血圧測定

第3章身体ケア技術
1 バイタルサインの測
イ
イ
定
血圧測定
杉本知子
…購診器血圧計
近
( 年ではアネロイト血圧肘電子血圧計の便扇が多くなっている
アル)コー
ル綿,メモ用紙.篭肥用具
高齢者のバイタルサインの特徴と測定の意義
●バイタルサインは.生体機能の徴候を示す.具体的には.測定可能であり.生命徴候を表す呼吸.脈
拍.血圧.体温および意識が含まれる.
●一般的に高齢者では.加齢による細胞数の減少.生理槻能の低下などが認められるようになる.この
ことは.上記に挙げた各バイタルサインにも影響を及ぼすことから.加齢に伴う変化も踏まえながら
高齢者の身体状況を把握していくことが重要となる.
●高齢者のバイタルサインに関する特徴として.下記のような点が挙げられる.
【呼吸器系】
・肺胞が減少してガス交換能力が低下するため.動脈血酸素分圧の低下がみられやすい.
・肋軟骨の石灰化と肋骨運動の減少に伴って肺活量が低下するため,動脈血酸素分圧の低下がみられや
∼
すい
肺の弾力性が低下して残気量が増すため.肺底部などでは呼吸音を聴診しにくくなる.
【循環器系】
高齢者では動脈硬化が進み.収縮期血圧の上昇と脈圧の増大がみられやすい.また.動脈硬化が起こ
ることで.末梢血管の脈拍が触知しにくくなる.
食後に消化管への血流量が増すことで.食後低血圧を起こすことがある
・長期にわたって臥床している患者は.血圧の調整機能が低下するため.起立性低血圧が起こりやすく
アネロイド伽拝叶
水銀if、庄計
■
ノ
電子巾呼齢
手願(アネロイド血圧計を使用し,聴診法により上腕で測定する場合)
豆
点
留
意
点
・
根
拠
皿準備を整え,患者に説明する
' ) 手 洗 い を し . 必 要 物 品 を 用 意 す る ( ① ) ⑪ 近⑪近年,水銀の環境への影響などから.アネロイ
年,水銀の環境へ
なる.
・心臓の弁膜の硬化と変性.刺激伝導系細胞の消失と変性などの影響により.不整脈が生じやすくなる.
使用する血圧計の作動状況を碗鯛する(②)
『冒爾刃高齢者の全身状態.特に身体の内部琿境について把握するために測定を行う.加えて.掘環祉
能や呼吸機能などに変動を及ぼす疾患の状態変化の確鰡.または新たな疾憩が発症する危険性の蘭さ
の評価を行うために実施する
…
画
・血圧,脈拍.呼吸などの変動に伴って生じる身体の随伴症状:頭痛意識状態気分不快.めまい.
動
脈
イ
ン
デ
ッ
ク
ス
マ
ー
カ
ー
立ちくらみ,冷汗などの有無.
・血圧,脈拍.呼吸などに影響を与える薬剤の服薬状況:薬剤の種類服薬量.服薬した時間
・身体状況:食事・入浴・運動の直後か.アルコール摂取や喫煙の直後か.痙痛の有無尿意や便意を
感じているかなど.
・精神的状態:興奮.イライラ.緊張など.
・計測時の環境(室温など)と体位(座位.臥位など)
麓
畷祠画健康状態や疾患の変化について把握が必要な患者
屋遍回
・腕に拘縮.けががある場合や治療が行われている場合は.その腕を使用して血圧測定を実施しない
同様に,乳癌手術後は.患側の上肢を用いて血圧測定を行わない…患側の上肢を圧迫するこ
とで.リンパの循環が悪くなり浮腫が増強する可能性があるため
・片麻輝のある患者では麻痒側での血圧測定を行わない…麻輝側で血圧測定した場合は、筋の
リ
ト
j
カブの内部にゴム蘂が入っている
緊張度などが影響し、正しい測定値が得られない可能性があるため
・血液透析を行うためにシャントを造設している患者では,シヤント造設側での血圧測定は禁忌である
ド血圧計.庵子血圧計の使用が増している
②作動状況を確露する際の主なポイントは.以下
の2点である
・送気球を繰り返し圧迫して送気し.ゴム曇(の
う)が膨らむかどうか.また.いったん膨ら
んだゴム理から空気が漏れていないか
・カブ(マンシェット)の輻や長さが患者の体格
および測定部位と合っているか
函コカフのサイズは.患者の体格や測定部
位に合わせたものを選択する…『高血
圧治療ガイドライン2009』では,成人の血圧
測定ではカブ内のゴム褒の大きさは幅13cm,
長さ22∼24cmを用いるとされているが.国
際的にはカブの幅は上腕周囲の40%以上あり.
