重質油処理における機器閉塞の機構及び対策方法の調

重質油処理における機器閉塞の機構及び対策方法の調査
(東燃ゼネラル石油株式会社)
○河野
尚毅、中島
規裕、林
郁孝
1.調査の目的
エネルギー供給産業の事業基盤強化の観点から、残油処理能力の向上、設備稼動の信頼
性とエネルギー効率の向上ならびに戦略的な原油調達・活用が重要である。多様な原油に
対して安定的かつ高効率に重質油を処理する技術が鍵となるが、重質油処理の高度化を図
ると重質油処理装置下流の機器に固形析出物(セジメント)が堆積して流路を閉塞させる
ことで計画外停止が発生しやすくなり、それを回避しようとすると原油種に制約を生じた
り重質油処理を抑制せざるを得なくなったりするなどの問題が生じる。そこで、閉塞によ
る計画外停止を回避しつつ高度な重質油処理を行うことを目指して、機器閉塞現象の機構
解明や、機器閉塞の回避技術の方向性を把握することを目的として調査を実施した。
2.調査の内容
今回の調査研究においては、熱交換器閉塞が比較的高頻度で発生し運転上の制約要因と
なっている減圧残油水素化分解装置を対象とした。具体的な調査項目を以下に示す。
2.1 重質油処理装置での閉塞現象に関わるデータ収集と要因解析
熱交換器(以下熱交)の閉塞を定期的にモニタリングした。並行して、閉塞を生じてい
る熱交ラインからサンプルを採取し各種測定・分析を実施して熱交閉塞の要因を解析した。
2.2 機器閉塞に及ぼす原油の影響検討
実機での熱交閉塞に対して特徴的な挙動を示す原油種を対象に、減圧残油(以下 VR)留
分の詳細化学構造解析を行い、熱交閉塞との関連を考察した。
2.3 試験装置・評価技術の検討
熱交閉塞の機構を理解し対策技術を効率的に開発するうえで重要となる試験装置、評価
技術として、熱交シミュレータ、高真空度減圧蒸留装置、減圧残油化学組成分画装置の技
術的可能性と課題を調査、検討した。
2.4 重質油処理装置における閉塞トラブル発生状況、対応状況等の調査
様々な重質油処理装置を対象として、機器閉塞トラブルの発生状況、対応状況(効果と
課題)等を調査するとともに、今回調査対象とした減圧残油水素化分解装置について得ら
れた知見の相互展開、活用可能性を考察した。
3.調査の結果
3.1 重質油処理装置での閉塞現象に関わるデータ収集と要因検討
今回、検討対象とした減圧残油水素化分解装置のフロー概略図を図 1 に示す。減圧蒸留
装置のボトム油(VR)は水素と共に、直列2基の反応塔(R-101, R-102)に導入される。
反応後の水素化分解油は高圧セパレータ(D-102)、中圧セパレータ(D-105)、低圧セパレ
ータ(D-107)によって順次圧力が下げられ、ストレーナー(STR-101)を経て常圧蒸留塔、
減圧蒸留塔で構成されるフラクショネータセクションに送られる。
図 1 減圧残油
油水素化分解
解装置のフ ロー概略と 閉塞熱交の
の状況
、ガス、ナ フサ留分、LGO 留分が 分離回収さ
され、常圧残
残油はさ
常圧 蒸留塔(T--301)にて、
圧蒸留塔( T-303)に送
送られて VGGO 留分が分
分離回収され
れる。(図 1 は機器閉塞
塞に着目
らに減圧
したフロ
ロー図のた め、フラク
クショネータ
タで分離回収
収される軽 質留分は非
非表示)減圧
圧蒸留塔
の残油は
は熱交換器(E-307)を
を通り、一部
部は更に熱
熱交換器(E-308, E-3099)を経由し
してC重
油(FOCC)基材とし
してタンクに
に落油され る。E-307 熱交換器を
熱
出た減圧残
残油の一部は
はコーカ
ーに送ら
られ更にア ップグレー
ーディング処
処理が行われ
れる。
E-30 7 熱交換器
器では日常的
的に閉塞が進
進行するた め約 10 日 毎に開放し
して洗浄作業
業が行わ
る。洗浄前
前の熱交チュ
ューブの写真
真を図 1 の下部に示す
の
す。E307 は
は並列 2 系統構成
系
れている
(E-3077A、E-307B )となって
ており、交互
互に運転と洗
洗浄とを切 り替えるこ
ことで、装置
置本体は
連続して
