平成28年度 研究主題 - 香川県小学校道徳教育研究会

平成28年度
研究主題
「主体的に自分の生き方への考えを深め,社会を生きる力を育む道徳教育」
―道徳科において求められる授業実践―
香川県小学校教育研究会道徳部会
香川県小学校道徳教育研究会研究部
1
はじめに
昨年度の7月に文科省より「特別の教科 道徳」(道徳科)の学習指導要領解説が示され,その後,道徳科を
どのように捉え,どのように授業を行っていくのか議論されている。香川県においても道徳科の捉え方,授業の
在り方を各支部での授業実践や提案,夏季研修会での提案をもとに議論されている。
道徳科を実施していくにあたり,これまでの道徳の授業をどのように改善し,より充実した道徳の時間にして
いくのか。また,子どもが主体的に道徳の授業に取り組み,互いの思いを語り合い考えをさらに深めていくのか
など課題は多い。
その中で,昨年度行われた香小県大会(丸亀市立郡家小学校)での授業実践は,各教科とのつながりが学習環
境や道徳の時間の中に表れていたり,子ども同士が自分の思いを語り,考えを深める姿が多く見られており,道
徳科の授業の在り方の1つの方向性が見いだされたように感じた。同様に学校・学年全体でチームになり道徳の
時間を充実させ,子どもの道徳性を育もうとする教師の意識の高まりやチームとして道徳教育を推進していくこ
との有効性が表れていた。
このように,道徳の授業を軸とした様々な学習方法や学習活動を通して,道徳科の授業の在り方を探っていく
必要がある。また,県内における教職員の若年層の増加に伴い,次世代の先生方にこれまでの総合単元的道徳学
習の学習方法や交流活動,表現活動,操作活動等の学習活動など,研究成果の積み重ねにより培ってきたものを
継承していくことが求められていると考える。
2 主題の概要について
(1)「主体的に自分の生き方への考えを深める」について
自分なりの目標意識をもち,自分なりに解決していくために自ら気持ちを支え,励まし続けていくことのでき
る力をもとにして,どんな状況にあっても自分を伸ばしていこう,自分自身をよりよくしていこうと積極的に取
り組む主体的な姿をめざす。その姿をめざすためには,自己教育的な発想のもと自分自身の生き方や在り方を見
つめ直し,自分自身に働きかけていくことが大切になると考える。自分自身と対話しながら自分の弱さやよさを
見つけ,自分の弱さをカバーしたり,謙虚に自分を見つめ直したりすることにより,豊かな心を育て,よりよい
自分づくり,生き方につながっていくのである。そのように自己を見つめることを通して,活動への主体性や人
格性の基礎を育むことができると考え,授業では,自分を振り返る場面や活動,振り返りの視点について重点を
おき研究を深めていきたい。また,「子どもの主体的な学び」「自らを自覚する」「自らを表現する」ことについ
て,実践を重ね研究を深めていくことで,自分の生き方への考えを深めていくことができてくると考える。
(2)「社会を生きる力を育む」について
周囲とのかかわりや現代社会における課題等に対して,臆することなく伸び伸びと生活をしていくことができ
たり,自分の内面的な部分においても健全に生活できることが,社会を生きる力だと考える。そのような状況を
克服したり,豊かな生活を行ったりしていくために,自分自身をコントロールし,自らを強くしていくことが大
切になるのではないだろうか。そのために必要となるのが,自己理解,他者理解,相手の内面理解をする力であ
ると考える。それらは,道徳的価値の学びを深めていくと共に,物事を道徳的に考える思考力,判断力,表現力
を育むことにつながる。
(3) 道徳科として求められる授業
道徳科における道徳の配慮事項で,道徳性を養うことの意義について,「児童・生徒自らが考え,理解し,主
体的に学習に取り組むことができるようにすること」を示している。では,そのためにはどのような授業を行え
ばよいのだろうか。多様な授業づくりを行いながら,その在り方について吟味・検討していくことが必要である。
そのための方向性として,まず,道徳の授業における交流活動が考えられる。子どもたちが主体的に問題に向き
合い,自分なりの考えを深めたり,友達や違う立場の人と交流を通して考え方の違いに気づき,多面的な見方や
考え方で物事を深く考えたりすることだと考える。そのためには1時間の授業や単元の中で,自ら問題意識をも
って価値について多面的な迫り方ができるのかも大切にしたい。また,教師自身が多面的な視点をもって授業の
構想を練り,広い視野で子どもの姿を見てとり,個の成長を評価し返していくこと重要と考える。
-1-
3
研究構想図
主体的に自分の生き方への考えを深め,
社会を生きる力を育む道徳教育
-道徳科において求められる授業実践-
総合単元的道徳学習
の充実
道徳の授業時間の充実
・多面的・多角的に価値を学ぶ学習の
