熾 天使空域3 立 ち 読 み 専 用

セ ラ フ ィ ム ・ ゾ ー ン
熾天使空域3
銀翼少女達の邂逅
榊 一郎
Ichiro Sakaki
立ち読 み 専 用
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原案・監修 松田未来
口絵・挿画 BLADE
第二章 異国 第一章 父親 序章 目 次
第三章 復活 9
あとがき 榊一郎 17
松田未来 64
226
126
230
人物紹介
とよ
さき
しょう
いち
ろう
豊崎将一郎
工学系の専門学校生。
曽祖父が第二次世界大
戦中、日本海軍の戦闘
機乗りだったこともあ
り、飛行機についての
知識をもつ。
おい
はま
みお
追浜 澪
将一郎のはとこ。天真爛漫で
おっとりしているが、その分、
鈍くさい。日本海軍零式艦上
戦闘機 五 二 型 の『 エ ッセン
ス・モデル』に突如選ばれた。
零式艦上戦闘機二一型の出力先
に選ばれた少女。将一郎と澪を
助けたが、当初は、ある過去か
ら二人と距離を置いていた。
かすみ
が
うら
み
さき
霞ヶ浦海咲
グラマンF6F〈ヘルキャッ
ト〉の『エッセンス・モデル』。
澪達との戦闘で傷を負ったが、
将一郎に拾われ今は同じアパ
ートで暮らしている。
アンジェリーナ・
テイラー
グラマンF8F〈ベアキャッ
ト〉の『エッセンス・モデル』
。
大破したアンジェリーナの『心
臓』を中心として修復・再生さ
れたので、基礎的な知識以外、
記憶を持たない存在に。
双子で、P-38〈ライトニ
ング〉の『エッセンス・モ
デル』。
ルーナ(姉)&
ステラ(妹)
フー・ファイター
適格者にエッセンス・
モデル出力を実行する
謎の存在。
セ ラ フ ィ ム ・ ゾ ー ン
熾天使空域3 銀翼少女達の邂逅
9
序 章
飛行機。
は
さだめ
お
に空を飛ぶ為、長い歴史の末に生み
それは自じ由
んぞう つばさ
出された人造の翼だ。
からだ
ど
こ
宿命を負っている人間という
元より、地を這う
ま
生き物が、空に舞い上がろうとする事そのもの
に無理が在る。人間の身体は、何処をとってみて
ね
は
ね
りょう うで
も空を飛べるようには出来ていない。神話の様に、
ま
もちろん
ただ鳥を真似て羽根を 両 腕に付けてみれば良い
⋮⋮というものでは勿論、無い。
すい
む だ
か
び
︱
無理を押
だからこそ飛行機というものは、そつの
い
し通す為、人が持てる限りの全てを費やして
せんたん
先端技術の粋を集めて作られる。
ほどこ
の増加に繋がるのを理由に施されない事があるく
つな
こに無駄は一切無い。飛行機の設計は華美な
そそ
う しょく
たぐ
と そう
装 飾 の類いを受け付けない。塗装ですら、重量
らいだ。
だからこそ⋮⋮人間を乗せて空へと舞い上がる、
10
おそ
の
お
ゆう び
それが目的であって、美しくなるのはただの結
果だ。
︱
無駄を削ぎ落とし、効率を追い求め、延々と、
ただ
飛ぶ為に。
そう。飛そ行機は進化する。常に進化し続ける。
うになった。
は流体力学に基づいた優美な曲面で構成されるよ
もと
られるようになった。速度を追求する為に、機体
みっぺい
最新の冶金技術によって作り出されるジュラルミ
や きん
そ ざい
新の知識と技術を惜しみなく投入する。
す
その目的の為だけに、徹底的に研ぎ澄まされたが
あらわ
故の美しさが、その姿には自然と顕れる。恐らく
素材は木と布から全金属製になり、発動
機体パの
ワー
機の出力は一二馬力から一〇〇〇馬力を超えるよ
と
人類が生み出した機械の中でも、究極に近い機能
うになった。金属も、軽量なアルミ合金の中でも
てっていてき
美を、飛行機は秘めているだろう。
ンや超ジュラルミン、そして超々ジュラルミンへ
ゆえ