て運転でき るようにな
なっている。 すなわち、
、A 系列洗 浄時には B 系列で運
運転し、B
系列が閉
閉塞すると 通油を A 系列に切り替
系
替えて B 系列
列を洗浄す ることを繰
繰り返してい
いる。し
かしなが
がら、想定 を超える速
速度で閉塞が
が進行する と洗浄作業 が間に合わ
わなくなるた
ため、装
置の稼働
働率等に影 響を及ぼす
すこととなる
る。
E-30 7 熱交換器 の閉塞速度
度を、一日当
当たりの圧力
力損失の増 加 [kPa/Daay]として定
定義し、
月
9 か月間の推
推移をグラ フ化した結
結果を図 2 に示す。
に
2015 年 4 月末から 2016 年 1 月末までの
閉塞速度が大
大きく、7 月
月~10 月は概
概ね中間的 な閉塞速度
度で推移し、11 月~
2015 年 6 月頃に閉
さ
2016 年 1 月は閉塞 速度が小さ
。
かった。
熱交閉塞はセジメントの
熱交壁面に 付着したも
も
一部が熱
のと考え
えられるた め、熱交を
を
流れる減
減圧残油の セジメント
ト
濃度を評
評価した。 E-307 熱交
交
換器の下
下流から実 機サンプル
ル
( 以 下 、 VR-T ) を 採 取 し 、
IP-375 試 験 法 に 準 拠 し て セ
熱交閉塞速
図 2 22015 年 4 月 ~2016 年 1 月までの熱
速度推移
ジメン ト濃度を測 定した。た
た
度
だし、I P-375 規定 の濾過温度
100℃ で は 減 圧 残 油 の 粘 度 が
高く濾過
過が困難で あるため、
濾 過 温 度 は 150 ℃ と し た 。
VR-T 中 セ ジ メ ン ト 濃 度 の 推
移を図 3 に示す。VVR-T セジメ
度の挙動は 図 2 の熱交
交
ント濃度
閉塞速度
度と類似し ていること
が判る。
。
図 3 20015 年 4 月~
~2016 年 1 月までのセ
セジメント濃
濃度推移
熱交 閉塞速度と
と VR-T セジ
ジ
濃度の相関 を図 4 に示
示す。両者間
間に
メント濃
は正の相
相関が認め られる。
セジ メントはア
アスファルテ
テンの凝集・析
想定される ことより、VR-T のセジ
ジメ
出物と想
ント濃度
度とアスフ ァルテン濃
濃度との相関
関を
図 5 にプ
プロットし た。概ね正
正の相関を有
有し
ているも
ものの、図 中点線枠で
で囲まれた領
領域
に示され
れるように 、同一アス
スファルテン
ン濃
度でもセ
セジメント 濃度が大幅
幅に異なる場
場合
も認めら
られた。セ ジメント濃
濃度はアスフ
ファ
ルテン濃
濃度の影響 を受けるも
ものの、それ
れ以
図 4 熱交閉塞
塞速度とセジ
ジメント濃度
度の相関
外の因子
子の影響も 相当存在す
することが示
示唆
されたこ
ことより影 響因子の特
特定を図った
た。
アス ファルテンの安定化に関する定 性
として知ら れる SARA モデルを基
基と
的説明と
した定量
量モデルの 可能性を検
検討した。こ
ここ
で、SARAA とは Satu rates、Arom
matics、Res ins、
Asphalttenes の頭 文字であり 、カラムク
クロ
マト法を
を用いて重 質油の構成
成成分を分別
別し
た際に得
得られる4 分画の名称
称である。図
図 6
に模式的
的に示され るように、 水素化分解
解装
置の原料
料油である VR-D 中で
ではアスファ
ァル
テン(AA)はレジン
ン(R)や芳香
香族(a)に
に取
図 5 セジメン
ント濃度とア
アスファル
ルテン濃度
り囲まれ
れて安定状 態にあるが
が、水素化分
分解
との相
相関
反応後に
には、相対 的にレジン
ンと芳香族の
の比
率が低下
下し、アス ファルテン
ン分子同士が
が凝集して不
不溶解性の セジメント
トを生成しや
やすくな
ると考え
えられてい る。飽和分
分はアスファ
ァルテン分子
子とは化学 構造が大き
きく異なり親
親和性が
低いため
め、飽和分 が増加する
るとアスファ
ァルテンの溶
溶解性が低 下すると理
