『技術随想』 シニア・バーチャル・カンパニー <バクウ研究所>活動について ― いままた上る青い坂道 ― 富川 義朗(名誉教授 W 昭 37 卆) .... 1. <バクウ研究所>のいきさつ 私は母校工学部を定年退職して、丸 3 年が経ち4月 から 4 年目になる。退職にあたり、表記の研究所を私 的に立ち上げ今に至った。キャンパス内に研究室を貸 与して下さった工学部のご厚情により成るものである。 退職後をどの様に過すかは誰でもが遭遇する問題であ る。楽しく過すには、ふり返ってみて一番楽しかった 状態を再現すれば良いと思った。即ち、訳もわからず 世に出ようと坂道をかけ上った時代にもどること、と 結論づけた。その活動の具体化が<バクウ研究所>活 動である。 幸い退職時の委任経理金が相当残っており、 その使用を工学部さんが許して下さった事、また友人 の三留謙一氏(名誉教授 M 昭 38 卆)のすすめが手伝っ た。パートの秘書さんに来ていただいても研究所は 4 ~5 年は持ちこたえられとの計算である。研究所たち あげは心の要因もあった。退職時までに積み残した問 題が 3 つ程あり、 それが気になっていたためでもある。 更に、会議や講義にとらわれることなく、望む事を自 由に、思う存分時間を使ってみたい気持ちも強く後押 しした。特に成果も問われずに・・・である。この辺の気 持ちは、次の様に表現できる―「あと 3 年続けて成せ ば真の絵師」北斎言いき技師吾も想う―。 私も上記の様 な想いでもう 3 年くらい続ければ、真のエンジニアに なれるかも・・・の想いからである。 (注)1 <バクウ研究所>のネーミング: (1) バク=獏=悪夢を食う架空の動物 (2) ウ=記憶しやすい 3 文字とする接尾語 例:トヨタ、アサヒ、ニコンなど (3) クウ=喰う=空=バーチャル (注)2 「青い坂道」の”青い”:”青二才”や”青い山脈”など に共通する”青(未熟)”の意 2. 研究所構成員とその活動内容 さて、研究活動は自分の手、足で動くことをそのモ ットーとしても、やはりお仲間が必要、一人での活動 だけでは事はならない。構成員としては私とおつき合 いいただいて来て、今は同じく退職した企業人の方を ... お誘いした。悠々自適でも本業の仕事にはほこりと思 い入れをもっておられる事による。現在の所、5~6 人 がテーマごとに参加いただいている。OB の日下部千 春氏(名誉教授 W 昭 32 卆)、佐藤芳弘氏(W 昭 37 卆)、 林崎伸一氏(E 昭 41 卆)は有力なメンバー。ほかは、私 の後輩の大学に席を置く方、高専の先生が共同くださ っている。 サポーターは博士・学生を含む卆研生の方々。 それぞれの部門で活躍中、世の情報に敏、それをメー ルで流して来て呉れる。逆に、私が質問や、調査をお 願いしたりする。退職による世界の狭さをこれでおぎ なう。 このような卆業生のサポート・ネットは私の大き な財産。 具体的な活動内容はと言えば、 次の様なもの。 表 1 <バクウ研究所>活動内容 (1) 文部科学省・科学研究としての 特定領域研究参加 ・平成 17 年度~18 年度:次世代用超薄型・ 高速回転超音波モータ (研究代表者:富川 W 昭 37 卆) ・平成 19 年度~20 年度:薄型超音波モータの 高性能化と耐久性 (研究代表者:青柳学(室工大修 E 平 3 卆) (富川・分担課題:ジャイロモーメント・モータ) (2) JST 革新技術開発研究事業委託研究 (平成 18~19 年度) 課題:センサーネットワーク用圧電素子および 支持機構(構成の考案・試作・基本測定) (3) 企業・出前講義・講演 (4) 開発・コンサルタント業務 1) カメラ・モジュール用圧電アクチュエータ 2) 圧電セラミックス・リニア・モータ 3) 圧電振動ジャイロ・センサ 4) 電磁・圧電などのユビキタス発電 従って、結構多忙。(具体的活動の様子は後述 4) の応用の期待が高い。 写真 1 はその 2 重連独楽の様子。 下部のロータを手弾き回転させると上部 6 枚羽根ロー タは下部ロータの回転方向とは逆方向に回転する。現 在、それへの期待・展開から特許を取り直している。 3. ”青い坂道”への想い シニア・バーチャル・カンパニー<研究所>・開所の 経緯はすでに1.で述べたが最大の理由は次の事による。 私の研究テーマの一つは”ジャイロ・センサ(角速度セ ンサ)”。