論説 平成28年度新潟県医師会事業計画 その1

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論 説
平成28年度新潟県医師会事業計画 その1
はじめに-今年度の事業計画のポイント
平成28年4月に診療報酬改定がおこなわれ、診
また、医療介護総合確保基金においても病院の機
療報酬本体は0.49%上がったものの、薬価、材料
能分化促進、医療介護の連携体制の確立、これら
価などの引き下げ分を合わせると、0.84%のマイ
を支える人材育成など多職種連携でおこなわなく
ナス回答となった。消費税の引き上げとともに、
てはならない事業が多く、県医師会がその中心と
各医療機関の経営は圧迫されていくものとなるだ
なって、よりよい医療が県民に提供されるように
ろう。
努力していく。
昨年度は、関東甲信越医師会連合会の当番幹事
今年度の事業計画の特徴は各部での最重点項目
の役割を果たすことができた。さらに、東北、北
を定め、今年度の目標をあげてもらったことであ
海道ブロック医師会との協力体制も確立でき、日
り、それらを整理すると以下のようになる。各部
本医師会への適切な要望、提言が可能になった。
の事業計画を今月号と来月号に分けて掲載する。
今年度は、地域医療構想を策定する年でもあり、
1)組織の強化として
‌ 具体的には会員を確保し、日医代議員の1名増員を図ることや学術助成金の応募者増を考
え、医師会の存在意義を示すことである。一方、医師会の事業をしっかり広報することで、
若い勤務医師の組織率アップを図ることも考えている。
2)在宅医療の構築とその支援
‌ 在宅医療推進センター事業の円滑な活動の支援や未設置地域での立ち上げのサポート、小
児在宅医療体制の構築をはかることである。
3)各種マニュアルの整備
‌ 心臓検診マニュアルの作成、災害時救護活動マニュアルの改定、小規模医療機関における
医療安全管理のためのマニュアルづくりなど
4)女性医師支援
‌ 子育て世代の女性医師の職場環境・勤務体制の整備を図り、女性医師子育てサポート事業
の継続を図る。
5)産業保健
‌ 産業医確保のための研修会の開催、ストレスチェック制度の定着のための情報提供や研修
会を企画する。
6)社会保険部
‌ 28年度診療報酬改定と消費税増税及び損税問題の検証について
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1 .総 務 部
総務部では例年通り、下記のような庶務事項、
昨年度は、会員数の増加を図るため、研修医の
諸会議への対応、総務所轄分野の業務を行う。
会費を無料化し、入会を促すとともに、より分か
特に、対内外の調整をはかり諸会議の開催、医
りやすく医師会活動を紹介するための会員のため
師会事務局業務の円滑な遂行、郡市医師会あるい
のガイドブックを作成した。本年度も引き続き会
は関東甲信越医師会連合会、日本医師会との業務
員の加入促進に努め、医師会全体の組織強化と活
連携などへの遺漏なき対応が重要である。
性化に伸展するよう尽力したい。
本年度の最重点項目
会員確保に努め、日医代議員数1名の増員を図る。
本年度の事業計画概要
1.会員消息など動態把握、名簿管理
2.郡市医師会・関東甲信越医師会連合会・日本医師会との連絡業務
3.県医師会事務局の掌握管理
4.各種会議に関する所管・連絡調整
‌代議員会、理事会、設立記念大会、郡市医師会長協議会、裁定委員会、県福祉保健部との意見交
換会ほか
5.保健医療福祉に関する行政当局との連絡調整
6.県内諸団体への県医師会からの対外委員等の管理
7.医事紛争処理特別委員会の運営
8.TV会議システム、文書管理システム、資料閲覧システムの運用
9.新潟県弁護士会との懇談会の開催
10.その他、いずれの部にも属さない事項
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2 .学 術 部
学術部が計画する事業は、医学研究振興を目的
医学振興委員会の中で各学会の開催規模等を基準
とした奨励賞及び助成金の選考と贈呈、日医生涯
に照らしあわせ、助成対象を協議決定する。
教育講座の企画と開催、学術講演会等の単位及び
学術講演会、日医生涯教育講座は、原則として