理解されてい
いる。
化分解反応 に伴う SARRA 組成変化
化とセジメン
ント生成メカ
カニズム
図 6 水素化
基づき、セジ
ジメント濃 度はアスフ
ファルテン濃
濃度以外にも
もレジン、 芳香族、
SARA モデルに基
の各濃度の 影響を受け
ける可能性が
があると考え
えた。更に 、SARA の各
各濃度は同じ
じでも分
飽和分の
子構造的
的に芳香族 性が高い場
場合にはアス
スファルテン
ンとの親和 性が高く溶
溶解性が改善
善するこ
とでセジ
ジメントが 減少すると 考え、芳香
香族性を代表
表する指標 として密度
度を説明変数
数の候補
に加えた
た。SARA と 密度の 5 種のパラメー
種
ータを説明変
変数の候補 としてステ
テップワイズ
ズ重回帰
分析を行
行い、セジ メント濃度
度の推算式を
を導いた。ス
ステップワ イズ法とは
は、多数の説
説明変数
の候補の
のなかから 有意な説明
明変数のみを
を抽出して重
重回帰式を 導く方法で
であり、今回
回の解析
では、セ
セジメント に影響して
ている可能性
性のある因子
子を広めに 採択する観
観点で、有意
意判定基
準 F 値を
を変数取入 時は F>2.0、変数棄却
却時は F<1.9
9 と、低めの
の値に設定
定した。
導か れたセジメ
メント推算式
式を以下に 示す。
[VR-T SSediment / mass%] =
+0.1077 *
[VR--T Asphaltene / masss%]
-25.16656 * [VR--T Density / g cm -3 ]
+25.6338
(Adjustted R 2 =0.366)
上式 によってアスファルテン濃度と 密度
算されたセ ジメント濃
濃度と、実測
測され
から推算
たセジメ
メント濃度 との相関を
を図 7 に示す
す。セ
ジメン ト濃度は、 アスファル
ルテン濃度に
に対し
相関、密度 に対して負
負の相関を有
有する
て正の相
度と密度から
らのセジ
ことが示
示された。 アスファル
ルテン濃度に
に正の 図 7 アスファ ルテン濃度
推算値と実測
測値との相 関
メント推
相関を有
有するのは 、アスファ
ァルテンがセ
セジメ
ントの直
直接的構成 物質と考え
えられる点で
で妥当
である。
。密度が負 の相関を有
有することに
については、
、密度が高 いことは芳
芳香族性が高
高いこと
を意味し
し、アスフ ァルテンに
に対する溶解
解性が高くな
なるためセ ジメントが
が減少すると
とのメカ
ニズムと
と符合する 。
芳香 族性の観点
点では、レジ
ジン濃度や芳
芳香族濃度も
も負の相関 を有する因
因子として採
採択され
子であるが 今回のモデ
デルではそれ
れらのパラメ
メータは採 択されなか
かった。今回
回のデー
うる因子
タにおい
いてはレジ ン濃度や芳
芳香族濃度よ
よりも密度の
の方がより 相関が高く 、かつ、密
密度が説
明変数と
として採択 された後は
はもはやレジ
ジン濃度や芳
芳香族濃度 を追加する
ることの意味
味は無い
との解析
析結果であ る。密度は
は芳香族の濃
濃度だけでは
はなく質的 な因子も含
含んでいるこ
ことが密
度の方が
がより有意 なパラメー
ータとなった
た一因と考え
えられる。
セ ジ メ ン ト 濃 度は
度 ア ス フ ァル
ァ テ ン 濃 度と 密 度 の 関数 に て 推 算で き る 可 能性 が 示 さ れ た
算精度を示 す自由度調
調整済み決定
定係数(Adj
justed R 2 ) は 0.36 と
と低めの値で
であり改
が、推算
善の余地
地がある。推
推算精度が 低い原因の
の一つは、多
多変量解析を
を行ったデー
ータ点数が 40 点弱
と少ない
いことが挙 げられ、今
今後のデータ
タ蓄積が重要
要である。
に及ぼす原油
油の影響検 討
3.2 機器閉塞に
を起こしやす
すい原油つ いての一般
般的理解と実
実績との比較
較
3.2. 1 閉塞を
つ原料は一般
般的に装置内
内で閉塞( ファウリン
ング)しやす
すい傾向があ
ある