飛行とはつまり、人としての能力の限界を破る
という事であり、人をより上位の存在へと押し上
と変わった。
たど
げる為に辿るべき、長い長い道程の一歩とも言え
あこが
る。だからこそ人は神に憧れるのにも似た気持ち
むき出しだった操縦席は完全に密閉されるよたう
になり、より高い、より速い飛行に操縦者が耐え
いっ しゅん
エ ン ジ ン
で、この飛行機というものを作る事に注力した。
より高く。より速く。より遠く。
りも⋮⋮自由に。
そして何けよ
た
けい か
人類の歴史に比べれば一 瞬 とさえ言
くら
木製の桁に布を張った翼に、小さな発動機を載
せ、わずか三六メートルほどの距離を飛んでから
︱
半世紀
える様な時間しか経過していないにも拘わらず、
飛行機はめざましい発展を遂げてきた。
性能の向上を図るため、設計者達は用いうる最
みにく
さら
はっ き
醜い姿を晒す事もない。脚が引き込まれた
なぜ⋮⋮こんな無粋なものを取りつけなければ
ならないのだろう。
める鋲ですら平らにしているというのに。
びょう
気抵抗を極限まで減らすために、機体の外板をと
それが戦闘機だ。
体は流体力学の最先端を応用し、どこまでも
な機
め
滑らかで優美な曲線を描いているというのに。空
以外の機能を一切排し、徹底的に研
飛んで闘う
やいば
ぎぬかれた刃。
たたか
の無駄を排し、ただ空の高みを目指した、
し一こ切
う
至高の造形品。
はい
の何割かを損ねてしまう。少なくとも霞ヶ浦中尉
そこ
⋮⋮とさえ思える。
その瞬間にこそ、飛行機は飛行機として完成する
ため いき
しかし⋮⋮
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
しかし地上にいる時や飛行甲板に降りた時など、
どうしてもこの﹃余計物﹄が、その機体の美しさ
かすみ が うら よう へい
霞 ヶ浦洋平海軍中尉は、こっそりと溜息をつ
いた。
︱
ぬ
にはそう見える。
あふ
だいだいいろ
の目の前には 橙 色に塗られた機体が
今 もく彼
ねん
ほとん
一機、黙然と存在する。その姿は確かに殆どを流
ち なまぐさ
線型で構成され、機能美に溢れている。戦闘機と
︱
を
論、一度飛び上がってしまえばそれらは翼下
勿
しゅう のう
おう とつ
に 収 納され、ごてごてとやたら凹凸の激しい形
彼の目には、それは無粋なものであるかの様に
すら映る。
それが気になる。
だが、だからこそ洋平しは
ゅきゃく
着陸・着艦に用いる主 脚 だ。
でも 純 粋だと彼は思う。
じゅんすい
求められた機能を発揮するその姿は、何処ま
いう血 腥 い任務を背負いつつも、空を舞う姿は
︱
序章
11
12
ぶ かっこう
そんな風にすら洋平は考えてしまう。
︵そりゃあ、着陸ができなきゃいかんのは承知の
れない。洋平は苦笑して整備員を振り返った。
﹁ん、いや。なんというか⋮⋮﹂
優美な翼の下に突き出た主脚を目で示しながら
言う。
﹁この不格好な脚が無ければ、飛行機というのは
上だが、それにしても不格好だ︶
飛んでいる最中の自分の機体は、自分で見る事
は出来ない。
﹁そりゃ仕方ありませんよ。こいつが無ければ中
よぎ
整備員は
まだ納得しない様子の洋平を見て
ふと何かを思いついたというような表情を浮かべ
︱
尉も地上に戻れないんですから﹂
もっと美しいだろうと思ってね﹂
また⋮⋮間近に並んで飛ぶ 僚 機を見ればその
美しさはすぐに分かる。
﹁それは分かってるんだが⋮⋮﹂
かたすみ
び続ける飛行機が開発されないものだろうか。そ
りょう き
だから、洋平は地上にいる飛行機を見るのがあ
まり好きではなかった。いっそのこと、永遠に飛
こっけい
んなある種、滑稽な考えすら頭の片隅を過ったり
て、彼に言った。
おっしゃ
もする。