コード認定などの生涯教育関連事業、諸会議の開
医師会員の要望に添った内容で計画、立案する方
催などである。
針とし、各郡市医師会のアンケート調査を踏まえ
学術奨励賞ならびに学術研究助成金は、受賞者
て医学振興委員会で検討して満足度の高い講演会
の経歴にもなる栄誉ある表彰であり、その受賞レ
を目指す。日医生涯教育制度の実施要綱には「医
ベルを保つ意味からも、応募者数が募集件数を満
師が不断に学習する姿をより明確な形で国民に見
たさない場合でも全例を受賞者とはせず、一定の
ていただき、もって、質の高い医療を提供し、国
レベルに達している者の中から受賞者を決定する
民の健康に貢献すること」とされており、連続し
こととする。応募資格として医師会員であること
た3年間で単位数とカリキュラムコード数の合計
が必須条件であることから、医育機関所属の医師
が60以上となる受講を目標とする。これらを取得
ならびに勤務医の医師会入会が期待され、入会促
により、日本医師会から認定証が発行されること
進につながるような広報活動が重要である。
となる。今後も会員の一層の努力を期待する。
県内開催学会への助成は、県内学会調査を行い
本年度の最重点項目
学術奨励賞ならびに学術研究助成金の応募者増を図り、医師会の存在意義を広く示す。
本年度の事業計画概要
1.医学研究振興を目的とした奨励賞及び助成金
1)学術奨励賞の選考
2)学術研究助成金の選考
3)県内学会助成金の選考
2.生涯教育関連
1)学術講演会等の単位とコード認定
2)日医生涯教育講座の企画と開催
3)生涯教育の認定制度の定着にむけての作業
4)生涯教育の申告率の向上
5)新潟医学会との連携
6)新潟大学学士会医学情報インターネットの助成
3.会議の開催
1)医学振興委員会
2)郡市医師会生涯教育担当理事協議会
4.都道府県医師会生涯教育担当理事連絡協議会への出席
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3 .社 会 保 険 部
平成28年度は診療報酬の改定年度である。前回
い問題であるので引き続き日医に進言することも
の26年度改定時は消費増税(5→8%)があり、
必要である。
日病他の調査では40 ~ 60%の病院が赤字決算で、
厚生局による個別指導の内訳では高点数による
とくに大病院ほど赤字率が高かったことが報告さ
指導が多くを占めている。治療内容からどうして
れている。本年度は薬価、材料価を1.33%下げ、
も高点数にならざるを得ない医療機関もあるため
診療報酬本体を0.49%(医科分0.56%)上げる結
選別方法には矛盾も多い。厚生局に対し見直しの
果ネット0.84%のマイナス改定となった。さらに
要望は引き続き行いたい。
来年度には消費増税(8→10%)が予定されてお
社会保険部としてはこれらの諸問題に対し下記
り、加えて医療費の自然増6,700億円を5,000億円
の如く種々の事業活動を行い会員への指針を提供
に抑える計画である。消費増税分は地域医療介護
する。基本的な方針として保険診療の取扱いの適
総合確保基金として病床機能の役割分担、在宅事
正化、医療と介護に関する情報の提供、問題点の
業と多職種連携、
医療人の確保事業に分配される。
整理、意見調整等を行う。新規指定医療機関では
これらの事業が着実に進展していくことを検証す
依然として保険診療上の取扱いに不備が認められ
る必要がある。また、損税については避けられな
るため情報提供を行っていく。
本年度の最重点項目
28年度診療報酬改定と消費税増税及び損税問題の検証について
本年度の事業計画概要
1.社会保険委員会の開催と協議事項の県医師会報への提示(社会保険部の頁)
2.社会保険研修会、社会保険指導者講習会伝達講習会の開催
3.診療報酬改定に関する情報提供
4.支払基金・国保連合会審査委員会との整合と連携及び県医師会報への提示
5.個別指導を受ける新規指定保険医療機関に対する情報提供と懇談会の開催
6.郡市医師会社会保険担当理事協議会及び郡市医師会介護保険担当理事協議会の開催
7.主治医研修会の開催
8.新潟県訪問看護ステーション協議会の運営
9.関東甲信越医師会連合会医療保険部会、介護保険部会における活動
10.関連機関・関連団体との協議会、懇談会の開催
11.保険診療・介護保険に関する相談窓口