次の 特徴を持つ
・硫黄分が 低い
・窒素分が 高い
、ならびに
に、飽和分: サチュレー
ート(S) が多
多い
・アスファ ルテン(A)、
族:アロマテ
ティクス(A ) が少ない
い
・レジン(RR)、ならび に、芳香族
原油について
ての VR の各
各種性状か ら予測され る閉塞性向
向とファウリ
リング実
表 1 に 6 種の原
とめた。こ こで、青部
部はファウリ
リング低、赤
赤部はファ ウリング高
高に対応する
る。
績をまと
表 1 個別原
原油の減圧残
残油留分の
の主要性状と
と水素化分解
解装置の熱交
交閉塞特性
性
油と B 原油 は比較的似
似た性状だが
がアスファル
ルテン濃度 が A 原油は
は低く B 原油
油は高い
A 原油
ことよ り、A 原油は
は低ファウ リング、B 原
原油は高フ ァウリング
グと予測し、ファウリン
ング実績
通りであっ た。一方で
で、C 原油~
~F 原油は予
予測と実測が
が乖離してい
いた。C 原油
油はサチ
も予測通
ュレー ト比率が高 いことより 高ファウリ
リングと予測
測したが、 実際には低
低ファウリン
ングであ
テンが少なく
く、他に悪影
影響の要素 も特になさ
さそうなこと
とより低
った。DD 原油はア スファルテ
ファウリ
高ファウリン
ングであっ た。E 原油
油と F 原油は
はともに
リングと予 測したが、 実際には高
低硫黄で
で低アスフ ァルテンで
であるが、窒
窒素濃度が E 原油は高 く F 原油は
は通常レベル
ルである
ことに着
着目して、EE 原油を高 ファウリン
ング、F 原油 を低ファウ
ウリングと予
予測したが、
、結果は
逆であっ
った。この ように、フ
ファウリング
グに対する原
原油性状の 影響につい
いては、包括
括的な一
般的性状
状だけでは 説明できず
ず、各原油の 詳細な化学
学構造に関す
する理解が必
必要と考え られる。
3.2. 2 詳細化
化学構造解析
析に基づく 閉塞現象に
に及ぼす原油
油影響の考察
察
塞への影響解
解析を目的と
として、ファ
ァウリング 特性の観点
点で表 2 に示
示す4原
個別 原油の閉塞
着目し、各 原油の減圧
圧残油 (VR) の SARA 等の化学構造
等
造・組成との
の関連を考 察した。
油種に着
表 2 個別原油の
の VR 留分の
の SARA 分析
析結果
種
原油種
油①
原油
原油②
原油③
原
原油
油④
ファウリングに
り低ファ
予測通り
予
予測通り高 ファ
高フ
ファウリン
低ファウ リング
関する
る特徴
ウリング
グの原油
ウ
ウリングの原
原油
グ予
予測に反し
予測に反
反し高フ
低フ
ファウリン
ァウリン
ング実績
(予測
測 vs 実測)
グ実績
績の原油
の原
原油
飽和分
分, mass%
19.7
16.6
21.1
21.9
芳香族
族, mass%
53.3
52.7
43.3
44.3
レジン
ン, mass%
20.9
22.8
30.5
27.4
アスファルテテン, mass%
6.3
8.1
4.4
3.2
④のファウリ
リング傾向を
を原油①と の対比で考
考察する。
原油 ②、③、④
ファルテン濃
濃度が高いこ
ことが高フ ァウリング
グの原因と推
推測される。
。
原油 ②はアスフ
ン濃度が比較
較的低く、か
かつアスフ ァルテン濃
濃度に対する
るレジン
原油 ③は、アス ファルテン
比率が高い ことが、低
低ファウリン
ングの原因 として考え られる。事
事前の想定で
では比較
濃度の比
的高ファ
ァウリング と整理して
ていた一因と
として、Cru
ude Assay データにお
おけるレジン
ン濃度が
それほど
ど高くなか ったことが
が挙げられる
る。今後、調
調査を継続 しデータを
を蓄積してい
いく必要
がある。
。
原油 ④は SARA 組成からは
は高ファウリ
リングの要因
因は見いだ されなかっ
った。そこで
で、芳香
ジン、アスフ
ファルテン それぞれに
について元素
素含有量、分
分子量、プロ
ロトン NMR、
、13 C NMR
族、レジ