工夫
・互いの道徳的心情を理解し合える状況
を生かした授業の工夫
・1時間の道徳の授業で,子ども同士が
互いに共感したり,協同したりしなが
ら学ぶ学習の工夫
・対話を充実させ,自らを語り価値に迫
・対話,討論による授業形態の工夫
・他教科,他領域と関連させた学習
活動の工夫
・学習形態の工夫
・問題解決的な学習
・教材の工夫
・年間指導計画の柔軟な活用
・体験的な学習活動の充実
る学習の工夫
道徳的な心情・判断力・実践意欲と態度を育てる
物事を多面的・多角的に捉えて考える
主体的・協働的に学ぶ
自他のよさを感じる
評価の工夫
道徳ノートの活用
と充実
○自己評価
・自己を見つめる多様な見方,考え方
を育む手立て
・子どもの伸びを見つめ価値付ける
評価の工夫
・道徳性に関わる成長の様子を継続的
に把握する工夫
・認知的側面,情意的側面,行動的
側面での見取り
・自分を振り返り,価値を学んでいく
○教師評価
・子どもが自分で価値について考え主
体的に学習に取り組む工夫
・自分自身に対する考え方,感じ方を
広げ深める活動の充実
・単元,学期,年間を通したノートの
活用
・他教科や他領域と関連させたノート
の活用
道徳の授業づくりにおける基盤
・生活や体験活動を生かす・資料分析・価値分析
・授業展開の工夫・板書の工夫 等
・道徳科に合わせた読み物資料の開発
・香川県独自の郷土資料の開発
・開発した郷土資料を扱った授業実践
-2-
4
研究構想図の概要
本年度は,研究テーマ「主体的に自分の生き方への考えを深め,社会を生きる力を育む道徳教育」―道徳科
において求められる授業実践―のもと,研究の柱を4つ立てた。
学習指導要領解説道徳編より道徳教育の目標は,「学校の教育活動全体を通じて,道徳的な心情,判断力,実
践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。」とある。そして,道徳の時間の目標として,「道徳教育の目標
に基づき,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,
計画的,発展的な指導によってこれを,補充,深化,統合し,道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考
えを深め道徳的実践力を育成するものとする。」と述べられている。これらの目標がめざすべき内容,香川県の
子どもの実態,これまでの研究の成果と課題,今後の道徳教育の展開をもとにして研究の構想を図に表した。
本年度は,「主体的に自分の生き方への考えを深め,社会を生きる力を育む道徳教育」豊かな関わり合いから
道徳的実践力を育む授業づくりをめざしていく。そこで,立てた研究の柱は次の4つである。
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
道徳の授業時間の充実
総合単元的道徳学習の充実
道徳ノートの活用と充実
評価の工夫
そして,これまで積み重ねてきた道徳の授業づくりにおける基盤を研究の根底に据えて,今後の研究を進めて
いく。具体的な内容については,本年度実践を交えて研究を深めていきたい。
Ⅰ
道徳の授業時間の充実
1つ目の柱は,道徳の授業時間の充実である。毎週1時間,年間を通して35時間の授業を行っている。先生方
が学校,学級の実態に応じて日々,実践を行っていることかと思う。平成27年7月に告示された学習指導要領解
説道徳科では,これまでよりもさらに道徳の授業を充実させ,子どもに興味・関心をもたせ,豊かな人間性を形成
するために必要な考えやアプローチについて述べられている。
その中で大切にしていきたいことは,次の事柄である。
・道徳的諸価値について理解する。(価値理解,自己理解,多様性の理解,他者理解,人間理解)
・これまでの自分の考え方,感じ方と照らし合わせながら,さらに考えを深める。
・これからの課題や目標を見付けられる。
・物事を多面的・多角的に考える。
・様々な視点から物事を理解し,主体的に学習に取り組む。
・自己の生き方についての考えを深める。
・自分の成長を実感できる。
上記している事柄について授業の中で思考できるために,教師は授業づくりを工夫していかなければならない。
そのためには,45分の授業をより充実させていくのか授業改善を図とともに,45分だけでなく学校教育活動
全体,家庭や地域との関わりとつないで授業づくりをしていくのかが大切になってくる。これは,研究の柱Ⅰ~Ⅳ
の内容全てに関わってくることでもある。
(1) 物事を多面的・多角的に考える
道徳科の指導要領解説の中でも「多面的・多角的」
という言葉が多く出ている。では,授業の中ではどの
ように生かせばよいのだろうか。
価値内容 B-7「親切,思いやり」を例に挙げて考え
ていく。指導要領解説(P38・39)で価値内容の概要が