このセンサは動いている物体(質量m)に角速度 Ωが作用した場合のコリオリ力現象がその原理。図 1 はその様子を示す。但し、この考案はアメリカ生れ。 図 1 コリオリとジャイロ 私はこのコリオリ力現象が正しいかどうか実験的な検 証を卆研テーマとして与えた経緯がある。図 2(a)の様 な試作を行い、コリオリ力(FC)を測定し目的の検討を 指示した。卆研生の忠実なトライの中、図示の直線バ ーを左右に手はじきすると高速回転運動することに遭 遇した。当然、バーはなぜ持続回転するかの方に興味 が移る。 コリオリ力・式の実験的検証の問題はどっかに 飛んでいってしまった。この回転現象をモータとして 捉えて、私はジャイロモーメント・モータと名づけた。 表 1 の分担課題のジャイロモーメント・モータはまさ にこの様にして生れた。しかし、このモータの原理や (a) Construction 特性の明示、具体的応用は未解決なまま退職を迎えて しまった。この事、どうしても気になり、退職後も” 青い坂道”を上ろうとした大きな理由である。ひるがえ って、 このジャイロモーメント・モータは唯一私の研究 室のオリジナルであるとの想いがした。携った研究の ①メカニカル・フィルタ、 ②圧電音さ、 ③超音波モータ、 ④ジャイロ・センサ、 ⑤圧電トランスはその誕生のオリ ジナリティーは少なくとも富川のそれではない。②~ (b) Rotor rotation 図 2 ジャイロモーメント・モータ ④の 2 番手、3 番手として実用化に貢献したといって もこの事実は私の淋しさである。従って、唯一のオリ ジナルかものジャイロモーメント・モータには思い入 れがあり、退職後もなんとか検討したいと願った。こ れが、表題の”青い坂道”である。さて、検討した結果 であるが、今までの結論では、(1)工学的応用ではいま いちの段階、興味は持って貰っても更に工夫が無いと 愁眉は開けない、なんと言っても電磁・ブラシレス・モ ータの牙城は高い。(2)超小型のMEMSに持ち込み、 静電駆動構成や光、音圧の駆動構成のニーズまで待 つ・・・が自己診断である。 オリジナリティーとは当にこ 写真 1 GMM・rotor の手弾き(被せ・ロータ) の様なもの、役に立たない場合が多いと改めて実感。 手弾き型 GMM の被せプロペラ・rotor の逆回転 goods むしろ、(3)動作現象の面白さから、新しい 2 重連(3 重 (注)支持治具有の「新しい独楽」として市販できる 連)独楽など、アミューズメント・トイや癒しグッズへ 4. TECHNO-FRONTIER(2007,2008)・参加 具体的活動としての表 1 の特定領域研究・発表に関 しては次。特定領域研究の成果 PR の場として幕張メ ッセでの表記イベントに参加。義務では無いので、30 万円のブース料を払うのはもったいない想いもしたが、 2007 は私の判断で参加を決めた。 展示者側での参加は 初めてではないが、労の大きい事は覚悟の上。工学部・ 客員教授としての山形大学(工)の PR は私の義務でも あるとの想いもあった。結果は、やはり参加は影響の 大きいことを実感。卆業生も含めて沢山の人がブース をおとずれて呉れた。商談も生じ成功との想い。その 時の展示内容はページ数の制限からここでは省略。富 川のホームページではそれを掲載。 http://www-use.yz.yamagata-u.ac.jp/ 研究班は 3 つの大学にまたがっているので、研究室名 は不使用。この例は他に無し。しかし、構成員は当大 学の関係者ばかり。 東北工大・高野教授は W 昭 41 卆、 室蘭工大・青柳学准教授は修 E 平 3 卆。2008 の研究代 表者は室蘭工大・青柳准教授。 彼もその必要性を実感下 さり、 参加を決意・実施。 写真2 は2008 の参加者全員、 OB などのサポータも参戦してくれた。2007 と同様の にぎわいであった。その時の出し物も具体的には先の ホームページに掲載。また、 http://www.elec.muroran-it.ac.jp/ にも提示。主たるものは表 1 で述べた「次世代用高速 回転超音波モータ」である。 これまでの成功経験からマ イクロモータに特化している。 昨年もそうであったが、 私は研究課題を逸脱した成果も展示した。写真 3 は表 1(4-4)にあるユビキタス発電である。2007 は試作機、 ことし 2008 は商品としてのほぼ完成品。