かつ長さは少なくとも上腕周囲を80%以上取
り囲むものを推奨している
膝麺カブの幅が患者の腕に対して狭すぎる
場合.収縮期血圧,拡張期血圧の測定値がとも
に高くなる.逆に.カブの幅が広すぎると.収
縮期血圧拡張期血圧の測定億がともに低くな
る
"必嬰物品を患者のベッドサイドに運ぶ
41患者に血圧測定の目的と方法を伝え.測定の承
【 1.巾圧測定のために上腕を圧迫することで.シヤント部の血流を一時的であっても遮断してし
まい.シャントに負担をかけることになるため
¦事故防止のポイント,l患者の名前の未確認や思い込みによる患者誤認の防止 シヤントの造設や腕のけが
の有無などの確認
鰭を得る
296
297
一
バ
イ
タ
ル
サ
イ
ン
の
測
定
第3章身体ケア技術
要点
留意点・根拠
畠点
留意点・根拠
⑤患者の身体状況などを確認し、測定前しばらく
の間(数分間)は安静にするように伝える(③)
⑬ヒ爾罰刃血圧は食率や晴好品の摂取.運動.入浴.
箱神的緊張尿意などにより.容易に測定値が
変動するため.測定前にこれらの状況を把握し
ておく必要がある
際雪司。患者には.医療者に対する糖神的緊謡
から一時的に血圧が高くなる「白衣高血田が
みられることがある.測定時は.患者が糖神的
緊張を生じないような配慮をすることも重要で
ある
⑥側臥位では正確な測定値を得ることができない
ため.患者の体位は仰臥位または座位とする
聴画血圧は臥床時が最も高く、座位,立位
の順に測定値が低下していく
⑤ 凋刃血圧は心臓と同じ高さで測定すること
が原則である心臓より測定部位(カブの位■)
が上にあると.収縮期血圧.拡張期血圧の測定
値がともに低くなる.逆に心臓より測定部位が
下にあると,収縮期血圧拡弧期血圧の測定伍
がともに高くなる
④カブを患者の上腕肘関節から3cm程度上方
に巻く(⑬③)
アーー
③カブは.すき間のないように患者の腕に巻く
罰ヨカフの巻き方が緩すぎると収縮期血圧.
⑥患者の体位を.座位または仰臥位に整える(③
⑬
)
図血圧を測定する
①患者の上腕を露出させ 十分に伸展させる(⑪).
衣服を脱ぐ必要がある時はカーテンやスクリー
ンを活用し、患者のプライバシーに配慮する
②ゲージの目盛りが「0」の位置にあることを確
かめる
多レF←
』
プでは.マーカーの線が上腕動脈上に位置する
よう患者の腕に巻く
二
④動脈インデックスマーカーのあるタイプでは.
マーカーの線がカブに配載された測定部サイズ
内にあることを確鰡する
函刃測定部サイズに収まらない場合は,適
した大きさのカブに変更する
⑪函刃片袖を脱いでもらうか.袖を肩まで十
分に引き上げてもらう.その際衣服によっ
て上腕が圧迫されていないことを確關する
EIIE訂刃衣服によって上腕動脈が圧迫されると.
血管内の血流量が少なくなり.正確な測定が行
えない
9心臓とカブの位憧を碓偲したうえ.上腕勤脈の
部分に聴診器を当てる(③)
⑤聴診器は.一般的に膜型を用いる
國曳座位で測定する場合は.心臓と血圧の
測定部位の上腕(カブを巻いた部分)が同じ高さ
になるようにする
際苛可ヨカフと腕の間に聴診器を入れ込んでは
I
いけないカブの下に聴診器を入れ込むと.送
気で加圧した際に聴診器が上腕動脈を過度に圧
迫してしまい.正しい測定が行えない.上腕動
脈は,カブで均一に圧迫を加えなければならな
い
可
企
卵
P Blc
献
tel
陶画WIlyn
L
■
二
丘
③患者の上腕動脈の位逓を触診で確認する(②)
』
⑥バルブを閉じて送気し.カブを加圧する(⑥)
@E画刃上腕動脈は肘関節のやや内側(小指側)
で触知できる
卜腕耽脈椀骨動脈
①ゲージの目盛りを見ながらバルブを緩めて徐々
に排気し,聴診器でコロトコフ音を聴取する
(
⑰
)
、詞
頁
、
拡張期血圧の測定値がともに高くなる逆に,
カブをきつく巻きすぎると.収縮期血圧,拡張
期血圧の測定値がともに低くなる
函司動脈インデックスマーカーがあるタイ
⑬函刃加圧する目安は.前回の測定値よりも
おおむね20mmHg高い値とする
⑰最初に血管音(コロトコフ音)が聴取された値が
収縮期血圧となるコロトコフ音は排気してい
くと最終的には聴取できなくなる.聴取できな
くなった時の値が拡張期血圧である
F函刃排気する時の速度は.1拍.あるいは1
秒について2∼3mmHgを目安にする排気す
る速度が速すぎると.正確な測定が行えない
尺骨動脈
I
1
■図1上肢の動脈の位澄
1 レ
299
298
ィ
■
■
■
一
■
バ
イ
タ
ル
サ
イ
ン
の
測
定
第3章身体ケア技術
要点
留意点・根拠
水銀伽
③血圧測定は2分程度の間隔をあけ.少なくとも
2回行う(⑬)
⑬願河刃「高血圧治疲ガイドライン2009jによる
と.血圧測定は1∼2分程度の間隔をあけ.少
なくとも2回測定すること.および各測定侭の
差がおよそ5mmHg未満の近似値であった潮
合に.その2回の平均値を血圧値とするように
説明されている
近年では水銀血圧計の使用頻度は低下しているが.使用の際は以下の点に気をつける.
