経済連携協定(EPA) 輸出入への利用拡大に向けて

経済連携協定(EPA)
輸出入への利用拡大に向けて
日時
場所
平成28年4月20日
日向商工会議所
門司税関業務部長
森 英樹
WTO から EPA(FTA)
WTO(世界貿易機関)
(World Trade Organization)
EPA(経済連携協定)(Economic
Partnership Agreement)
FTA=自由貿易協定
(Free
Trade
Agreement)
FTA
(Free
Trade Agreement)
●WTOに加盟する160の国・地域で、
モノ・サービスの貿易自由化や貿易関
連のルール作りを行う。(2014年8月現
在)
●加盟国は他の全加盟国・地域から
の同種の産品の輸入に同じ関税率を
適用(=最恵国待遇(MFN))。
WTOは、ほぼ全世界をカバーするた
めMFN税率の適用に原産地を特定す
る必要がない。
へ
自
由
化
の
深
化
加盟国・地域が多い
一部の国・地域の間だけでの貿
易自由化なので原産地を特定す
る必要がある
モノの貿易自由化 (関税を下げる)
EPA=経済連携協定
(Economic Partnership Agreement)
●モノの貿易自由化に加え、投資、人の移
動、知的財産、競争政策、基準認証、貿易
円滑化等の幅広い分野での経済協力の強
化。
投資、人の
移動
知的財産、
競争政策
基準認証、
貿易円滑化
対象の拡大
1
関税を決める3つの国際ルール
○ 関税分類: HS 条約に基づく品目分類
• WCO(世界税関機構)による品目分類のためのHS条約は、世界共通
のルールとして、WTOのみならずEPAで関税の譲許に使用
○ 関税評価: 関税評価協定に基づく課税価格
• WTO(世界貿易機関)の関税評価協定は、課税価格決定のための
世界共通のルール
○ 原産地規則:輸入品の原産地を決めるルール
• EPA は一部の国・地域の間だけでの貿易自由化であるため、それら
の国・地域の原産品であることを特定する必要がある。このためEPA
ごとに原産地規則が設けられている。
2
日本に輸入する場合の関税率の検索方法
(税関ウェブサイト 実行関税率表) http://www.customs.go.jp/tariff/
WTO協定税率
EPA税率
品目分類
物品を日本に輸入する場合のEPA税率は、税関のウェブサイトの「実行関税
率表」で調べることができます。
3
関税、消費税、地方消費税の計算方法
(例)(たまねぎ:品目分類(HS番号)0712.20-000)
∗
∗
∗
513,795円(輸入貨物の課税価格 CIF: Cost, Insurance and Freight )
端数処理
513,000 × 0.09
∗
∗
∗
∗
∗
∗
∗
端数処理
= 46,170
46,100円(関税額)
(関税率:WTO税率 9%)
513,795
+
46,100
=
559,895(消費税の課税標準)
端数処理
559,000 × 0.063 = 35,217
17
35,200 × — = 9,498
63
端数処理
35,200円(消費税額)
端数処理
9,400円(地方消費税額)
4
MFN税率の適用とその例外
WTO協定の下での原則=最恵国待遇 (Most - Favoured Nation Treatment)
A国
9 %
9 %
B国
日本
9 %
C国
9 %
D国
WTO加盟国(A,B,C,D)からの同種の産品
(例:たまねぎ)の輸入においては、A,B,
C,Dのすべての国からの輸入に対して最も
有利な同率の関税率(この場合にはWTO協
定税率9%)を適用しなければならない
MFN税率
例外
0 %
A国
9 %
B国
日本
A国(メキシコ)の産品(例:たまねぎ)
に対してのみ、WTO協定税率(MFN税率)で
ある9%よりも低い関税率(0%、無税)を
適用することも、WTO協定の一定の条件
の下で例外的に許容されている。
9 %
C国
9 %
では、どんな条件
なのか?
