リサーチ TODAY 2016 年 4 月 21 日 インドネシアの債務不安はないか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 インドネシアでは、2011年以降対外債務が徐々に積み上っており、国際金融市場の不安定化により資 金流出およびルピア相場の下落が進んだ場合、経済に悪影響を与えるリスクが懸念される。デットサービス レシオ(DSR)や外貨準備をみると、対外債務の返済に重大な不安は生じておらず、また公的対外債務の 抑制や金融監督規制強化など経済への悪影響を抑える対応もとられている。ただし、対外債務全体が警 戒水準に差し掛かりつつあることや、民間の外貨建対外債務が増加していることなどにより、大規模かつ長 期的な資金流失や通貨安圧力にはぜい弱であり、注視が必要である。このような問題意識に対し、みずほ 総合研究所は「インドネシアの対外債務構造」と題するリポート 1を発表している。インドネシアでは、対外債 務がリーマン・ショック以降ドル建て債務を中心に徐々に積みあがっており、対外債務負担の増大による経 済への悪影響が懸念される。下記の図表はDSRの推移を示す。これは、利払いおよび元本償却の支払い が、国全体の所得(財・サービス輸出および第一次所得)に対してどの程度の比率にあるかを示している。 DSRが高くなるほど対外債務の返済が困難になる。 ■図表:インドネシアのデットサービスレシオ推移 50 (%) 低位中所得国 インドネシア 警戒レンジ(25~39%) 40 30 20 10 0 1990 1995 2000 2005 2010 (年) (資料)世界銀行 インドネシアのDSRは、アジア通貨危機以降は低下傾向にあったが、2011年以降は上昇傾向にある。 DSRの警戒レンジは一般的に25~39%とされる。インドネシアのDSRは、この警戒レンジには達していない ものの上昇傾向で推移していることは気掛かりだ。 1 リサーチTODAY 2016 年 4 月 21 日 下記の図表は、インドネシアを巡る資金流出・通貨安とセーフティネットを示す概念図である。インドネシ アの公的対外債務については、その調達方法に関するリスクがある。民間対外債務については、通貨のミ スマッチが発生しているという点でリスクがある。ただし、いずれのリスクについても一定のセーフティネット の充実が図られている点に注目する必要がある。具体的には、①対外債務全体のなかで直接投資関連の 債務の割合が増加し、資金引き揚げの不安が低下したこと、②金融機関に健全性強化のための規制が課 されたこと、③通貨のミスマッチに対しヘッジの義務付けがなされたこと等が挙げられる。 ■図表:インドネシアを巡る資金流出・通貨安とセーフティネット 資金流出 通貨安 利上げ 国債金利上昇 外貨建て 対外債務膨張 資金調達 困難 リスク限定的 健全性強化 のための規制 政府の利払い負担増 ヘッジ規制 金融機関の BS 悪化・倒産 企業の BS 悪化・倒産 連鎖倒産 (資料)みずほ総合研究所作成 インドネシアは、たとえ急激な資金流出や通貨安圧力に見舞われたとしても、ただちに危機的な状況に はなりにくい。ただし、仮に中国経済の大幅な下振れリスクの顕現化などを契機に、新興国不安が高まり資 金流出および通貨安の圧力が大規模かつ長期化することになれば、インドネシアの対外債務への影響も 無視できなくなる可能性が高い。したがって、今後も国際金融市場の変動、インドネシア政府の改革の行 方、対外債務の水準とそれに対応したセーフティネット整備の状況を注視する必要がある。日本企業として もインドネシアに対しては、リスク度合いを勘案しながら、引き続きアジアのなかの中核的成長地域として対 応していく必要があるだろう。 1 菊池しのぶ 「インドネシアの対外債務構造」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 4 月 5 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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