「コンクリート三面張りの川でのホタル再生」 県立立有馬高等学校 教諭 土居 恭子 1 取組の内容・方法 (1) 内容 池尻川(写真1)は、人と自然の博物館の北 方、フラワータウンとウッディタウンの間を流 れ、三田市消防局の横で武庫川本流に合流する 川である。三田市のニュータウン開発に伴いコ ンクリート三面張りに改修されているが、ホタ ルが生育していることで知られている。平成 19 年度より、有馬高校科学部で、この川のホタル を調査し、生育範囲を広げる活動を行ってきた。 なお、この活動は、三田土木事務所(業務所) を事務局とする武庫川上流ルネッサンス懇談 写真1 コンクリート三面張りの池尻川 会と人と自然の博物館の協力により進めたも のである。また、平成 24 年度は、河川環境管理財団の河川整備基金助成事業の指定も受け た。 (2) 方法 ホタルの生育環境の調査し、コンクリートの川でも、 ホタルが観察された上流部のように川の中に草が生え る環境があれば、ホタルの幼虫が成育できる可能性が あるということがわかった。また、ゲンジボタルの幼 虫はカワニナを餌とするので、ホタルにとってはカワ ニナが十分にいる環境も必要である。そこで、川の下 流部に、草地があり、カワニナが多く生息する環境を 作ることを考え、河床に水制を設置した。そして、そ の周辺で、カワニナがふえたかどうか、土砂がたまっ たかどうかを調べるという取組を続けた。水制を設置 するにあたっては、まず、自分たちでどんな形にする かを考え、それをもとに施工する。そして、つくった 水制の周辺でのカワニナの数と植生の状況を毎月調べ る。その結果、カワニナと植生が増えなかったのなら、 何が悪かったのか、増えたなら、何が良かったのか、 また、もっと増やすにはどうすればよいか、を考え、 さらに次の水制の形を考える。この繰り返しで、毎年 1回、これまでに5回の水制の設置を行った。毎月の 調査では、カワニナ以外の水生生物や水質についても 調べ、コンクリートの川の生物多様性の回復という観 点からも考察を行った。 写真2 施工の様子 写真3 調査の様子 2 取組の成果 (1) 池尻川 5年間の活動で、全長約 100m の範囲で様々な水制を 設置した。コンクリート張りの川は、流速や水温など の変化が非常に大きく、はじめの頃は、なかなか期待 したような効果が得られなかった。しかし、試行錯誤 の結果、草地を誘導できる水制をつくることもできた (写真4右側)。また、角材の水制で、カワニナの数を 増やす効果が得られることがわかった。また、河床に 水制をつけることで、環境に多様性が生じ、そこに住 写真4 3 回目の水制 む生物相も変化することが示唆できた。 今のところ、ホタルの数を増やすには至っていない。 水制によって上流部から連続した環境を創出することで、いずれは、ホタルが産卵し、幼 虫が定着出来るようになることを期待している。 (2) その他の活動 このような取組を行う中で、毎年6月に地域の小学 生を対象にしたホタル観察会を開催した。また、地域 のイベントで池尻川を紹介し、川の環境について考え てもらう活動も行った(写真5) 。調査研究だけでな く、そのような活動をすることで、生徒たちは、人に 伝えることの大切さを学び、また地域に貢献している という自覚をもつことができた。 写真5 地域のイベントで発表 (3) その他 ・平成 22 年 3 月 日本生態学会高校生ポスター発表優秀賞 ・平成 22 年 7 月 月刊誌「Newton」掲載 ・平成 23 年 2 月 人と自然の博物館共生のひろば 名誉館長賞 ・平成 25 年 6 月 兵庫県環境保全功労者知事表彰(写真6) 3 課題及び今後の取組の方向 平成 24 年度で、協力を受けていた「武庫川上流ルネッ サンス懇談会」が解散となり、毎年1回行っていた水制 施工も一旦終了した。今後は、これまで設置した水制の 周辺がどのように変化していくかを継続して調査し、水 制の効果を検証するとともに、この川のホタルの保全の ために何ができるか生徒たちと考えていきたい。 「ホタルの数を増やす」という大きな目標は、様々な 要素が関わっており、達成するのは困難であるが、この ような活動を通して、生徒の自然観察能力や探究心の育 ていきたい。 写真6 環境保全功労者知事表彰
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