D国
5
FTAの締結でMFN税率より低い税率の適用
が可能となる WTO協定に整合する日本とA国(メキ
シコ)とのFTA(Free Trade Agreement
=自由貿易協定)である「日・メキシコ
経済連携協定」を締結
0%
A国
9 %
B国
日本
9 %
9 %
A国(メキシコ)の産品(例:たまね
ぎ)に対してのみ、MFN税率
(9%)よりも低い関税率(0%)を
適用することが、WTO協定における
一定の条件の下で許容されている。
C国
D国
(注)我が国では貿易の自由化(FTA:自由貿易協定)に加え、投資保護、知的財産保
護、競争政策におけるルール作り等の貿易関連非関税分野についても対象とするもの
を特にEPA(Economic Partnership Agreement=経済連携協定)と呼んでいます。
6
EPAを利用して輸出すると、どのくらい関税が安くなるのか
日本からの輸出先 商品例
EPAの相手国の
関税率は、交渉によ
り、通常の関税率
(MFN税率)より引き
下げられています。
乗用車
メキシコ
サングラス
エアコン
マレーシア
ギアボックス
自転車
タイ
タイヤ
体重計
インドネシア
フィリピン
ペルー
ブルドーザー
電子レンジ
テレビ
通常の税率
(MFN税率)
EPA税率
20%
10%
30%
25%
30%
10%
5%
10%
3%
6%
0%
表:EPAによって関税が下げられている例
(経済産業省の資料より)
7
EPAでどのくらい関税が安くなるのか
我が国のEPA締結前後の自由化率(貿易額ベース)
①相手国から日本に輸入する場合の日本の関税の無税化率
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
EPA前
EPA後
②日本から相手国へ輸出する場合の相手国の関税の無税化率
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
※ EPA後の無税化率は、EPA発効後10年以内の関税撤廃の割合を意味する。
※ EPA前の無税化率は、それぞれのEPA交渉において基準とした一定の時点での関税無税の割合を意味する。
8
日本の貿易総額に占める国・地域別割合(2014年)
22.3% 発効済
15.5% その他
・台湾(4.3%) ・香港(2.7%) ・ロシア(2.3%)
・メルコスール(1.3%)
[うち ブラジル(1.0%)、アルゼンチン(0.1%)]
・イラン(0.4%) ・南アフリカ共和国(0.6%) 等
47.3% 交渉中
・GCC(10.9%)
※2009年以降、交渉延期
・中国(20.5%)
・韓国(5.7%)
・EU(9.9%)
・トルコ(0.2%)
・コロンビア(0.2%)
・ASEAN(14.7%) ・メキシコ(1.0%)
・チリ(0.7%) ・スイス(0.7%)
・インド(1.0%) ・ペルー(0.2%)
・豪州(4.2%)
(ASEAN メンバーのうち二国間
EPAも発行済の国)
・タイ(3.5%) ・インドネシア(2.7%)
・マレーシア(2.9%) ・ベトナム(1.8%)
・フィリピン(1.3%) ・ブルネイ(0.3%)
・シンガポール(1.9%)
14.9% 署名済
・米国(13.3%)
・カナダ(1.3%)
・ニュージーランド(0.3%)
※TPP交渉参加国
・モンゴル(0.02%)
84.5% EPA発効済・交渉段階の国・地域
【参考】主要国のFTA比率(注)(2015年6月現在 発効・署名済のもの)
日本:22%、米国:40%、EU:30%、韓国:62%、中国:30%
(注)FTA比率:FTA相手国(発効済国又は署名済国)との貿易額が貿易総額に占める割合
(出典)貿易額は、日本は財務省貿易統計(2014年)、他国はIMF Direction of Trade Statistics(2014年)より作成。
9
: 共同研究等
各国との交渉中EPAの進捗状況
: 交渉
(2016年2月時点)
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
韓国
12月
GCC(注1)
ASEAN (注2)
9月
10月
(投資・サービス)
3月
カナダ
コロンビア
11月
12月
11月
日中韓
3月
5月
EU
4月
7月
RCEP (注3)
5月
9月
トルコ
11
12
※発効又は署名済みEPA
シンガポール
メキシコ
マレーシア
チリ
タイ
インドネシア
ブルネイ
ASEAN(物品貿易)
2002年11月発効 (2007年9月改定)
2005年 4月発効 (2012年4月改定)
2006年 7月発効
2007年 9月発効
2007年11月発効
2008年 7月発効
2008年 7月発効
2008年12月発効
フィリピン
スイス
ベトナム
インド
ペルー
豪州
モンゴル
TPP (注4)
2008年12月発効
2009年 9月発効
2009年10月発効
2011年 8月発効
2012年 3月発効
2015年 1月発効
2015年 2月署名 (未発効)
2016年 2月署名 (未発効)
(注1)GCC(湾岸協力理事会) : アラブ首長国連邦、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、バーレーン(計 6か国);2009年以降、交渉延期
(注2)ASEANとの日ASEAN包括経済連携協定は、物品貿易については署名・発効済(インドネシアとの間では未発効)であるが、投資・サービスについては、2010年から交渉中。
(注3)RCEP(東アジア地域包括的経済連携) : ASEAN加盟国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)、
日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インド(計 16か国)
(注4)TPP(環太平洋パートナーシップ) :シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、日本(計12か国)
10
多国間のEPA交渉
現在、我が国が交渉を進めているEPAには多国間で締結されるEPAが多く