●作動状況の確認
・アネロイド血圧計と同様.カブの幅や長さが患者の体格や測定部位に合うものを選び.空気漏れがな
いことを確かめる
.さらに.送気した際に水銀柱が上昇するか.また.バルブを緩めない状態で.いったん上昇した水銀
図終了後,後片づけ,記録をする
①測定が終了したら.バルブを完全に緩め.カブ
から排気する
②患者の腕からカブを外し.衣展や寝具を整える
③カブに圧迫を加えて中の空気を完全に排気する
(
⑪
)
④血圧計などの必要物品を片づける.患者に使用
した聴診器は.アルコール綿で消毒する
⑤測定値を記録する
⑥手洗いをする
柱が下降しないか.また水銀柱が分断され.目盛り上に残っていないかを確認する.
●測定時の注意事項
水銀血圧肘には高さがあり.倒れるおそれがあるため.安定した位屡に配置する
・水銀止めのコックを操作して開き水銀柱が目盛り「0」の位置にあることを確かめる.
・測定はアネロイド血圧計と同様に行う.
・測定終了後血圧計を斜めにして水銀穂に水銀を戻し.コックを閉じる
■
⑪カブに圧を加えて完全に排気する際は.患者の
腕から外した状態で行う
̅­1
●血圧は.心臓から血液が全身に送り出される時に血液が血管壁に与える圧力のことをいうしたがっ
て血圧測定を行うことにより.心臓や血管の機能状態を知ることができる
●血液を送り出すために心臓が収縮した時の血圧値を収縮期血圧一方.拡張した時の値を拡張期血圧
とし.この2つの値の差を脈圧として表す一般的に脈圧は,血管の励脈硬化が進むにつれて大きく
なる.
測定前.水銀柱が目盛り「0」の位置にあること
を硫
I
第1相
加
圧
4
­ 第 2相
1
1
1
1
、
スワン策2点
血管音:ザーザー
第4相
■表1高血圧の分顛
]
分
二
ス ワ ン第4点
ス ワ ン第5点( 拡張期血圧)
●
第5相
めの薬剤は徐々に増通し.最終降圧目標を140/90mmHg未満に股定することが推奨されている.
スワン第3点
第3相
lMUE室の塵剴W禧
●収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上である者を高血圧としている(『高
血圧治療ガイドライン2009』[日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編]).また.血圧
測定時に左右差が閲められる患者では,動脈硬化による血管の狭窄があるなど,血管に病変が生じて
いる可能性があるため注意が必要である.
●高齢者に対する急激な降圧治療は様々な弊害を生じる可能性があることから(つまり,急激な治療を
行うことで各臓器の血流逓が急激に低下してしまうことから).上記のガイドラインでは,治療のた
血管音;トシ.トシ.トシ
血管音:ドンドン
、
­
カブ
■
¦
スワン第1点(収縮期血圧)
l
l
I
I
l
I
l
V
減
圧
バ
イ
タ
ル
サ
イ
ン
の
測
定
I
血序測定の意味と原理
マ
ン
シ
エ
ッ
ト
内
圧
計を使用する場合の注意
0
血管音の強さ
■図2血圧測定(聴診法)における血管音(コロトコフ音)の変化
頬
収
縮
期
血
圧
拡
張
期
血
圧
< 1 2 0 か つ く 8 0
< 1 8 0 か つ く 8 5
130∼139または85∼89
1 度 高 血 圧 1 4 0 ∼ 1
1 450 9∼ ま
は た9は0
9 99
1 5た9 ま
9∼
0∼
9
n 度 高 血 圧 1 6 0 ∼ 11 76 09 ∼ま1 7
た9 は
1は
0 100 ∼
9
また
0 ∼1100 9
m 度 高 血 圧
1 8 01 8
ま 0た ま はた は 1 1 11 0
1 41 0
( 孤 立 性 ) 収 縮 期 高 血 圧
4 0かかつつ く
く 9
9 0
血. ,
,患 蕊
日本高血圧学会高血圧治療ガイド
ライン作成委員会福:高血圧治療
ガイドライン2009.p、14,表2-6,
ライフサイエンス出版2009
低伽'千
●日本高血圧学会において,低血圧の基準は示されてない.
●血圧が低下する原因として.循環血液通の低下に伴う心拍出量の低下などが挙げられる.一般的に,
高齢者は細胞内水分 が減少しているため.脱水をきたしやすい脱水は循環血液量の低下に結びつ
く要因になるので注意する必要がある
|-、熱
出典:亀井智子編集:根拠と事故防止からみた老年看護技術、医学書院、2012.
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一
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