﹁まあ、中尉の 仰 ることもわかります。でも、
目の付け方次第で、この脚も﹃綺麗に﹄見えます
き れい
﹁どうかされましたか、霞ヶ浦中尉?﹂
よ﹂
なが
飛行前の整備点検をしていた整備員が、洋平に
声をかけてきた。
腕を組んで目の前の飛行機を眺める自分の姿に、 ﹁目の付け方次第⋮⋮?﹂
にじ
し げき
何か不平不満のようなものが滲んでいたのかもし
整備員の言葉は、洋平の好奇心を刺激した。
序章
13
﹂
﹁さらに、信頼性が上がるのと同時に、生産性や
︱
整備性も上がる。生産性が上がるという事は、そ
くぐ
れだけ数を短期間で揃える事が出来るようになる
しゅよく
﹁ええ、目の付け方です。例えば
わけです。そして、整備性が上がれば、前線での
そろ
整備員は主翼の下を潜り主脚の油圧シリンダー
に付いたトルクリンクを指さして続ける。
稼働率が上がる。どうです、中尉。こういう目で
か どう
﹁主脚の引き込み機構っていうのも、なかなか面
見ると、こいつの脚はかなり﹃綺麗﹄ですよ﹂
たん
おも
白いものなんですよ。
﹃一一型﹄のごちゃごちゃ
しろ
した伸 縮 機構も面白いけど⋮⋮こいつは中翼単
なるほど⋮⋮と洋平は思った。
よう
しん しゅく
い従来の主脚に出来ました。完成度の高い機械っ
葉型から低翼単葉型に改良した事で、信頼性の高
搭乗員である彼にとって、主脚の引き込さみじ機構
がどうなっているか、などということは些事であ
た。
理にかなっている、と洋平は感心し
こ しょう
い か
せんれん
し こうさく ご
出来ればそれで問題はない。
そう さ
り、操縦席から操作してきちんと脚の上げ下げが
ていうのは、単純で、美しい﹂
だが、整備員の言うとおり、ちょっと着眼点を
変えてやると、この機体に取りつけられている脚
ふむ﹂
︱
もまた一つの機械であり、試行錯誤の末に獲得さ
﹁
確かに、動く箇所が少なければ故 障 する部分
そのものが減る。いや。それ以前に機械というも
れたその形状が、如何に洗練されたものなのかが
分かる。
かくとく
と洋平は思う。それこそライト兄弟が造り上げた
のは進歩すればするだけ形状は単純化するものだ
複葉機の複雑さに比べれば、目の前の戦闘機は恐
整備員の立場からすれば、複雑な機構は興味深
ふく よう
ろしく単純な形状をしている。
14
おと
ちょう へい
熟練工までもが 徴 兵されて前線に送られるよ
て ま ひま
うになった現在、整備に手間暇を要する複雑な機
さいよう
いが、整備性に劣るし信頼性も落ちる。つまり
だが⋮⋮それだけでは良い飛行機とは言えない
﹃美しくない﹄ということになる⋮⋮という事か。 のだ。
れば洗練されていて﹃美しい﹄らしい。
構は、それだけで信頼性を下げる。また、機体が
逆に、この機体に採用された機構は、彼に言わせ
﹁⋮⋮確かに一一型では痛い目にあった﹂
大型化すると共に重くなった。同時に操縦系も重
む じゅん
くなり、さらに重いのに繊細だという矛 盾 を抱
せ ん さい
えていた。
いく
が在った。他にも問題点が幾つか在って、初めて
鳴り物入りで登場した新型機だったが、整備員
の言う通り、脚の複雑な機構のせいで信頼性に難
着陸時の方向安定性、プロペラトルクによる
か離
たむ
とう とつ
し せい
傾 き、唐突な姿勢の変化、航続距離
挙げて
もあった。
に零戦の倍以上の時間がかかるだけで
引き込ブみ
レ ー キ
なく、制動機が左右で効きが違うなどということ
ゼロ せ ん
る不具合もその一つだ。
だった。整備員が挙げていた脚の複雑な構造によ
おり、昔気質の操縦士にとっては乗りにくい機体
かたぎ
いけばきりがない程に幾つもの面で問題を抱えて
︱
乗った時の印象は最悪だった。
︱
単に以前、自分が乗っていた機体の素性が良す
ぎただけなのかもしれないが
