電力中央研究所報告 環 境 経 営 国の温暖化対策関連事業の現状と課題 ー公会計資料と行政事業レビューシートに基づく分析ー キーワード:温暖化対策,政府予算,政策評価,費用対効果, 行政事業レビュー 背 報告書番号:Y15018 景 近年,温暖化対策に多額の政府予算が投じられており, 「地球温暖化対策計画」の策 定や温暖化対策税の段階的施行を背景に,今後も一層の増額が予想される.しかし, 予算の使途や成果は明らかでなく,継続的な評価が必要である.温暖化対策関連予算 については環境省による集計があるものの,補正予算が含まれない等の問題があり, 国全体の温暖化対策事業を包括的に俯瞰するための適切な資料は存在しない. 目 的 国の温暖化対策関連事業の全体像を把握し,使途を明らかにする.また,それらの 事業の費用対効果や評価に関する課題を整理する. 主な成果 国の予算書類および行政事業レビューシートから温暖化対策に関係する事業情報を 全て抽出したデータベースを作成し,以下を明らかにした. 1) 国の温暖化対策関連経費の推移 国の温暖化対策関連経費(決算額)は,2008~2014 年度の 7 年間で約 4.3 兆円に上る (森林吸収源や原子力・核融合関連の経費を除く) .その内訳は,エネルギー特別会計 から 1.6 兆円,一般会計から 2.7 兆円である(図 1) .エネルギー特別会計における温暖 化対策関連経費は 2013 年以降大きく増加し,予算額で年 2,000 億円前後から年 6,000 億 円超になった.特に増加したのは,再生可能エネルギーの大量連系に伴う系統安定化 対策や中小企業の省エネ設備投資促進に関する事業である.また,一般会計からはエ コカー補助金・エコポイント事業の他,震災後は復興予算として需要抑制・再エネ導 入事業に多額の予算が投じられてきた. 2) 費用対効果の評価の状況 省エネ・再エネ設備導入に関する主な補助事業 50 件について,行政事業レビューに おける事業成果の評価状況を集計したところ,設備導入によるエネルギー・CO2 削減効 果を試算した事業は 4 割に満たず,エコカー補助金等,巨額にも関わらず効果を適切 に評価していないケースがあった.費用対効果の推計値を集計したところ,省エネ設 備導入支援では 1 万円/t-CO2 を下回る事業が多数ある一方で,再エネ導入支援やエコポ イント事業など CO2 削減単価が数 10 万円/t-CO2 に及ぶ事業も存在した(図 2) . 3) 温暖化対策事業をめぐる課題 現在の温暖化対策事業は設備導入支援への偏りが大きく,省エネ診断等のソフト支 援が手薄であり,その拡充が求められる.また,事業効果の適切な評価のため「追加 性」注)の視点の導入など方法論の改善,およびそのための評価予算の拡大が必要である. ii ©CRIEPI 今後の展開 本研究で開発したデータベースを活用して国の温暖化対策事業を継続的に評価し, 効果的・効率的な事業設計や温暖化対策税のあり方について提言していく. 16,000 15,954 14,993 (億円) 14,000 エコカー・エコポイント(一般会計) 12,000 復興関連予算(一般会計) 10,295 10,000 9,011 7,589 8,000 6,000 4,000 その他(一般会計) 3,896 2,403 6,892 4,126 3,840 3,981 3,494 2,893 1,574 2,000 エネルギー対策特別会計 予算額 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 0 決算額 注)「エネルギー特別会計」はエネルギー需給構造高 注)「エネルギー対策特別会計」はエネルギー需給構 度化対策費と負荷平準化機器等導入促進事業費補助 造高度化対策費と負荷平準化機器等導入促進事業費 金を,「復興関連予算(一般会計)」は2011年度補 補助金を,「復興関連予算(一般会計)」は2011年度 正予算による電力安定供給対策費・電力需要抑制対 補正予算による電力安定供給対策費・電力需要抑制 策費を,「エコカー・エコポイント(一般会計)」 対策費を,「エコカー・エコポイント(一般会計)」 はエコカー補助金,家電エコポイント,住宅エコポ はエコカー補助金,家電エコポイント,住宅エコポ イントの合計額を,また「その他(一般会計)」は イントの合計額を,「その他(一般会計)」は上記以 上記以外の経済産業省の温暖化対策費,環境省の地 外の経済産業省の温暖化対策費,環境省の地球温暖 球温暖化対策推進費,国土交通省の地球温暖化対策 化対策推進費,国土交通省の地球温暖化対策等推進 等推進費の合計額をそれぞれ示す. 費の合計額をそれぞれ示す. 