述べられている。
読み物資料を基にした場合には,まず登場人物のも
つ価値観が資料に表れている。登場人物の心情理解を
しながら価値内容に触れていくことが考えられる。登
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場人物が複数いる場合には,それぞれの登場人物の多様な価値観に触れることも考えられる。
次に,自分がこれまでの経験をもとにして捉えている「親切,思いやり」への考えである。そして,自分だけ
でなく,学級の友達のもっている「親切,思いやり」への考えも表れることだろう。
つまり,①登場人物の価値観②自分の価値観③友達の価値観・・・等。「親切,思いやり」の価値内容に対し
て多面的に考えていくことができる。さらに,それぞれの価値観(考え方)がどのような視点(①「友情,信頼」
の視点②「寛容,広い心」の視点,③公共的な視点④家庭の視点・・・等)から出てきたものなのかを取り入れ
ることで,多角的に価値内容について考えることができる。
(2) 交流を通して多面的・多角的な考えを取り入れる
道徳の授業の中でも,役割表現や鉛筆対談,カード操作等の思考活動を通して交流を行っている。それらの活
動を工夫して授業に取り入れることにより,読み物資料から道徳的価値に気付き道徳的な心情や判断,思考,実
践意欲などが養われてきた。友達と学習していく過程でさらなる道徳的実践力を身に付けるとともに,子どもが
「人・もの・こと」に対して共感したり,自ら関わろうとしたりする態度,自尊感情の向上も視野に入れて,道
徳の授業における交流の在り方について考える。
例えば,資料の内容や登場人物の気持ちや行為の動機などを考える。友達の考えを聞いたり,自分の考えを伝
えたり,話し合ったり,書いたりする。さらに,学校内外での様々な体験を通して感じ,考えたことを道徳の時
間に生かしていく。これらの中で,言葉の能力が生かされ,道徳的思考力・判断力・表現力を育むとともに道徳
的価値や道徳的実践力についての考えが一層深められていくのだと考える。
道徳の時間においても,その言葉を生かした交流の充実が求められている。道徳の時間は,資料や体験などか
ら感じたこと,考えたことをまとめ,発表し合ったり,討論や討議などにより意見の異なる人の考えに接し,協
同的に議論したり,意見をまとめたりする。
道徳の時間の学習では,中心的な資料が生かされ,児童の体験や資料に対する感じ方や考え方を交えながら話
合いを深めることが学習活動の中心となることが多い。授業の中で価値内容について多面的・多角的に捉えたこ
とを,自分に返す状況が必要になる。それが,子ども同士の交流である。子ども同士が,考えを自由に交流でき
る状況づくりをしていくことが大切と考える。交流の仕方も多様である。
【多面的・多角的な考えが表される交流(例)】
・子ども一人一人が,自由に相手を求めて考えを伝える。
・一つの問いに対して自由に考えを伝え合う。
・学級全体で自らの考えを板書(書く,カードを貼る等)していく。
・小グループで考えを伝え合い,グループでの考えを吟味する。
・対立軸を示し,それについて考えを伝え合う。
・教師が視点を示し,自分と異なる立場を求めて考えを伝え合う。
など
子どもが,授業の中で自由に発言し,誰とでも交流できるためには,道徳の時間にかぎらず学級全体が,そ
れを受容できる雰囲気があることが大切である。
このような交流を通して,個々の考えを多面的・多角的な考え方へと深化させていくことができると考える。
そして,交流の中でさらに重要になるのが教師のスタンスである。
子ども同士が交流する中で,教師がどのような支援の仕方をするのかが大切になる。支援についても,ねら
いに基づいてどのような意図をもって行うのかを大切にしたい。子どもの考えを受容したり,ゆさぶりをかけ
る発問により吟味させたり,整理したり,子どもがまとめていくような展開を促したり,多様な支援の在り方
が考えられる。
(3) 教師の柔軟性
これから求められる授業づくりを行っていくうえで大切にしていきたいのが,教師の柔軟な指導展開である。
資料の展開順に気持ちを探っていくことも大切であるが,それだけに終始するのではなく,価値内容の意味を学
究全体で話し合ったり,登場人物の発言の真意について話し合ったり,自分の経験や考えを軸にしながら意見を
交流させたりするなど,様々な授業展開の仕方を考えることができる。
実際の授業の中では,子どもの反応に対してどのような授業展開をしていくのか,柔軟に問いを投げかけたり,
支援したりすることも求められる。
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指導の方針として,教師のねらいをもちながら,教師自身も多面的・多角的な授業展開を構想しておくことで