とにかく、乗り
にくい。
とうさい
動機の馬力は上がっ
勿論、新型機だけあって発
じょうしょう
ている。当然に高速性能は 上 昇 する。
砲四門搭載という大火力。
また二〇ミリ機関
し よう しょ
み りょく
単純にこれら仕様書上の性能向上に魅 力 を見
いだしていた搭乗者も少なくはない。
序章
15
の不
離着陸の時に必ず使用するものだけに、そ
き ちょう
具合は場合によっては搭乗員と、高価で貴 重 な
︱
機体を失う事故に繋がりかねない。
しかし
﹁これは、違うという事か﹂
いや熟練搭乗者だからこそ手を焼いた
﹁戦局か⋮⋮﹂
が混じる。
洋平の表情に苦いもずの
いぶん
おそ
﹁ひっくり返すには随分、遅きに失した感はある
が⋮⋮っと﹂
彼は首を振って整備員に言った。
﹁今のは内緒にしておいてくれよ?﹂
いたずら
﹁了解であります、中尉どの﹂
整備員は悪戯っぽく笑いながら主翼下から出て
きて、洋平の横に立つと、自分がいままで点検し
者さえ
︱
今、洋平の目の前に在る一機は、開発者達が徹
底的に改良を施したものだと聞く。あの熟練搭乗
あの機体が、どう変わったのか、単純な興味は在
ていた機体を眩しそうに見つめた。
のう り
てほしいものだ﹂
﹁本当⋮⋮戦局をひっくり返せる程の性能であっ
まぶ
った。
して美しい。
性能の良い戦闘機は、見た目かつら
ぶ
確かに余計な主脚にさえ目を瞑れば、彼の目の
前にあるそれは、とても洗練された外観を備えて
ま
すご
︱
洋平の脳裏をふと仲間や部下の顔が過る。 やつ
二度と会う事の出来ない奴ら
いずれももう
だった。
う
いるように思えた。
﹁勿論です。一一型とは違う。こいつは凄いです
くれていたら⋮⋮俺は部下を死なさずに済んだの
﹁あと二年⋮⋮いや、一年早くこいつが完成して
おれ
だって出来るかもしれない﹂
よ。上手くすれば、戦局を一気にひっくり返す事
16
かもな﹂
くる事は無い。
だけだ﹂
︱
﹁⋮⋮そうだな。俺達はやれる事を最大限にやる
事をするだけです﹂
﹁まあ、現場の人間は与えられたモノを使って仕
︱
思い出すだけでのたうち回りたくなる。
彼らは、お国の為にと、性能で劣る機体で米英
いど
ち
の戦闘機に挑み
そして散っていった。
零戦は良い機体だが、最強無敵であった時間は
短く、アメリカの物量、そして何よりも新型機開
おのれ
目視点検を始めた。
洋平は整備の
溜息を一つついてそう言うと
終わったばかりのその機体に歩み寄り、飛行前の
う
発力の前に、搭乗員達は性能差を必死に己の腕で
︱
埋めるしかなかった。
えら
も許されずに前線に送られ
やわ
墜とされる事が増
お
もそも腕の良い搭乗員も随分と減った。
だがそ
じゅう ぶん
今や 充 分に教育すら終えていない学徒さえ動
員され始めていると聞く。搭乗員も熟練になる間
えた。
ならそうなったんでしょうが﹂
﹁⋮⋮偉いさん達が、もう少し頭の柔らかい連中
整備員の言葉にも苦々しいものが滲んでいる。
ぐ ち
だがここで愚痴をこぼしても死んだ者が戻って
17
父 親
第一章
アンジェリーナ・テイラーはアメリカ人である。
てんけい
の仕事の関係で日本に住んで長く、日本語
父
りゅう ちょう あやつ
はし
も 流 暢 に操れるし、箸を使って食事も出来るが、
それでも基本的な気質は、アメリカ人の典型的な
それだ。今の日本的な表現を借りれば﹃肉食系﹄
おおざっ ぱ
とでも言うのだろうか。
︱
総じて大雑把だが何事にも積極的で気が強い。
ためら
だから
﹁⋮⋮なあ⋮⋮アンジェ?﹂
へい
かげ
ひそ
躊躇いに揺れる声が、彼女の背中に触れる。
﹁⋮⋮やっぱり⋮⋮やめた方がええんちゃうかな
ぁ⋮⋮﹂
﹁だったらミオだけ帰れば?﹂
だがアンジェリーナは塀の陰に身を潜めたまま、
相手を振り向かずに応じた。
