の若さで暗殺されるに至ったことは周知の事実です。
また、明治維新前夜の同時期、西郷隆盛は 39 歳、大久保利通は 37 歳、木戸孝允はまだ 34 歳
だったようです。ちなみに、
「あさが来た」で人気を集めた五代友厚は 38 歳で大阪会議の調整役と
して活躍し、渋沢栄一は 36 歳で東京会議所の会頭となっています。
もちろん当時とは寿命も社会構造も違うのは承知の上ですが、生を受けてから与えられた年数は
同じであり、同じ時間を如何に過ごすか、その背柱となる〇〇、つまり信念や志こそが生きる過程
においていかに重要か、ということであろうと思います。
財務大臣政務官に着任して以来、幹部の方々以外にも同年代の皆さんとも親しく懇談させて頂い
ております。私と同い年の 36 歳と言えば、入省 14 年目、中堅課長補佐として組織の中核を担い
始める頃とのことです。財務省には、国家運営を為す予算や税制、金融などの中核で活躍されてい
る優秀な若手職員の方が多いと実感しますが、同様に優秀かつ更に経験豊富な上司の方々の下で、
自分の初志を貫きつつ、さらに信念や志を磨きながら日々の職務を全うするのは、私自身の職務経
験を踏まえて考えると、大変な事だと思います。
しかし、数十年先の日本の姿に責任を持つ政治や経済・財政政策に従事する我々こそ、経験不足
をもチャンスに変えなければならないのだと思います。6 年前の初めての選挙で、「50 年先に責任
を持つ政治を!」と心から訴えましたが、予測不可能な将来世代に誰が責任を持つかと言えば、そ
の世代に生きる我々そのもの、だと断言出来ます。たった 150 年前の同じ国、同じ世代の明治の
先達たちの熱き思いに身を重ねて鼓舞しながら、省益よりも国益を、目先よりも長期的繁栄を、
我々世代はより強く意識せねばならないのだと、私自身日々繰り返し自省しております。
母校慶應義塾の創設者である福澤諭吉先生(33 歳で創設)の言葉に「自我作古」というものが
あります。
「われよりいにしえをなす」と訓みますが、前人未踏の新しい分野に挑戦し、たとえ困
難や試練が待ち受けていても、それに耐えて開拓に当たるという意味の言葉であり、正に我々世代
こそが胸に刻んでおくべき勇気と使命感を表す言葉ではないでしょうか。
財務大臣政務官として、少しでも“いにしえ”をなせるよう、省庁の皆様と共に国家国民のため
に、しっかり働いて参りたいと存じます。
1
ファイナンス 2016.5