チクングニア熱(Chikungunya)に対する事前準備と対応 2. 疫学 (2) 2

チクングニア熱(Chikungunya)に対する事前準備と対応
Preparedness and Response for Chikungunya Virus – Introduction in the
Americas. PAHO/WHO and US Centers for Disease Control and Prevention,
2011
(仮訳)鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六
前文
謝辞
(v)省略
(viii)省略
略語と頭字語 (ix)省略
1. 背景と論理的根拠 (1)省略
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
疫学
(2)
臨床 (8)省略
検査 (22)省略
症例管理 (32)省略
発生動向調査と対応 (42)省略
媒介昆虫の調査と制御 (52)省略
リスクと発生のコミュニケーション (62)省略
9. 結論 (70)省略
10. 付属文書 (73)省略
2.
疫学
チクングニアウイルス(CHIKV)は、トガウイルス科アルファウイルス属
の仲間である。チクングニアの名前は、タンザニア南東部とモザンビーク北部
に住むマコンデ民族の話し言葉に由来し、おおよそ、特徴的な痛みを伴う関節
痛に苦しんでいる者の猫背様の外観を表す「曲がっている」という意味である。
チクングニア(CHIK)に似た発熱、発疹、関節炎の流行は 1770 年代に早
くも報告された。しかしながら、タンザニアで 1952~1953 年に流行が発生する
まで、ヒトの血清や蚊からウイルスは分離されなかった。その後の発生は、ア
フリカとアジアで起こり、それらの多くは小さな農村集落を襲った。
ただし、アジアでは、タイのバンコクにおける 1960 年代、インドのカルカ
ッタとヴェールールにおける 1960 年代と 1970 年代の大都市流行においてチク
ングニアウイルス(CHIKV)株が分離されている。
-1-
患者の年齢分布
-2-
最近の流行
チクングニアウイルス(CHIKV)の最初の同定以降、散発的な発生が続い
たものの、1980 年代半ば以降はウイルスの活動はほとんど報告されなかった。
しかし 2004 年に、ケニアの海岸で発生した流行が、その後 2 年間でインド洋の
コモロ島、ラレユニオン島およびいくつかのその他の島に次々と広がった。2004
年の春から 2006 年の夏に掛けて、推定 500,000 症例が発生した。
流行はインド洋の島々からインドへ広がり、2006 年に大流行が発生した。
インドに一旦侵入すると、28 の州の内 17 州に広がり、CHIKV はその年が終わ
る前に 139 万人以上に感染した。インドにおける流行は 2010 年まで続き、流行
の初期段階では発生がなかった地域でも新たな症例が見つかった。ウイルス血
症の旅行者は、インドからアンダマン・ニコバル諸島、スリランカ、モルディ
ブ、シンガポール、マレーシア、インドネシアへと流行を広げた。2007 年に
CHIKV が広がる懸念がピークに達し、インドから帰ったウイルス血症の旅行者
によって持ち込まれたウイルスが北イタリアにおいて土着して流行(ヒト⇒蚊
⇒ヒト)していることが判明した。最近流行があった地域社会における罹患率
は 38%~63%であり、それらの多くの国において少数ではあるが症例報告が続
いている。2010 年に、このウイルスはインド、インドネシア、ミャンマー、タ
イ、モルディブで病気を引き起こし、ラレユニオン島でも再発生した。輸入症
例は、2010 年に台湾、フランスおよび米国でも特定された。それらの症例は、
それぞれ、インドネシア、ラレユニオン島、インドから帰国したウイルス血症
の潜伏行者であった。
最近の発生において、カリブ海地域(Martinique)、米国およびフランス
領ギアナでウイルス血症の個人が見つかっている。それらの全てが、常在地域
または CHIKV が循環している地域からの帰国者であり、国内伝播によるもの
ではない。ただし、これらの地域の全てに媒介に適した蚊および自然宿主が分
布しており、アメリカ大陸における CHIKV の持続的伝播を支えている。これ
らの要因を考慮すると、CHIKV は発生、再発生、および新たな地域へ拡大する
能力を持っており、発生動向調査と事前準備を優先するよう強調している。
伝播の動態
媒介昆虫
CHIKV の 2 種の主な媒介蚊、Aedes aegypti(ネッタイシマカ)と Ae.
albopictus(ヒトスジシマカ)が存在する。温帯地方にも存在する Ae. Albopictus
とともに両種とも熱帯全域に広範に分布している。アメリカ大陸全体に媒介蚊
が分布していることを考慮すると、この地域全体がこのウイルスの侵入と拡大
の影響を受け易い。
-3-
保有動物
ヒトは流行期間中に主要な CHIKV 保有動物の役割を果たす。流行間期にお
いて、ヒト以外の霊長類、齧歯動物、鳥および一部の小型哺乳類を含むが保有
動物として関与する。
潜伏期間
蚊は、ウイルス血症の保有動物からウイルスを取得する。平均 10 日程度の
外因性潜伏期間の後、蚊はヒトなどの感受性宿主にウイルスを伝播することが
できる。感染した蚊に刺されたヒトは、平均 3~7 日(範囲:1~12 日)の内因
性潜伏期間の後発症する(図 1)。
図 1. チクングニアウイルスの外因性および内因性の潜伏期間
感受性と免疫
これまで CHIKV に感染していない全ての個体(感受性宿主)は、感染する
リスクがあり、発症する。一旦 CHIKV に感染した個体は再感染を防ぐ長期的
な免疫を獲得すると信じられている。
疫学セクションの要約
● CHIKV は家族トガウイルス科アルファウイルス属に属する RNA ウ
イルスである。
● 最近の流行で感染した地域社会の罹患率は 38%~63%の範囲である。
● CHIKV の 2 種の主要な媒介蚊は、Aedes aegypti(ネッタイシマカ)
と Ae. albopictus(ヒトスジシマカ)であり、両種とも熱帯地域に
広範に分布し、ヒトスジシマカは温帯地域にも存在する。
-4-
● チクングニア症(CHIK)はアメリカ大陸で循環していることが判っ
ていないが、旅行者による輸入、適格な媒介蚊(デング熱と同じ)
の存在、および集団の感受性から、侵入するリスクが高い。
-5-