12.医療保険・介護保険に関する問題の研究と検討
13.診療報酬及び介護報酬小委員会の開催
14.有床診療所検討小委員会の開催
15.自動車保険医療連絡協議会及び同小委員会の開催
16.労災保険・自賠責保険に関する研修会の開催
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4 .学 校 保 健 部
学校保健部の事業目的は、学校保健安全法(平
成21年4月1日施行)及び学校保健安全法施行規
則に基づき、地域特性等を加味して、児童・生徒
の健康と安全を守る事にある。近年、児童・生徒
の疾病構造の変化や取り巻く環境が複雑化してお
り、
学校医単独で対処するのは困難になりつつある。
「学校保健安全法」第10条に、学校と地域の医
療機関等との連携を図りつつ、救急処置、健康相
談や保健指導を行うべき旨が明確に規定された。
日本医師会学校保健委員会も会長諮問「これから
の学校健診と健康教育」に対し、学校医以外の医
師の学校保健への参画が重要であると答申してい
る。これらをふまえ、学校と郡市医師会及び地域
医療機関や専門家との連携が円滑に行くよう努力
していきたい。具体的には、いじめ・自殺・不登
校・非行・発達障害児への対応等は、専門知識と
経験をもつ専門医や臨床心理士等による対処が求
められている。性教育に関しては、専門医と学校
の学習指導要領の間に少なからず見解の相違も見
られるが、現実に即した実効のある教育が必要で
あるので調整は不可欠である。
その他、感染症と予防接種、アレルギー疾患、
スポーツにおける二極化問題やスポーツ障害・外
傷、色覚異常児や難聴児等問題は山積している。
平成28年度より学校健診において、検査項目から
「座高の検査」と「寄生虫卵の有無」が必須項目
から外れたこと、
「四肢の状態」が必須項目に加
えられたこと(学校保健安全法施行規則第6条)、
児童・生徒の「保健調査」
(学校保健安全法施行
規則第11条)が義務化されたことなどきめ細かい
対処も必要である。また、
「学校心臓検診マニュ
アル」の改訂に向けて検討作業を進めていく。
本年度の重点項目
1.「学校保健安全法施行規則一部改正」
(H26.4.30)に沿った健康診断の円滑な遂行
2.心臓検診マニュアル作成にむけての活動
本年度の事業計画概要
1.学校保健研修事業に四肢の状態が必須化されたこと
1)学校保健研修会の開催
2)日医学校医講習会への参加
2.委員会の開催
1)学校医委員会
2)健康スポーツ医学委員会
3)郡市医師会学校保健担当理事協議会
3.学校保健対策事業
1)学校医の全県的組織作りの推進
2)各学校における学校保健委員会設置推進への協力
3)全国学校保健・学校医大会の参加(北海道医師会担当)
4)関東甲信越静学校医協議会への参加(栃木県医師会担当)
5)県学校保健会・学校保健研究大会への参加
6)県学校保健学会・研究発表会への参加
7)関係団体との定期的懇談会への参加
4.学校保健助成事業
1)県学校保健会への助成
2)県学校保健学会への助成
3)学校検尿標準化委員会への助成
5.健康スポーツ医学推進事業
日本医師会認定健康スポーツ医学再研修会の開催
6.その他
「学校心臓検診マニュアル」の改訂
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5 .母 子 保 健 部
母子保健部の主たる事業は子育て支援であり、
任意接種ワクチンの定期接種化は徐々に進みつ
昨年度は県から二つの事業委託を受けた。
(1)
つあるが、さらにその動きを推進していく。同時
地域少子化対策推進事業(レッツ楽しく子育てプ
に各自治体での接種費用公費助成を要望し、子ど
ロジェクト)における、「NP プログラム・ファ
もを VPD(ワクチンで予防できる病気)から守
シリテーター養成研修会」の実施に係る運営業務
る運動を推進する。
と、
(2)
小児在宅医療連絡協議会運営事業、
である。
子ども医療費助成の対象範囲は少子化対策の一
小児在宅医療の推進を本年度の重点項目にあげ
環として順次拡大されてきているが、いまだ市町
る。新潟県においてはこれまで小児の在宅医療に
村によって助成対象に差があり、不公平感が持た
ついては、ほとんど専門医療機関が関わり、地域