データか
から平均分 子構造を推
推算し、化学
学構造を詳細
細に比較し た。図 8 に
にアスファル
ルテンの
平均分子
子構造を示 す。原油④
④は原油①、 ②、③と比
比較してナ フテン環が
がより多く、 かつ、
分子量が
が大きいこ とが示され
れた。レジン
ンにおいても
もアスファ ルテン同様
様に原油④は
はナフテ
ン環が比
比較的多い という特徴
徴を示した。
*) 分 子内に硫黄
黄(S)26 原子
子、窒素(N) 3 原
*) 分子内に硫
硫黄(S) 21 原子、窒素
素(N)3 原
子
子、酸素(OO)8 原子が存
存在する
子、酸素
素(O)8 原子
子が存在する
る
原油①
原油②
*) 分 子内に硫黄
黄(S)5 原子、
、窒素(N)1 0 原
*) 分子内に硫
硫黄(S)29 原
原子、窒素 (N)5 原
子
子、酸素(O))10 原子が存
存在する
子、酸素
素(O)20 原子
子が存在する
る
原油③
原油④
図 8 アスファ
ァルテンの 平均分子構
構造
グ 測 に 反 し高
し フ ァ ウ リン グ 実 績 を示 し た 原 油④ は 分 子 が比 較 的 大 き く
低 フ ァ ウ リ ン グ予
多いという 化学構造上
上の特異性が
が見出された
たことより 、今後、各
各原油の詳細
細化学構
環数が多
造データ
タを分析蓄 積していく ことが想定
定外の機器閉
閉塞を回避 するために
に必要と考え
えられる。
・評価技術の
の検討
3.3 試験装置・
シミュレータ
タ
3.3. 1 熱交シ
ンの溶解性や
や分散性を改
改善すれば 閉塞が抑制
制できると考
考えられ、溶
溶解性の
アス ファルテン
ー(FCC ター
ール)等の製
製油所基材や
や各種の分 散剤が利用
用されている
るが、実
高い FCCC スラリー
機プラン
ントでは運 転条件が変
変動する中、 溶解性向上
上剤のみの 効果を検証
証するのは困
困難で、
最適化に
には至って いない。冷
冷却熱交を模
模擬可能なラ
ラボ試験装 置が実用化
化できれば、 高溶解
性基材等
等の効果を 正しく評価
価でき、閉塞
塞対策を効率
率的に検討 できる。そ
そこで、閉塞
塞が生じ
ている冷
冷却熱交の 温度条件を
を模擬しうる
る熱交シミュ
ュレータの 可能性を検
検討した。試
試作した
試験器の
の構成を図 9 に示す。
ュレータの構
構成・フロ ー図
図 9 熱交シミュ
圧残油試料は
は図中左下側
側に示され た内容量 4L
4 程度のリ
リザーバータ
タンクに
評価 対象の減圧
れ、流動性 を確保する
るためにヒー
ーターで加熱
熱される。 試料が試験
験中に酸化劣
劣化しな
蓄えられ
いようにリザーバータンクは窒素雰囲気に保たれる。試料はポンプにより、ヒーティング
ブロック No.1、No.2 に送られて所定の温度に昇温される。続くクーラーが、実機の冷却熱
交のシミュレータ部である。クーラー部は 2 重管構造となっており、内管を流れる減圧残
油試料のクーラー出口部での温度が所定の温度となるよう、外管部を流れる冷媒オイル(シ
リコーンオイル)によって冷却される。
冷 却過 程 で の アス フ ァ ル テン 析 出 を 模擬 す る 観 点で は 温 度 条件 の 再 現 が最 も 重 要 で あ
る。そこで、まず、実機の熱交温度を再現するための運転条件(試料流量、ヒーティング
ブロック温度、冷媒オイル温度および流量)を検討した。試行の結果、試料流量を 2L/hr
に、ヒーティングブロック No.1 温度を約 350℃に、No.2 温度を 430℃に設定するとクーラ
ー入口の試料温度を実機相当の 350℃に設定できることが判った。また、冷媒オイルの入
口温度を 160℃、流量を約 28L/hr とした場合に、クーラー出口の試料温度を実機相当の
270℃に低下させうることが判った。
実 機相 当 の 温 度条 件 が 再 現で き た こ とを 受 け て 熱交 シ ミ ュ レー タ と し ての 有 効 性 確 認
試験を行った。供試試料として、実機で低ファウリング時、高ファウリング時にそれぞれ
