平成 28 年 日本森林学会奨励賞受賞業績概要 Growth recovery of young hinoki (Chamaecyparis obtusa) subsequent to late weeding (下刈り省略後のヒノキ幼齢木の成長回復) 戦後に造林された人工林が主伐期を迎えつつある日本においては、低コストによる再造林技術開発が 急務となっています。今回受賞した研究は、持続的な林業経営のための再造林経費の低コスト化かつ効率 的な育林技術の開発を目指し、特に初期育林経費のコスト削減と労働負担の軽減・省力化のための下刈り 回数の低減(下刈り省略)に焦点を当て、科学的データに基づいてその可能性を示したものです。 本研究では、最初に、下刈り省略による植栽木の成長低下を、植栽木と雑草木の競争関係という生態学 の基本メカニズムの観点からとらえて科学的に評価しました(平田ら(2012)日本森林学会誌 94:135141) 。そして今回は特に、下刈り再開後の植栽木の成長回復に焦点を当て、成長回復の生態学的メカニ ズムを解明しました(Hirata et al. (2014)Journal of Forest Research, Vol. 19, pp 514-522) 。 本研究により、ヒノキ植栽木は雑草木による被圧からの解放という生育環境の劇的な変化に耐えて成 長を素早く回復させることが明らかとなりました。そして、成長回復が可能であった理由としては下刈り 再開による生育空間の拡大よりも光環境改善の効果が大きく、中でもヒノキが陰葉から陽葉へと葉の展 開を切り替え、環境の変化に素早く順応できたことが大きな要因であることが解明されました。これらの ことから、下刈り再開後の枯死や著しい成長低下のリスクは少ないことを科学的に証明しましたが、その 一方で、植栽木の樹冠拡大の回復の遅れが検出されたことに基づき、その後の光合成による物質生産への 影響から、 通年下刈りと比べて 1 年から 1.5 年分のサイズ成長の遅れをもたらす可能性も出てきました。 そこから、下刈り省略はこのサイズ成長の遅れを考慮したうえで実施するべきであり、下刈り省略を採用 するかどうかは慎重な判断が必要であることを明示しました。 このように、科学的な解析結果を客観的に咀嚼しつつ、現場で行われる技術に対し提言したことも受賞 に際して大きく評価された点です。なお、本研究は本大学農学部の伊藤哲教授、光田靖教授、高木正博教 授、森林総合研究所の荒木眞岳博士の協力を得て行われ、論文の共著者に加わって頂きました。 下刈り区 無下刈り区(6年目に下刈り) 図1 ヒノキ無下刈り実験地の7年目(2012年12月)冬の状況 無下刈り区
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