各プロットにおける悪役キャラクターの役割について 山田 斗志希 (指導

各プロットにおける悪役キャラクターの役割について
山田 斗志希
(指導教員:上山 輝)
概要:映画、アニメーション、ゲーム、漫画における「物語」には、必ずと言ってよいほど悪役
キャラクターが登場する。そこで、彼らが物語にどのような影響を与えているのかを調査した。
調査方法として各作品から 100 体の悪役を取りあげ、彼らの設定や作品のおおまかなプロットな
どを集めた。それを踏まえて、悪役を構成すると思われる「要素」を抽出し考察した。加えて、
脚本担当者へのインタビュー記事を集め、物語に込めたメッセージと悪役の扱い方について、ど
のような考えをもっているのかを調査した。結果、悪役キャラクターは物語を包括的に盛り上げ
る役割を担うほか、哲学的な要素を含む悪役やその他のキャラクターに受け手がなんらかの形で
感情移入することで、作品そのものの評価・面白さを左右する可能性、実社会を連想させること
が示唆された。
キーワード:悪役、要素、プロット、実社会の反映、哲学的思想、共感
1. 研究の概要
悪役キャラクターとは主人公と対峙し、な
2. 調査概要
4 つのジャンル(ゲーム、漫画、映画、ア
んらかの害を与えるキャラクターである。彼
ニメ作品)から自身の判断で 100 体を集め別
らが数多の物語に登場することから「なぜ人
途資料「悪役集計表」にまとめた。
が考え出す物語の中では悪役が登場し続ける
悪役を選択する際、3つの基準(①自分が
のか」という疑問を持ったことが研究動機で
体験した作品 ②ある程度認知度が高いと思わ
ある。
れるもの③主人公と悪役が対立関係にある)
悪役キャラクターに関する先行研究はいく
を設け、各ジャンルの中では比較的有名な作
つか存在するものの決して多いとはいえず、
品を選んでいる。次に、悪役らしさを構成す
キャラクターの対象数も少ない。そのうち本
ると考えられる「要素」を設定から抽出し、5
研究に重要な資料の1つとして、大塚英志
つのカテゴリーに分類した。また、脚本担当
(2013)の書籍『ストーリーメーカー 創作のた
者へのインタビュー記事を参考にし、プロと
めの物語論』を参考にしている。大塚はプロ
して活躍する製作者の悪役に対する考えを調
ットを 31 の構造に分け質問文にし、それに
査した。
解答していくことで誰でも簡単に物語を組み
仮説は以下の通りである。
立てることができると提言する。その内「Q
・悪役を構成する要素には共通性がみられる
12 主人公と敵対者の価値観や考え方はどう
・悪役は出現頻度の高い要素によって悪役と
違いますか」という質問文に対して「敵対
してのイメージとして安定させているので
者」とは「主人公と反対の方向に“自己実
はないか。
現”したキャラクター」と解説する。また
・悪役や悪役の登場するプロットに対して、
佐々木智弘(2006)『ゲームシナリオの書き
人はどこかで共感しているのではなかろう
方』では、敵キャラの役割は「プレイヤーの
か。
ゲームの目的達成を妨害することで、ストー
3. 仮説の検証
リーを面白くするキャラクター」と述べる。
3.1 悪役キャラクターを形作る「要素」
本稿はこれらを掘り下げ、悪役がプロットに
対して包括的に担う役割を明らかにする。
各悪役の設定から見出した要素を次の 5 つ
に分類した。
① 「気質(自己中心的・野心家・善人の顔
ると考えられ、それは悪役に限らない。
をもつ…など)
」
② 「個としての属性(人間でない・神、悪
魔・研究者…など)
」
③ 「性格(嫉妬する・人間に失望している
…など)
」
④ 「社会的属性(周囲から慕われる・社会
的地位が高い…など)
」
➄ 「その他」
4. 結論
複数の要素の中、多出する要素はきわめて
少ない。このことから、悪役キャラクターに
は根本的な違いはなく、非常に似ていると考
えられる。多出する要素は、キャラクターを
悪役らしくみせるためには重要なものである
ため、誰もが心にもつ普遍的な要素ともいえ
る。このことから悪役がもつ「負の面」に私
本稿で使用する「要素」とは、悪役に多く
たちが共感する可能性を示唆する。
みられる「殺人」
「自己中心的」
「復讐」など
作品の「面白さ」は、プロットの完成度の
の悪役らしい特徴を意味する。抽出は次によ
みに起因するだけではなく、強く共感するほ
うに行った。例えば、悪役が世界を滅亡させ
どのキャラクターが登場しているということ
る理由に、過去に人間から受けた残酷な仕打
も関係すると推測する。
ちが原因(=復讐)だとする。彼は悪の組織
の首領であり、部下から敬愛されている(周
囲から慕われる)
。
調査中、出現頻度が高い要素が 7 つあるこ
とが明らかとなった。これにより 7 つは「悪
今後の展開
悪役を掘り下げることで、従来にはない新
しい物語を創作するための手掛かりとなると
期待する。
役キャラクター」を構成するためには欠かせ
ない要素であることを示唆する。要素は合計
参考文献
35 個あるが、高頻度で出現するものは限られ
・大塚英志「ストーリーメーカー 創作のため
ている。
の物語論」/星海社/2013.12/p205~206
・佐々木智弘「ゲームシナリオの書き方」/ソ
3.2 悪役とプロットの関係
物語のおおまかな内容を基に、悪役がプロ
ット上に登場することで、その後の展開にど
フトバンク クリエイティブ株式会社
/2006.10/p92
・Web アニメスタイル
のような共通点がみられるのかを考察した。
(http://www.style.fm/as/05_column/sh
基本的には悪役が登場したことで主人公側に
udo202.shtml)
なんらかの害が発生する。つまり、物語が本
格的に動き出すきっかけとして悪役は機能し
ていると考えられる。
また、作品の評価が上下する要因として、
悪役キャラクターそのものの魅力が挙げられ
る。当然、各人が何を魅力的ととるかは分か
らないが、強く共感するほどのキャラクター
が登場した作品ならば、プロットそのものの
面白さとは別の基準として評価を左右してい
他
卒業制作
Adobe ソフト「Flash」を使った
オリジナルアニメーションの制作