柔軟な支援を行えるのである。教師と子どもが,一緒に授業をつくっていける支援の在り方について実際の授業
を通して吟味・検討していきたい。
Ⅱ 総合単元的道徳学習の充実
子どもが道徳性をはぐくむ場を総合的にとらえ,各教科や特別活動,その他の教育活動等の特質を生かして行
われる道徳的価値にかかわる学習である。道徳の時間を中心に有機的なまとまりをもたせて,子どもの意識の流れ
を大切にした道徳学習ができるように計画していくものである。学校における道徳教育目標の重点についてまとま
りを持った数時間の道徳の時間によって価値の自覚を促し,実践への見通しをもつ学習である。
単元化を図ることで,より価値内容について構造的に多様な関連価値から深めることができる。価値観をつくる
場面においては様々な表現物をふくらませたり,中心となる道徳の時間において,前述したような多様な表現の場
が設定できたりする。単元内の他の道徳の時間に学んだ価値,体験を通して気付いた価値をつないで,自分の価値
観をつくることができる。さらに体験活動と結び,より道徳的実践力を高めることができる。豊かなかかわりがあ
り,生命尊重や人間関係の形成等の視点にたった展開ができる。
(1)総合単元的道徳学習(例)
左の図は,総合単元的道徳学習において,子
どもの活動や教師がねらう道徳的価値の気付き
など表した構想図である。
このように,道徳の授業を単元的に取扱い,
他教科や日常生活と関連させる。教師が最終的
に自覚させたいと願う子どもの道徳的心情を明
確に打ち出し,ねらいを明確にする。
では,そのために道徳の授業では,どのよう
な読み物資料から,道徳的価値に気付く必要が
あるのか,また,そのためにはどのような体験
や経験をつなぐことで効果的に道徳的価値への
気付きを促すことが出来るのか,学校行事や年
間計画等をもとに検討していく。
そして,構想された単元の中で子どもの気付
きや考えの広がり,変化,道徳的実践へとつな
げている姿を見て取っていく。
構想した単元を柔軟に捉えることにより,子
どもの姿に応じて学習構想を評価し,支援を変
化させることもできると考える。
(2) 共通体験と授業を関連させ実生活へ生かす
活動
道徳の時間を通じて,関係する学習活動と関
連させながら計画的,発展的に道徳学習に取り
組めるように計
画を練る。その時に,ノート
やワークシートなどを用いて,自らの考えや気
付いたことを自由に記述できるよ
うにする。
そうしていくことにより,子どもたちの価値へ
の考えが,具体的な生活とかかわりをもたせて
考えられるようになる。このように,計画的に
他領域,他教科と関連させながら道徳学習を行
っていくことにより, 子どもの道徳的価値の自
覚を効果的に促す道徳学習へと工夫することが
できるのである。このような道徳学習を実践に 表していくためには,読み物資料を手がかりとして,生活体験と
関連させて子ども同士が互いに理解できるような学習活動の工夫が重要になると考える。以下のような学習や支援
について実践を積み重ねていくことで,子ども同士が関わり合う中で道徳的実践力を育んでいける手立てについて
いく。
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Ⅲ 道徳ノートの活用と充実
(1) 道徳ノート活用の効果イメージ
・自らの気付きや考えを書くだけでなく,友達の考えを書いたり,感想を
書いたりする。
・友達と交流して気付いたことや考えが変わった根拠なども書く。
・自らを振り返ったり,気付いたりしたこ
とを見て取り,子どもの道徳性の高まり
を見て取り,子どもにかえす。
・長期的,継続的視点に立ち,子どもの成
長を把握していく。
・教師の授業改善に生かす。
・課題を明確にして,自分が単元や学期ごと
にどのように成長しているのか把握してい
く。
・日常生活や単元での学びを通して,多様な
見方や考え方で事象を理解していく。
道徳の授業時間の
充実
総合単元的道徳学習
の工夫
評価の工夫
創意工夫された
ノート
日常生活での
気付きを書き込む
自分の姿を
振り返る
他教科・他領域との
関連させて使う
道徳ノート
自らの気付きを
書き込む
子どもの気付きを
見てとる
道徳の授業で扱う
【教師】
・子どもの気付きを把握し,授業の
展開に生かす。
・子どもの道徳的な気付き,考え方
判断を把握する。
【児童】
・自らの考えを書く
・話し合い交流する時,補助的に使う。
・学んだ道徳的価値への気付きを書く。
など
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(2) 道徳ノートを充実させるとは
1時間の道徳の授業時間の中で,子どもは読み物資料の物語を手がかりにして,道徳的価値の気付きをノート
に記述している。具体的には,登場人物の気持ちを書いたり,資料の中の出来事と自分の経験をつないで,考え