図 1 国の温暖化対策経費の推移(2008~2014 年度) 出典) 「各省各庁歳出決算報告書」および「特別会計決算参照書」各年度版より作成. 利子補給による設備導入事業 家庭・事業者向けエコリース促進事業 (参考:京都メカニズムクレジット取得事業) 物流の低炭素化促進事業 省エネ自然冷媒冷凍等装置導入促進事業 温泉エネルギー活用加速化事業 エネルギー使用合理化事業者支援補助金 エネ使用合理化事業者支援補助金(天然ガス分) 国内排出量取引推進事業 削減量連動型中小企業グリーン投資促進事業 エネ使用合理化事業者支援補助金(LPガス分) 省エネ型ロジスティクス等推進事業 省エネ型ノンフロン整備促進事業 住宅・ビル革新的省エネ技術導入促進事業 バイオ燃料導入加速化事業 先進対策による業務CO2排出量大幅削減事業 住宅・建築物高効率エネシステム導入促進事業 チャレンジ25地域づくり事業 先進技術省エネ型自然冷媒機器普及促進事業 低炭素価値向上社会システム構築支援基金 “一足飛び”型発展のための資金支援事業 廃棄物エネ導入低炭素化促進事業 再エネ熱利用加速化支援対策 クリーンエネルギー自動車等導入促進事業 住宅エコポイント 再エネ等導入推進基金事業 大規模HEMS情報基盤整備事業 電動式塵芥収集車導入補助事業 家電エコポイント 1,353 注)集計対象は温暖化対策に関連する設備 1,559 導入補助事業のうち,行政事業レビュ 導入補助事業のうち行政事業レビュー 1,624 ーシートまたは他の政府機関による事業 シートまたは他の政府機関による事業評 1,890 評価資料(経済産業省2012,会計検査院 価資料(経済産業省2012,会計検査院 1,993 2012b , NEDO 2014,SII 2014 , SII 2015,総務省 2015 , 総 務 省 2012b,NEDO 2,319 2015,環境省2015b, 2015,環境省2015b,2015c, 2015c,2015d, 2015d,2015e) 2,343 において削減効果または費用対効果推計 2015e)において削減効果または費用対 3,256 効果推計値の記載があった事業.年間削 値の記載があった事業.年間削減効果の 4,342 み記載の場合は一定期間(8~15年)その 減効果のみ記載の場合は一定期間(8~ 4,492 削減効果が継続すると仮定して試算.複 15年)その削減効果が継続すると仮定し 4,609 て試算.複数の推計値があった場合は中 数の推計値があった場合は中央値または 5,725 央値またはより信頼性の高い推計値を採 より信頼性の高い推計値を採用.事業名 6,631 用.事業名は紙面制約のため一部略記. は紙面制約のため一部略記. 7,323 9,432 詳細は本文図13および付録3を参照. 詳細は本文図15および付録3を参照. 9,516 10,333 省エネ設備導入 11,887 12,633 再エネ設備導入 17,646 その他または 18,320 温暖化対策全般 23,541 1,000 28,388 110,484 129,600 221,314 303,600 383,066 411,914 10,000 100,000 1,000,000 ※横軸は対数表示 (単位:円/t-CO2) 図2 行政事業レビューシートや他の政府機関による事業評価資料に記載された 温暖化対策関連事業の費用対効果推計値 出典)各事業の行政事業レビューシートおよび他の政府事業評価資料(総務省 2015 等)より作成. 注) 政策以外の要因による省エネ効果等を控除した,政策による追加的な削減効果のこと. 関連報告書: [1] Y13028「省エネ補助金の追加性と費用対効果の評価―NEDO 補助事業の事例分析―」 (2014.5) 注) 政策以外の要因による省エネ効果等を控除した,政策による追加的な削減効果のこと. [1] Y13028「省エネ補助金の追加性と費用対効果の評価―NEDO補助事業の事例分 関連研究報告書 析―」(2014.5) 研究担当者 iii 木村 宰(社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域) 問い合わせ先 電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 03-3201-6601(代) E-mail:[email protected] 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] © 2016 CRIEPI 平成28年5月発行 ©CRIEPI
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