平成20年6月No145号 - バクウ研究所

『技術随想』
シニア・バーチャル・カンパニー
<バクウ研究所>活動について
― いままた上る青い坂道 ―
富川 義朗(名誉教授 W 昭 37 卆)
....
1. <バクウ研究所>のいきさつ
私は母校工学部を定年退職して、丸 3 年が経ち4月
から 4 年目になる。退職にあたり、表記の研究所を私
的に立ち上げ今に至った。キャンパス内に研究室を貸
与して下さった工学部のご厚情により成るものである。
退職後をどの様に過すかは誰でもが遭遇する問題であ
る。楽しく過すには、ふり返ってみて一番楽しかった
状態を再現すれば良いと思った。即ち、訳もわからず
世に出ようと坂道をかけ上った時代にもどること、と
結論づけた。その活動の具体化が<バクウ研究所>活
動である。
幸い退職時の委任経理金が相当残っており、
その使用を工学部さんが許して下さった事、また友人
の三留謙一氏(名誉教授 M 昭 38 卆)のすすめが手伝っ
た。パートの秘書さんに来ていただいても研究所は 4
~5 年は持ちこたえられとの計算である。研究所たち
あげは心の要因もあった。退職時までに積み残した問
題が 3 つ程あり、
それが気になっていたためでもある。
更に、会議や講義にとらわれることなく、望む事を自
由に、思う存分時間を使ってみたい気持ちも強く後押
しした。特に成果も問われずに・・・である。この辺の気
持ちは、次の様に表現できる―「あと 3 年続けて成せ
ば真の絵師」北斎言いき技師吾も想う―。
私も上記の様
な想いでもう 3 年くらい続ければ、真のエンジニアに
なれるかも・・・の想いからである。
(注)1 <バクウ研究所>のネーミング:
(1) バク=獏=悪夢を食う架空の動物
(2) ウ=記憶しやすい 3 文字とする接尾語
例:トヨタ、アサヒ、ニコンなど
(3) クウ=喰う=空=バーチャル
(注)2 「青い坂道」の”青い”:”青二才”や”青い山脈”など
に共通する”青(未熟)”の意
2. 研究所構成員とその活動内容
さて、研究活動は自分の手、足で動くことをそのモ
ットーとしても、やはりお仲間が必要、一人での活動
だけでは事はならない。構成員としては私とおつき合
いいただいて来て、今は同じく退職した企業人の方を
...
お誘いした。悠々自適でも本業の仕事にはほこりと思
い入れをもっておられる事による。現在の所、5~6 人
がテーマごとに参加いただいている。OB の日下部千
春氏(名誉教授 W 昭 32 卆)、佐藤芳弘氏(W 昭 37 卆)、
林崎伸一氏(E 昭 41 卆)は有力なメンバー。ほかは、私
の後輩の大学に席を置く方、高専の先生が共同くださ
っている。
サポーターは博士・学生を含む卆研生の方々。
それぞれの部門で活躍中、世の情報に敏、それをメー
ルで流して来て呉れる。逆に、私が質問や、調査をお
願いしたりする。退職による世界の狭さをこれでおぎ
なう。
このような卆業生のサポート・ネットは私の大き
な財産。
具体的な活動内容はと言えば、
次の様なもの。
表 1 <バクウ研究所>活動内容
(1) 文部科学省・科学研究としての
特定領域研究参加
・平成 17 年度~18 年度:次世代用超薄型・
高速回転超音波モータ
(研究代表者:富川 W 昭 37 卆)
・平成 19 年度~20 年度:薄型超音波モータの
高性能化と耐久性
(研究代表者:青柳学(室工大修 E 平 3 卆)
(富川・分担課題:ジャイロモーメント・モータ)
(2) JST 革新技術開発研究事業委託研究
(平成 18~19 年度)
課題:センサーネットワーク用圧電素子および
支持機構(構成の考案・試作・基本測定)
(3) 企業・出前講義・講演
(4) 開発・コンサルタント業務
1) カメラ・モジュール用圧電アクチュエータ
2) 圧電セラミックス・リニア・モータ
3) 圧電振動ジャイロ・センサ
4) 電磁・圧電などのユビキタス発電
従って、結構多忙。(具体的活動の様子は後述 4)
の応用の期待が高い。
写真 1 はその 2 重連独楽の様子。
下部のロータを手弾き回転させると上部 6 枚羽根ロー
タは下部ロータの回転方向とは逆方向に回転する。現
在、それへの期待・展開から特許を取り直している。
3. ”青い坂道”への想い
シニア・バーチャル・カンパニー<研究所>・開所の
経緯はすでに1.で述べたが最大の理由は次の事による。
