リーフレット [Leaflet]

電力中央研究所報告
経
営
欧州における再生可能エネルギー普及政策と
電力市場統合に関する動向と課題
キーワード:固定価格買取制度,フィードインプレミアム制度,市場統合,
メリットオーダー効果,自然変動型再生可能エネルギー
背
報告書番号:Y15022
景
欧州の電力市場では、太陽光発電(PV)や風力発電等の自然変動電源(VRE)の大量
導入の結果、卸電力価格が低下し、安定供給の確保に必要な需給調整用電源の経済性を
劣後させる等の問題が生じている。そこで、卸電力価格とは無関係に優遇価格での買取
を行う固定価格買取制度(FIT)を見直し、市場での電力販売とプレミアム支払に切り分
ける Feed-in Premium(FIP)方式での市場統合注)が進められている。しかし、VRE が補助
なしで自立する完全な市場統合が実現するプロセスについての検討は不十分である。
目
的
ドイツと英国を参考に、市場統合策として進められている FIP 型制度の特徴と課題を
評価する。さらに、FIT に基づく VRE 大量導入が卸電力市場に与える影響を整理した上
で、わが国における VRE 大量導入による卸電力市場価格への影響を定量的に示す。
主な成果
1. ドイツ・英国における市場統合の現状
ドイツの FIP と英国の差額決済方式(FIT-CfD)は、電力販売とプレミアムの支払(入
札で定められた補助水準と卸市場の価格指標を用いた電力参照価格との差分)を VRE の
収入とする点では同じである。しかし、英国 FIT-CfD は、① 参照価格が補助水準を上回
った場合の超過分を払い戻し、②入札を複数種電源で行い(独 FIP は電源別)
、③参照価
格を算定する期間が前日市場の 1 時間と短い(独 FIP は月間)
、という点で異なる(図 1)
。
VRE への支払を電力販売とプレミアムに分けることで、前述した需給調整用電源の経
済性を劣後させる等の弊害は、FIT に比べて軽減される。しかし、別途プレミアムが支払
われるため、その効果は限定的である。そこで両国では卸市場でマイナス価格が 6 時間
継続した場合にはプレミアム支払を停止している。
ドイツは脱原発、英国は温暖化目標に基づく石炭火力全廃と、電源構成の抜本的転換
を進めている。低炭素電源への投資環境整備が必要であるため、市場統合の現実は、
VRE と卸市場が切り離された異なる市場として並存している状況にある。
2. VRE 大量導入による卸価格下落の推計と完全な市場統合に向けた示唆
わが国の長期エネルギー需給見通し(長期見通し)に基づく VRE 大量導入によって、
ピーク時間帯・端境期ともに約 2 円/kWh、卸価格が下落すると推計された(図 2)
。
完全な市場統合に向けて、PV のあるべきコスト目標を示すために、PV がもつ経済的
価値を評価した。PV は昼間等の決まった時間帯にしか発電できないため、発電量を増や
すほど、自らの kWh としての価値が低下する「共食い効果」が生ずる。わが国で長期見
通しと同程度の PV 導入がなされた場合、その価値は 2~6 円弱にまで低下する(図 3)
。
ii
©CRIEPI
加えて、PV による最大電力需要の削減効果(kW としての価値)は、約 900~2900 万 kW
導入されると消失する(図 4)
。今後の制度設計においては、PV の経済的価値を踏まえた
コスト目標を設定し、完全な市場統合を模索すべきであり、十分なコスト低減が確認で
きなければ補助の見直しや打ち切り等の機動的な制度修正を行うことが必要である。
ドイツFIP
(1)超過分
は返還不要
プレミ
アム
(3)電力参照価格
前月のVRE別の
販売電力単価加
重平均値
英国FIT-CfD
(2)補助
水準:個
別VRE
で入札
(1)超過分
は要返還
(2)補助
水準:複
数電源
で入札
(3)電力参照価格
(3)電力参照価格
前日市場の1時間
前日市場の1時間
スポット価格
スポット価格
図 1 ドイツ FIP・英国 FIT-CfD プレミアム設定方法
図
1 ドイツ
FIP・英国 FIT-CfD プレミアム設定方法
(1)
電力参照価格が補助水準を上回った場合の超過
(1)
電力参照価格が補助水準を上回った場合の超過
分取扱、(2)入札対象電源、(3) 電力参照価格を算
分取扱、(2)入札対象電源、
定する期間の
3 点が異なる。(3) 電力参照価格を算
定する期間の 3 点が異なる。
図 3 PV 出力時の卸電力市場価格
「共食い効果」により、わが国における PV の kWh と
しての価値は、FIT 導入前時点(PV 導入量約 500 万
kW)では 4.7 円/kWh だったが、6400 万 kW 導入で 2.9
円/kWh にまで下落する。
図 2 VRE 大量導入による卸電力市場価格の推移
図 2導入量を考慮しない再エネ
VRE 大量導入による卸電力市場価格の推移
VRE
0 シナリオ、長期
VRE
導入量を考慮しない再エネ
0 シナリオ、長期
見通しとする 2030 シナリオについて、それぞれ各
見通しとする
2030
シナリオについて、それぞれ各
月代表週の各日を 8 の時間ゾーンに分割した 672 ポ
月代表週の各日を 8 の時間ゾーンに分割した 672 ポ
イントの卸価格を求めた。
イントの卸価格を求めた。
図 4 PV による最大電力需要の削減効果
東日本大震災以降、直近 3 カ年における PV による
最大電力需要の削減効果は、約 900~2900 万 kW。
つまり、既に3000万kW導入されているため(2015
年11月末時点)
、最大電力需要の削減効果は消失し
ている。
注)市場統合:以下 2 点により、VRE 普及政策と自由化された電力市場との統合を目指す政策。
(a)VRE 事業者は FIT で
のもとでは固定された優遇価格を得ていたが、これを卸市場等を通じた電力販売とプレミアム支払の 2 つの収入経路
に分けることにより、VREに電力市場の価格シグナルに応じた発電を促すこと、及び、
(b)プレミアムの水準を入札
等の競争原理により決定することにより、賦課金等の国民負担の軽減を行うこと。最終的には、VRE の補助が不要
となる完全な市場統合を目指している。
関連報告書:
[1] Y13031「我が国の固定価格買取制度に関する費用負担見通しとその抑制策の検討」
(2014.05)
[1] Y13031「我が国の固定価格買取制度に関する費用負担見通しとその抑制策の検
関連研究報告書
[2] Y12009「ドイツの再生可能エネルギー電源普及に伴う影響―卸電力市場の価格と系統運用の再給電指令―」
(2013.05)
討」(2014.05)
[2] Y12009「ドイツの再生可能エネルギー電源普及に伴う影響―卸電力市場の価格
と系統運用の再給電指令―」(2013.05)
研究担当者
朝野 賢司(社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域)
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問い合わせ先
電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 03-3201-6601(代) E-mail:[email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] © 2016 CRIEPI 平成28年5月発行
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