つぶやきから始まった学校業務改善のとりくみ

「つぶやきから始まった学校業務改善のとりくみ」
伊丹市立伊丹小学校
学校副主幹
長村
美智予
1 学校業務改善の取組内容・方法
児童数 1,000 人を超える大規模校であるため、職員数も多く、学年の所帯が大き
い。そのためか学年内や職員間の情報伝達力が低下しているとともに、校内で決め
たルールが徹底されていないと感じることが増えてきた。この状態は多くの無駄な
時間を生み出す原因でもあるため、兵庫県教育委員会が進める「勤務時間の適正化
とともに、子どもと向き合う時間を確保する」業務改善にとりくむこととになった。
(1)プロジェクトチ-ムの発足
委員会形式や管理職が招集する会ではなく、フットワークの軽さと、自由な発
想ができるプロジェクトチームを立ち上げた。その契機となったのは、数人の職
員の共通のつぶやきが事務室で語られることによって一つになったことだ。日々
疑問に感じていることや、もう少しこうすれば改善する、ということを何とかし
ようと共通の目的を持つ職員がチームを組んだことは大きなポイントである。
(2)業務改善の意義を共通理解する
会議が多い、会議の時間が長い。という声や実態はあったが、業務改善を進め
るにあたって、職員アンケートを実施し、教材研究の時間や持ち帰り仕事時間の
実態を明らかにした。同時に、その時間を確保するために会議の見直しが不可欠
であることを引き出した。
(3)教職員ルールブックの作成
プロジェクトチ-ムでは、職員会議の進め方をはじめ、鍵の管理、不審者対応、
事故発生対応、ICT 機器の取り扱い、会計、備品、文書管理、学籍、清掃、給食
等ル-ルブックに記載すべき項目の選定と内容検討を行い、これまで、言い伝え
であった事柄を明文化した。転任者のガイドブックとして、また毎年数人ずつ配
置される新規採用者の研修資料としても活用している。
(4)積極的な改善提案
ルールブックの作成にあたり、その項目と内容について検討するだけでなく、
様々な提案もおこなってきた。前例前年度主義ではなく、見直しが必要なすべて
のことについて改善方法を検討していくというコンセプトで、プロジェクトチー
ムから提案し、当該分掌での検討や担当者による職員会議での提案に結びつける
ことができた。
例
・会議についてのルール、文書管理、分掌の見直しは教育課程部会にも検討を
依頼
・学年会計簿の統一とデータの共有
・「伊丹っ子ナビ」作成協力
・職員作業を提案し教材整理と学習環境整備の推進
・新年度用児童机椅子移動の時期変更提案
(5)業務改善の連携
属する中学校区の中学校と小学校3校が各校の実態を踏まえながら、それぞれ
の学校で進めることのできる業務改善として、職員ルールブックの作成にとりく
むことができるよう、意見交流を行い、問題点等についても提案した。
また、中学校が業務改善として取り組んでいる事務室の環境整備や鍵の管理の
工夫、職員の情報交換のための職員室内の設備等についても見学し、校種や状況
が違っても、取り入れることのできるものから推進していこうと連携を密にした。
2 取組の成果
(1)教職員ルールブック
ルールブックは、職員が知っておくべきことを知らない人が増え、それによっ
て教育活動がスムーズにいかない等の問題解決のために作成した。各分掌のすべ
てを記載したいところであるが、プロジェクトチームで厳選し、毎年更新し、校
内で印刷できる適度な枚数、手に取っていつでも見られる冊子とした。
最後のページには、項目を「知っておいてほしいこと」とし、学校朝礼の司会、
準備、遊びのル-ル等、メモや言い伝えられてきた事を明文化した。毎年見直し、
適宜修正できるものとした。
(2)会議の仕方の変化
ル-ルブックに従って会議の準備、提案、進行を行うことを職員が心がけるよ
うになった。提案事項に従来との変更点がある場合は、そのメリット、デメリッ
トを挙げるなど、提案が明確になるとともに、司会進行もスムーズに行われ、会
議の時間短縮に結びついている。
(3)プロジェクトチ-ムの役割
ルールブックを作成するにあたり、校内で気の付いた色々なことを話し合っ
てきた。それは時には、学年や分掌や係りを越えたものもあったが、積極的に提
案していった。
具体例を挙げると、新年度にむけた机・椅子の移動作業についてである。本校
は学級数の変動が大きく、学年が使用する階が毎年のように変わる。そのため、