私の研究テーマの一つは”ジャイロ・センサ(角速度セ
ンサ)”。このセンサは動いている物体(質量m)に角速度
Ωが作用した場合のコリオリ力現象がその原理。図 1
はその様子を示す。但し、この考案はアメリカ生れ。
図 1 コリオリとジャイロ
私はこのコリオリ力現象が正しいかどうか実験的な検
証を卆研テーマとして与えた経緯がある。図 2(a)の様
な試作を行い、コリオリ力(FC)を測定し目的の検討を
指示した。卆研生の忠実なトライの中、図示の直線バ
ーを左右に手はじきすると高速回転運動することに遭
遇した。当然、バーはなぜ持続回転するかの方に興味
が移る。
コリオリ力・式の実験的検証の問題はどっかに
飛んでいってしまった。この回転現象をモータとして
捉えて、私はジャイロモーメント・モータと名づけた。
表 1 の分担課題のジャイロモーメント・モータはまさ
にこの様にして生れた。しかし、このモータの原理や
(a) Construction
特性の明示、具体的応用は未解決なまま退職を迎えて
しまった。この事、どうしても気になり、退職後も”
青い坂道”を上ろうとした大きな理由である。ひるがえ
って、
このジャイロモーメント・モータは唯一私の研究
室のオリジナルであるとの想いがした。携った研究の
①メカニカル・フィルタ、
②圧電音さ、
③超音波モータ、
④ジャイロ・センサ、
⑤圧電トランスはその誕生のオリ
ジナリティーは少なくとも富川のそれではない。②~
(b) Rotor rotation
図 2 ジャイロモーメント・モータ
④の 2 番手、3 番手として実用化に貢献したといって
もこの事実は私の淋しさである。従って、唯一のオリ
ジナルかものジャイロモーメント・モータには思い入
れがあり、退職後もなんとか検討したいと願った。こ
れが、表題の”青い坂道”である。さて、検討した結果
であるが、今までの結論では、(1)工学的応用ではいま
いちの段階、興味は持って貰っても更に工夫が無いと
愁眉は開けない、なんと言っても電磁・ブラシレス・モ
ータの牙城は高い。(2)超小型のMEMSに持ち込み、
静電駆動構成や光、音圧の駆動構成のニーズまで待
つ・・・が自己診断である。
オリジナリティーとは当にこ
写真 1 GMM・rotor の手弾き(被せ・ロータ)
の様なもの、役に立たない場合が多いと改めて実感。
手弾き型 GMM の被せプロペラ・rotor の逆回転 goods
むしろ、(3)動作現象の面白さから、新しい 2 重連(3 重
(注)支持治具有の「新しい独楽」として市販できる
連)独楽など、アミューズメント・トイや癒しグッズへ
4. TECHNO-FRONTIER(2007,2008)・参加
具体的活動としての表 1 の特定領域研究・発表に関
しては次。特定領域研究の成果 PR の場として幕張メ
ッセでの表記イベントに参加。義務では無いので、30
万円のブース料を払うのはもったいない想いもしたが、
2007 は私の判断で参加を決めた。
展示者側での参加は
初めてではないが、労の大きい事は覚悟の上。工学部・
客員教授としての山形大学(工)の PR は私の義務でも
あるとの想いもあった。結果は、やはり参加は影響の
大きいことを実感。卆業生も含めて沢山の人がブース
をおとずれて呉れた。商談も生じ成功との想い。その
時の展示内容はページ数の制限からここでは省略。富
川のホームページではそれを掲載。
http://www-use.yz.yamagata-u.ac.jp/
研究班は 3 つの大学にまたがっているので、研究室名
は不使用。この例は他に無し。しかし、構成員は当大
学の関係者ばかり。
東北工大・高野教授は W 昭 41 卆、
室蘭工大・青柳学准教授は修 E 平 3 卆。2008 の研究代
表者は室蘭工大・青柳准教授。
彼もその必要性を実感下
さり、
参加を決意・実施。
写真2 は2008 の参加者全員、
OB などのサポータも参戦してくれた。2007 と同様の
にぎわいであった。その時の出し物も具体的には先の
ホームページに掲載。また、
http://www.elec.muroran-it.ac.jp/
にも提示。主たるものは表 1 で述べた「次世代用高速
回転超音波モータ」である。
これまでの成功経験からマ
イクロモータに特化している。
昨年もそうであったが、
私は研究課題を逸脱した成果も展示した。写真 3 は表