採取された 2 種の VR-T を用いた。低ファウリング試料(セジメント濃度 0.0 mass%)にて
90 時間の連続運転を行ったがクーラー部にはセジメント析出を示唆する現象は見られな
かった。次に、高セジメント試料(セジメント濃度 0.3 mass%)での試験を実施したとこ
ろ、4 時間経過時点でポンプの送液機能が喪失するトラブルが発生した。冷却熱交部以外
の部分には加熱・保温を施しているものの、温度が比較的低いポンプにおいてアスファル
テンが析出し、チャッキ部に付着したことで、ポンプが空打ち状態になったと考えられる。
今後の装置の改良の方向性としては、装置の保温を強化する、ポンプ形式をプランジャ
ー以外の析出物耐性の高いものに交換する、あるいは、減圧残油試料を循環させる方式で
はなく減圧残油のタンク中に冷媒を通して冷却壁面にアスファルテン析出物を堆積させる
等の対応が考えらえる。
3.3.2 高真空度減圧蒸留装置
SARA モデルによるとセジメント濃度は減圧残油(VR)中の SARA 組成の影響を受ける。VR
中の SARA 濃度は VR のカット温度により変化するため。カット温度を変化させた場合の化
学組成・構造変化とセジメント濃度の変化との関係を把握することは重要である。しかし
商業運転中の実プラントではカット温度を任意に変化させることは困難であるため、常圧
換算温度 600℃のカットが可能なラボスケール高真空度減圧蒸留装置の可能性を検討した。
市販されている ASTM D1160/JIS K2254 対応の減圧蒸留装置について調査したところ、常
圧換算温度 550℃~560℃のカット温度が上限であり、この時の Bottom 試料温度は 380 ℃、
Top 試料温度は 300 ℃、真空度は 67 Pa(0.5 mmHg)程度であった。カット温度を更に上げ
ようとすると、試料温度か真空度を上げる必要があるが、温度を上げると試料の熱分解が
生じるため真空度を上げて対応する必要がある。そこで、通常のロータリーポンプに加え
てブースターポンプを追加し、排気能力を増強した減圧蒸留装置を試作し性能を確認した。
常圧残油(AR)を用いて試験をした結果、試料導入時点では 1.3 Pa(=0.01 mmHg)程度
と目標値の 6.7 Pa に比較して十分低い真空度が実現できていたが、蒸留の終盤に Bottom
試料温度が熱分解温度に達して圧力が上昇したため、常圧換算温度 600℃のカットは実現
できなかった。最終的な到達カット温度は、常圧換算温度 570℃程度(ボトム温度 380℃、
真空度 143 Pa [=1 mmHg])であった。
試料が熱分解を生じない温度でカット温度 600℃を達成するためには、更なる高真空化
を可能とする装置の設計、特に、系内排気能力ならびに装置の密閉性の向上が必要である
ことが判った。
3.3.3 減圧残油(VR)化学組成分画装置
一般的に SARA 分析には、「JPI-5S-2S-22-83 アスファルトのカラムクロマトグラフィー
法による組成分析法」
(以下、JPI 法)が利用されるが、本試験法は手作業により SARA の 4
成分を分離・分画する手法であり、およそ 2~3 日を要する。今後、多数の VR の SARA 組成
データについてセジメント濃度との相関を解析していく上では自動化・高速化が望まれる。
今回、液体クロマトグラフィーの一手法である HPLC 装置が高速・高性能の自動化分画装
置として実用に供されていることに注目し、当該装置技術を SARA 分析に適用することを検
討した。試行の結果、HPLC カラムへの試料チャージ方法とレジンの脱離方法を工夫するこ
とで、基準とする JPI 法と同等のマルテン分の分離・分画が可能となる見通しが得られた。
今後、実際の減圧残油試料を用いて、JPI 法との整合性等を検証し、重質油処理装置の
閉塞現象への対応検討に活用していくことが期待される。なお、今回の検討では SARA 分析
のうちアスファルテン分の分画操作は除外し、マルテン分(飽和分、芳香族分およびレジ
