レグパラ服用時の心電図 QT 時間について

第 34 回兵庫県透析従事者研究会
レグパラ服用時の心電図 QT 時間について
五仁会 元町HDクリニック 臨床検査部、同 臨床工学部 1)、同 内科2)
○田中和弘、清水 康、小松祐子、山本良子、森上辰哉 1)、申 曽洙2)
【はじめに】
二次性副甲状腺機能亢進症治療薬であるレグパラ錠の添付文書には重大な副作用として
心電図QT時間延長(5.8%)とあり、QT延長が起こることがあるので異常が認められた場合は
血清カルシウム値を確認し必要に応じて対処するように明記されている。
QT時間は電気生理学的に心室筋の活動電位持続時間を表しており、先天性以外でも薬剤や
電解質異常などでこの持続時間が長くなり惹起される致死性の不整脈 torsade de pointes
(心室頻拍)を起こすことがある。
心電図QT時間は、心室の興奮開始(Q波の始まり)から再分極の終了(T波の終わり)までの
心室の電気的収縮時間を示すもので心拍数の影響を受けるため補正が必要である(QTc)。
Bazett の補正式
QTc = QT間隔 (秒) /√RR間隔 (秒)
正常値 0.36~ 0.44
【目的】
当院でレグパラを投与開始した透析患者の心電図QT時間延長の有無と血清Ca値との
関連について調べた。
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【対象および方法】
対象はレグパラを投与開始した透析患者 30 名( 男性 20 名、女性 10 名 )
平均年齢 61.2 才 透析歴は 60~463 ヶ月である。
方法は心電図QT時間を投与前より経時的に毎月観察し、QT時間と服用期間、血清Ca値の
関連性を調べた。
【結果および考察】
投与前QTcが正常の 0.36~0.44 の 17 例において、投与期間中 8 例が 0.44 を超えたが
0.50 以上には至らなかった。
投与期間中 0.50 を超えた症例は 6 例あり、いずれも投与前のQTcは 0.44 以上であった。
QTcの変化量は最大で 0.083 延長していた(0.418→0.501)。一方血清Ca値の変化量は最大で
2.3mg/dL 低下していた(8.9→6.6mg/dL)。
レグパラ投与開始後の 30 例のべ 566 回の全検査データにおいて血清Ca値とQTcとの間に
-0.44 と負の相関関係(p<0.001)が認められた(図1)。これはレグパラの臨床試験のデータと同様
の傾向であった。
図1
レグパラの臨床試験の結果解析ではQTc延長は血中Ca値の低下を介した可能性が強く示唆
され、レグパラの直接作用は否定されると記載されているが、我々の症例 30 例を個々に詳しく見
てみると、血清Ca値とQTcとの間に負の相関関係が認められる例以外に、血清Ca値に関係なく
QTcが延長している例が認められた。
以下にその症例を示す。
症例1は血清Ca値とQTc、投与期間と血清Ca値に相関はなかったが、投与期間ともにQTcは
延長していた(図2)。血清Ca値は低下していないにもかかわらず、投与期間とQTcとの間に正の
相関を認めるもので血清Ca値だけでモニターしているとQTcが延長していても気づかないケース
となる。
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図2
症例2は血清Ca値とQTcとの間に有意な相関はなかったが、投与期間とともにQTcが延長し、
血清Ca値は低下ではなく、反対に上昇傾向であった(図3)。このようにレグパラ投与でも血清Ca
値が低下せずQTcが延長することがあり、血清Ca値だけでモニターしているとQTc延長に気づか
ないケースとなる。
図3
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【まとめ】
レグパラ投与後の全検査データにおいて血清Ca値とQTcに負の相関関係を認めた。
一方、個々の症例で血清Ca値とQTcの関係を見ると両者間に相関を認めず、投与期間とQTcで
正の相関を認める症例が 30 例中 2 例あった。これは血清Ca値に依存せず投与期間やその他の
因子が影響し、QTcが延長したと考えられた。
薬剤の感受性や個体差、併用薬物の関係なども踏まえ、レグパラ投与開始後は血清Ca値を測
定し低Ca値のみでQTc延長を推察することは危険であり、症例に応じて定期的な心電図検査も
実施し、QTcの延長をチェックする必要があると考えられた。