日本のプロ野球の人気復興に必要なものは ~メジャーリーグとの比較~ 2年 山下 目次 1. はじめに 2. 両者の経営戦略の比較 (1) チームビジネスとリーグビジネス (2) 放映権事業 (3) 戦力均衡への取り組み 3. おわりに 1.はじめに 最近、テレビでプロ野球の中継が放送されているのを見る機会が少なくなった。 また、中継をしていても試合が長引くと試合途中でも中継が終わってしまうこ とが多くなった。これはプロ野球の人気の低迷が原因となり起こっていること である。今のところは総収益が横ばいに推移しているが、このままでは総収益 が落ち込んで行ってしまうのではないかという懸念もある。一方でメジャーリ ーグは昨年史上最高の収益を上げ、その人気は健在である。対照的な両者であ るが、実は 1995 年の両者の総収益は 1200〜1400 万円ほどでその差はほとんど なかった。しかし、2010 年には日本のプロ野球の総収益が 1995 年からほとん ど変化していないのに対してメジャーリーグの総収益が 5000~5500 億円にま で増え、その差は 4 倍にもなっている。1なぜ現在ではこれほどの差が生まれて しまったのだろうか、そして日本のプロ野球の人気の復活に必要なことはどう いったことであろうかということについて日本のプロ野球とメジャーリーグの 経営戦略を比較して探っていく。 1 並木裕太 (2013) p30,31 1 (2)両者の経営戦略の比較 (1)チームビジネスとリーグビジネス メジャーリーグの収入は、チームビジネスによる収入とリーグビジネスによ る収入の二つに分かれている。チームビジネスとは各チームが個々に行う事業 のことで、事業の例としてはローカルテレビ局やローカルラジオ局への放映権 の売却、チケットやグッズの販売などがある。 2リーグビジネスとはリーグに所 属する全てのチームが協力して行う事業のことで、事業の例としては全国ネッ トや海外の放映権収入、オンラインによるチケットやグッズ販売がある。 3一方 で日本のプロ野球の収入はチームビジネスによるものがほとんどで、リーグビ ジネスはあまり行われていないというのが現状である。実は日本のプロ野球と メジャーリーグの各チームを比較しても平均するとチームビジネスの規模はほ とんど変わらない。そのため収益の差を生んでいるのはリーグビジネスへの取 り組みということになる。ではなぜメジャーリーグはリーグビジネスを展開し ていったのか。その背景には同じスポーツ産業のNFLとNBAといった強力な競 争相手の存在がある。これらの強力な競争相手がいたためにリーグ内のチーム 同士で競争するのではなく、協力してリーグ全体の商品価値を高める必要があ ったのである。これに対して、日本のプロ野球は危機感があまり感じられてい ないのかリーグ全体で協力するといった姿勢があまり見られず、リーグビジネ スがあまり行われていないのである。ここからは具体的な戦略として放映権事 業と戦略均衡への取り組みについて述べていく。 (1) 放映権事業 放映権事業とは放映権をテレビ局やラジオ局へと販売して収入を得る事業で ある。メジャーリーグの放映権事業は、各チームが独自に行うローカルのテレ ビやラジオへの放映権販売とリーグ全体で行う全国ネットへの放映権販売や海 外への放映権販売の 2 つに分かれている。前者はチームビジネスであり、後者 はリーグビジネスである。そして、後者のリーグビジネスはMLBの子会社であ るMLBインターナショナル、MLBプロパティーズ、MLBアドバンスド・メデ ィア、MLBネットワークの 4 社によって展開されている。MLBインターナショ 2 3 並木裕太(2013) 並木裕太(2013) p31,32 p32 2 ナルは、海外の放映権販売を行っている。例えばNHKなどの日本のテレビ局で メジャーリーグの試合が放送されることがあるのだが、その際に窓口となるの がこの会社である。MLBプロパティーズはこの 4 社の中で中心的存在であり、 基本的にはアメリカ国内のメディアをターゲットに放映権事業を行っていて、 2009 年には放映権事業で 800 億円以上の売上規模を誇っていた。 4具体的な取 り組みとして、アメリカの 4 大ネットワークのうちの一つであるFOXやスポー ツ専門のケーブルテレビであるESPNといった主要なスポーツチャンネルと契 約しているということが挙げられる。MLBアドバンスド・メディアはビデオス トリーミングによる試合の放映を行っていて、2009 年には設立から 10 年で売 上規模が 400 億円を超えており、年率 30 パーセント成長の超優良企業であ る。 5MLBネットワークはメジャーリーグ専門のケーブルテレビの会社である。 このようにメジャーリーグの放映権事業は 4 つの子会社によって細分化されて いる。また、こうしてリーグビジネスによる放映権事業の展開のメリットは 2 つある。1 つは放映権の価値を高めることができるということである。これは 1 チームごとに放映権の取引を行うよりもリーグに所属する全チームが協力をし てまとまって取引をしたほうが交渉力をより高めることができるためである。 もう 1 つは、メジャーリーグに親しみやすくなるということである。様々なメ ディアを使うことで人の目に触れる機会を増やして、メジャーリーグを身近な ものにしようと取り組んでいるのである。 