ン分の分画前混合物)の3分画操作に特化したが、今後は、アスファルテン分も含めた
SARA4 分画全てについて分離できる技術が望まれる。
3.4 重質油処理装置における閉塞トラブル発生状況、対応状況等の調査
3.4.1 重質油処理装置での閉塞トラブル発生状況
重質油の水素化分解装置である H-Oil/LC-Finer 装置においては装置の閉塞トラブルは
全装置共通の課題となっている。閉塞箇所は、中圧/低圧ホットセパレーター、常圧蒸留塔
ボトム部、減圧蒸留塔フィード加熱炉、減圧蒸留塔ボトム部、減圧蒸留ボトム冷却熱交の
各機器である。その中でも特に問題になっているのは、減圧蒸留塔ボトム部と減圧蒸留ボ
トム冷却熱交であり、それぞれの開放クリーニング頻度は、前者で数か月~1,2 年毎、後
者で数日~数週間毎となっている。
原油予熱交、Coker 加熱炉、直脱リアクター、Visbreaker ボトムプロダクト熱交、Slurry
床装置等の重質油処理装置でもファウリングやコーキングによる閉塞トラブルが発生して
いる。これらの装置でもアスファルテン析出が問題のスターティングポイントであり、
H-Oil/LC-Finer での装置閉塞と根本原因は類似している。
3.4.2 重質油処理装置における閉塞トラブル対策状況
上記の閉塞トラブルへの対応としては。過去の経験に基づいて運転条件をコントロール
することや、温度計や圧力計を充実させてファウリング状況を詳しくモニターすること、
あるいは、オンラインクリーニング設備設置により効率的なクリーニングを行う、といっ
た対症療法的な対策が主流であり、ファウリングメカニズムを解明して科学的かつ定量的
にアプローチするような対策は未確立である。
H-Oil/LC-Finer 装置では、芳香族性が高く相溶性の良い FCC プロダクトをフィードやプ
ロダクトに混合することでアスファルテンの析出を抑制する対策が古くから知られており、
FCC を持つ全ユーザーが活用しているが、現象理解は不十分であり、ユーザーによって使
用ストリーム(LCO/HCO/Slurry)や混合比率が大きく異なっている。現象理解に基づく最適
化が今後の重要な課題となっている。
触媒メーカーは、原油産地毎に触媒構造を変更することや、リアクター毎に異なる機能
の触媒を使用してファウリングを抑制することを提案している。また、HCAT のような液体
助触媒を固体触媒と併用することで、アスファルテン分解を促進しファウリングを抑制す
る新技術も提案されており、使用するユーザーも増えてきた。
装置ライセンサーは SDA 装置でのアスファルテン除去機能を H-Oil/LC-Finer 装置と組
み合わせてファウリングを抑制することを提案し始めた。近い将来商業化される計画であ
り、効果の確認が待たれるところである。
3.4.3 機器閉塞に関する分析装置
サンプル中のアスファルテンの安定性を評価する装置として、S-Value, P-Value などが
広く用いられている。これは、貧溶剤をサンプルに徐々に添加し、析出するアスファルテ
ンを光の吸収で測定する方法であるが、溶媒を使用するバッチ式試験法のため、装置のオ
ンラインアナライザーとしては適用が困難との認識である。
Alcor HLPS 装置のようにサンプルを加熱した際のコーキング度合いを測定する装置は
存在するが、冷却過程でのアスファルテン析出を評価する熱交シミュレータは見られない。
FT-ICR-MS が開発されたことにより、重質油の構造を詳細に解析し、ファウリング解析
に活用しようという動きが近年一斉にスタートした。しかしながら、今回対象としている
VR-T のようなアスファルテンリッチな重質留分について測定された報告はみられない。
3.4.4 原油のファウリング傾向評価方法
旧 Texaco が開発した SEDEX という原油のファウリング傾向計算ツールを発展させた手
法が開発されているが、幅広い原油種に対しては精度が不足している。FT-ICR-MS が開発
されたことにより、原油の重質油の構造に対する理解が加速しており、特に、アスファル