あります。
TTIP ※
2013年7月 交渉開始
日EUEP
日EU EPA
A
211
EU
米国
TPP
2013年4月 交渉開始
2016年2月 署名
日本
ドーハ・ラウンド
RCEP
2001年11月 交渉開始
日中韓 FTA
2013年3月 交渉開始
2013年5月 交渉開始
ASEAN+6
日中韓
WTO
※環大西洋貿易投資パートナーシップ(Transatlantic Trade and Investment Partnership)
11
【参考】我が国企業のEPA利用状況の推移
【企業全体の利用状況の推移】
60%
【輸出における利用率の推移】
60%
60%
輸出
大企業
輸入
50%
39.3%
35.8%
30%
36.0%
31.1%
28.2%
27.7%
41.8%
中小企業
42.4%
30%
30%
39.1%
34.7%
39.9%
41.8%
32.8%
38.2%
29.9%
10%
10%
0%
2013年
50%
40%
20%
2012年
47.7%
40%
20%
2011年
大企業
中小企業
50%
42.2%
40%
【輸入における利用率の推移】
2014年
24.1%
25.9%
21.0%
20%
10%
0%
0%
2011年
2012年
2013年
2011年
2012年
2013年
(出典:ジェトロ「世界貿易投資報告」)
12
EPAの輸出入での活用状況
○輸出において、中小企業のEPA利用割合が低い。
○中小企業がFTAを利用しない理由としては、 EPAの制度や手続きを知らないことが
主な要因。特に、個別具体的な手続き面については、ほとんど知られていない。
<EPAを利用している企業の割合>
※我が国のEPA対象国の一カ国以上と輸出又は輸入を行っている企業の中で、一つ以上のEPAを利用している企業の割合。
輸出
輸入
大企業
42.4%
41.8%
中小企業
25.9%
32.8%
(出典)JETRO世界貿易投資報告(2013年版)より作成
<輸出に際してEPAを利用していない理由 (複数回答可)>
2012年度
項目
2013年度
割合
項目
割合
EPAの制度や手続きを知らない
29.9%
輸出相手からの要請が無い
31.1%
輸出先の一般関税率が無税
17.7%
一般関税が無税/免税、または軽微である
25.3%
輸出先の一般関税率とEPA税率の差が少ない
16.3%
輸出量または輸出金額が小さい
24.8%
輸出加工区や各種保税地域などEPA以外の制度により輸入
時の関税が免税されている
10.8%
商社などを通じた間接的な輸出である
16.3%
EPAの原産地基準を満たさないためEPA税率を適用できない
8.2%
FTA/EPAの制度や手続きを知らない
15.5%
その他(第三者を通じた間接輸出である、輸入者からの要請
がない、輸出額が少ない、原産地証明書取得手続きが煩雑・
高コスト、輸出品目がEPA対象外、三国間取引のため)
19.1%
その他(輸出品目がFTAの適用対象外、原産地証
明書の取得手続きが煩雑・高コスト、原産地基準を
満たさない、その他)
27.2%
(出典)JETRO世界貿易投資報告(2012、2013年版)より作成
13
EPAを使うための必要な要件
(1)日本とその国がEPAを締結し、物品が関税引き下げ対象と
なっていること
EPA税率を適用して物品の輸出入を行うためには、その物品の輸入元・輸出
先が、我が国のEPA締結国である必要があり、さらに、その物品がそのEPAにお
いて関税の引き下げ対象(「関税分類」で確認)となっていることが必要です。
(2)EPAにおける原産品であること
EPA税率は相手国の原産品のみに適用され、そのルール(「原産地規則」)は、
EPAごと、品目ごとに定められています。
(税関ウェブサイト 我が国のEPAの協定、原産地規則)
http://www.customs.go.jp/kyotsu/kokusai/gaiyou.htm
14
EPAを使うための必要な要件
(3)輸入する際に、税関に対し必要な手続きを行うこと
EPA税率の適用を要求する際には、原産地証明書又は原産品申告書等及び(必要に応
じ)運送要件証明書を提出するなど、必要な手続きを行います。
① 原産地証明書(第三者証明制度)
輸出入においてEPA税率の適用を要求するには、輸出者が輸出国当局などから「原産
地証明書」の発給を受け、輸入者が輸入申告の際に、原産地証明書を税関へ提出し、原
産品であることを証明する必要があります。
② 原産品申告書(自己申告制度)
日豪EPAにおいては、上記のほか、輸出者、生産者又は輸入者自らが「原産品申告
書」を作成し、輸入者が輸入国税関に提出し、原産品であることを申告することができま
す。
(税関ウェブサイト 我が国のEPAの協定、原産地規則)
http://www.customs.go.jp/kyotsu/kokusai/gaiyou.htm
15
税関・財務局による輸出者へのEPA利用支援
○相手国でEPA税率を適用するには、製品がEPA原産品であることを証明する
原産地証明書の発給申請及び取得が必要(我が国における発給当局は日本商工会議所)
○EPAの原産品か否かの判断には、原産地規則や関税分類の理解が必要
各税関・財務局におけるEPA利用セミナーの開催
(各地の商工会議所や財務局と連携)
各税関における輸出の個別相談
(原産地規則、原材料の関税分類(HS番号))
原産地証明書取得
(日本商工会議所)
輸出
(相手国の輸入時に、原産地証明書に基づきEPA税率を適用)
16
日本 との経済連携協定の締約国である外国のEPA税率を知るには
日本貿易振興会(JETRO)が契約している
World Tariffを使えば、日本に居住している方は、
我が国がEPAを締結している国を含む175カ国の
関税率を調べることができます(JETROのページ
からユーザー登録が必要です(無料))。
メキシコに自動車(870390)
を輸出する場合。
(JETRO 世界各国の関税率)
http://www.jetro.go.jp/theme/trade/tariff/
日メキシコEPAを利用すれば、
関税なしでメキシコで輸入する
ことができる。
17