たり,感じたりしたことを書いたりしている。場合によっては,1時間ごとにワークシートを準備し,そこに授
業内容について記述していく形態をとっていることもあるだろう。また,道徳の授業を要として単元構想を作り
他教科や他領域での学びとつなぎ,ノートに記述することもある。このように,道徳の授業時間だけでなく,様
々な場面でノートが使われている。これまでの研究の中でも,具体的な実践例も多く出ている。
そして,今後,道徳科が進展していくにつれて,これまでのノートの扱いからさらなる工夫が期待される。例
えば,一つの課題として,児童が授業の中で望まれると分かっていることを書くことから脱却することである。
また,登場人物の気持ちを記述したうえで,交流につないだり,自分たちの経験とつないだりしていくための工
夫も必要である。自分たちのノートの中で,友達の意見を受け入れたり,自分の本音を書き綴り友達同士で価値
を創り出したりしていくこともノートを活用するにあたって実践していきたい。
これまで,香川県の道徳ノートの活用の仕方をもう一度見つめ直すとともに,道徳科へ向けて自ら考え,意見
を言い合える補助資料として扱ったり,自らを振り返り良さもそうでない部分も受け止め内省できるものとした
り,総合単元的道徳学習の柱の一部となる表現物として扱ったりするなど充実した実践を積み重ねていく。
Ⅳ 評価の工夫
4つ目の柱は,評価の工夫である。道徳教育においても重要な要素である。子どもの心の変化や育ちの伸び
を評価し,勇気づけることは子どもの豊かな心を育てていく上で不可欠である。道徳の教科化の議論が盛り上
がる中で,評価をどのようにしていくのかは,常に重要視されていることである。3月末に告示されてた学習指
導要領では,「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要があ
る。ただし,数値などによる評価は行わないものとする。」と述べられており,数値評価ではなく,児童生徒の
道徳性に関わる成長を把握することが重要とされている。
そこで,教師がいかに児童の道徳性を把握していくのか。子どもが自らの成長をいかに見つめていくことがで
きるのか。そして,子どもの成長を把握した教師は,評価をどのように子どもに返していくのか。このようなこ
とを大切にしていく。
自分自身が活動する姿,学んでいる姿を振り返り,見つめ直すことは自分の在り方を考えていくうえで大切で
ある。自己評価を行っていくことのメリットとして,自らを見つめようとする見方や考え方が養われていくこと,
自らを客観的に見つめようとする態度が身に付くこと,継続していくことにより自らの成長を感じることなどが
が挙げられる。実際には,授業の中でいかに自己評価を行っていくのか,自己評価を行う時にどのような観点で
自らを見つめ直していくのかといった内容について吟味したい。また,児童が学習の見通しを立てたり,学習し
たことを振り返ったりする活動により,子どもが自主的に学ぶ態度は道徳の授業における道徳的実践への意欲に
つながってくる。それと同時に,教師の評価,授業評価の在り方についても検討していく。
(1) 自己を見つめる多様な見方,考え方を育む手立て
ねらいにそって授業を展開していく上で,価値認識や価値観をつくることができているかどうかを見取る必
要がある。そのためにもねらいにそった評価の視点を持つ必要がある。子どもがどの程度,価値的な理解や表
現ができているのかを評価し,不十分であれば指導しなくてはならない。
また,子どもが道徳的価値を自覚し,主体的に道徳的実践につないでいくためには,自らを振り返り,見通し
をもって生活を送ることやその状況を振り返ることを繰り返していくことが大切であると考える。
子どもは自分の姿について,過大評価したり,過小評価したりすることが多くある。それは,自らの自尊感情
が低かったり,自分の姿を客観的に見つめることが苦手であったりするからではないか。
そして,子どもが自己評価を行うだけでなく,友達と相互評価を行ったり,保護者や地域住民から他者評価を
受けたりすることも大切にしたい。そのような多角的な視点で,自分を見つめることにより,自分が気付かなか
った自分の姿を客観的に知ることができるからである。
道徳の授業を通して,道徳的価値を学びながら,それに対する,自分の在り方を客観的に見つめ,自分を受け
入れていくことにより,さらに道徳的価値を自覚し実践する力の素地になってくるのだと考える。
また,授業と合わせて,自己評価の内容や在り方を工夫し,客観的に自分自身を見つめ,自尊感情を高めると
ともに,道徳的実践に向かう自分の変化を感じ取れるようにしていきたい。
自己を振り返る具体的な方策として,次のように考える。
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・各教科,領域と関連させた積み重ねによるポートフォリオ