れている。県のさらなる助成拡充を要望すること
で支える本来の在宅医療体制は全く出来ていない
で全子の助成拡大につなげたい。
現状である。ようやく立ち上がった小児在宅医療
その他、これまで医師会として県福祉保健部と
体制整備のための連絡協議会を活性化し、地域で
ともに推進してきた諸事業についても継続して
のモデル事業につなげたい。国の事業推進のため
いく。
のコア人材の養成講習受講者を活用する。
こども病院構想に対しては、その実現に向け、
子育てに不安を感じている乳幼児の親支援プロ
本県における最も望ましい形を検討し、県医師会
グラムであり、虐待予防、少子化対策にもつなが
としても発言していく。
る「NP プログラム」等の推進事業を継続する。
本年度の重点項目
新潟県における小児在宅医療体制の構築を推進する
本年度の事業計画概要
1)母体保護委員会の開催
2)母子保健委員会の開催
3)郡市医師会母子保健担当理事協議会の開催
4)新潟県要保護児童対策協議会への参加と提言
5)周産期医療体制整備の諸課題への取り組み
6)小児在宅医療体制整備への取り組み
7)日医家族計画・母体保護法指導者講習会への参加
8)日医乳幼児保健講習会への参加
9)関係部会への助成
10)日本産婦人科医会及び県小児科医会との連携
11)NP プログラム実施推進事業
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6 .産 業 保 健 部
つ い に 平 成27年12月 か ら ス ト レ ス チ ェ ッ ク
医に求められる役割(SC 実施者など)が変化し
(SC)制度が開始され、これにより常時50人以
てきているため、安衛法における産業医の位置づ
上の従業員を雇用している事業主には平成28年11
けや役割の見直しが検討されることになってい
月30日までに1回は SC を受検させる義務が課せ
る。また事業場における治療と職業生活の両立支
られることになった。SC への取り組みは大規模
援に関するガイドラインが作成され、平成28年度
事業場では以前から行われていたが、中小規模の
より研修会等で周知を図るとされている。ガイド
事業場では今回が初めてのところが大半だと考え
ラインは原則疾病を問わない内容とするものの、
られる。産業医の中にはメンタルヘルス関係は苦
特に配慮を要する疾病(がん等)に関しては個別
手という方もおられるが、産業保健総合支援セン
の留意事項を盛り込むとしている。
ターや県医師会でサポートするので、産業医とし
産業医の在り方は大きな変革期にあるが、従業
て期待される重要な役割とご理解をお願いし、
員50人未満の小規模事業場における労働衛生管理
SC 実施者をお引き受けいただきたい。
の強化も検討事項に挙げられていて、地域産業保
最近の労働衛生行政の3大トピックスは前述し
健センター事業にも影響が出てくると考えられ
た SC と、
「産業医制度の在り方に関する検討会」
る。産業医の業務はさらに厳しさを増す方向にあ
と、
「治療と職業生活の両立支援事業」である。
り、産業保健部としては研修会を充実させ、実働
労働安全衛生法の施行当時に比べ、現在は産業構
出来る産業医の数を確保することが急務と認識し
造や産業保健における主要な課題が変わり、産業
ている。
本年度の重点項目
1.SC 制度の定着に向け情報の提供と研修会の充実
2.実働出来る産業医を確保するための産業医研修会の実施
本年度の事業計画概要
1.地域産業保健センター事業の推進
‌ 郡市医師会の協力は絶対的必要条件であり、出務時の傷害保険と賠償責任保険が保証されるこ
とより、更なるご協力をお願いしたい。
2.日医認定産業医研修会の開催
1)前期研修会(2日間で14単位)の開催で新規産業医を養成。
2)県医師会による基礎研修会、生涯研修会の開催
3)郡市医師会による研修会の支援
3.産業医ネットワークの構築
県医ホームページにおける産業医ページの充実。
4.新潟産業保健研究会の支援
産業保健の学術的研鑽の場であり、認定単位取得のための産業医研修会として共催する。
5.産業保健関連学会への参加
第59回日本産業衛生学会北陸甲信越地方会総会が福井市で開催。
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