一方、日本のプロ野球の放映権事業は、リーグによってその取り組みが異な っている。セ・リーグはチームビジネスが中心となっており、リーグ全体での 協力体制はなく、各チームが独自に放映権販売を行っている。これはセ・リー グのチームの中に親会社がテレビ局と株主関係にあるチームがあるためである。 親会社がテレビ局と株主関係にあれば、視聴率の食い合いを避けるためにチー ムが親会社と株主関係にあるテレビ局以外のテレビ局やインターネットなどの 他のメディアに放映権を販売するのは難しくなる。こうした制約のためにメジ ャーリーグのように放映権をリーグで一括するということはできないのである。 パ・リーグもチームビジネスが中心としているが、新たにリーグビジネスへの 取り組みも行われ始めている。パ・リーグではパ・リーグの各チームの社長た ちの協力よって 2007 年にパシフィックリーグマーケティング(以下PLM)という 権利処理会社が設立された。6PLMはパ・リーグのリーグビジネスを行っており、 放映権事業において 2012 年にパ・リーグTVというサービスを開始した。パ・ リーグTVとは、会員登録をすることでパ・リーグの主催する全試合のライブ中 継あるいはアーカイブされている過去の試合をスマートフォン、PC、タブレッ トで視聴することができるインターネット動画配信サービスのことである。 4 5 6 並木裕太(2013) p33 並木裕太(2013) p35 大坪正則(2011) p211 3 パ・リーグTVの加入者は 2015 年の 5 月の段階では 6 万 2000 人程度でまだま だ小規模である。7しかし、MLBにおいてインターネット動画配信を行って成功 したMLBアドバンスト・メディアを参考にし、規模の拡大を目指している。 (3)戦力均衡への取り組み 次に戦力均衡への取り組みについて述べていく。なぜ戦力均衡を図ろうとす るのか。その理由は同じチームが毎年優勝争いをするよりも様々なチームが毎 年かわるがわる優勝争いをしたほうが結果の予想がしにくくなり、人を惹きつ けやすいためである。また、チームが戦力を整えるには優秀な選手が必要とな り、優秀な選手を確保するためには多くの資金が必要となる。そのため親会社 の資金力の差が戦力の差に直結するという側面があり、戦力均衡を保つために は各チームの資金力の差をなくしていく必要がある。 メジャーリーグでは、このために 3 つの取り組みを行っている。1 つ目は収益 の分配である。具体的にはリーグビジネスで得られた収益を一定の手数料を差 し引いてリーグに所属する全チームに分配する、加えて各チームがリーグに納 めている上納金を各チームの収益獲得力を基準に分配するということを行って いる。2 つ目はチームの選手の年俸の合計額が既定の金額を超えた際に既定の金 額を超えたチームが課徴金を支払うというものである。この課徴金はラグジュ アリータックスと呼ばれ、その金額は既定の金額を超えた分の 20~30%にあた る。3 つ目は、完全ウェーバー方式のドラフトである。これは資金の差をなくす 取り組みではないが、下位のチームが有力な新人選手を獲得できるため戦力均 衡へとつながる取り組みである。 一方、日本のプロ野球ではメジャーリーグのような各チームの資金力の差 をなくす取り組みが行われていない。これは資金力の差をなくす取り組みを行 うために必要なリーグ全体での協力体制がないためである。収益の分配を例に 挙げると、収益の分配は収益力の高いチームからすれば、自分のチームで得ら れた収益を収益力の低いチームへと分け与えることになるため、収益力の高い チームも含めたリーグの全てのチームの協力が欠かせないのである。またドラ フトは日本のプロ野球にも導入されているのだが、完全ウェーバー方式ではな く、上位のチームも有力な新人を獲得できてしまう可能性があるということか ら戦略均衡を図るという意味合いはメジャーリーグと比べると薄いと考えられ る。 3.おわりに 7 http://engineer.typemag.jp/article/packathon 4 ここまで日本のプロ野球とメジャーリーグの経営戦略を比較してきたが、両 者の大きな違いはリーグビジネスにある。現在日本のプロ野球では PLM が中心 となりパ・リーグのリーグビジネスを行っているが、その規模はまだ小さいた め、規模を拡大すべく今後はセ・リーグも含めたセ・パ両リーグによるリーグ ビジネスの実現が必要となる。そして、こうしたセ・パ両リーグによるリーグ ビジネスの実現にはメジャーリーグで放映権事業を行っている 4 つの子会社の ようなセ・パ両リーグによるリーグビジネスを行うための組織が必要不可欠で ある。セ・パ両リーグの全てのチームが協力体制をとり、セ・パ両リーグによ るリーグビジネスの実現ができるのかということが日本のプロ野球の人気復興 の鍵となる。今後の日本のプロ野球の動向に注目していきたい。 参考文献 1. 並木裕太(2013)『日本プロ野球改造論』ディスカヴァー携書 2. 大坪正則(2011)『パ・リーグがプロ野球を変える 6 球団に学ぶ経営戦略』 朝日新書 参考 URL http://engineer.typemag.jp/article/packathon (株式会社キャリアデザインセンター) 5
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