・道徳ノートによって自らの考えの変容を見つめる。
・道徳の時間における友達からのコメント(相互評価)
・家庭や地域からのコメント(他者評価) など
(2) 子どもの伸びを見つめる評価の在り方
教師が授業の中で評価を行う時には,道徳性の内容理解,情緒的な側面,実践的側面に基づき,総合的に子
どもの姿をとらえ,より道徳性を育んでいけるよう授業改善の意識をもって行わなければならないと考える。
道徳の時間における自分の姿を見つめ直す視点の例とて,以下のことなどが考えられる。
・道徳的価値を自分のこととして考えられたか。
・自分の姿からよさを見つめることができたか。
・友達の姿から友達のよさを見つけることができたか。
・これからの自分にとって必要なことについて考えられたか
・はじめの考えからどのように変容したのか。
など
これらのように,道徳の時間における学習状況の振り返りをすることにより,子どもが自分自身について客観
的に振り返ることができてくる。道徳の授業の中では,学習を基にこれまでの自分の経験やその時の感じ方,考
え方について振り返り,自分の在り方について考えを深めていく。そうすることにより,自己有用感の高まりや
道徳性の高まり,自分を見つめる視野の広がりにつながると考える。
次に子どもが振り返りを行う過程を図で示す。
自分
これまでの自分
・各教科,領域と関連させた積み
重ねによるポートフォリオ
・道徳ノートによって自らの考え
の変容を見つめる。
・道徳の時間における友達からの
コメント(相互評価)
・家庭や地域からのコメント
道徳の時間
振り返り
自分の伸びの気付き
(他者評価)
今の自分
考え方の変化
「人・もの・こと」に
関わる心情の変化
など
実践の変化
今後の自分
自己有用感の高まり
道徳性の高まり
自分を見つめる
視野の広がり
このように,自らを振り返る活動を取り入れ,学習の過程を多角的に見つめていくためには,日常的な観察や
対話,自由記述,実践する姿・発表などを総合的にみる教師の視点が大切になる。また,子どもが道徳的な成長
を自ら実感する場合,1時間の道徳の時間の中での成長について実感する場合と,以前の自分自身と比較して,
長期にわたる自己の成長を実感する時がある。
まず,1時間の道徳の時間で実感する自分の成長についてだが,学習の中で何に気付いたり,何を理解したり,
どのような考えが深まってほしいのか,教師のねらいが明らかになっていなければ,単時間での成長を見取るこ
とは難しい。そのためにも,単時間でのねらいを明確にし,はじめの段階と自分がどう変わったのかが分かるよ
うな書く活動や,表現活動の工夫が大切になる。
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長期にわたる自己の成長を実感できるようにするためには,他教科,他領域と関連させていく中で,一人一人
がどのような考えをもっているのかを明らかにしなければならない。そこでの考えをもとにして,個人が1つの
表現物にまとめていったり,友達から評価をもらう相互評価の場を設定したりしながら,活動を工夫していくこ
とが大切になると考える。
5 道徳の授業づくりにおける基盤
(1) 子どもの姿を見てとる
教師が日常的に見取ることができるものとして,学校行事・教科学習・特別活動・総合単元的道徳学習・日常
生活などの活動が考えられる。
教師が,そのときの子どもの様子を見取って写真や言葉で記録しておくこと,体験したときの気持ちを子ども
自身が日記や作文等に書きとめ,それを教師が把握しておくことが重要である。それらを道徳の時間に扱うこと
で,子どもが自分の生活とつなぐきっかけとなる。「分かっているけど,○○のときはできなかったよなあ。そ
れは,・・・。」と自分の弱さを語ったり,友達のことを理解したりすることができる。また,「○○のとき,□
□したら,とてもいい気持ちになったんだ。だから・・・。」という自分のよさや友達のすばらしさを感じるこ
ともできる。教師が「○○のとき,△△さんが・・・なことをしていたのを知っているよ。あのときは感動した
なあ。」と言葉で伝えるだけでも,子どもは「わたしはあのとき・・・。」と自己とのかかわりで考えようとす
ることができる。
(2) 価値を分析する
授業の中で用いる中心資料がねらいに即して選ばれることから,ねらいの設定,つまり,道徳授業の本質でも
ある価値内容の研究が,きわめて重要となる。教師が価値に対 する深い理解をもち,指導に臨むことで,道徳
的価値を実生活に生きて働く力にかえていくことができる。
価値分析は,この主題で何をねらうかを明らかにするものである。学習指導要領の価値内容の解説を低・中・
高あわせて読み,内容をとらえる。それにより,対象とする学年のねらいや発達段階による系統性も明確にとら