机椅子の移動は学年ごと階を移動させなくてはならない大がかりな作業が必要と
なる。従来新学期に入ってからの作業であったが、①4月1日に担任が決まって
も教室の準備ができない②机椅子移動の作業のためだけに4月に新6年生を登校
させなければならない③机椅子移動時に転出した担任のクラスに新たな職員配置
が必要となる④分掌担当者が転勤してしまうと作業が困難である等、多くの問題
点があった。そこで、終了式の当日、5年生児童に作業をしてもらうよう改善し
た。机椅子担当者や教育課程、安全等の調整を要したが、不便で非効率にも拘ら
ず例年通り、という状況を改善することができたのは一つの成果である。また、
各分掌間の連絡調整を行うことで、スムーズに決定された。
3 課題及び今後の取組の方向
(1)ルールブックの活用
作成し配布しても、記載されていることが守られていないことも多いのが現状
である。明文化により、間違った解釈が伝えられることはなくなったが、毎年十
人以上の職員が入れ変わる中でこそ、ルールブックの力を最大限活用したいが、
読み落とされている部分もある。読んでいても、一人ひとりが守りにくいルール
について検証が必要であり、何よりルールブックは教育活動推進と働きやすい環
境を作るための一つの手だてとして作成されたものであることを共通理解するこ
とをより進めていきたい。
(2)勤務時間の適正化と子どもと向き合う時間の確保
ル-ルブック作成を通して、学校全体に関わる部分について合理的、効率的に
なるよう考えてきたが、少しの余裕の時間はすぐに何かで埋まってしまう。一人
ひとりが、会議の時間を短縮できた分は自分の時間に使う、授業の準備や PC に
よる事務作業でできた時間は子どもと向き合う時間に使う等、はっきりとした目
的意識を持って業務を改善しなければ、全てに余裕は生まれない。
「忙しい」の中身を、それぞれが検証することによって、職員みんなが働き続け
ることのできる、働きやすい環境を作っていきたい。
(3)環境整備の推進
机椅子移動の時期変更について記したが、学校には小さいものから大きなもの
まで改善できることが多くある。些細な事柄であっても、校務分掌における担当
者が例年通りに留まらず、教育活動を推進するための教育条件や環境の整備を進
めるという視点で分掌を見直すことが必要である。職員作業についても提案して
きたが、みんなで作業することにより少しでも環境整備を意識することができた
と考える。今後も環境整備の改善については、児童が楽しく学習し、安心して学
校生活が送ることができるよう、学校事務職員としての視点で積極的に進めてい
きたい。
(4)事務研究会における研修
伊丹市小中特別支援学校事務研究会においては、研修制度確立のため、研修実
施委員会を立ち上げた。実務研修、伊丹市の教育についての講話、人権研修、普
通救命講習研修、カウンセリング研修等を企画実施している。実務研修も必要不
可欠であるが教育委員会から講師を招き、伊丹市教育ビジョンについてどのよう
な施策、予算で実現しようとしているのか学ぶことにより、それぞれの学校の教
育活動に積極的にかかわることを目指し、研修を実施してきた。また、研修の中
で業務改善の一つとしてルールブックの作成についての取組も紹介した。
ここ数年、業務改善加配事務職員が配置されている中、事務職員が関わってい
る事務だけでなく、教員の教授活動以外の事務についての整備改善が取り組まれ
ている。学校事務職員の事務のノウハウを生かすことができれば、より有効であ
ると考える。加配事務職員の配置のない学校においても、各校に有効な手だてを
共有することができるよう情報交換を進めていきたい。
(5) 職場における協力協慟
業務改善の取組を進めていくことができたのは、管理職、教員、事務職員が同
じ目標をもって、それぞれが思ったことを声にし、次にやるべきことを話し合っ
てきたからである。時にはそれぞれの立場により相容れない場合もあるが、色々
な角度から物事を見て、意見を交わすことはとても大切なことであると改めて感
じた。そして、アクションを起こすための役割分担をする時には「ここは私がや
ります。」という自発的な行動がチ-ムの士気をより高めてきた。業務改善の取
組は一人でやるべきことではなく、また一人だけではできなかったことである。
一つの取組を通して、職場の力を確信した。そして、それが次のステップを踏み
出す力となっている。