制御&監視向け! 小型ネットワークCAN通信入門

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制御&監視向け!
小型ネットワーク CAN 通信入門
第 5 回 アプリと CAN 通信をつなぐ中間ソフトウェア仕様
今回は,CAN プロトコルの上位層の考え方を紹介
します.
ECU 間に必要な CAN の基本機能
上位層のアプリケーション・ソフトウェアが ECU
間の通信を行うために,CAN がプロトコルとして備
える五つの基本機能があります.
(1)マ ルチマスタ…いつでも自分の出したいタイミ
ングで送ることができる
(2)ア ービトレーション…優先度に従い送信がなさ
れる
(3)ブ ロードキャスト通信…通信相手は特定しない
送信,受信側は必要ならば使う
(4)エ ラー検出…異常を検知したら,そのフレーム
はどの ECU も破棄
(5)障害封じ込め…一つの ECU が異常でも他の ECU
へ影響を広げない
五つの基本機能は,アプリケーション・ソフトウェ
アが CAN を通信として利用するために必要な最小限
の機能を定義したものです.
しかし,これらのプロトコル機能だけの利用では,
本来 CAN が実現しようとしている ECU 間通信は実現
はできません.あくまでも,これは最低限必要とされ
ている機能なので,使う側の条件を満たすためにはア
プリケーション・ソフトウェアないしミドルウェア側
で通信全体の制御をする必要があります.
アプリと CAN をつなぐ
中間ソフトウェア仕様
アプリケーション・ソフトウェアが ECU 間通信を
利用しやすくするために,CAN プロトコルに加えて
中間ソフトウェア仕様が定義されています.OSEK/
VDX や,AUTOSAR の COM仕様と NM(Network
Management)仕様などがあります.
● その 1:OSEK/VDX
1993 年に自動車に搭載されるソフトウェアの標準
2016 年 5 月号
田代 有宏
アーキテクチャを定義するために設立した組織で,
OS,Communication,Network Management の 三 つ
の仕様を定義しています.
● その 2:AUTOSAR の COM/NM 仕様
2003 年に車載ソフトウェアの共通化を目指して設
立した組織であり,車載ソフトウェアに必要なさまざ
まな仕様が定義されています.
COM 仕様はアプリケーション・ソフトウェアと
CAN インターフェースの間をとり持つ中間ソフト
ウェアとして存在しています.
NM 仕様はノードのネットワークへの参加 / 離脱を
管理する役割を担っています.
本稿では CAN の上位層仕様を理解する上で必要と
なる COM 仕様と NM 仕様を中心に解説します.
CAN の上位層にあたる中間ソフトウェア仕様には,
主に四つの機能があります.
・その 1:アプリケーション・ソフトウェアが通信
プロトコルを意識せずに信号のやり取りを行える
・
・その 3:異常が発生した際に安全側に倒す
・その 4:CAN バスへのノードの参加 / 離脱を協調
その 2:信号の送信タイミングを制御する
して制御する
中間ソフトウェアの機能①…アプリが通信
プロトコルを意識せずに信号をやり取りできる
CAN 通信を経由してノード間で多くの信号のやり
取りを行います.
信号の多くは,1 〜 16 ビット程度のサイズとなり
ます.一つの信号のために,一つの CAN フレームを
使用すると,すぐに CANID は不足します.そこで,
CAN バスの帯域を効率的に使うため,一つの CAN フ
レームは複数の信号で構成されることになります.
上位層では,信号を受け渡す仕組みだけをアプリ
ケーション・ソフトウェアに提供し,CAN フレーム
への信号の割り付けは上位層で実現します.
アプリケーション・ソフトウェアは,CANプロトコ
ルを意識することなく信号の読み書きを行うだけで,
第 1 回 I2C とイーサの中間くらい ! ローカル機器間ネットワーク向け(2016 年 1 月号)
第 2 回 常時接続イメージ! 制御向け CAN 通信の特徴(2016 年 2 月号)
第 3 回 CAN 通信の物理層(2016 年 3 月号)
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