生徒の学習意欲を高め、自ら工夫して学ぶ姿勢を身につけさせるための取組 県立西脇北高等学校 教諭 藤井 俊 1 取組の内容・方法 (1)課題研究を通した言語力の育成 多部制高等学校の生徒を上級学校や社会の求める人材に育成できるよう、 「総合的な学 習の時間」において、課題研究に係る講座(「めざせサイエンスフェア」)を開設した。 数人のグループで協力して研究テーマ設定や実験計画の立案、データ収集、考察、ポス ターによる研究のまとめ、そして発表までを年間を通して行い、代表者は校外でも成果 を発表した(「サイエンスフェア in 兵庫」)。 (2)コーピング・リレーションタイム ストレス対処法を知り問題解決法や感情のセルフコントロール法を学習して、社会生 活を送る上で必要な考え方や行動のコツを身につけさせることを目的として学校設定科 目『学び基礎(1 単位)』において、〈コーピング・リレーションタイム〉を実施した。 〈コーピング・リレーションタイムの構成〉 A 導入(自分を知る): KJQ 検査などで自分を客観的に調べ、成長の見通しを持つ。 B 認知(事実の受け止め方): 心の法則[A(出来事)→B(認知)→C(感情):ABC 理論] C 行動(対人行動のスキル):会話のスキル・アサーション(自分の意見の気持ちのよい伝え方) D 情動(リラックス法): 呼吸法・弛緩法・イメージ法 E 総合(成果のまとめ):1年間の学習を振り返り、実践レポートを書く。 (3)研究授業・公開授業 本校生に適した「ことばの力」の指導方法を研究・実践するとともに授業研究会を活 用して、その成果を全教員で共有し指導力の向上を目指す。また、公開授業週間を設定 し、教員間の授業見学を通して他者の授業展開上の工夫等を学ぶとともに、相互の課題 を発見する。 ① 研究授業 「ことばの力」を共通テーマとし、各教科の特性に合った表現活動を取 り入れながら、生徒の意欲関心を高める工夫を提示する。 ② 公開授業週間 全教員が公開授業エントリーシートを作成し、それを元に作成した 公開授業エントリー一覧を全教員に配付するとともに校外へも案内する。授業参観 者は授業見学シートを記入して提出し、授業者に還元する。 (4)西脇北高検定 言語活動の基礎・基本となる語彙力、読解力を身につけることにより、思考力を高め る。自らの成長の跡を確認することで、自信や自己有能感を育てるために国語、英語、 数学の3教科で実施した。国語、英語は市販の教材を全生徒に購入させ、数学は製本し た自作の教材と各級の到達範囲を生徒に持たせて、10級から1級までを見通した取組を自 主的にできるようにした。平成25年度は、全5回の検定試験を実施した。 2 取組の成果 取 (1) )課題研究を を通した言語 語力の育成 身 身近な科学に に関する疑問 問や質問を取 取り上げて、生 徒の の科学的な視 視点や考え方 方を喚起しな ながら、全員で 議論 論し、研究テ テーマを設定 定した。その のような展開途 途 上で で、生徒は研 研究に対して ての意欲を高 高め、分析実験 験 にも積極的に取 取り組むよう うになった。実験データの 整理 理やまとめ、それらから ら得られる考 考察や今後の展 展 サイン ンスフェア in 兵 兵庫での発表風 風景 望に について、自 自主的に結論 論を導き、研 研究の方向性を 見出 出すことを求 求めていたが が、困難な部 部分については、 指導 導する側で誘 誘導した。最 最終的に発表 表することを指 指 導したが、現段 段階では受講 講者全員が、その力を十分 分 に身 身に付けたと とは言えない い。しかし、サイエンスフ ェア ア参加者を中 中心に学習へ への主体的な な姿勢や情報活 活 用能 能力、コミュ ュニュケーシ ション能力を を身につけつつあると思わ われる。また た、サイエン ンス フェ ェアのような な大きな舞台 台に立つ経験 験は、大きな成 成長を促すき きっかけとな なり、今後の継続 した た指導効果を を高める要因 因となると考 考える。以下は研究テーマ マの例。 ○『牧野大池流 『 流出河川中の の重金属イオ オン -パック クテストを用 用いた 銅(Ⅱ)イオンの定 定量』 ○『紙飛行機を を操る -長 長い滞空時間への挑戦-』 』研究テーマの の機体(上写真 真)小型競技用機 機 参考 考文献:『よく飛 飛ぶ紙飛行機集 集』(二宮康明著 著 誠文堂新光社 社) (2) )コーピング グ・リレーシ ションタイム ム -生徒ワークシートからの成果 果分析- ① 授業に対す する姿勢 ワークシート ワ トを活用した た授業内容が が生徒にわか かりやすく、綿密 な事前の指 指導者打ち合 合わせが理解 解度の高さと と定着に繋が がったと思わ われる(図1・図 図2) 。 また、1部 部~3部を併 併せて70%近 近い生徒が日 日常生活で学 学習内容を使 使っていると答え ており(図3)、 図 約60%の の生徒がスト トレス対処に に役に立った たと答えてい いる(図4)。有効で あることを を体験できた た生徒は、よ より学習意欲 欲も高まると と思われることから、さらに 実生活での の活用を促し したい。 稔ヶ丘:コー ーピングを先行実施している東 東京都立稔ヶ丘 丘高校 図1 図2 図3 図4 ② ワークシー ートの分析に による生徒実態の把握 「勉強、頑張 張っているか か?」の問い いかけに、ど どのように 感 感じるかを質 質問した。そ そのときに生 生じる感情を を「ポジテ ィブ(頑張る る気持ち)」、「ネガティブ ブ(勉強してい いないと思 われて悲しく わ くなる)」、そ そのどちらで でもない「ニ ニュートラ ル ル」に分類し し、1・2部 部の結果を示 示した(図5・図 図6)。教師 が が指導的な意 意味で、生徒 徒に「勉強、頑張ってい いるか?」 と声をかけて ても、教員が が意図した通 通りにその言 言葉を受け 図5 取 取らないこと とがあり、そ その割合が1 1部より2部 部の生徒に 多 多いことがわ わかる。した たがって、日 日常の学校生 生活におけ る生徒との何 何気ない会話 話や言葉がけ けについて、教員は自 ら らが意図しな ない意味で、生徒がその言 言葉を受け取 取る可能性 が があることを を意識する必 必要がある。 ③ 生徒の変容 容 図6 年間の学 学習を通じて て、個人の ス ストレス対処 処法の変化を を、〈情報を集める・あ きらめる・よ よい面を探す す・問題解決 決の計画を 立 立てる・くよ よくよ考えな ないようにす する・気晴 らしをする・誰かに話を を聞いてもら らう・責任 をのがれる〉 〉の8項目に について、生 生徒が記入 したワークシ シートをもと とにして6月 月と12月 に に調査した。 。各項目の数 数値が高いほ ほどその方 図7 法 法によるス トレス対処の の傾向が強い いことを示す す。図 7 はこ この調査で、非常に特徴的な 変 変化を示した た2部の生徒 徒個人のもの のである。こ この生徒は、全ての項目でその数値 値が上 昇 昇し、 ストレ レス対処法が が大きく多様化したと言える。学校生 生活における本人の様子も、 入 入学当初に比 比べると「自 自ら人に話し しかけること とが増えた」等、社交性 性における成長が うかがえる。 。このような なストレス対 対処法の変化 化を示す生徒 徒は、不登校 校経験者に顕著に 現 現れている。 。参考文献『人 人間関係スキルアップノート』:嶋田洋 洋徳・坂井秀敏 敏・管野純・山﨑 﨑茂雄【著】 (3) )研究授業・公開授業 平成 25 年度の研究授 年 授業は、学校 校設定科目「学び 基 基礎」 、「理科 科総合A」、 「国語総合」で実施し、それ ぞ ぞれについて てブレインス ストーミング グ、プレゼン ンテー 授業公開エント トリーシートについて て どちらと も も言えな い 27% シ ション、携帯 帯電話を用い いたコミュニ ニケーション ン等の ある る方が よい 7 73% テ テーマを設定 定して授業を を行い、それ れと併せて授 授業研 究 究会を実施す することによ よって成果を を共有した。公開 授 授業週間もそ その方法を改 改善しながら ら、5 月、10 0 月、 1 月の3回 11 回実施した。