1(4-4)にあるユビキタス発電である。2007 は試作機、
ことし 2008 は商品としてのほぼ完成品。この考案の
権利は企業さんにすでに売却。結果、この様な形にな
り<バクウ研究所>の実用化品となる。今年の展示で
はお客様の注目を期待し更に工夫をこらした。先のジ
ャイロ・モーメント・モータの癒しグッズ、LED 光・照
射ピカピカ装置の展示である。
協賛研究員・日下部千春
名誉教授(W 昭 32 卆)の力作品。写真 4 はその様子。
写真 1 の電磁駆動方式の変形である。地味な本業の超
音波モータ/アクチュエータへのお客様引き寄せ効果
を狙ってでもある。沢山の人が寄って下さり効果大と
評価。特に、インターネット配信のビデオ取材にはビ
ックリ。
写真 2 2008 の全参戦者
写真 3 リニア振動型電磁発電
(スミダ電機(株)社製, 大型 200mW, 小型 10mW)
写真 4 LED 光・照射ピカピカ回転グッズ
5. <バクウ研究所>の評価
<バクウ研究所>活動は、特定領域研究が 20 年度
も継続、幸い研究室の引続きの借用も承認され、コン
サルの仕事の依頼もありで、本年度も続けて行くこと
にした。そんなにまでして、良い事があるのかの批判
あるいは心配を想い、ここで自己評価。
(1) 最も願った自由な活動は、満足、楽しい日々が
送れた。これが一番の評価。
(2) 次の「ジャイロモーメント・モータ」も大体の動
作が分った想い。ニーズの生れる時代の到来に
期待。
(3) 圧電超音波モータ/アクチュエータは後輩の方々
が進展下さった。例えば鉛フリーの圧電単結晶
構成は田村英樹助教(博生平 13 卆)により新展開。
従って富川は不要。精々コンサル業のみ。
(4) 全体として、経済的利益は無。これに関しては
気にしない。趣味の領域でもあるので当然。趣
味はお金を使うもの。益をあげるものではない
と理解。即、コンサル料も特許申請などの活動
費につぎ込む。
(5) このコンサルの仕事を通して新鮮な発見。新規
性の考案が求められるので昔の企業さんを通し
ての自分の特許がジャマになる。即ち、昔の自
分を否定、ぶちこわす事に直面・対決する。生れ
変れる様な感覚がある。
(6) 発電グッズは成功の部類、圧電発電も含めて新
展開の可能な領域、シニア向きの仕事。
(7) アミューズメント・トイの進展は希望あり、更に
完成度を高めたい。これもシニア向き。
(8) ジャイロは"地球自転の楽々検知”機能は企業さ
んと求めていてまだ可能性有り。
(9) 何でも自分でするのが建前の<バクウ研究所>、
最近は自分で特許申請も実施(今迄は共同企業
の弁理士に依存)
。
(10)そうはいっても全体的に周囲の方々に支えられ
ている<バクウ研究所>である。この認識は強
く、感謝の気持。
(11)それでも長く努めていればうれしいニュースに
も遭遇。考案の圧電アクチュエータがオリンパ
ス・カメラ・レンズ・モジュールとして一眼レフ・
デジカメ E-3/E-510 に採用量産(2007 年 7 月)。
また、同様のジャイロ・センサ(エプソン・トヨ
コム製)がこのカメラに搭載された。いづれも
うれしい。
(12)最後に「真の絵師」
、即ち「真の技師」には成れ
たか、については下記の歌。
・真の技師に成れし思いは淋しくも散るを覚悟
の桜花みる。
6. むすび―新しい”青い坂道”を求めて―
これは、全くの趣味のもの。好きで続けて来た短歌
は更に続けたい。市内の短歌会に入れていただき 3 年
経ったが、実力はとぼしい。それでも NHK 全国短歌
大会での入選(秀歌や特選ではない)でき、定時番組
の「NHK 短歌(教育テレビ)
」に採用なった。
(4 月
13 日(日曜)放送、―ケイタイのメールはどこか万葉
の歌に似ていて七五調にうつ―)
。
うまずたゆまずへこ
たれず頑張れば、良い事があるかも知れないと、新し
い青い坂道を求めたい。NHK 全国短歌大会の秀歌・
特選(確立:50 首/全応募歌 25000 首=1/500)に入り
たい、が希望である。
以下、最近の歌・春五首を記載。皆様の評価に耐えた
い。
・キャンディーズのもうすぐ春の歌流れ
ちょっと気取って赤いバンダナ
・春が来て古希の祝いは薬師寺の上野におわす菩薩
様行き
・お彼岸の花を飾りて申し上ぐ
「雪多いですね先生の
墓は」
・雪国の春を送るとケータイに画面いっぱい福寿草
を付く
・三月は蛍の光いざさらば春の哀愁吾の郷愁