えることができる。ここでは,多様な価値観をもつ子どもたちに対応するため,内容を様々な視点から考える必
要がある。子どもの実態(子どもがもっている価値観,道徳性の発達),教育課題や学校課題等の視点からも内
容を考える。(その価値が含んでいると考えられるもの,関わりがあると指導者がとらえるものを明らかにする。)
そして,資料分析を通して,資料から表れる価値について理解し,それを授業づくりに生かしていこうとした
時に表れる価値のつながりを表したのが以下の図である。
(3) 価値のつながり
人として,気がついたら
行動せずにはおれない。
2-(3)信 頼 友 情 ・
助け合い
みんなで力を合わせて
助け合おう。
3-(3)敬 け ん
4-(4)勤 労 ・ 社 会 奉 仕 ,
公共心
4-(3)社 会 的 立 場
の自覚
困っている人のために,今の
自分にできることを考え,行動する。
責任をもってできるこは
やり遂げよう。
3-(1)生 命 尊 重
命に関わることは,何よりも
大切だ。できることがある。
文部省資料「助け合って生きる」の価値の関連
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(4) 資料分析を指導に生かす
学習指導要領には,読み物資料について,ねらいとのかかわりで道徳的価値がどのように含まれているかにつ
いて検討することとされている。そして,登場人物の行為や心の動き,読み物資料に対する子どもの感じ方や考
え方などを分析し,どのようにすれば 子どもの学習意欲を高め,道徳的価値の自覚を深めることができるかな
どについて多面的に検討する大切さが述べられている。
中心として扱う資料については,資料分析をしっかりと行い,言葉を手がかりにそこから読み取れる多様な価
値を教師は把握しておき,そのつながりを考えておく。
資料分析は資料中の価値にかかわる表現を洗い出していくことである。書き込みにより,教師の資料へ見方が
明確になる。また,子どもの書き込みにより,子どもの感じ方や考え方をとらえることができる。
読み物資料は単に架空の出来事ではなく心ひかれ共感できる,現実に子どもの心を動かすことのできるものも
ある。そして,読み物資料に描かれている状況は,架空であっても,日常生活において考える事ができないよう
な話という意味ではなく,子ども自身が感情移入し得るものでなければならない。
子どもが読み物資料に出会った時の子どもの思考を考えると,授業を作っていく時に,学習活動や展開を工夫
することができる。そのためには,読み物資料の構成を認識しておくことが不可となる。読み物資料の構成を
4つのタイプに分けると次のようになると考える。
①主人公の価値の自覚の場が設定されている構成
例「まどがらすとさかな」
物語の序盤
→
終盤
主人公の気持ちの動き
価値の自覚を支援する人物
(出来事)
読み物資料の山場となる場面
(中心)
主人公の気持ちの移り変わり
②主人公が初めから価値を自覚し展開によって意欲,自信につながる
構成
例「くずれ落ちた段ボール」
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③主人公の葛藤場面が設定され内容が終わる構成
例「三郎の一票」
④主人公が高い道徳的価値をもった状態で話の展開が進んでいく構成
例「こおりついた風力計」「わずか三百の単語から」
(主人公の生き方から学ぶ)
6「私たちの道徳」の活用
平成26年度から文部科学省より「心のノート」を全面改訂した「私たちの道徳」が全国に配布された。これは,
児童生徒が道徳的価値について自ら考え,行動できるようになることをねらいとして作成された道徳教育用教材で
ある。生活作文やイラストだけでなく,子どもが自ら主体的にノートに触れ,道徳的価値について考えることがで
きるように,内容にかかわる素材についても改善されている。例えば,日本だけでなく世界的にも知られている偉
人や著名人のエピソードや残した格言。そして,各学年の子どもたちが,自然と心が動かされ興味のもてる素材を
取り入れている。
(1) 重点とされる内容
「規範意識」「生命観」「情報モラル」等,昨今の子どもたちの課題として大きく取り上げられてる事項につい
ても重点化が図られている。
また,心理的な側面も含めた人間関係の理解に関わることや道徳的実践を促すような具体的な振る舞い方など
についても内容を充実させている。
(2) 道徳の時間での活用
「私たちの道徳」は,学校の道徳の時間においても中心的な資料としても,補助的な教材としても活用すること
ができる。「読み物部分」と「書き込み部分」と併せて1単位時間を通して活用したい,他の教材と併せて活用
したりもできる。
(3) 学校の教育活動全体と通じての指導
「私たちの道徳」は,学校の教育活動全体を通じて活用できる。各教科等の学習において,それぞれの特質に応