ぬし
﹁うっ⋮⋮﹂
声の主は言葉に詰まる。
18
ス
ト
レ
ス
だれ
とアンジェリーナは思う。無理な我慢で
が まん
何とも気弱げだ。ヤマトナデシコは控えめなの
が美徳だなどというが、時と場合によりけりだろ
︱
う
精神的抑圧を溜め込むのは誰の為にもなるまい。
﹁あなたも気になってるんでしょ﹂
いくらいの格好だった。
﹁あなただってしてるでしょうが。変装﹂
とアンジェリーナはここでようやく背後の相手
を振り返って言った。
くろかみ
そこに居るのは、ある意味でアンジェリーナと
は対照的な日本人少女だった。
なおさら
つや
﹁そりゃ⋮⋮そう、やけど⋮⋮﹂
りな
長く艶やかな黒髪と、ミドルティーンであ
おさな
がら、子供っぽい丸みをあちこちに残した幼げな
つぶや
だが尚も声の主はぶつぶつと呟くような声でこ
う続けてきた。
顔立ち⋮⋮これに今は度の入っていない丸眼鏡を
なお
﹁こんなん⋮⋮コソコソ後をつけるんは⋮⋮その
掛けて、髪を三つ編みにしているせいで、普段よ
ち せつ
0
0
めがね
⋮⋮良ぅないと思うねん⋮⋮そんな格好までして
りも尚更、子供っぽい雰囲気が強くなっている。
おいはまみお
0
ふん い き
⋮⋮﹂
まと
0
0
変装というには稚拙だが、これは仕方在るまい。
事前に準備が出来たわけでもないのだから。
きんぱつ
0
0
確かに今のアンジェリーナは普段と少し装いが
違う。
0
0
追浜澪。かつてのアンジェリーナの敵であり、
まあ、色々あって今は仲間⋮⋮と言えなくもない
0
少女である。まあ、ある一面では敵のままだが、
0
プに纒めてニットキャップの中
長い金髪をアあッ
お
ひとみ
に押し込み、碧い瞳は濃いサングラスの下に隠さ
それはさておき。
と たん
0
ば、コンビニに入った途端に通報されても仕方な
れている。これで更にマスクでもしようものなら
20
ゆ ゆ
そしてアンジェリーナ達が先程から注視してい
るのは、その高級住宅街の象徴とも言えるような
﹁これは由々しき事態なのよ﹂
﹁あ⋮⋮アンジェ、由々しき、なんて日本語知っ
一軒だった。何処かの旅館を想わせる、純和風の
すで
よい
くち
必要が無い建物
︱
こわ
が
ということだ。
﹂
understand?
﹁あ、あんだすたん⋮⋮﹂
うなず
﹁ そ れ が 嫌 な ら 行 動 あ る の み よ。 Do you
いや
﹁それは⋮⋮﹂
﹁ミサキの抜け駆けを許していいの?﹂
ぬ
﹁え? でも
﹂
︱
平屋造り。要するに土地をたっぷり確保出来てい
てるんや?﹂
いら だ
るので、わざわざ二階建てにして床面積を増やす
つぼ
高級住宅街に居た。
しゃれ
じゃっ かん
相手のボケっぷりに 若 干の苛立ちを覚えなが
らアンジェリーナは言った。
もしれないのよ?﹂
﹁いい? ショウの将来がこれで決まっちゃうか
﹁ Shut up
﹂
なのよ﹂
﹁由々しいで悪けりゃ、洒落にならない緊急事態
︱
二人は今
周囲を見回せば、最低でも百坪以上の敷地に立
つ民家ばかり。家々の塀は長く高く、その一方で
かんせい
平屋が多く⋮⋮景観を損なうような高層マンショ
ンは見当たらない。閑静な上に、既に宵の口とい
い。たまに見る車はタクシーか、そうでなければ
うこともあって、人の姿も車の姿も殆ど見かけな
将にぃは絶対ええ顔せんと思う⋮⋮﹂
壊れた人形みたいにぎくしゃくと頷く澪。
﹁でも⋮⋮私らがこんなことしとるって知ったら、
しょみん
達が住む庶民の街とは違う空間だった。
高級外車で⋮⋮見るからに普段、アンジェリーナ
書
店
に
て
お
求
め
の
上
、
お
楽
し
み
く
だ
さ
い
。
形
式
で
、
作
成
さ
れ
て
い
ま
す
。
こ
の
続
き
は
★
ご
覧
い
た
だ
い
た
立
ち
読
み
用
書
籍
は
P
D
F