テンの環構造に対する注目が集まっている。減圧残油水素化分解装置でファウリング性の
高い原油は Coker 加熱炉、直脱リアクター、Slurry 床装置等の重質油処理装置でもファウ
リング/コーキングの原因になっているケースが多い。
3.4.5 ファウリング予測モデル
S-Value, P-Value という安定性指標に基づくプロセスモデルが開発され、減圧残油水素
化分解実機プラントへの適用可能性が検討され始めた。
3.4.6 直脱等の他のプロセスへの対策技術の波及可能性
原油予熱交、Coker 加熱炉、直脱リアクター、Slurry 床装置等の重質油処理装置でもフ
ァウリングやコーキングによる閉塞トラブルは発生する。これらの装置でもアスファルテ
ン析出が問題の開始点であり、減圧残油水素化分解装置での装置閉塞と根本原因は類似し
ている。アスファルテンの凝集緩和に関しては、減圧残油水素化分解装置では古くから FCC
Slurry をフィードしてきた実績がある。直脱に対しても最近同様のアプローチが検討され
ており、減圧残油水素化分解装置での知見が他の重質油処理装置に展開できる一例となっ
ている。減圧残油水素化分解装置はアスファルテンの析出によるファウリングが最も極端
に表れる例であり、研究対象として好適である。ここで得られた知見は、他の重質油処理
プロセスの稼働信頼性向上にも展開できる。
4.まとめ
重質油処理装置における機器閉塞の要因を考察するとともに対策方法について調査、検
討を行い、今後の技術開発のニーズ、方向性を把握するとともに今後の課題、展開を明ら
かにすることができた。
4.1 重質油処理装置での閉塞現象に関わるデータ収集と要因検討
実機サンプルを 9 か月間収集し解析した結果、セジメントの要因を特定し数式化できる
見通しが得られ、SARA モデルに基づくセジメント予測の有効性が確認された。しかしなが
ら、今回の収集データから得られた数式モデルは精度面で改良の余地があり、今後の方向
性として、ベースデータの拡充と最新の分析技術等の活用を図っていくことが有効と考え
られる。
4.2 機器閉塞に及ぼす原油の影響検討
一般的な原油性状データを基に、機器閉塞を起こしやすい原油や、起こしにくい原油を
推測していたが、実際に処理した際の閉塞挙動と一致しないことがあった。その原因につ
いて考察した結果、原油性状に関する既往データの実態との乖離、ならびに、構成成分の
詳細化学構造に対する知見の不足が一因となっている可能性が示された。今後の方向性と
しては、個別原油の詳細データを蓄積し、機器閉塞との相関を検証していく必要がある。
4.3 試験装置・評価技術の検討
機器閉塞の機構を解明し、対策技術を検討するうえで重要な役割を果たす試験装置、評
価技術について検討した。具体的には、冷却過程でのアスファルテン析出現象を把握する
ための熱交シミュレータ、カット温度を変化させた場合の減圧残油試料を分取するための
高真空蒸留装置、減圧残油の Saturates, Aromatics, Resins, Asphaltenes(SARA)組成
を効率的に分析するための化学組成分画装置について検討し、適用可能性と今後の課題を
明らかにした。
4.4 重質油処理装置における閉塞トラブル発生状況、対応状況の調査
海外調査を実施したところ、重質油処理装置では、アスファルテン析出によるトラブル
が共通して生じていることが判った。Coker、直脱、Slurry 床等の稼働信頼性向上のため
にはアスファルテンの凝集緩和が重要であるが、対応策は未確立である。本調査研究にお
ける機器閉塞の機構と対策方法の検討方針について多数の研究者/エンジニアから支持を
得、今後の技術開発の方向性として正しいアプローチであることが確認された。
H-Oil をはじめとする減圧残油水素化分解プロセスはアスファルテンの析出による機器
閉塞が最も極端に表れるプロセスである。よって、アスファルテンの凝集緩和検討におい
ては、これらの減圧残油水素化分解プロセスを対象として研究を実施するのが効果的であ
り、そこで得られた知見は、他の重質油処理プロセスの稼働信頼性向上にも展開可能と考
えられる。