B10 「木質バイオマスの全成分有効利用」 ○山口有朋*,**・三村直樹*・白井誠之*,***・佐藤 修* (産業技術総合研究所*・JST さきがけ**・岩手大学***) ポイント ・木質バイオマスは、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンの 3 成分が複雑に絡みあって成り立 ちますが、すべてを化学物質に変換する新しい技術を開発しました ・環境負荷の低い“水”のみを反応溶媒として、固体触媒を使用します ・触媒は、再利用可能です 社会的背景 循環型社会構築のために、枯渇性資源ではなく再生可能な資源を化学品原料として利用する必要があ ります。特に、食物との競合を避けるために非可食性バイオマスである木質バイオマスから有用物質に 変換する反応が求められています。木質バイオマスは、セルロース・ヘミセルロース・リグニンから成 り立ち、それぞれを変性させずに分離することは困難でありますが、現状ではセルロースやヘミセルロ ースの変換反応、あるいは、リグニンの変換反応について個別に研究が進められています。つまり木質 バイオマスそのものを反応物として用いている研究例においても、木質バイオマスに含まれるセルロー スあるいはリグニンのどちらかの利活用にとどまっています。本研究では、各成分の分離を行わず木質 バイオマスそのものを反応物としてセルロース・ヘミセルロース・リグニンのすべてを効率的に有用化 学物質に変換する独創的な研究であり(図 1)、炭素循環社会の実現のために社会的にも大きな意味を持 ちます。 研究の内容 木質バイオマス(スギやユーカリなどの木粉)を反応物として担持金属触媒を加え、低い反応温度で セルロース・ヘミセルロースの水素化分解による糖アルコール(ソルビトールやキシリトールなど)へ の変換(図 1 ステップ 1) 、続いて、より高い反応温度でリグニンの分解反応による芳香族化合物(トル エン、エチルベンゼンなど)への変換(図 1 ステップ 2)を行います。リグニン分解反応後には、担持金 属触媒のみを固体として回収し、触媒は再利用可能(図 1 ステップ 3)です。 生成物として得られたソルビトールは、酸を用いることなく高温水にするだけで、脱水反応により効 率的にイソソルビドに変換する技術を開発しています。イソソルビドは、ポリエチレンテレフタレート (PET)に添加することで、耐熱性の PET が製造できます。化石燃料から合成されるプラスチックより高 性能なプラスチックが製造可能である点は、実用化・商用化に向けて注目すべき点です。 また、この技術により、現在ほとんど有効利用されていないリグニンから有用な芳香族化合物が製造 可能となります。木質バイオマスの全炭素成分をプラスチック原料へと変換可能になり、二酸化炭素資 源化に最大限貢献可能な独創的な技術です。 本内容は 5 月 23 日(月)から開催される石油学会第 59 回年会で発表されます。 図 1 本研究での木質バイオマス変換反応 *セルロース:グルコース(糖)の重合体で、水素化分解反応(加水分解・水素化反応)により、ソ ルビトールへ変換可能。 *ヘミセルロース:キシロース、マンノースなど様々な種類の糖の重合体。水素化分解反応によりキ シリトール、マンニトールなどの糖アルコールへ変換可能。 *リグニン:芳香族化合物がランダムに結合した複雑な重合体。一般的にはリグニンの分解による芳 香族化合物への変換は極めて困難。 Green Chem., 15 (2013) 1740-1763 より抜粋
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