この考案の 権利は企業さんにすでに売却。結果、この様な形にな り<バクウ研究所>の実用化品となる。今年の展示で はお客様の注目を期待し更に工夫をこらした。先のジ ャイロ・モーメント・モータの癒しグッズ、LED 光・照 射ピカピカ装置の展示である。 協賛研究員・日下部千春 名誉教授(W 昭 32 卆)の力作品。写真 4 はその様子。 写真 1 の電磁駆動方式の変形である。地味な本業の超 音波モータ/アクチュエータへのお客様引き寄せ効果 を狙ってでもある。沢山の人が寄って下さり効果大と 評価。特に、インターネット配信のビデオ取材にはビ ックリ。 写真 2 2008 の全参戦者 写真 3 リニア振動型電磁発電 (スミダ電機(株)社製, 大型 200mW, 小型 10mW) 写真 4 LED 光・照射ピカピカ回転グッズ 5. <バクウ研究所>の評価 <バクウ研究所>活動は、特定領域研究が 20 年度 も継続、幸い研究室の引続きの借用も承認され、コン サルの仕事の依頼もありで、本年度も続けて行くこと にした。そんなにまでして、良い事があるのかの批判 あるいは心配を想い、ここで自己評価。 (1) 最も願った自由な活動は、満足、楽しい日々が 送れた。これが一番の評価。 (2) 次の「ジャイロモーメント・モータ」も大体の動 作が分った想い。ニーズの生れる時代の到来に 期待。 (3) 圧電超音波モータ/アクチュエータは後輩の方々 が進展下さった。例えば鉛フリーの圧電単結晶 構成は田村英樹助教(博生平 13 卆)により新展開。 従って富川は不要。精々コンサル業のみ。 (4) 全体として、経済的利益は無。これに関しては 気にしない。趣味の領域でもあるので当然。趣 味はお金を使うもの。益をあげるものではない と理解。即、コンサル料も特許申請などの活動 費につぎ込む。 (5) このコンサルの仕事を通して新鮮な発見。新規 性の考案が求められるので昔の企業さんを通し ての自分の特許がジャマになる。即ち、昔の自 分を否定、ぶちこわす事に直面・対決する。生れ 変れる様な感覚がある。 (6) 発電グッズは成功の部類、圧電発電も含めて新 展開の可能な領域、シニア向きの仕事。 (7) アミューズメント・トイの進展は希望あり、更に 完成度を高めたい。これもシニア向き。 (8) ジャイロは"地球自転の楽々検知”機能は企業さ んと求めていてまだ可能性有り。 (9) 何でも自分でするのが建前の<バクウ研究所>、 最近は自分で特許申請も実施(今迄は共同企業 の弁理士に依存) 。 (10)そうはいっても全体的に周囲の方々に支えられ ている<バクウ研究所>である。この認識は強 く、感謝の気持。 (11)それでも長く努めていればうれしいニュースに も遭遇。考案の圧電アクチュエータがオリンパ ス・カメラ・レンズ・モジュールとして一眼レフ・ デジカメ E-3/E-510 に採用量産(2007 年 7 月)。 また、同様のジャイロ・センサ(エプソン・トヨ コム製)がこのカメラに搭載された。いづれも うれしい。 (12)最後に「真の絵師」 、即ち「真の技師」には成れ たか、については下記の歌。 ・真の技師に成れし思いは淋しくも散るを覚悟 の桜花みる。 6. むすび―新しい”青い坂道”を求めて― これは、全くの趣味のもの。好きで続けて来た短歌 は更に続けたい。市内の短歌会に入れていただき 3 年 経ったが、実力はとぼしい。それでも NHK 全国短歌 大会での入選(秀歌や特選ではない)でき、定時番組 の「NHK 短歌(教育テレビ) 」に採用なった。 (4 月 13 日(日曜)放送、―ケイタイのメールはどこか万葉 の歌に似ていて七五調にうつ―) 。 うまずたゆまずへこ たれず頑張れば、良い事があるかも知れないと、新し い青い坂道を求めたい。NHK 全国短歌大会の秀歌・ 特選(確立:50 首/全応募歌 25000 首=1/500)に入り たい、が希望である。 以下、最近の歌・春五首を記載。皆様の評価に耐えた い。 ・キャンディーズのもうすぐ春の歌流れ ちょっと気取って赤いバンダナ ・春が来て古希の祝いは薬師寺の上野におわす菩薩 様行き ・お彼岸の花を飾りて申し上ぐ 「雪多いですね先生の 墓は」 ・雪国の春を送るとケータイに画面いっぱい福寿草 を付く ・三月は蛍の光いざさらば春の哀愁吾の郷愁
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