職 職員に対する るアンケート結果 (図 8・図 9)から、公開授業 業エントリー ーシートの活 活用と 図8 公開授業週間は、授業力向上に効 あるか 果があ どち ちらと も言 言えな い 2 23% ある ると思 う 7 77% 併 併せて、全教 教員が概ね肯 肯定的な意見 見を持ってお おり、 今 今後も発展さ させていく基 基盤をつくる ることができ きた。 図9 (4) )北高検定 図 10 に、平成 25 年度 度北高検定に において 第 5 回までに に個人が到達 達した級を示 示す(数 値 値は、第 5 回を受験して 回 ていない平成 成 25 年度 卒 卒業生を省く く)。数学は は平成 24 年度 度からの 継 継続であるた ため、英語、国語に比べ べて上の 級 級まで到達し している生徒 徒が多い。全 全ての教 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 国語 語 数学 学 英語 語 科 科において、 、生徒の自学 学自習を勧め めるとと もに、合格す するための指 指導を各授業 業時間 90~100 50~59 70~79 得点分布 布 80~89 後 後も継続して て検定に向けての指導を を行い、 60~69 イ イドしてお り、指導の成 成果が見られ れる。今 30~39 る。同じ受験 験者の得点分 分布が高い方 方にスラ 40~49 級 級〉不合格者 者の得点分布 布を重ねたものであ 第4回 回10級全員 10~19 得 得点分布にそ その直前の第 第 3 回検定〈国語 10 第3回 回10級不合格者 20~29 実 実施した第 4 回北高検定 定〈国語 100 級〉の 35 30 25 20 15 10 5 0 0 図 11 は、国 国語に対して ての指導を重 重点的に 1~9 だ だけでなく、 、SHR の時間 間を利用して て行った。 図 10 図 11 合 合格者数を増 増やしていき きたい。 3 課題及び今後 課 の取組の方向 私 私自身が前任 任の高校で、文部科学省 省指定の SSH(スーパ パーサイエン ンスハイスクール)に おける取組の主 主担当として て効果的な理 理数系学 習プ プログラムの の開発や企画 画・運営に携 携わる中 で、 、課題研究講 講座で指導す する研究が文 文部科学 大臣 臣表彰を受け け、その他の の科学技術系 系コンテ ストでもいくつ つかの賞を受 受けた。その の全校的な 平成23年度S SSH研究発表会 会での発表の様 様子 取組 組の中での成 成果の経験を を本校生に対 対しても還元 元する意味で で、平成24年 年度の本校着任当 初より取り組ん んだのが、総合的な学習 総 習での課題研 研究である。講座代表者は 講 はその成果を を「サ イエ エンスフェア アin兵庫」で で発表するが が、そこで身 身につけつつ つある思考力 力や判断力、表現 力は は、自ら学ぶ ぶ姿勢に繋が がり、周囲の の生徒の学習 習意欲の向上 上に今後さらに波及していく ことを期待して ている。平成 成25年度に本 本格的に取り り組み始めた たコーピング グ・リレーション は特 特に不登校傾 傾向のある生 生徒に対して てのストレス ス対処法の広 広がりに効果 果を持つことを確 認しているが、 、平成26年度 度以降は、学 学習方法を身 身につける手 手段を学ばせ せるコーピング・ メソッドの実施 施を計画して ており、その の効果が楽し しみである。その成果を を本校生の全 全ての 学習 習活動に生か かすことがで できれば、北 北高検定によ よる達成感の の積み重ねと併せて、学 学習意 欲の の高まりとと ともに自ら学 学ぶ姿勢を育 育むことがで できると考え える。教員の の授業力向上のた めの の研究授業や や公開授業週 週間を含めて て、どの取組 組においても も全教員の主 主体的な参加をよ り一 一層進め、生 生徒の「自己 己実現」に繋 繋げたい。
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