じて道徳性を育んだり,道徳の時間と関連を図って指導を行ったりする際に活用出来ます。また,日常生活た学
校の教育活動にいおける様々野視点からとらえ直して,子どもの内面に根ざした道徳性を育んでいく上で有効に
活用することが考えられる。
(4) 教材を分析する
「私たちの道徳」は,1冊に2学年分の教材(読み物,記述ワークシート,コラム等)が入っている。このこと
からも,該当する学年がどのページを使うのか年間計画に位置付け校内で共通理解しておくことが必要になる。
①日常の活動の姿を生かす
子どもの姿を普段から見て取ることは,道徳の時間,特別活動の時間,教科にかかわらず教育活動の中で大切
である。教師が,子どもの姿や活動後に書いた表現物,活動中のつぶやきなどを把握しておくことで,子どもの
本音を引き出したり,心情を追究したりすることができるようになるのである。そのような日常生活における子
どもの実態からめあてをもち,授業作りを行ったり,子どもが主体的に活動に参加したりしていくことが大切で
あると考える。
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②他教科や他領域と関連させる
道徳の時間と関連させて大切にしたいのが他教科や他領域とのかかわりである。ノートにはワークシートの形
式で,記述するページがある。道徳の時間に学んだことから,具体的な場面を取り上げて記述していく。そして,
朝の会や帰りの会の時間を利用して,学んだことが実践されているかどうかをノートを使って振り返る。
(6) 自己の生き方への考えを深めるための要となる道徳の時間の展開例
子どもたちは,道徳的価値の自覚を深める過程で,同時に自己の生き方についての考えを自然に深めている。
しかし,教師が自己の生き方についての考えを深めることを意 識して指導を工夫することで,道徳の授業改善
を図ることができるのである。
子ども自身が自分の生活・体験を想起しながら,自己とのかかわりの中で考えていくことで自らの課題をもつ。
そして,読み物資料の登場人物について,自分の考えをもつ。それをもとにして,友達に伝えたり,友達から聞
いたりする。さらに,読み物資料を手 がかりとして学んだ価値をもとにして,生活経験や体験活動の記録を積
み重ねていくことにより,自分の生活とかかわりを持たせて学んだ価値についての考えを深めることができる。
そうすることにより,今後どのような考えで,どうしていきたいのか,実生活に根ざした実践への考えをもつこ
とができる。さらに,自己の生き方への考えを深める活動となるために,教師が子どもたちへの言葉かけや計画
的な指導過程の工夫を大切にしたい。
【次に活動の流れを(例)として示す】
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【1時間の活動の流れ(例)】
道 徳 的 価 値の 自 覚
生活・体験の見取り
言葉を生かして
〈学習問題・課題意識〉
考えを深める工夫
「~したことは
ありますか。
」
教材の開発と活用
振り返る
「読んでどう思いましたか。
」
「ぼくなら~と考えるよ。
」
本時の課題をもつ
「思い出したことはありますか。そ
の時は,どんな気持ちでしたか。」
資料で自分の考えをも
ち交流し考えを深める
「登場人物はどんな気持ちで
考えたのでしょう。
」
「ぼくは,~と思うよ。~さんは,
自 己 の 生 き 方への 考 え の 深 ま り
経験を想起して生活とつなぐ ・・・と考えるんだね。」
「分かるけれど,むずかし そう
だな。今まで,ぼくは・・・」
「~は大事と分かったから・・・。
」
言葉を生かす
自分のこととして考える
自らの成長を実感する
「どんな気持ちで~していきま
すか。
」「大切にしたい気持ちは
何ですか。
」
生き方を考える
目標をもつ
自己の生き方への考えの深まり
「~な考えを大切にして,~していきたいな。」
「~な気持ちで~をしていきたいな。」
「~なところで生かしていきたいな。」
授業をつくっていく
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おわりに
今年度は,これまでの述べてきたように4つの研究の柱をテーマにして取り組んでいる。
また,その研究を支えるために授業の基盤となる価値分析や資料分析などのこれまでの研究実践を大切にし,今
後,道徳科としての授業の在り方を多様に考えていきたい。
これまでの研究の実績を大切にしながら,「特別の教科 道徳」をより充実させていくために,夏季研修会,
冬季研修会,定例会等での県下の先生方による実践を分析し研究の方向性を見据えていきたい。
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